<<侮を赦すべし>>
近者の罪をゆるして、彼の為に祷るべし。己れと同等の僕より百「デナリ」の佛を督促したる者は、其同僕には害を被らしめず、却て其の己れと同等の僕よりきちやうめんなる督促をなしたるが為に、自らは十千「タラント」の債の赦さるべきをうしなひて、定数の鞭撻をうけたりき、これと相反して、近者の罪を赦す者は此によりてみずから来世に於て答へざるべからざる責の厳しきを弛むるのみならず、罪を免すこといよ〳〵多ければいよ〳〵多く寛宥をうけん。さりながら差は数量の上にあるにあらざるなり、要するに彼はたゞよく僕のあらはすことを得るだけの憐をあらはすのみなれども、恩賞は主宰の與ふるを能くする所のものをうけん。然れども我にいふなかれ、汝を辱めたる者は箇様々々の罪を犯せりといふなかれ。汝のいふ如く彼の過はます〳〵重ければ、汝の彼に寛宥をあらはすの緊要なることもまたます〳〵明なり、けだしかくの如くなれば来世に於て己れに憐を得ることもます〳〵大なればなり。己の怒を棄てよ、健全なる考を以て己の心を鎮めよ、此を以て神への祭りにさゝげよ……。近者にほどこす所の善は罪をきよむる大なる献祭なり、曰く『もし人に罪を恕さば、汝等の天父も汝等にゆるし給はん』〔マトフェイ六の十四〕。