問 信経とは何なりや
答 信経とは我等信者の必ず信ずべき箇條を分り易く約めて言ひ顕はせるものなり
問 信経と云ふ語は如何なる意なりや
答 信経とは語短き信仰の箇條と云ふことなり
問 如何なることを信経には言ひ顕はさるゝや
答 神父の事神子の事神の子が人の躰を取りし事苦を受けし事死せし事復活りし事天に昇りし事此世に再度降臨の事聖神の事教會の事機密の事死者の復生の事来世の生命の事を言ひ顕はさるゝなり
問 誰が信経を組織せしや
答 第一第二の全地公會の諸師父なり
問 全地公會とは何なりや
答 ハリストスの教の眞理を固むるが為に全世界より集りたる牧師教師の公會なり
問 斯る公會は幾何ありしや
答 七つありたり而て第一と第二の公會(第一は降生後三百廿五年ニケヤに開かれ第二は降生後三百八十一年コンスタンチノーポルに開かれたり)に於て信経を組織せられたり
問 其信経は如何に唱へらるゝや
答 一 我信ず一の神父全能者天と地見ゆると見えざる萬物を造りし主を
- 二 又信ず一の主イイスス ハリストス神の獨生の子萬世の前に父より生れ光よりの光眞の神よりの眞の神生れし者にて造られしにあらず父と一体にして萬物彼に造られ
- 三 我等人々の為又我等の救ひの為に天より降り聖神及び童貞女マリヤより身を取り人となり
- 四 我等の為にポンテイ ピラトの時十字架に釘うたれ苦を受け葬られ
- 五 第三日に聖書に應ふて復活し
- 六 天に升り父の右に座し
- 七 光栄を顕して生ける者と死せし者を審判する為に還来り其國終りなからんを
- 八 又信ず聖神主生を施す者父より出で父及び子と共に拝まれ讃められ預言者を以て嘗て言ひしを
- 九 又信ず一の聖なる公なる使徒の教會を
- 十 我認む一の洗禮以て罪の赦しを得るを
- 十一 我望む死者の復活
- 十二 並に来世の生命を アミン
問 信経は幾何の箇條に別るゝや
答 十二の箇條に別たる
問 信経の第一か條は如何に唱へらるゝや
答 『我信ず一の神父全能者天と地見ゆると見えざる萬物を造りし主を』
問 此第一か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 聖三者の第一位なる神父のことを言ひ顕はさる
問 如何に神父のことを言ひ顕はさるゝや
答 其本体に於て獨一なる神父は全能者にして見ゆると見えざる一切萬物の造主なることを言ひ顕はさる
問 神とは如何なるものなりや
答 神は霊なり即ち神は形骸無きものにして我等が見ることも亦其躰を想像することも出来ざるものなり
問 若し神は形骸無き霊ならば何故聖書には神の手足耳目などのことを載するや
答 聖書に斯く記さるゝは人の躰のことに擬へて神の霊なる行為を解し易からしむる為なり例令ば神の眼とは其全知なることを示し神の手とは其全能なることを示すの類なり
問 若し神は霊ならば如何なる方法を以て其聖旨を人々に告げ知らせたるや
答 神は其聖旨を種々の方法を以て人々に告げ知らせたり例令ば神は人の形を以て顕はれ(アウラアムに三人の旅人の姿にて現はれヤコフには識らざる人の姿にて現はれ闘ひたり)或は火焔と喇叭の声の中に現はれ(シナイ山に於て法律を民に授くる時)或は見えざる姿にて語を交へ(モイセイに)或は夢に現はれて宣託をなしたり(メソポタミヤにてヤコフに)此種々の顕現を象て聖像にも神の姿を種々に画かるゝなり
問 其外の神の性質は何々なりや
答 神は『永在』なり即ち神には嘗て在らざりし時なく又無らんとする時もなく今迄も常に在り今も在り後にも限りなく在るなり
次に『全能』なり即ち神は其聖旨のままに萬事を成すの能力を備へ給ふなり
次に『遍在』即ち神は天にも在り地にも在り家にも在り水にも在り火にも在りて其在らざる処なければなり
