原文 編集

朕樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ華族令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム

 御名御璽

明治四十年五月七日


皇室令第二號(官報 五月八日)

華族令

第一條 凡ソ有爵ヲ華族トス

有爵ノ家族ハ華族ノ族稱ヲ享ク

第二條 爵ハ公侯伯子男ノ五等トス

第三條 爵ヲ授クルハ勅旨ヲ以テシ宮內大臣之ヲ奉行ス

第四條 有爵ハ其ノ爵ニ相當スル禮遇ヲ享ク

第五條 有爵ノ婦ハ其ノ夫ノ爵ニ相當スル禮遇及名稱ヲ享ク

有爵ノ寡婦其ノ家ニ在ルトキハ特ニ從前ノ禮遇及名稱ヲ享ケシメ其ノ家ノ戶主トナリタルトキ又ハ襲爵ナクシテ其ノ家ニ在ルトキハ其ノニ限リ特ニ華族ノ族稱ヲ保有セシメ從前ノ禮遇及名稱ヲ享ケシム

第六條 有爵ノ家族ニシテ左ニ揭ケタルハ華族ノ禮遇ヲ享ク

父、父、父
爵ヲ襲クコトヲ得ヘキ法定ノ推定家督相續人及其ノ嫡長男子、嫡出ノ男子ナキトキハ其ノ庶長男子
戶主タリシ
前三號ニ揭ケタルノ配偶

第七條 有爵又ハ前二條ノ禮遇ヲ享クヘキ左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ其ノ禮遇ヲ享クルコトヲ得ス

禁治產及準禁治產
身代限ノ處分ヲ受ケ債務ノ辨濟ヲ終ヘサル及家資分散若ハ破產ノ宣吿ヲ受ケ其ノ確定シタル時ヨリ復權ノ決定確定スルニ至ル迄ノ
刑事ノ訴ヲ受ケ勾留又ハ保釋中ニ在ル
禁錮以上ノ刑ノ宣吿ヲ受ケタル時ヨリ其ノ裁判確定スルニ至ル迄ノ

第八條 有爵ハ法律命令及華族ニ關スル規程ノ範圍內ニ於テ家範ヲ定ムルコトヲ得

家範ハ宮內大臣ノ認許ヲ受クヘシ之ヲ廢止變更スルトキ亦同シ

有爵未成年又ハ禁治產ナルトキハ家範ヲ定メ又ハ之ヲ廢止變更スルコトヲ得ス

第九條 爵ハ男子ノ家督相續人ヲシテ之ヲ襲カシム

第十條 爵ヲ襲クコトヲ得ヘキ家督相續人又ハ其ノ法定代理人ハ相續ノ開始ヲ知リタル時ヨリ六箇月內ニ宮內大臣ニ家督相續ノ屆出ヲ爲スヘシ

前項ノ屆出アリタルトキハ宮內大臣ハ勅許ヲ經テ襲爵ノ辭令書ヲ交付ス

第十一條 襲爵ハ家督相續開始ノ時ヨリ其ノ效力ヲ生ス

第十二條 左ノ場合ニ於テハ家督相續人ハ爵ヲ襲クコトヲ得ス

國籍喪失ニ因リ家督相續開始シタルトキ
第十條第一項ノ期間內又ハ家督相續開始ノ時ヨリ三箇年內ニ家督相續ノ屆出ヲ爲ササルトキ
第二十二條又ハ第二十四條ニ依リ華族ノ族稱ヲ享ケサルトキ又ハ之ヲ失ヒ若ハ之ヲ除カレタルトキ

第十三條 有爵及其ノ家族ノ身分ニ關シ監督上必要ナル事項ハ宮內大臣之ヲ管掌ス

第十四條 有爵婚姻、養子緣組、隱居、協議上ノ離婚若ハ離緣又ハ家督相續人ノ指定若ハ其ノ取消ヲ爲サムトスルトキハ戶籍吏ニ其ノ屆出ヲ爲ス前、隱居ヲ爲スニ付キ裁判所ノ許可ヲ要スル場合ハ其ノ許可ヲ請求スル前宮內大臣ノ認許ヲ受クヘシ

