通俗正教教話/十誡の第七誡命

十誡じっかい第七だいしち誡命かいめい 編集

<<姦淫かんいんするなかれ>>

問 姦淫かんいんとはつみで御座いますか。

答 教会で『姦淫かんいん』ともうしまするもののうちにはいろつみふくまってるので御座います。
第一は『邪淫じゃいん』ともうしまして、結婚けっこんもしない男女だんにょほしいままたがひはだゆるしておのれからだけがすことで御座います。
つぎは『姦通かんつう』ともうしまして立派りっぱふうとなってものほかあだおとこおんなこころかたむけてそのおとこおんな不義ふぎらくふけることで御座います。
第三は『朋淫ほういん』ともうしまして血族けつぞくものふうになってたがひけがすことで御座います。
強姦ごうかん猥褻わいせつおこないすことはろん此罪このつみうちかぞへらるるもので御座います。


問 我主わがしゅイイスス ハリストス此罪このつみいてようおしへてられまするか。

答 しゅおんおしへしたがひますれば『姦淫かんいん』とはただ男女だんにょ不義ふぎらくふけることばかりではなくたがひあい淫慾いんよくおこすこともまた姦淫かんいんつみ』をおかすものであります『およよくいだきておんなものこころうちすでこれいんせしなり』(馬太五の二十八このいましめろんおんなにもかんけいしたもので御座います。


問 それでは此罪このつみおかさないようぼういたしまするにはふことをしたならばよろしう御座いますか。

答 それぼういたしまするには卑猥みだらしよう説本せつぼん猥褻わいせつ講談こうだん野卑やひ俗歌ぞくうたおどり見世みせものたりきいたりしないようにするとともまた一方いっぽうにはつね真面目まじめ利益ためになるようこうしようものたりきいたりしてこころきよくし何時いつでもかくようにしなければなりませぬ『なんぢみぎなんぢつみいざなはばくぢりてこれてよ……なんぢみぎなんぢつみいざなはばちてこれてよそはなんぢひゃくたいいつうしなふは全身ぜんしんごくとうぜらるるよりまされり』(馬太五の二十九、三十)とこのことば実際じっさいくぢてともうわけでは御座いませんがそのくらいだんたる決心けっしんたねばいざなひうちぶんこころまもることが出来できないとふことをおしへられたもので御座いますじょうもうしましたようおこないおこなひまするとどうふう何処どこまでしたしくたがひその真実まことやぶらぬようにし処女しょぢょ何処どこまでみさおまも青年せいねん何処どこまでおのれはだけがさぬようにしましたならば『姦淫かんいんつみ』をおかようなことはくなるので御座います。


問 聖書せいしょふう相互あいたがひまもるべきつとめいて如何どうおしへて御座いますか。

答 おつとたいしましてはようおしへて御座います『おつとおのれつまあいすることハリストスが教会をあいするがごとくせよかれおのれこれためてたり………おつとおのれつまあいすることおのれごとくすべしおのれつまあいするものおのれあいするなり』(エヘス五の二十五、二十八
つまたいしてはようおしへて御座います『つまおのれおつとしたがふことしゅけるがごとくせよそはおつとつまかしらたることハリストスが教会のかしらたるがごとし、かれまたからだ救主きうしゅなり、すなはち教会のハリストスしたがふがごとおんなおよそことおいおつとしたがふべし……しかしてつまそのおつとおそるべし』(エヘス五の二十二―二十四、三十三


問 何為なぜ姦淫かんいんつみ』は其様そんなにもおそるべくおもいもので御座いますか。

答 此罪このつみていへいやぶしゃかい風俗ふうぞくみだすことは今更申いまさらもうまでも御座いませんがなほすすんでもうしますればほかつみ大抵たいてい身体からだ以外のものをもつおかつみなので御座いますのにひと此罪このつみばかりはかみたまはったるとうとからだすぐ犯罪はんざいようきょうそれけがすので御座ございますから其罪そのつみじょうおもいもので御座います聖書せいしょ此事このこともうして御座いますには『あにらずやなんぢハリストスえだなるをゆえわれハリストスえだりていんえださんかしかすべからず……いんものれと一体いったいるなり……淫行いんこうけよおよひとおこなつみそとれどもいんおこなものおのれおかすなりあにらずやなんぢなんぢうち聖神せいしんなんぢかみよりけしもの殿みやにしてなんぢおのれぞくするにあらざるを』(コリンフ前六の十五―十九


十誡じっかい第八だいはち誡命かいめい 編集

<<ぬすなかれ>>

問 ただに『ぬすみ』ともうしましても其内そのうちには種々いろいろの『ぬすみ』が御座いますが十誡じっかい第八だいはちの誡命かいめいいましめて御座いまする『ぬすみ』はふ『ぬすみ』なので御座いますか。

答 それつぎような『ぬすみ』で御座います。
第一は強盗ごうとう これきょうたづさへたりちからづくでひともの強奪ごうだつすることで御座います。
第二は窃盗せっとう これひとらぬうち他人ひとものぬすむことなので御座います。
第三は詐欺さぎ これひとあざむいて他人ひとものかたることで、偽金にせがね使つかったり、あくしなたかうりつけたり、盗品ぬすみもの売買うりかいしたりすることも此内このうちふくまってるので御座います。
第四は聖物せいぶつ窃盗せっとう これかみまたは教会にひとささげたるものをおのれものとしてまうことで御座います。
第五はかみせいしょくみだりにさづくること。これよくまどわされて神品しんぴんしょくみだりにひとさづけたりまたもつて教会のせいことで御座います此内このうちには金銭きんせんために教会のせいそくもとようおこないゆるすこともふくまってります。
第六は収賄しうわい これかんなどがわいってせいおこないゆるすことで御座います。
第七はしょく これ主人しゅじんまたかいしゃから俸給ほうきゅうもらってながらそれむくゆるようはたらきをせずいたづら俸給ほうきゅうむさぼってることをもうすので御座います。
第八はけん濫用らんよう これ法律ほうりつじょうけんたてって無慈悲むじひ借金しゃくきん取立とりたてたりひと地位ちいったりすることで、こうしたり、さくいじめたりすることもみな此内このうちふくまつみで御座います。


