琉球政府章典
第一章  総   則

第一條 琉球政府の政治的及び地理的管轄區域は左の境界線内の島及び水域とする。

北緯二十九度東経百二十五度二十二分を起点とし北緯二十四度東経百二十二度の点北緯二十四度東経百三十三度の点及び北緯二十九度東経百三十一度の点を経て起点に至る。

第二條 琉球政府の首都は沖繩島の那覇市とし住民投票によるのでなければこれを変更することができない。この場合において最近の総選挙人名簿による選挙人数の七十パーセントの者の投票がなければならない。但し非常事態の場合においては、政府活動の維持及び政府の職員並に記錄等の安全を図るためこれを変更することができる。

第二章  住民の地位及び權利義務

第三條 琉球住民とは琉球の戶籍簿にその出生及び氏名の記載されてゐる自然人をいふ。但し琉球に戶籍を移すためには民政副長官の許可を要し、且つ日本國以外の國の國籍を有する者又は無國籍の者は法令の規定による場合の外、琉球の戶籍簿にこれを記載することができない。

2 琉球住民の琉球政府に対する義務は代議政治の一般的責任を負ふこと、法及び秩序の維持に協力すること選挙に於いて投票すること及び正規の租稅を納めることである。

3 禁治產者、準禁治產者、懲役又は禁錮の刑に處せられ受刑中の者、執行猶予中又は假出獄中の者は公職選挙に参加し又は公職に選挙若くは任命されることができない。

4 琉球政府又は米國政府を暴力で破壊することを主張する政黨その他の團体を支持し、援助し又は、これに属するものは琉球政府の責任又は利益ある公職の候補者となり又はこれに就くことができない。

5 琉球政府に対する琉球住民の權利は琉球政府及びその属する市町村の財產又は営造物を共用すること、公職に志願すること、選挙に参加すること及び正理公道の請願をすることである。

第四條 琉球住民は法規の制定改廃を請求し及びこれについて住民投票を行う權利を有する。琉球住民は法規に從い、立法院議員の解職をその一人又は併せて数人につき請求する權利を有する。

第五條 琉球政府に対する琉球住民の權利は法規に從い生命、動產及び不動產の保護を受けることである。

2 総て住民は個人として尊重され、法の下に平等である。生命、自由及び幸福追求に対する住民の權利については公共の福祉に反しない限り、立法その他の政務の上で最大の尊重を必要とする。

第六條 信敎の自由は何人に対してもこれを保障する。いかなる宗敎團体も琉球政府又は市町村その他の行政團体から特權を受け又は政治上の權力を行使してはならない。

2 何人も宗敎上の行爲、祝典、儀式又は行事に参加することを强制されない。

3 琉球政府、市町村その他の行政團体は宗敎々育その他いかなる宗敎活動もしてはならない。

第三章  行政府の組織及び運営

第七條 琉球政府の行政府は行政主席、行政副主席及び事務部局より成る。事務部局の人事、機構及び職掌は琉球政府の事務が最もよく住民の利益に適合して行われるやうにこれを組織しなければならない。

第八條 琉球政府行政府の局は次の通りとする。

文敎局、 郵便局、 財政局
資源局、 総務局、 運輸局
厚生局、 商工局、 工務局
警察局、 法務局、

第九條 行政主席は民政官の事務と市町村及び法令により行政主席に属する琉球政府の事務とが關渉する場合においてその權限の範囲内でこれを綜合調整する。

第十條 年令三十五に達する者で少くとも五年間琉球に住所を有し且つ少くとも五年間琉球に戶籍を維持する者でなければ行政主席又は行政副主席となることができない。行政主席及び行政副主席は琉球政府その他の行政團体又は外國政府のいかなる役職もこれを兼ねてはならない。行政主席、副主席及びその他の琉球政府職員は直接間接を問はず、琉球政府又はその局庁との契約に個人として關係してはならない。贈收賄、僞証又はその他破廉恥罪を犯した者は行政主席、行政副主席又はその他琉球政府の責任ある地位に就くことができない。

第十一條 立法院の開会に当り、行政主席はメツセージを以て琉球政府の狀況について報吿し、適切と認める方策について審議を勧吿する。メツセージを送る場合においては、行政主席又は出納官その他責任ある政府職員の命による出納について証書を添へて報吿し、且つ定例会の開会に当つては租稅負担予算を提出する。主席はその他時宜により追加メツセージを送ることができる。