有爵遺言ヲ以テ養子緣組ヲ爲シ又ハ家督相續人ノ指定ヲ爲スノ意思ヲ表示シタルトキハ養子トナル又ハ之ニ代ハリテ承諾ヲ爲スコトヲ得ヘキニ在リテハ其ノ承諾ヲ爲ス前、被指定又ハ其ノ法定代理人ニ在リテハ相續ノ承認ヲ爲ス前宮內大臣ノ認許ヲ受クヘシ

前二項ノ規定ハ當事ノ一方皇族ナルトキハ之ヲ適用セス

第十五條 有爵法定ノ推定家督相續人ノ廢除若ハ其ノ取消ヲ爲サムトスルトキ又ハ被廢除廢除ノ取消ヲ爲サムトスルトキハ裁判所ニ請求スル前宮內大臣ノ認許ヲ受クヘシ但シ有爵遺言ヲ以テ家督相續人ノ廢除又ハ其ノ取消ヲ爲スノ意思ヲ表示シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス

第十六條 有爵ノ家督相續人ニ選定セラレタル又ハ其ノ法定代理人ハ相續ノ承認ヲ爲ス前宮內大臣ノ認許ヲ受クヘシ

前項ノ規定ハ被選定皇族ナルトキハ之ヲ適用セス

第十七條 有爵ノ家族婚姻、養子緣組、分家、廢絕家再興又ハ他家相續ヲ爲シ若ハ他家ノ家族トナラムトスルトキハ有爵又ハ其ノ法定代理人ハ之ニ同意ヲ爲ス前宮內大臣ノ認許ヲ受クヘシ

前項ノ規定ハ婚姻ノ當事ノ一方皇族ナルトキハ之ヲ適用セス

第十八條 有爵又ハ其ノ法定代理人其ノ家ニ入ルノ入籍ニ同意ヲ爲サムトスルトキハ其ノ同意ヲ爲ス前宮內大臣ノ認許ヲ受クヘシ

第十九條 有爵又ハ其ノ推定家督相續人養子緣組ヲ爲ス場合ニ於テハ其ノ養子、家督相續人ノ指定又ハ選定ノ場合ニ於テハ其ノ家督相續人左ノ各號ノ一ニ該當セサルトキハ宮內大臣ノ認許ヲ受クルコトヲ得ス

養父又ハ被相續人ノ男系ノ六親等內ノ血族但シ他家ヨリ入リタルノ實方ノ親族ヲ除ク
本家又ハ同家ノ家族若ハ分家ノ戶主又ハ家族
華族ノ族稱ヲ享クル

第二十條 宮內大臣ノ認許ヲ受クヘキ認許ヲ受ケスシテ第十四條乃至第十八條ノ行爲ヲ爲シタルトキハ情狀ニ依リ華族ノ禮遇ヲ停止シ又ハ爵ヲ襲カシメサルコトアルヘシ

第十八條ノ規定ニ違反シタル場合ニ於テハ入籍ハ華族ノ族稱ヲ享クルコトヲ得ス

第二十一條 有爵死刑又ハ役ノ宣吿ヲ受ケ其ノ裁判確定シタルトキハ其ノ爵ヲ失フ

有爵ノ婦前項ノ場合ニ該當スルトキハ其ノ禮遇ヲ禁止ス

第二十二條 第五條第二項ノ禮遇ヲ享クヘキ又ハ有爵ノ家族前條ノ場合ニ該當スルトキハ其ノニ限リ華族ノ族稱ヲ失フ

新ニ爵ヲ授ケラレタルノ家族ニシテ前條ノ場合ニ該當スルアルトキハ其ノニ限リ華族ノ族稱ヲ享クルコトヲ得ス

第二十三條 有爵又ハ第五條第六條ノ禮遇ヲ享クヘキ左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ其ノ禮遇ヲ停止ス

