株熱の余症恐るべし
株熱の餘症恐る可し(現行版『福澤諭吉全集』収録版)
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近日諸會社の景氣は次第に上進して、株式賣買の價貴きのみならず、其取引も中々盛なるが如し。金融緩慢と稱する近日に於ては自然の勢なる可しと雖も、凡そ人事は極端に走り易きの常にして、資産に餘裕ある人が、銀行などへ金を預けても其利子の割合甚だ低くして面白からず、左ればとて他に資金の用法もなければ、先づ會社の株劵にても所有せんとて、漸く其邊に着目する折柄、經濟社會の人氣は機を見て一時に動き、唯株の一方に向て噪進する其勢は、之を留めて留む可らず。即ち價の暴騰を致したる所以なり。物價の昇降は人氣の如何に由ることなれば、株式の暴騰も人氣の然らしむる所なりとして、敢て怪しむに足らず、又假令ひ暴騰したればとて、富豪大家の計算を以て永遠の利益を見込み、恰も其株式を世襲財産として私有すれば豪も妨なきのみか、眞に世襲の名に相應するものもある可しと雖も、爰に經濟社會の動靜の爲めに憂ふ可きは、諸會社の株劵をして投機者流の玩弄物たらしむるの一事なり。元來株劵の價は、其會社の基礎の確なると不確なると、其配分利益の多きと少なきとを視察し、之を標準にして始めて定まる筈なれども、市價昇進の勢をなすときは、時としては其標準の在る所を忘れ、
参考文献
編集- 福澤諭吉「株熱の餘症恐る可し」『福澤諭吉全集』別巻、富田正文・土橋俊一 編、岩波書店、1971年12月24日、初版、9-11頁。
- 『福澤諭吉事典』福澤諭吉事典編集委員会 編、慶應義塾大学出版会、2010年12月25日。ISBN 978-4-7664-1800-2。
関連資料
編集- 「亜細亜諸国との和戦は我栄辱に関するなきの説」(『郵便報知新聞』明治8年(1875年)10月7日)
- 「朝鮮の交際を論ず」(『時事新報』明治15年(1882年)3月11日)
- 「朝鮮独立党の処刑」(『時事新報』明治18年(1885年)2月23、26日)
- 「脱亜論」(『時事新報』明治18年(1885年)3月16日)
- 「朝鮮人民のために其国の滅亡を賀す」(『時事新報』明治18年(1885年)8月13日)
- 「財産保存増殖の安全法」(『時事新報』明治19年(1886年)11月10日)
- 「兵力を用るの必要」(『時事新報』明治27年(1894年)7月4日)
- 「土地は併呑す可らず国事は改革す可し」(『時事新報』明治27年(1894年)7月5日)
- 「改革の着手は猶予す可らず」(『時事新報』明治27年(1894年)7月6日)
- 「支那人親しむ可し」(『時事新報』明治31年(1898年)3月22日)
- 「支那人失望す可らず」(『時事新報』明治31年(1898年)4月16日)
外部リンク
編集- 「学問のすすめ」だけじゃない。福沢諭吉が説いた「分散投資のすすめ」
- 福澤諭吉著作一覧 - 全集・選集 - ウェイバックマシン(2017年12月21日アーカイブ分)
- 「福沢健全期『時事新報』社説・漫言一覧及び起草者推定」