問 信経の第八か條は如何に唱へらるゝや
答 『又信ず聖神主生を施す者父より出で父及び子と共に拝まれ讃められ預言者を以て嘗て言ひしを』
問 第八か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 聖三者の第三位なる聖神のことを言ひ顕はさる
問 如何様に聖神のことを言ひ顕はさるゝや
答 彼は生命を施すの主にして神父より出で父と子と共に同等に拝まれ嘗て預言者等に啓示を與へたる者なることを言ひ顕はさる
問 何故に聖神は生命を施す者と名けらるゝや
答 彼は萬物に生命を與へ殊に人間に霊の生命を與ふればなり
問 『父より出で』とは如何なる意なるや
答 此語を以て聖神は聖三者の他の位と異ることを示すなり即ち聖神の特別なる性質は我等の主イイスス ハリストスが『真理の霊は父より出づ』(翰十五の二十六)と云はれし如く彼は神父より出づるが故なり
問 『預言者を以て嘗て言ひしを』とは如何なる意なるや
答 聖神は預言者等に托して啓示を與へたるものなることを示すなり
問 預言者とは如何なる人々なりや
答 神の啓示を受けて未来のことを預言し聖き行を為して人々を教へ導きし人々を云ふ夫等の人々の中にて記録を遺せし者と遺さざりし者とあり記録を遺せし者は例令ば預言者モイセイ ダビード イサイヤの如き者なり又記録を遺さざりし者は例令ば預言者イリヤ及び其弟子のエリセイの如き者なり
問 聖神に捧ぐる最も大切なる祈祷は何なりや
答 『天の王慰むる者云々』の祈祷なり
問 聖神は如何なる姿にて聖像に象らるゝや
答 鳩の形にて象らる盖イイスス ハリストスがイオルダンの河にて洗礼を受けし時其様なる姿にて顕れ給ひしに因るなり
問 信経の第九か條は如何に唱へらるゝや
答 『我信ず一の聖なる公なる使徒の教會を』
問 此第九か條は如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 教会のことを言ひ顕はさる
問 教会とは如何なるものなりや
答 主イイスス ハリストスを信ずる人々の社会を云ふ
問 其様なる社会即ち教会は幾何なるや
答 唯一にして多くあるべきに非ず如何となれば教会は大なる一の家族の如きものにして其主人は独り主イイスス ハリストスのみなればなり
問 何故に教会は『聖なる教会』と名づけらるゝや
答 教会を組織する人々は皆主イイスス ハリストスの聖血に依て聖められ又聖ならんとして益々進み行く故なり
問 何故に教会は『公なる教会』と名づけらるゝや
答 教会は凡ての時代と凡ての土地の人々より成立つものなればなり
問 何故に教会は『使徒の教会』と名づけらるゝや
答 教会は聖使徒等より受けたる教を堅く守り又聖使徒等より立てられたる主教を以て治めらるゝに因るなり
問 聖使徒とは誰なりや
答 イイスス ハリストスより救の道を諸国に傳ふるが為に撰まれたる使徒等を云ふ初め是等の使徒等は十二人なりしが後に至り尚七十人此職に撰まれたり此人々は身分賤き者にて大抵漁夫なりしが聖神の恩を受けて大なる教化者となり多くは教の為に殉したり
問 信経の第十か條は如何に唱へらるゝや
答 『我認む一の洗礼を以て罪の赦を得るを』
問 此第十か條は如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 洗礼機密のことを言はれたり然れども其他の機密のことも含めるなり
問 機密とは何なりや
答 神の恩寵神の能力が見えずして行はるゝ所の聖なる儀式を云ふなり
問 機密は幾何あるや
答 七つあり即ち洗礼、傅膏、聖体、痛悔、神品、婚配、聖傅なり
問 我等は是等の機密を悉く受くべきものなるや
答 第一より第四までの機密は何人も皆受けざるべからず然れども其他の機密は唯だ教会にて必要と認むる者にのみ授けらるゝなり
問 洗礼とは如何なる機密なりや
答 眞の神の教を信ずる者が父と子と聖神の名に依て三度水に浸され之に依て新らしき者と生れ変るなり
問 洗礼の時代父母を立つるは何の為なりや
答 其代父母が神の前に堅き約束を立てて洗礼を受けし者の信仰と品行を監督するが為なり
問 洗礼を受けし者に白衣を着するは何の表なりや
答 洗礼を受けし者が罪より聖められし表を顕はすなり
問 洗礼を受けし者の頚に十字架を掛くるは何の為なりや
答 十字架に釘られしハリストスを信ずるに依て救を得ることを記憶せしむるが為なり
問 何故に信経には『我認む洗礼』と云はずして『一つの』と云へる語を加へられたるや
答 若し誰か一度正しく洗礼を受けたる時は決して再び洗礼を受くべからずことを示すが為なり
問 傅膏機密とは如何なる機密なるや
答 洗礼を受けし者が聖神恩寵の印記と言ふの語を以て聖膏を傅られ之に依て善行に進むの恩寵を與へらるゝなり
問 身体の如何なる部分に聖膏を傅けらるゝや
答 智慧と思慮を聖にするが為に額に膏を傅け心情と願望を聖にするが為に胸に膏を傅け感覚を聖にするが為に耳目口に膏を傅け能力を聖にするが為に手及び足に膏を傅けらるゝなり
問 聖膏と聖油とは如何なる区別あるや