次に『全知』即ち神は見ざる処なく知らざる処なく天のことも知り地のことも知り啻だ我等の外の行為のみならず内の思慮願望をも明かに知るなり
次に『全善』なり即ち神は其善なる聖旨を以て福楽を得せしめんが為に我等人間を造り又我等の願望を納れて我等に惠を與へらるゝを以てなり
次に『公義』なり即ち神は善を賞して悪を罰し貴賤と貧富とに拘らず公平に賞罰を行ふなり
次に『不変』なり即ち神の本性は何時も変ることなく昔も今も後も常に同様なり
次に『全福』なり即ち神は萬福の源にして是を他より受くるに非ず返て是を萬物に授け凡の福祉皆神より出でざるはなし
問 何故に信経には唯神を信ずと云はずして『独一の』と云へる語を加へられしや
答 神は其本体に於て独一なることの真理を明かに示して多神を信ずる邪なる教を斥くるが為なり
問 信経に『父』と云はれしは如何なる真理を顕はすや
答 本体に於て独一なる神は位に於て三つなることの真理を顕はすなり
問 其位とは何々なりや
答 第一の位を父と云ひ第二の位を子と云ひ第三の位を聖神と云ふ而て此三の位は唯独一の神なり故に独一の神を或は聖三者と名づくるなり
問 此聖三者の中孰れにか尊き卑きの区別ありや
答 孰れも尊き卑きの区別なく総て同等なり故に神父は真実の神として神たる凡ての本性を具へ神子も亦真実の神として神たる凡ての本性を具へ聖神も亦此の如し然れども神は三つなるに非ず矢張り独一なり
問 神の三位の間に如何なる相互の違あるや
答 神父の位は其他の位よりより生るゝことなく亦出づることなし神子の位は永遠に神父より生れ聖神の位は永遠に神父より出づるなり
問 神父は如何なる姿にて聖像に象らるゝや
答 老人の姿に象らる如何となれば昔の聖人が其様なる姿にて神父の顕現れたるを見たる故なり(但七の十一)
問 何故に信経には神を『全能者』と名づくるや
答 神は其聖旨と能力とを以て世界萬物を摂理するが故なり
問 何故に神は『萬物を造りし主』と名づけらるゝや
答 凡ての見ゆると見えざる萬物を造り給ひたればなり
問 『見ゆる物』とは如何なるものなりや
答 凡て我等が眼にて見るを得るもの即ち天地山海人類禽獣草木の類なり
問 『見えざるもの』とは如何なるものなりや
答 無形の世界即ち神の使等なり
問 如何なる順序を以て神は世界を造りしや
答 凡ての物の先に神の使を造り其後に無組織の原資を造り此無組織の原資より六日の間に天地萬物を造り給へり而て人間は其世界創造の最も終りなる六日目に造られたり
問 神の使とは如何なるものなりや
答 形体なき見えざるの霊にして其性質は畧我等の霊に等しきものなり而て我等と同じく智情意を具ふれども唯だ我等に異なる処は我等よりも完全き者にして我等よりも多くの事を識り又我等に勝りたる能力を有つなり
問 何の為に神の使は造られたるや
答 神の使の造られしは其造主の光栄を讃美する為め又我等人間の救済に務むるが為なり
問 神の使は幾品に別たるゝや
答 三品に別たる即ち第一品はセラヒム、ヘルビム、宝座、第二品は主制、能力、権柄、第三品は首領、神使長、神使なり
問 守護神使とは何を指すや
答 我等が洗礼を領けたる時より断えず我等に付添ひて我等を諸慾より護り永遠の生命に導く神の使を云ふ
問 神の使は如何なる姿に象らるゝや
答 羽翼を具へたる少年の姿に象らる是れ神の使が何処へ至るも自由自在にして神の命を行ふの至て迅速なるを示すなり
問 神の使は総て聖且つ善なるや
答 否悪しき者もあるなり是等は悪魔と名づけらる
問 神の使と悪魔とは如何なる相違あるや
答 其体に於ては孰れも形骸よく見えざるの霊にして共に智情意を具ふる者なれども神の使は神の命に従ひて人間の救済を扶け悪魔は神の命に従はずして返て人間の救済を害する者なり