問 信経の第二か條は如何に唱へらるゝや
答 『又信ず一の主イイスス ハリストス神の獨生の子萬世の前に父より生れ光よりの光眞の神よりの眞の神生れし者にて造られしにあらず父と一体にして萬物彼に造られ』
問 此第二か條は如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 聖三者の第二位なる神の子イイスス ハリストスのことを言ひ顕はさる
問 如何に神子のことを言ひ顕はさるゝや
答 彼は神父の独一子にして萬世の前に神父より生れ光より出でし光眞の神より出でし眞の神造られたるに非ず生れたる者神父と一体にして萬物皆彼にて造られしことを言ひ顕はさる
問 何故に神の子イイスス ハリストスは信経に於て主と名づけらるゝや
答 神父は眞の神なるが如く神の子も亦眞の神なることを示すが為なり盖主と云ふの名は神と云ふ名と同じなればなり
問 イイススと云ふの名は如何なる意なるや
答 世を救ふ者と云ふ意なり
問 何故に神の子は救主と名づけらるゝや
答 我等を救ふが為に世に降り我等に天国の門を開き給ひたればなり
問 ハリストスと云ふの名は如何なる意なるや
答 膏を傅けられたる者と云ふの意なり
問 何故に神の子は膏を傅けられしものと云はるゝや
答 彼は其人性に於て深く聖神の恩恵に満たさるゝが故なり
問 神の子の外に膏を傅けられし者と云はるゝ者は無きや
答 昔時エウレイ(ヘブライ)の民の中にては国王、司祭長、預言者など皆膏を傅けられし者と名づけられたり而て我等の主イイスス ハリストスは最と尊く此三職を兼有つ即ち彼は王たり祭司長たり預言者たるなり
問 何故に神の子は独生の子と名づけらるゝや
答 彼は永遠に神父の本性より生るゝ独の子なるを以てなり(翰一の十四)聖書には神を畏るゝ義き者をも神の子と名づくれども神の本性の子にはあらず唯だ神の優渥なる恩寵に依りて神の子と名づけらるゝなり
問 神の子は何時神父より生れしや
答 萬世の先に生れたり即ち神父の永遠に在すが如く彼も亦永遠に在すなり
問 何故に神の子は父と一体なる者と名づけらるゝや
答 神の子は神父と同体にして彼と父とは一なればなり(翰十の三十)
問 萬物彼に造られとは如何なる意味なるや
答 『萬物皆神の子に依て造られ』たるを云ふなり
問 信経の第三か條は如何に唱へらるゝや
答 『我等人々の為又我等の救ひの為に天より降り聖神及び童貞女マリヤより身を取り人となり』
問 此第三か條に於ては如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 神の子が人躰を取りしことを言ひ顕はさる
問 神の子は如何様にして人躰を取られしや
答 天より降り聖神の能力に因て処女マリヤより人躰を取り我等の如く全き人となりたり(罪なきの外)然れども神たるを失ひしにはあらず
問 如何なる場合の時神の子は処女より生れしや
答 ロマの皇帝アウグストの時天下の戸籍を査る詔命出でければユデヤの民は皆戸籍に登るが為に各其故郷に帰りたり処女マリヤの聘定の夫イヲシフも戸籍に登るが為に其故郷なるビフレムの邑に至りしが何れの家も充満りて宿るべき家なかりければ雨天の日に羊を逐ひ入るゝ洞穴の中に夜を明しけり其夜此洞穴の中にて我等の主イイスス ハリストスは生れ給へり
問 正教会は至聖童貞女マリヤの処女たりしことに就て如何に教へらるゝや
答 童貞女マリヤは我等の主イイスス ハリストスを生むの前も生むの時も生みし後も処女なりしことを教ゆるなり
問 至聖童貞女マリヤに捧ぐる最も大切なる祈祷は何なりや
答 『聖神童貞女や喜べよ云々』『常に福にして云々』の祈祷なり
問 信経の第四か條は如何に唱へらるゝや
答 『我等の為にポンテイ ピラトの時十字架に釘うたれ苦を受け葬られ』
問 此第四か條は如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 我等の主イイスス ハリストスの十字架に釘られし事苦みし事葬られし事を言ひ顕はさる
問 何故に彼は苦みて死せしや
答 彼は罪なく亦罪を犯さざる者なれども唯我等の身代りとなりて我等を罪より救ひ贖ふが為に苦みて死に給へり
問 イイスス ハリストスは神にして如何に苦み死することを得るや
答 彼は其神性に於て死したるに非ず人性に於て死したるなり其神性に至りては固より苦を受くることも死することもなきなり
問 イイスス ハリストスは如何なる重き苦を受けられしや