華族ノ品位ヲ保ツコト能ハサル
宮內大臣ノ命令又ハ家範ニ違反シ情狀重キ

第二十四條 前三條ニ規定シタル場合ノ外華族ノ體面ヲ汚辱スル失行アリタルハ情狀ニ依リ爵ヲ返上セシメ、華族ノ族稱ヲ除キ又ハ其ノ禮遇ヲ停止若ハ禁止ス

第五條第六條ノ禮遇ヲ享ケサル家族ニシテ前項ノ失行アリタルハ華族ノ族稱ヲ除ク

第二十五條 有爵其ノ禮遇ノ停止又ハ禁止中ニ在ルトキハ第五條第一項第六條ノ禮遇ヲ享クヘキモ共ニ其ノ禮遇ヲ享クルコトヲ得ス

第二十六條 有爵其ノ品位ヲ保ツコト能ハサルトキハ宮內大臣ヲ經テ爵ノ返上ヲ請願スルコトヲ得

第二十七條 第二十條第一項第二十三條第二十四條ノ處分ハ勅裁ヲ經テ宮內大臣之ヲ行フ禮遇ノ停止ヲ解除スルトキ亦同シ

前項ノ處分及解除ニ付テハ有爵ノ互選ニ依リ組織シタル戒委員會ノ決議ヲ經タル後勅裁ヲ經ヘシ

禮遇ノ禁止ヲ解除スルハ特旨ニ由ル

第二十八條 戒委員ノ互選ニ關スル規程ハ宮內大臣勅裁ヲ經テ之ヲ定ム

附則

本令ハ明治四十年六月一日ヨリ之ヲ施行ス

明治十七年奉勅達華族令及明治三年九月十日太政官布吿宮竝ニ華族家人職員ニ關スル件ハ之ヲ廢止ス

現代仮名遣い(参考) 編集

朕、枢密顧問の諮詢を経て華族令を裁可し、茲に之を公布せしむ。

 御名御璽

    明治40年5月7日


皇室令第2号(官報 5月8日)

  華族令

第1条 およそ有爵者を華族とす。

 有爵者の家族は、華族の族称を享く。

第2条 爵は、公侯伯子男の五等とす。

第3条 爵を授くるは、勅旨をもってし宮内大臣これを奉行す。

第4条 有爵者は、その爵に相当する礼遇を享く。

第5条 有爵者の婦は、その夫の爵に相当する礼遇および名称を享く。

 有爵者の寡婦その家に在るときは、特に従前の礼遇および名称を享けしめその家の戸主となりたるとき、または襲爵者なくしてその家にあるときは、その者に限り特に華族の族称を保有せしめ、従前の礼遇および名称を享けしむ。

第6条 有爵者の家族にして左に掲げたる者は、華族の礼遇を享く。

 1 曽祖父、祖父、父。

 2 爵を襲くことを得べき法定の推定家督相続人およびその嫡長男子。嫡出の男子なきときは、その庶長男子。

 3 戸主たりし者。

 4 前3号に掲げたる者の配偶者。

第7条 有爵者又は前2条の礼遇を享くべき者左の各号の一に該当するときは、その礼遇を享くることを得ず。

 1 禁治産者および準禁治産者。

 2 身代限の処分を受け債務の弁済を終えざる者および家資分散もしくは破産の宣告を受け、その確定したる時より復権の決定確定するに至るまでの者。

 3 刑事の訴を受け勾留又は保釈中に在る者。

 4 禁錮以上の刑の宣告を受けたる時よりその裁判確定するに至るまでの者。

第8条 有爵者は法律命令および華族に関する規程の範囲内において、家範を定むることを得。

 家範は宮内大臣の認許を受くべし。これを廃止変更するときまた同じ。

 有爵者未成年者又は禁治産者なるときは、家範を定め又はこれを廃止変更することを得ず。

第9条 爵は男子の家督相続人をしてこれを襲かしむ。

第10条 爵を襲くことを得べき家督相続人又はその法定代理人は、相続の開始を知りたる時より6箇月内に宮内大臣に家督相続の届出を為すべし。

 前項の届出ありたるときは、宮内大臣は勅許を経て襲爵の辞令書を交付す。

第11条 襲爵は、家督相続開始の時よりその効力を生ず。

第12条 左の場合においては家督相続人は、爵を襲くことを得ず。

 1 国籍喪失により家督相続開始したるとき。

 2 第10条第1項の期間内又は家督相続開始の時より3箇年内に家督相続の届出を為さざるとき。

 3 第22条又は第24条により華族の族称を享けさるとき又はこれを失ひ、もしくはこれを除かれたるとき。

第13条 有爵者およびその家族の身分に関し監督上必要なる事項は、宮内大臣これを管掌す。

第14条 有爵者婚姻、養子縁組、隠居、協議上の離婚、もしくは離縁又は家督相続人の指定、もしくはその取消を為さむとするときは、戸籍吏にその届出をなす前、隠居をなすにつき裁判所の許可を要する場合は、その許可を請求する前宮内大臣の認許を受くべし。