問 それではこのぬすみ』のつみおかさぬようにしまするにはふことをこころけたならばよろしう御座いませうか。

答 こころうちからよくおもいってこころうつくしくたもひととはまこともつ交際つきあつねただしきおこないをのみおこなひ、まづしきものには相当そうとうたすけあたふるようにすればよろしいので御座います。


問 まづしいものものめぐむともうしましてもめぐものかったならばいたしたならばよろしいので御座いますか。

答 其時そのときかれためちからへてやったりまたなぐさめてればよろしいので御座います、まづしいものものめぐむとふことはなにかねったりものれたりすることばかりでは御座いません、そのまづしいものなぐさめたりはげましたりかれため生活くらしみちひらいてったりすることも立派りっぱ貧者ひんしゃめぐんだことになるので御座います。


問 せい福音書ふくいんしょに『なんぢかんぜんならんとほっせばきてなんぢ所有もちものって貧者ひんしゃほどこしからばざいてんたもたん』(馬太十九の二十一)ともうして御座ございますることばこの十誡じっかいの第八誡命かいめいふ関係があるので御座いますか。

答 このことばは第八誡命の『ぬすみ』とまった反対はんたい善行ぜんこう理想てほんしめしましたもので、ろん自分のって財産ざいさんみんひとめぐんでまうとようなことは中々なかなかじょうにんには出来得できうることでは御座いませぬが貧者ひんしゃめぐむにはこのくらいかくもつてしなければ到底とて出来できることでは御座いません。


十誡じっかい第九だいく誡命かいめい 編集

<<なんぢそのとなりひとたいして虚構いつわり証拠あかしつるなかれ>>

問 人に虚構いつわりしょうつるとふとふことなので御座いますか。

答 それ何事なにごとによらずひときづつくる目的もくてきもつ虚構いつわり保証あかしをなすことで御座います、『たれふことをたのはたしかなことである』などとりもせぬことを裁判官の前や普通の人の前でもうようなことをすべいつわりしょうつるともうすので御座います。


問 それではうで御座いませう、実際じっさいひとわるいことが御座いましたあいにはそれめてかれもうしましても差支さしつかへないもので御座いませうか。

答 実際じっさいひとわるいことがったにもせよなんの関係もないのにそれかれこれもうようなことはよろしくないことで御座いますただあるしよくもつそのわるいことをめたりかれもうすことはけっしてわるいことでは御座いませぬそれむしおほいさねばならぬことで御座います聖書せいしょしょくでもなんでもないひとにんのことをかれもうすことをいましめて御座いますには『ひとするなかせざらんためなり』(馬太七の一


問 それでは他人ひときづつけたりそこなったりしないいつわりうで御座いませうもうしても差支さしつかへ御座いませぬか。

答 いえ不可いけません設令たとひときづつけたりがいしたりしなくともいつわりもうすとふことは徹頭てつとうてつわるいことで御座います聖書せいしょもうして御座いますには、『なんぢいつわりりておのおのそのとなり真実しんじつそはなんぢたがひえだなり』(エヘス四の二十五ただぶん一言いちげんいつわりためひとたすかるようあい御座ございましたならばそのいつわりだけもうしてもべつつみではないので御座います。


問 十誡じっかい第九誡命だいくのいましめそれでは正しく守りますにはふことをこころけてりましたならばよろしう御座いますか。

答 それつね言語ことばつつしんでつまらぬことなどをはぬようこころけねばなりませぬ聖書せいしょもうして御座いますには『生命いのちあいんとほっするもの其舌そのしたあくより其口そのくち詭譎いつわりことばよりとどむべし』(ペトル前三の十またなんぢうちたれみづか敬虔けいけんなりとおもひておのれしたくつわけずすなはちおのれこころあざむかばその敬虔けいけんぜんなり』(イアコフ一の二十六


十誡じっかい第十だいじゅう誡命かいめい 編集

<<なんぢそのとなりびといへむさぼなかまたなんぢ隣人となりつまおよそのしもべしもべおんなうし驢馬うさぎうまならびすべなんぢとなり所有もちものむさぼなかれ>>

問 十誡じっかいこの第十の誡命かいめいおいいましめて御座ございますることはこれ一言いちごんもうしますればふことで御座いますか。

答 これ一言ひとこともうしますればにんもの設令たとえいささかなものでも自分のものとしてたいとおもってはならぬとふことで畢竟つまうらやみのこころいましめたもので御座います。


問 『となりつまむさぼなかれ』とふとふことなので御座いますか。

答 それひとつまたいしてけしからぬおもいくるようなことをいましめたもので御座います。


問 それではこの第十だいじゅうの誡命いましめただしくまもってきまするにはふことをこころけたならばよろしう御座いますか。

答 それは第一におのれこころ潔白けっぱくにしてすこしも物事ものごとたいして欲心よくしんいださず第二には自分のうんやすんじてひとことうらやんだりなどせぬようにすればよろしう御座います。


問 ではこころきよおのれぶんやすんずるにはうしたならばよろしう御座いますか。

答 それにはつねかみたよそのいましめまもつねとうをして此塵このちりことおもひって何時いつでもきたるべきのことをかんがへてばんをなせばぜんこころきよまるとともおのれうんにもやすんずることが出来できるので御座います。