通俗正教教話/十誡の第七誡命
▼十誡 の第七 誡命
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姦淫 する勿 れ>>
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問
- 答 教会で『
姦淫 』と申 しまするものの内 には三 種 の罪 が含 まって居 るので御座います。 - 第一は『
邪淫 』と申 しまして、結婚 もしない男女 が恣 に互 に肌 身 を許 して己 の体 を穢 すことで御座います。 次 は『姦通 』と申 しまして立派 に夫 婦 となって居 る者 が他 の仇 し男 や女 に心 を傾 けて其 男 や女 と不義 の快 楽 に耽 ることで御座います。- 第三は『
朋淫 』と申 しまして血族 の有 る者 が夫 婦 になって互 に血 を穢 すことで御座います。 強姦 や猥褻 な行 を為 すことは無 論 此罪 の内 に数 へらるるもので御座います。
問
- 答
主 の御 教 に従 ひますれば『姦淫 』とは只 男女 が不義 の快 楽 に耽 ること許 りではなく互 に相 見 て淫慾 を起 すことも亦 『姦淫 の罪 』を犯 すものであります『凡 そ慾 を懐 きて女 を見 る者 は心 の中 已 に之 と淫 せしなり』(馬太五の二十八)此 誡 は無 論 女 にも関 係 したもので御座います。
問
- 答
其 を予 防 致 しまするには卑猥 な小 説本 や猥褻 な講談 や野卑 な俗歌 や踊 や見世 物 を見 たり聞 たりしない様 にすると共 に又 一方 には常 に真面目 な利益 になる様 な高 尚 な物 を見 たり聞 たりして心 を清 くし何時 でも斯 う謂 ふ覚 悟 を持 つ様 にしなければなりませぬ『若 し爾 の右 の目 爾 を罪 に誘 はば抉 りて之 を棄 てよ……爾 の右 の手 爾 を罪 に誘 はば断 ちて之 を棄 てよ蓋 爾 が百 体 の一 を失 ふは全身 地 獄 に投 ぜらるるより勝 れり』(馬太五の二十九、三十)と此 言 は実際 に目 を抉 り手 を断 てと申 す訳 では御座いませんが其 位 な断 乎 たる決心 を有 たねば世 の誘 に打 勝 ち自 分 の心 を守 ることが出来 ないと謂 ふことを教 へられたもので御座います以 上 申 しました様 な行 を践 み行 ひますると同 時 に夫 婦 は何処 迄 も親 しく互 に其 真実 を破 らぬ様 にし処女 は何処 迄 も操 を守 り青年 は何処 迄 も己 の肌 身 を汚 さぬ様 にしましたならば『姦淫 の罪 』を犯 す様 なことは無 くなるので御座います。
問
- 答
夫 に対 しましては斯 様 教 へて御座います『夫 よ己 の妻 を愛 することハリストスが教会を愛 するが如 くせよ彼 は己 を此 が為 に捨 てたり………夫 は己 の妻 を愛 すること己 の身 の如 くすべし己 の妻 を愛 する者 は己 を愛 するなり』(エヘス五の二十五、二十八) 妻 に対 しては斯 様 に教 へて御座います『妻 よ己 の夫 に順 ふこと主 に於 けるが如 くせよ葢 夫 は妻 の首 たることハリストスが教会の首 たるが如 し、彼 は亦 体 の救主 なり、乃 教会のハリストスに順 ふが如 く斯 く婦 も凡 の事 に於 て夫 に順 ふべし……而 して妻 は其 夫 を畏 るべし』(エヘス五の二十二―二十四、三十三)
問
- 答
此罪 の家 庭 の平 和 を破 り社 会 の風俗 を紊 すことは今更申 す迄 も御座いませんが尚 進 んで申 しますれば他 の罪 は大抵 身体 以外のものを以 て犯 す罪 なので御座いますのに唯 り此罪 許 りは神 に賜 ったる尊 き体 を直 に犯罪 の用 に供 し其 を穢 すので御座 いますから其罪 は非 常 に重 いもので御座います聖書 に此事 を申 して御座いますには『豈 知 らずや爾 等 の身 はハリストスの肢 なるを故 に我 ハリストスの肢 を取 りて淫 婦 の肢 と為 さんか然 すべからず……淫 婦 に附 く者 は此 れと一体 と為 るなり……淫行 を避 けよ凡 そ人 の行 う罪 は身 の外 に在 り然 れども淫 を行 ふ者 は己 の身 を犯 すなり豈 知 らずや爾 等 の身 は爾 等 の衷 に居 る聖神 爾 等 が神 より受 けし者 の殿 にして爾 等 己 に属 するに非 るを』(コリンフ前六の十五―十九)
▼十誡 の第八 誡命
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盗 む勿 れ>>
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問
- 答
其 は次 の様 な『盗 み』で御座います。 - 第一は
強盗 是 は凶 器 を携 へたり力 づくで人 の物 を強奪 することで御座います。 - 第二は
窃盗 是 は人 の知 らぬ内 に他人 の物 を盗 むことなので御座います。 - 第三は
詐欺 是 は人 を欺 いて他人 の物 を騙 り取 ることで、偽金 を使 ったり、粗 悪 な品 を高 値 に売 つけたり、盗品 を売買 したりすることも此内 に含 って居 るので御座います。 - 第四は
聖物 窃盗 是 は神 又 は教会に人 が捧 げたるものを己 の物 として了 まうことで御座います。 - 第五は