 有爵者遺言をもって養子縁組をなし、又は家督相続人の指定をなすの意思を表示したるときは、養子となる者またはこれに代わりて承諾をなすことを得べき者にありてはその承諾をなす前被指定者、またはその法定代理人にありては相続の承認をなす前宮内大臣の認許を受くべし。

 前2項の規定は当事者の一方皇族なるときは、これを適用せず。

第15条 有爵者法定の推定家督相続人の廃除、もしくはその取消をなさむとするとき、または被廃除者廃除の取消をなさむとするときは、裁判所に請求する前、宮内大臣の認許を受くべし。ただし、有爵者遺言をもって家督相続人の廃除またはその取消をなすの意思を表示したる場合はこの限にあらず。

第16条 有爵者の家督相続人に選定せられたる者またはその法定代理人は、相続の承認をなす前、宮内大臣の認許を受くべし。

 前項の規定は被選定者皇族なるときは、これを適用せず。

第17条 有爵者の家族婚姻、養子縁組、分家、廃絶家再興または他家相続をなし、もしくは他家の家族とならむとするときは、有爵者又はその法定代理人は、これに同意をなす前、宮内大臣の認許を受くべし。

 前項の規定は婚姻の当事者の一方皇族なるときは、これを適用せず。

第18条 有爵者またはその法定代理人、その家に入る者の入籍に同意をなさむとするときは、その同意をなす前、宮内大臣の認許を受くべし。

第19条 有爵者またはその推定家督相続人、養子縁組をなす場合においてはその養子、家督相続人の指定または選定の場合においてはその家督相続人、左の各号の一に該当せさるときは宮内大臣の認許を受くることを得ず。

 1 養父又は被相続人の男系の6親等内の血族但し他家より入りたる者の実方の親族を除く。

 2 本家又は同家の家族、もしくは分家の戸主又は家族。

 3 華族の族称を享くる者。

第20条 宮内大臣の認許を受くへき者認許を受けすして第14条乃至第18条の行為を為したるときは情状に依り華族の礼遇を停止し又は爵を襲かしめさることあるべし。

 第18条の規定に違反したる場合に於ては入籍者は華族の族称を享くることを得ず。

第21条 有爵者死刑又は懲役の宣告を受けその裁判確定したるときはその爵を失う。

 有爵者の婦前項の場合に該当するときはその礼遇を禁止す。

第22条 第5条第2項の礼遇を享くへき者又は有爵者の家族前条の場合に該当するときはその者に限り華族の族称を失う。

 新に爵を授けられたる者の家族にして前条の場合に該当する者あるときはその者に限り華族の族称を享くることを得ず。

第23条 有爵者又は第5条第6条の礼遇を享くへき者左の各号の一に該当するときはその礼遇を停止す。

 1 華族の品位を保つこと能わざる者。

 2 宮内大臣の命令又は家範に違反し情状重き者。

第24条 前3条に規定したる場合の外、華族の体面を汚辱する失行ありたる者は情状に依り爵を返上せしめ、華族の族称を除き又はその礼遇を停止、もしくは禁止す。

 第5条第6条の礼遇を享けさる家族にして前項の失行ありたる者は華族の族称を除く。

第25条 有爵者その礼遇の停止又は禁止中に在るときは第5条第1項第6条の礼遇を享くへき者も共にその礼遇を享くることを得ず。

第26条 有爵者その品位を保つこと能わざるときは宮内大臣を経て爵の返上を請願することを得。

第27条 第20条第1項第23条第24条の処分は勅裁を経て宮内大臣これを行ふ礼遇の停止を解除するとき亦同し。

 前項の処分および解除に付ては有爵者の互選に依り組織したる懲戒委員会の決議を経たる後勅裁を経べし。

 礼遇の禁止を解除するは特旨に由る。

第28条 懲戒委員の互選に関する規程は宮内大臣勅裁を経てこれを定む。

附則

本令は明治40年6月1日よりこれを施行す。

明治17年奉勅達華族令および明治3年9月10日太政官布告宮並に華族家人職員に関する件はこれを廃止す。


 

この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。

  1. 法律命令及官公󠄁文󠄁書
  2. 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雜報及政事上ノ論說若ハ時事ノ記事
  3. 公󠄁開セル裁判󠄁所󠄁、議會竝政談集會ニ於󠄁テ爲シタル演述󠄁

この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。