ちよんがれ
これ〳〵皆さん聞いても呉んない、【ちよんがれ】おらが隣の其又隣の仙石様は、御国の家老が謀叛を巧んで、一家・一門申し合せて主人を殺して、子息を主人に替玉食はして、其身【 NDLJP:210】は栄耀の錦の襖に、蒔画の御膳で、二汁・五菜や、三汁・五菜の御料理、其外朝から晩迄、酒や肴でどんちやんどんちやん、五万石をば
千石も田のみすく雲しつきのな 当世
あきに臨時の転めされし 神谷
たより聞く雁をも友と鷺が鳴て 一月
あづかり物の荷厄介なり是は松平備中守様友鵞預なり 駿台
筒井つゝ井筒にかけまくり尺八 南坊
ちから業にも重い玉づさ松平主税様事 平松
ひだり京道の助けをしるべとし 老功
出る石緩し城がかたぶそく 但府
権兵衛は種をまかねば丸となし 祖父
坂のわきより花のよこ枝 汐留
春心伊達なうはさも今日ぞ見る 千大
昔のかたを聞くも恨めし 防蔦
かたばみの劒とけんとす御後室 是は酒井様より入輿の御方にて御後室仙石左京密通の事なり 隠婦
七五三打懸て神や守らん 転見
美濃紙はものが当りて破れ障子 鶴毒
御先代美濃守さまの評判
おんいへも永楽銭とおもひしに
伝 相
永 宝 □ 通 楽
老 家
五年以前一人前百石より五百石干石
一文がうよく
万一成就する時は大名也。
抑〻此薬は一月寺こむそうの告に依り、左京が拷問の痛みに謀叛は日々尻われ、一味【 NDLJP:212】くだけ露顕騒動、主税は疾病、周防は頭痛、其外家中御蔭預け、大名物入り、金瘡丹目附の虎眼、留守居忙がしく、眩暈・立ぐらみ・底豆によし、佞奸の者にて其内腹がわかつてよし。
吟味調所 江戸芝三田 龍野氏 ○○
此度善人に紛らはしき類あまた御座候間、能々吟味の上裁評仕候、
右次所
忠 神谷転 悪 荒木玄蕃 忠 酒勾清兵衛 悪 杉原官兵衛 大悪 仙石左京 悪 青木弾左衛門 同 仙石小太郎 同 大塚甚太夫 同 西村門平 同 高野直助 同 神谷七五三 同 早川保助 同 鷹取已伯 同 西岡斧七 同 仙石主計 同 岩田静馬 同 山本新兵衛 同 久保真吉郎 同 麻見四郎兵衛 同 渡辺越中
右之内取次の儀は、何れとも善悪相分り兼申候。追て吟味の上引札を以て申上候。以上、
高千石年寄 岩田静馬 高四百石年筒 青木弾右衛門 高三百五十石 杉原官兵衛 用人 大塚甚太夫 同 宇野甚助 勘定奉行 山本耕兵衛 近習番 早川保助 近習番 西村門平 旗奉行郡奉行勘定奉行 岩田丹太夫 郡奉行 徳永半右衛門 町奉行 恵崎又左衛門 医師 鷹取已伯
右十二人は伝馬町揚り屋入に相成申候。
荒木玄蕃 仙石主計 酒勾清兵衛 台所小頭 西岡斧七備前預り中侍分御取扱
右四人は忠臣之由にて、別て大切の御取り計ひ方の由。
仙石左京 同 小太郎
右二人は未だ備前へ御預け中、大逆臣小口に相成、
高二百五十石年寄 山田八右衛門 高百五十石年寄大森登
右二人は松平美濃守へ御預け中。
東西々々御城下平一面に岩田御静り下されませう、此度江戸寺社御屋敷に於て、晴【 NDLJP:213】【相撲番附に擬す】
御免大相撲 |
大関 仙石左京 |
前頭 山本幸三郎 |
世話人 土肥折之進 |
行司 松平周防守脇坂中務大夫井上河内守 | 呼出 松平主税 渡辺角太夫 |
勧進頭取 仙石道之助 | |
大関 荒木玄蕃 関脇 仙石主計 |
前頭 河野瀬兵衛 |
京島良右衛門 |