答 多くの悪人等は種々の手段を以て彼を嘲り詈り彼の頭に棘の冕を冠らしめ彼を二人の盗賊の間に立てて十字架に釘たり
問 何人が何処にイイススの屍を葬りしや
答 アリマヘヤのイオシフと云へる富る義き人ありて己の所有する新らしき墓にイイススの屍を蔵めたり然るに祭司長等はピラトに求めて墓の石に封印し番兵を遣はして厳重に警固したり
問 我等はイイスス ハリストスの釘られし救ひの十字架に於ける信仰を如何に表すべきや
答 祈祷の時其他の場合の時己の身に十字架の記号をなして其信仰を表すべきなり
問 信経の第五か條は如何に唱へらるゝや
答 『第三日に聖書に應ふて復活し』
問 此第五か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 イイスス ハリストスの死より復活りしことを言ひ顕はさる
問 彼は如何様に復活りしや
答 死後三日目の黎明に(即ち日曜日)大なる地震ありて神の使は墓の門より石を轉ばし其上に座す其時イイスス ハリストスは神たるの光栄を顕はして復活れり墓を守りし番兵等は懼れ戦きて死したる者の如く倒れ後走りて凡て有りしことを祭司長等に告げしに彼等は兵卒に金子を與へて其弟子等がひそかにイイススの屍を竊みし如く吹聴せしめたり
問 イイスス ハリストスの外に死より復活りたる者ありや
答 復活りし者あり例令ば旧約に於て預言者イサイヤはサレプタの寡婦の子を復活らせ新約に於てイイスス ハリストスはラザル其他の人々を復活らしめたり然れども主イイスス ハリストスは他の復活りし者の如く外の者の力に依て復活りしに非ず自ら神の能力を以て復活りしなり
問 何故に信経には『聖書に應ふて』と云ふの語を加へられしや
答 主イイスス ハリストスは数百年前に預言者等が其苦の事死の事復活の事を預言せしが如く実に死して復活りしを証明すが為めなり(イイスス ハリストスの苦を受くる預言は賽八十章[1]復活の預言は詩十五の十[2])而て預言者イオナが三日の間鯨の腹に在りしことは主が三日の間墓に在りしことの預象なり
問 信経の第六か條は如何に唱へらるゝや
答 『天に升り父の右に座し』
問 此第六か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 イイスス ハリストスの天に升りしことを言ひ顕はさる
問 如何様に彼は天に升りしや
答 主の復活りし後四十日後に使徒等をイエルサリムよりエレオン山に導き手を挙て彼等を祝し祝する時彼等を離れ天に挙らる雲これを接て見えざらしめたり使徒等は驚きて天を仰ぎ視たりしに白衣を着たる二人の人ありて傍に立ち言ひけるは爾曹を離れて天に挙られし此イイススは爾曹が彼の天に升るを見たる其如く亦来たらんと彼等これを拝して甚く喜びイエルサリムに帰りたり
問 『父の右に座し』とは如何なる意なるや
答 神の子イイスス ハリストスは神父と同等の能力と光栄を有つことを示すなり
問 信経の第七か條は如何に唱へらるゝや
答 『光栄を顕して生ける者と死せし者を審判する為に還来り其國終りなからんを』
問 此第七か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 イイスス ハリストスの此世に再び臨み給ふ事公審判の事及び永遠の国の事を言ひ顕はさる
問 イイスス ハリストスが此世に再び臨み給ふ時は前に此世に在りし時と同じきや
答 大に異れり前には我等を罪と死より救ふが為に最も卑賤き身分を以て世に降りたれども再び世に臨むの時は萬民を審判くが為に神たるの光栄を顕はして来らるゝなり
問 彼は悉くの人を審判かるゝや
答 生ける者と死せる者を悉く審判かるゝなり而て死せる者は其時に至りて復活らるゝなり
問 如何様に審判かるゝや
答 人々其身に覚ある凡ての罪を白状し啻に行のみならず凡ての思と望までも神の使と萬民の前に露出さるゝなり
問 イイスス ハリストスは人々を審判する為に何時来らるゝや
答 其事は人間のみならず神の使も亦知らず之を知るは唯だ神のみなり故に我等は常に警醒して其用意を為さざるべからず(太二十五の十三)
問 イイスス ハリストスが此世に再び臨み給ふ時に先立ちてハリストスの信者の為に如何なる災あるや
答 此世にアンチハリストスの現はるゝことなりアンチハリストスとはハリストスの敵にしてハリストスの信者に害を與ふることのみを務むる者なり然れども終には最も恐ろしき苦を受けて自滅すべし
問 『其國終りなからんを』とは如何なる国を指すや
答 公審判の後来らんとする永遠に光栄ゆる国を云ふなり