答 聖膏は種々の発香草と香料より成立ち主教の祈祷と降福に依て聖にせられ聖油は只だ通常の木油より成立ち司祭の祈祷と降福に依りて聖せらるゝものなり
問 聖体機密とは如何なる機密なりや
答 餅と葡萄酒の形の中にハリストスの眞の体と血を領け之に依てイイスス ハリストスに体合し永遠の生命に與かる者となるなり
問 聖体機密を受けんとする者は如何に己を准備すべきや
答 聖体機密を受けんとする者は先づ精進をなし聖堂及び自宅に於て専ら祈祷をなして諸ての人と和し後ち懺悔をなすべきなり
問 我等は度々聖体機密を領くべきや
答 少くとも一年の内一度は是非共領くべきなり然らざれば真実の正教信徒とは名づけられざるなり
問 聖体機密は如何なる祈祷の礼儀を以て行はるゝや
答 聖体礼儀の祈祷を以て行はる故に此祈祷は他の祈祷よりも猶一層大切なるものなり
問 聖体礼儀は聖体機密を行ふの外他に何の大切なることありや
答 主イイスス ハリストスの一代記を記憶することなり
問 其記憶する事柄は何なりや
答 至聖処よりより福音経を捧げて出づるは我等の主イイスス ハリストスが福音を宣傳ふるが為に出で給ひしことを記憶するなり又聖物を持て至聖処に進み詠隊が『我等虔でヘルビム云々』の詠歌を為すは我等の主イイスス ハリストスが我等を罪より救ふが為に甘じて苦と死を受け給ひしことを記憶するなり又聖役者機密を行ひ聖体を領くるは我等の主イイスス ハリストスが其使徒等と共に機密の晩餐を行ひしことを記憶するなり又聖物を挙げて衆に示し補祭が『神を畏るゝの心と信とを以て近づき来れ』と呼ぶは死より復活りし我等の主イイスス ハリストスが其使徒等に現はれ給ひしことを記憶するなり終りに聖物を衆に示し司祭高声にて『今も何時も世々に』と呼び而て聖物を宝座より祭台に移すは我等の主イイスス ハリストスが天に昇り給ひしことを記憶するなり
問 痛悔機密とは如何なる機密なりや
答 洗礼を受けし後に罪を犯せし者が其罪を司祭の前に陳べて神より其罪の赦を受くるなり
問 痛悔機密を受けんとする者は如何なることを為すべきや
答 自分の罪を思ひ出して深く懺悔し今までの行ひを改めて清らかなる善き行を為すの決心を為すべきなり
問 教会には痛悔する者の悪き習慣及び重き罪を懲らすの方法ありや
答 補贖或は矯正の罸と名づくる方法あり即ち其者に罰則を命じて行を改めしむるなり例令ば貪婪なる者には施済を命じ肉慾の激しき者には断食を命じ重き罪を犯せし者には聖体機密を許さざる等なり
問 神品機密とは如何なる機密なりや
答 正しく撰ばれたる者に主教の按手の礼を以て機密を行ひ信者を牧するの恩寵を與へらるゝなり
問 神品職の階級は幾何あるや
答 三つあり即ち主教、司祭、補祭なり
問 此三つの職に如何なる区別あるや
答 補祭は機密を行ひ信者を牧することに於て司祭の補助を為す然れども自ら機密を行ふこと能はず司祭は自ら機密を行ひ信者を牧す主教は機密を行ひ信者を牧するのみならず亦之を行ふの神品職を立つるの権をも有つなり
問 其他の神品職例令ば総主教、府主教、大主教、司祭長等は矢張り神品職の特別なる階級なりや
答 是等は神品職の特別なる階級にあらず唯だ三つの神品職のうちに属するものなり例令ば総主教、府主教、大主教の職は矢張り主教の職に属し掌院、司祭長の職は矢張り司祭職に属し、補祭長は矢張り補祭に属するなり其外教会の低き職員例令ば詠隊者、誦経者、堂役者等は神品職の階級に属せざるものなり
問 婚配機密は如何なる機密なりや
答 新郎と新婦が自由の約束を為せし後聖堂に於て神の前に夫婦の契りを結び一生の間互に睦まじく子を生み殖し之を神の誡に従て教育する為に降福せらるゝなり
問 聖傅の機密は如何なる機密なりや
答 祈祷を以て病める者に油を傅け霊と体の病を癒すの恩賜を與へらるゝなり
問 信経の第十一か條は如何に唱へらるゝや
答 『我望む死者の復活』
問 信経の第十一か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 死者の復生のことを言ひ顕はさる
問 死者の復生とは何ぞや
答 死者の霊が以前の体と合して永遠に死せざる者となることなり
問 復活りたる後の体は現在の体と同じきや
答 然らず我等が現在の体は不自由にして病あり死あれども復活りたる後の体は自由にして病もなく死することもなきなり
問 死者の霊は復活の時まで如何なる有様にて在るや
答 義人の霊は豫め安息と福楽の境遇に在り罪人の霊は豫め苦痛と哀哭の境遇に在るなり
問 悔改に適へる果を結ばずして死したる人の運命を軽からしむる方法ありや
答 祈祷と施済殊に彼等の為に無血祭を献ずること等なり
問 信経の第十二か條は如何に唱へらるゝや
答 『並に来世の生命を アミン』
問 此第十二か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 公審判の後に来らんとする永遠の生命のことを言ひ顕はさる
問 それは如何なる生命なりや
答 義人の為には最も喜ばしき福なる生命なり又罪人の為には最も苦しき哀れなる生命なり
問 次に神の十誡とは何ぞや
答 神の十誡とは左に述ぶる十個條の誡命なり