<<十字架の力>>
十字架は神と人類との不和を破りて、和睦を成さしめ、地を天となし、人々を天使と合し、死の堡砦を破り、魔鬼の勢力を挫き、罪の力を廃し、地を迷より救ひ、真理を復興し、悪魔を逐ひ、異教の殿堂を毀ち、其の祭壇を倒し、祭物の悪臭を滅し、徳行を植ゑ、教会を基せり。十字架は父の望なり、子の栄なり、聖神の喜びなり、パウェルの称賛なり、曰く『我は唯われらの主イイスス ハリストスの十字架の外誇る所なからんことを願ふ』〔ガラティヤ六の四〕。十字架は太陽よりも明に光線よりも光り輝けり、けだし太陽の暗くなりしとき十字架光り始めたればなり、太陽は當時滅したるにあらざりしといへども、十字架の光に勝たれて暗くなれり。十字架は吾人の罪の書券を裂き、死の獄を不用となせり、十字架は神の愛の号標なり『抑神が世の人を愛するや、厥の独生子をさへ與へたまふ程にして、凡て彼を信ずる者に沈淪びずして、却て永生を得せしめんとしたまふなり』〔イオアン三の十六〕。パウェルも言へり、曰く『我等敵たりし時、其子の死によりて神に和ぐことを得たらんには、况して和を得たる今日は其の生るに頼て救はるゝことを得ざらんや』〔ローマ五の十〕。十字架は侵すべからざる城壘なり、勝つ能はざる武器なり、富者の支柱なり、貧者の富なり、凌辱せらるゝ者の防禦なり、攻撃に遭う者の武器なり、情慾の鎮圧なり、徳行の基礎なり、奇異にして驚くべき休徴なり。主は言へり、曰く『悪く姦しき此民族は休徴を求むれども、預言者イオナの休徴の外、之に休徴を與へられじ』〔マトフェイ十二の三十九〕。パウェルは又言へり、曰く『イウデヤ人は休徴を乞ひ、ギリシヤ人は智慧を覓む、我等は十字架に釘せられしハリストスを宣傳ふ、即此はイウデヤ人には礙く者、ギリシヤ人には愚なる者なり、されど召されたる者にはイウデヤ人にもギリシヤ人にも神の大能なり、又神の智慧なり』〔コリンフ前一の廿二~廿四〕。十字架は楽園を開きて、盗賊をこれに入らしめ、亡びんとして地に居るにさへ堪へざる人間を天国にみちびけり。十字架より生ずるものは此の如く多し。