オープンアクセス NDLJP:5
 
解題
 
浮世の有様十七冊、文化より文政・天保を経て、弘化年中に至る、天変・地異・人事を記載す。但し、必しも著者自ら年代を追ひて、記述せるものゝみに非ずして、其間屢〻自己或は他の手に成れる、一部の成書を挿入し、以て事相の徹底的闡明に勉めたり。是を以て記事年代の前後せるもの時々現はれ、重複せるもの亦少からず。然れ共是れ本書の声価を増減するに足らじ。本書の本領は他にありて、こゝに非れば也。蓋し予輩の本書に採る所以は、其記事の精緻なるにあり、否つとめて其の精確ならんことに力を致せるにあり。精確ならむことを欲す、是を以て勢の趨く処、自ら精緻なるを致せるに似たり。著者の一事件を耳にするや、或はこれを親戚に質し、故旧に質し、知人に質し、知人をして其知人に質さしめ、右より左より、上より下より、四面より其真相を叩き尽さずむば止まざるの慨あり。是れ其の記事の知らず知らず精緻なるを致せる所以なり。惟夫れ精緻なるは可なり、其極煩冗なるに至れるは惜しむ可しとの難あらむ。是れ然しながら、自序にも云へる如く、他に見する為にあらずして、子孫に遺さむとて物せるものなる以上は、これを責むるものオープンアクセス NDLJP:6の野暮なるべし。著者は何人か。署名せざれば、之を顕はすは或は著者の意に背かんも、恐らく大阪に住みし医なることは断ずるも過に非じ。氏名に至りても書中を精求せば自ら知らるべし、今略ぼ之を得たりと信ずれども、猶精読の他日に譲らむ。思ふに著者、医としての手腕は如何なりしや、未だ知るを得ず、学の厚薄また容易に断じ難し。然れど中文時に政事を品隲し、士道を論議し、僧侶の腐敗を痛罵し、時人の迷信を排撃せるなど、多く其節に中れるを見れば、其識見遥に時流を卓越し、決して尋常長袖者流の列に非るを見る也。
 

 大正六年二月 射難鳴 識

 
例言
 

、本輯に載するところは、浮世の有様第一冊及第二冊にして、年代は文化三年より文政十三年に至る。即ち記事の大要は文化三年露船エトロフに到来の事、文政三年長崎奉行交迭に関する事、同五年の津軽騒動、宮津百姓一揆、同六年江戸西丸の刄傷一件、伊予松山一揆、紀州一揆、文政十一年の諸国洪水・大風、同十二年の江戸大火及び切支丹始末、同十三年御蔭参りの記等なり。就中御蔭参りの一篇は頗る詳密を極め、最も異彩あり、悉さに時の風俗・人情を描出し尽して遺憾なし。 、一般の読過に便ならしむる為め、語尾を補ひ、文字を略ぼ一定し、普通に耳慣れざる語辞或は難語には頭註を下し、又文中童蒙を悩しむる文字には振仮字を施し、書簡・法令・其他書中に於ける引用文は、読下しに改めずして、原の体を存せること等、既刊武野燭談に同じ。 、既に解題に述べたるが如く、本書はその性質上更に統一なし、故に読誦の便を計オープンアクセス NDLJP:7り、仮に大綱と見るべき処には    を入れ、細目と見做すべき処には     を入れ、大綱を以て目次を編制せり、読者乞ふこれを了せよ。

 
 
目次
 
 
 
オロシヤ船エトロフ番所砲撃奉行逃走奉行切腹オロシヤ船狼藉の原因蝦夷奥州の警戒公儀役人と佐竹と応答公儀の行軍と上杉の行列と衝突オロシヤ船復来らざりしにより警戒を解く金沢大蔵大輔長崎奉行となる間宮筑前守長崎奉行となる金沢と間宮との批判唐人の出入を制限せしに就きて船頭の抗議大村の城主長崎定詰となる唐人の困窮唐人の乱暴渡辺藤市唐人の狼藉を鎮む大村侯渡辺の功を賞して二百石の知行を与ふ渡辺に就いての批判唐人の臆病津軽騒動の起因津軽の祖先大浦信濃守の悪逆南部津軽の境界論津軽の不法津軽人と南部人の気風津軽侯に就いての批判宮津の百姓一揆苛斂誅求栗原右門の一言にて一揆退く栗原右門佞人の為めに陥れらる西の丸殿中刀傷松山の百姓一揆紀州親類より絹屋への書状忠臣蔵九段目目録いろはうた卯作の弟仁兵衛の書状紀州騒動に就いての余談真田の書状英船漂著薩州侍衆より尾上小十郎への書状文政十年三月十八日の御触
 
 
文政十一年の変異佐賀城下の混雑稲荷明神の霊験同神記遠藤某危難を免る有田皿山の惨状大野島の被害佐賀城附近の作物被害下の関の惨害従来伝説の迷信佐賀の被害状況
 
佐賀城下の惨害武富と強欲と仁慈の池田両家手代の論争武富の家破壊せらる小倉城下の被害福岡の被害柳川久留米の被害大村城下の被害平戸城下の被害長府家中の才智島原天草の被害伊万里の被害鍋島の三家鍋島の三家老多久殿の政道天変の兆諸国の洪水長崎の大風九州の大風下関の大火筑前の大風中国の農作被害蘭船破損并に船中御改筑前の大風両越後の大地震下関大風の書状長岡城下地震の被害江戸の大火焼失の町名並に大名の邸宅植田原八の書状江戸大火の図大火の御救小屋場所附救助寄附の人名織物売出の広告角力組合宇一母の書状水野軍記大伊詐欺にかゝる軍記の最後連座貢の素姓軍記に奇術を学ぶ盲眼を開く金銀を貧者に施す天の川の鯉を取寄す切支丹信徒の三族を滅す詐欺取財さのゝ罪状きぬの罪状貢の罪状植蔵の罪状平蔵の罪状顕蔵の罪状
 
 
伊勢神宮御蔭参りの濫觴内宮抜参の意義の一説宝永御蔭参りの人員明和八年の御蔭参宝永明和の抜参り大神宮の御祓降る抜参の弊害正遷宮六歳の小児の抜参り御祓降る施行奈良奉行の参詣者保護宿屋の雑踏ごまのはひ抜参りの似せ者悪宿引目印の幟参詣者を保護す目印の高帳社人火消役御鎮まり下さるべしと云ふごまのはい門徒寺参宮を制す息子の頓智丁稚を御祓に化す京と大阪と人情の相異姫路藩の参宮人に対する態度施行駕籠大石には施行の家一軒もなし神罰狂女御祓降る犬の参宮飛語訛言御蔭参りやゝ減ず御蔭参り新道を開く河内の門徒寺に御祓降る京都東洞院三条の者御蔭参りの途中溺死す白鷺金幣を衝はふ備前無届の抜参りを禁ず伊東家の復興日向の奇風奇瑞女の入水渡銭米の騰貴疫癘難船雑沓マニフ大明神乱心浮説御蔭踊人買船御神体躍りて借銭を踏み倒す大坂にて参宮人宿泊人数(頭書註)西行が山家集にはかたじけなさと有り後人是事を弁へざるに似たりと云へづは古言に非ず後附け堂島の施行宿伊勢道の施行宿朝熊万金丹の大施行東海道の施行豪奢なる参宮悲劇躍の代償
 
伊勢講百人一首換へ歌鳥づくし百人一首換へ歌僧徒の非行草木の病、流行
 
 

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