天五日より訴訟興行仕る、其沙汰三人衆中宜しくと有㆑之、利口より賑々しく御城下へ御入来下され候段、肝心要不㆑及㆑申、左京の頭取訴訟の面々、如何計り迷惑至極の色をなし奉ります。訴訟古実といつぱ、天保元寅年秋稲作不出来に付、見分扱ひ願上候、其時山本耕兵衛を始めとして、宇野甚助の鷹の目を見開き、不届至極の願ひ出で、一合一勺も引く事ならずときめ付けたり。其後片屋に、河野瀬兵衛並三人衆を力として、相手の面々追々御江戸へ召し呼ばれますれば、転をせごめ浪人浮世の戯男とは天地黒白の相違なり。まつた此外主計古実御座候得共、何を申すも不便の瀬兵衡、長口上は却て左京吟味の妨げ、
見物の向に四家品々
ありがたき道之助はある物をふみ迷ふべき左り京道
仙石米。仙石と云ふ人は一に家老を蹈ん張つて、二には憎くい悪巧み、三に左京が指図にて、四つ世つぎもない様に、五つ出石の騒動は、六つ無体に計らひて、七つなくやら殺すやら、八つやたらに預けられ、九つ殺した御吟味を、十でとつくり済めば好【 NDLJP:214】い。此度御役申せば、浜田御老中豊後・伊賀御役人、仙石様は百年目。左京は金を撒き散らし、主税に任する所を、上より龍野が舞下り、悪しき奴原かい摑みて、塩留の海へさらり〳〵。
五万石投出させんと主税持つどつこい周防は旨く行くまい
身の上の毒共知らず喰うた鰒黒髪切つて今は尼鯛 亡霊後室
大望は元より思ひ立ちの魚身方を頼み送るほう〴〵 仙京権右衛門
道ならぬ望は終にかながしら深編笠の心ある鯖 神転
江戸前と思の外に捕るゝもちま〔〈は脱カ〉〕したる売つゝいが 八堀大困
御預の身はちら〳〵の木葉鰈兼て覚悟の命ほしがれ 道堂末孫
兄弟のわりなき中も興鮫拙なかりける家の大鱚 松川浜田
対決の場は口論にいひ鰹あとの手段に思ひ白魚 仙京神転
御尋の筋残らず皆鰯心にさわぐことのよし余 吟味龍野
直な御代横にはいかぬ車海老主の報いの首は飛魚 龍野御叱
此上は家の贔屓を頼み鱒権兵衛が功も少し立鯛
五万石丸で無の字と極め鱈永楽銭で買へぬ
千秋【万歳】
やくはらひ
やはら見せたいな〳〵、斯かる見せたきよくの世に、御家の騒動隠れなき、此度御役を申さうなら、石州浜田御老中、伊賀も豊後も御役人、一身は仙石金は万両、左京が主税一ぱいに、まきちらしたる其折柄に、天より龍野が天降り、彼の奴原をひつ摑み、周防が袖にひつ包み、西の海へと思へども、汐留へさらり、御役あがりませ、やくあがりませう。
仙石家の騒動を詠める 読人知らず
【 NDLJP:215】横道のすかたん家老無分別戦国めける家の騒動
積み積んで左京が悪事道之助千石船も沈みやはせん
権兵衛が蒔きし種をば心なき家の烏がほぜくりにけり
文も武も道之助にはならぬなり治れる世に乱れぬる家
家の変に千鳥の香炉啼きもせで
家の鼠千石の米を喰ひ尽し永楽銭と募る欲心
指を折つて増の出世を松平主税も脱けて嘸悔むらん
蘇芳染の幟に目立つ千両は富の札売る浜田屋が店
右の如き戯れし事を書き付けぬるは、余り浮きたる業にはあれども、当時の風説にして実事を知るに足れる事共其中に在るが故なり。又河野瀬兵衛、出石を追放せられ、江戸に出でて、主家の縁家へ出だしゝといふ十七箇条の書付、生野銀山渡辺角太夫へ内縁ある故に、之に便り、同人妾宅にかくまはれ、出石より捕手入り込み召捕れし始末等、同国村岡の長臣沢山儀兵衛も、生野に由緒ある人にて、則彼地へ到り、渡辺角太夫より委しく聞き取りて、予に語りし事有りと雖も、余りにくだ〳〵しければ、之を記すに及ばず。こは天保四巳年の冬、飢僅なりとて、米価尊き最中の事なりし。
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