神 の聖 職 を濫 りに授 くること。之 は利 慾 に眩 されて神品 の職 を濫 りに人 に授 けたり又 は利 を以 て教会の聖 務 を買 ふ事 で御座います此内 には金銭 の為 に教会の聖 規 則 に悖 る様 な行 を許 すことも含 って居 ります。 - 第六は
収賄 是 は官 吏 などが賄 賂 を取 って不 正 な行 を許 すことで御座います。 - 第七は
徒 食 是 は主人 又 は会 社 から俸給 を貰 って居 ながら其 に報 ゆる様 な働 をせず徒 に俸給 を貪 って居 ることを申 すので御座います。 - 第八は
権 利 の濫用 之 は法律 上 の権 利 を楯 に取 って無慈悲 に借金 を取立 たり人 の地位 を奪 ったりすることで、高 利 を借 したり、小 作 を虐 たりすることも皆 此内 に含 る罪 で御座います。
問
- 答
其 は心 の中 から慾 と云 ふ思 を取 り去 って心 を美 しく保 ち人 とは実 を以 て交際 ひ常 に正 しき行 をのみ行 ひ、貧 しき者 には相当 の助 を與 ふる様 にすれば宜 しいので御座います。
問
- 答
其時 は彼 等 の為 に力 を添 へてやったり又 は慰 めて遣 れば宜 しいので御座います、貧 しい者 に物 を惠 むと謂 ふことは何 も金 を遣 ったり物 を呉 れたりすること許 りでは御座いません、其 貧 しい者 を慰 めたり励 ましたり彼 等 の為 に生活 の道 を開 いて遣 ったりすることも立派 に貧者 を惠 んだことになるので御座います。
問
- 答
此 御 言 は第八誡命の『盗 み』と全 く反対 な善行 の理想 を示 しましたもので、無 論 自分の持 って居 る財産 を皆 な人 に惠 んで了 まうと謂 ふ様 なことは中々 常 人 には出来得 ることでは御座いませぬが貧者 を惠 むには此 位 な覚 悟 を以 てしなければ到底 も出来 ることでは御座いません。
▼十誡 の第九 誡命
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汝 其 隣 の人 に対 して虚構 の証拠 を立 つる勿 れ>>
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問 人に
- 答
其 は何事 によらず人 を傷 くる目的 を以 て虚構 の保証 をなすことで御座います、『誰 は斯 ふ謂 ふことを為 たのは確 なことである』などと有 りもせぬことを裁判官の前や普通の人の前で申 す様 なことを凡 て虚 の証 拠 を立 つると申 すので御座います。
問
- 答
実際 人 に悪 いことが有 ったにもせよ何 の関係もないのに其 を彼 此 申 す様 なことは宜 しくないことで御座います但 し或 職 務 を以 て其 悪 いことを責 めたり彼 此 れ申 すことは決 して悪 いことでは御座いませぬ其 は寧 ろ大 に為 さねばならぬ事 で御座います聖書 に職 務 でも何 でもない人 が他 人 のことを彼 此 れ申 すことを誡 めて御座いますには『人 を議 する勿 れ議 せざらん為 なり』(馬太七の一)
問
- 答
否 不可 ません設令 へ人 を毀 けたり害 したりしなくとも偽 を申 すと謂 ふことは徹頭 徹 尾 悪 いことで御座います聖書 に申 して御座いますには、『爾 等 謊 を去 りて各 其 隣 に真実 を言 へ蓋 爾 等 は互 に肢 也 』(エヘス四の二十五)但 し若 し自 分 の一言 の偽 の為 に人 が助 かる様 な場 合 が御座 いましたならば其 偽 丈 は申 しても別 に罪 ではないので御座います。
問
- 答
其 は常 に言語 を慎 んで詰 らぬことなどを謂 はぬ様 に心 掛 けねばなりませぬ聖書 に申 して御座いますには『生命 を愛 し佳 き日 を見 んと欲 する者 は其舌 を悪 より其口 を詭譎 の言 より止 むべし』(ペトル前三の十)又 『若 し汝 等 の中 誰 か自 ら敬虔 なりと意 ひて己 の舌 に勒 を著 けず乃 己 の心 を欺 かば其 敬虔 は徒 然 なり』(イアコフ一の二十六)
▼十誡 の第十 誡命
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汝 其 隣 人 の家 を貪 る勿 れ又 汝 の隣人 の妻 及 び其 僕 、婢 、牛 、驢馬 并 に凡 て汝 の隣 の所有 を貪 る勿 れ>>
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問
- 答
此 を一言 で申 しますれば他 人 の物 は設令 聊 かなものでも自分のものとして見 たいと思 ってはならぬと謂 ふことで畢竟 り羨 みの心 を誡 めたもので御座います。
問 『
- 答
其 は人 の妻 に対 して怪 からぬ思 を掛 くる様 なことを誡 めたもので御座います。
問
- 答
其 は第一に己 の心 を潔白 にして少 しも物事 に対 して欲心 を出 さず第二には自分の運 に安 んじて人 の事 を羨 んだりなどせぬ様 にすれば宜 しう御座います。
問 では
- 答
其 には常 に神 を頼 り其 誡 を守 り常 に祈 祷 をして此塵 の世 の事 を思 を去 って何時 でも来 るべき世 のことを考 へて萬 事 をなせば自 然 と心 が潔 ると共 に己 の運 にも安 んずることが出来 るので御座います。