第十二條 行政主席は特別の場合においては任意に立法院の臨時会を招集することができる。但し臨時会においては招集の目的たる事件又は主席が適当と認めて追加する事件の外議題とすることはできない。

第十三條 総て立法案は議決後これを主席に送付する。主席がこれを承認するときは署名し、署名により法規となる。異議あるときは理由を付して立法院に返送する。立法院は主席の異議の要領を会議錄に記載しこれを再議する。この場合において、議員の三分の二の者が出席し、原立法案の可決に賛成したときは民政副長官の裁決に俟つ。立法院の表決は総て賛否を以てし会議錄に記載する。主席が立法案受領後、日曜休日を除き、十日以内にこれを返送しないときは、署名したものと見なし、法規となる。但し立法院の閉会により返送が妨げられたときはこの限りではない。資金割当及び收入計画の立法案に關しては次の手続による。その立法案は款項を含めて主席に送付する。主席がその全部又は一部について異議あるときは理由を附してこれを立法院に返送する。但し異議の無い部分は原立法案により效力を生ずる。異議ある部分は立法院の三分の二の多数により、再び同一の議決がなされ、且つ民政副長官の承認を得るのでなければ無效である。

第十四條 行政主席は立法公布の責任を有する。行政主席は立法院の立法による委任があるときはその施行のため必要な規則を定めることができる。

第十五條 琉球政府は公務員法を定めて公務員の任命、昇進及び退職に關する責任を規制しなければならない。

第十六條 行政主席は一九五二年二月二十九日民政府布吿第一三號「琉球政府の設立」第四條の規定に基き行政權を行ふ。但しその權限行使は琉球政府の立法機關又は司法機關から独立とする。

第十七條 行政副主席は立法院を主宰する。但し立法院がその議事規則により可否同数のとき採決する權限を附與する場合の外、票決權を有しない。副主席は主席不在の時又は主席に事故あるときその職務を行ふ外琉球政府又はその局庁の公式の行政事務を行ふことができない。副主席が主席の職務を行ふ場合においては立法院は議員中から主宰者を互選する。

第四章  立法院の組織及び運営

第十八條 立法院は法規に基き、琉球住民の選挙する三十一人の議員を以てこれを組織する。
第十九條 立法院は一九五二年二月二十九日民政府布吿第一三号「琉球政府の設立」の規定に基き、琉球政府に属する權能又は民政副長官が琉球政府に付與する權能を実施するに必要な総ての立法を行ふ權限を有する。立法院は琉球政府の行政機關及び司法機關から独立してその立法權を行ふ。立法院の立法は「琉球政府立法院はこゝに次の通り定める」という形式をとる。

第二十條 立法院の第一定例会は一九五二年四月一日沖繩の那覇において開会し、爾後法規に從い定例会を開く。行政主席は公共の安寧又は福祉のため必要と認めるときは何時でも臨時会を招集することができる。議員の四分の一以上の者から文書による請求があつたときはその請求の目的たる事件に關し行政主席はこれを招集しなければならない。

第二十一條 立法院議員は開会中立法院に登院し、院の許可を得た場合又は止むを得ざる事故の場合の外その属する常任又は特別委員会に出席しなければならない。立法院の定足数は三分の二とする。定足数に缺いたときは出席議員過半数の同意により守衞その他職員を派遣して缺席議員の全部又は一部の出席を求める。その費用は缺席議員の負担とする。但し院議を以て立法院予算より支出するときはこの限でない。

第二十二條 年令二十五に達する者で琉球に少くとも五年間住所を有し且つ少くとも五年間琉球に戶籍を維持する者でなければ立法院議員となることができない。立法院議員は琉球政府の他の役職又は群島その他の行政團体若くは外國政府の役職と兼ねることができない。但し一九五一年十二月十八日付民政府令第五十七號第三十九條に定める場合はこの限でない。贈收賄、僞証その他の破廉恥罪を犯した者は立法院議員となることができない。

第二十三條 立法院議員は叛逆罪、重罪及び公安を害する罪の場合を除く外、会期中及び会期の前後十日間は逮捕されることがない。立法院議員は立法院の会議又は委員会における討論報吿等の発言につき院以外の場所で審問されることがない。

第二十四條 立法院の立法は一事一件に限るものとし、主題を以てこれを表示する。但し主題外の事項を含むときはその事項に限りこれを無效とする。單に主題のみを引用して法を改正してはならない。

第二十五條 立法院は会議錄を調整し時宜によりこれを刊行する。会議錄には総ての立法案及び決議を記載する。会議錄の記載事項は次の通りとする。

一 行政主席のメツセージ
二 立法案の主題及び決議の主題並に内容
三 賛否の表決及び請願その他受理文書の要領
四 議事の正確な說明

第二十六條 立法院はその定める常任委員会及び時宜により設置する特別委員会を指名する。但し委員の数は三人を下らないものとしその選任については立法院の定めるところによる。委員長は各定例会又は臨時会の開会に当り委員会の審査の記錄を立法院事務局長に引渡し、これを保管させる。常任委員会の記錄事項は次の通りとする。

一 開会の日時及び審査事項
二 出席委員
三 一般出席者の氏名及びその關係事項

第二十七條 立法院は自らその議事規則を定める。但し立法案は総て三読会の手続きによるものとし、各読会はそれ日を異にしてこれを開く。緊急の必要あるときは出席議員の四分の三の議決により読会手続を省略することが出來る。

2 案件は総てその審議を不当に遷延したり又は不当に長く委員を止めておくようなことがあつてはならない。

3 立法院はその会議又は委員会において調査を行い、証人を喚問し、書類帳簿の提出を請求することができる。この場合において民事訴訟中の証人訊問の規定を準用する。但し拘引又は過料に關する規定はこの限りでない。証人に対しては法令又は立法院の定めるところにより日当を支給する。

4 立法院の会期中議員証人及び一般傍聴人の行爲は立法院の定めるところにより議長がこれを取締る。非行又は院の秩序の侵害は法に從い罰せられる。立法院は院の秩序を侵した議員に懲罰を科することができる。この場合において、議員の四分の三の同意によりこれを除名することができる。議員以外の者で立法院を侮辱した者は裁判所においてこれを裁判する。

5 議院は総て立法案又は決議を発議することができる。但し立法案又は決議は行政主席、行政副主席その他の公務員民間の團体又は個人においてその準備をすることを妨げない。

6 立法院の議事は出席議員の過半数による。

7 立法院の会議はこれを公開する。但し議員三人の発議により出席議員の三分の二の多数で議決した時は秘密会を開くことができる。

第二十八條 立法院議員は法の定めるところにより年俸、必要な旅費及び事務費を受ける。但し缺席期間及び閉会期間については特に許可された公用の場合の外日当を受けることができない。行政主席、行政副主席、上訴裁判所その他の裁判所の判事及びその他琉球政府職員の給料、旅費及び事務費は予算の範囲内でこれを法定する。

第五章  裁判所の組織及び運営

第二十九條 琉球政府の管轄區域内の行政團体、住民及びその他総ての者と琉球の司法機關との關係は別に定める場合を除く外一九五二年一月二日付民政府布吿第十二號「琉球民裁判所制」の規定による。

第三十條 琉球政府の行政機關および立法機關は一九五二年一月二日民政府布令第十二號「琉球民裁判所制」に定める場合を除く外司法機構に關する權限を有しない。

第六章  市町村との関係

第三十一條 市町村の組織および運営に關する事項は地方自治の本旨に基いてこれを立法する。

第三十二條 市町村にはその議事機關として議会を設置する。市町村長、市町村議会議員および法の定めるその他の吏員は市町村住民が直接これを選挙する。

第三十三條 市町村はその財產を管理し事務を處理し、財務を行い、法令の範囲内で條例を制定することができる。

第三十四條 別に禁じない限り、琉球政府はその管下一般住民に特定の利益がある場合においては一の市町村に対しその權能を行うことができる。一定の事由により且つ正当の法手続によるのでなければ公選された市町村公務員を罷免することはできない。但し琉球政府は自己の職責の執行を拒否し又は怠る公務員につき裁判所に対し執行令狀の訴訟を提起することができる。

第七章  補則

第三十五條 琉球政府は琉球民政府を通じない限り外交事務を行うことはできない。

2 次の民政府布令及び指令はこれを改廃する。

一 一九五一年五月二十二日民政府指令第五號はこれを廃止する。
二 一九五一年五月二十二日民政府指令第六號はこれを廃止する。
三 一九五〇年八月四日付軍布令第二十二號第二條第二項の二第九條第二項および第十一條はこれを廃止する。

3 この布令の施行前、前項の布令又は指令の規定に基いてなされた立法行爲および行政行爲はそれの機關により改廃されるまでその效力を持続する。

第三十六條 この布吿は一九五二年四月一日よりこれを施行する。

民政副長官の命により

民  政  官

米國陸軍准將

ゼイムス・エム・ルイス

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