新約聖書譬喩略解/第二十九 二人祈祷の譬
< 新約聖書譬喩略解
第二十九 二人 祈祷 の譬
編集
- 〔註〕
此 譬 は上 の譬 と属 て祈祷 を教 へたまふなり上 の譬 は祈祷 を懇切 にすべきことを説 この譬 は祈祷 に謙遜 ことを説 たまへり九 節 に於 てその大 意 を指 して明 したまへり或人 謂 (法利 賽 )はユダヤを指 し(税吏 )異 族 の人 を指 す ユダヤ人 は傲 て天 父 の歓喜 を得 ず異 族 の人 は謙卑 て天 父 に接納 らるゝことを得 たりと此 譬 の意 を案 ずるにしからず此 譬 はイエス弟子 に説 たまふ譬 にて人 の国 両等 あれば人 の心 もまた両等 ありといふを指 にあらず九 節 に又 譬 を設 て自 恃 て義 となして他 人 を軽 ずるものに語 ると明 に言 たまへば凡 そ傲 るものは何 の人 をいわず皆 法利 賽 の類 なり凡 そ謙卑 ものは何 の人 をいわず皆 税吏 の類 なり如斯 この意 を説 を的解 とす二人 同 く祈祷 の中 に同 じきものと同 じからざるものとあり共 に殿 に至 て天 父 を拝 するにその拝 する所 の地 も同 じく来 るに先 後 を分 ざればその時 もまた同 し唯 其事 を同 してその心 を同 せざれば心 の外 に形 るゝもの各 異 なり法利 賽 の人 は自 ら恃 て己 を義 とし悪人 と竝 を屑 とせず故 に共 に立 ときは己 の清潔 を表 せり税吏 は自 ら罪 あるを知 たれば常 に眞 の神 を涜 んことを恐 れ遠 に立 て近 かず その言 に至 ても同 からざること尤 も多し法利 賽 は名 は祈祷 と雖 も其実 は天 父 に求 る事 なし全 く誇 て自己 を讃 め我 税吏 に似 ずといへり その意 以為 らく己 れは善人 にて別 に是 一類 をなせり其 餘 はみな悪人 なればまた是 一類 なりとまたいふやう己 は強索 ことなく不義 なく姦淫 なし下 六誡 に謂 る人 を待 の道 は盡 く守 れりと税吏 の胸 を拊 て祈 るを見 ては即 我 はこの税吏 に似 ずと謂 り おのれを罪人 もあらずと見 て他 の心 を痛 て悔 るを学 ばず また我 七日 の内 に断食 すること二次 すべて獲 るものゝ十分 の一 を献 り上 四 誡 に謂 る神 に事 るの道 はまた盡 く守 れりと謂 り止 盡 く守 るのみならず常例 の外 に加 増 して断食 をなせり原 モーセの旧例 に罪 を贖 ふの日 食 を断 りと〔利末記 十六章二十九節〕 また称 へて食 を断 の期 とす〔使徒行傳二十七章九節〕一年 にたゞ一次 なるに法利 賽 の人 は一次 を増 し四 次 を増 して断食 をなして額外 に功 を立 りとおもへり モーセの旧例 は惟 田産 と家畜 と穀 酒 油 および牛 羊 の類 の如 きは十分 の一 を献 りその餘 は用 ずとせり〔申命記十四章十三節〕法利 賽 の人 は薄荷 茴香 馬 芹 すべて有 るものは皆 供 たれば〔馬太二十三章二十三節〕また定額 の外 に功 を立 りとせり當時 法利 賽 の人 の祈 を為 すその意 は己 れ他人 に欠負 なく天 父 にも欠負 なし しかるに天 父 返 て己 に欠負 あり天 父 は善報 を以 て與 たまふこそ原 その応分 なりとその祈 の詞 にも半 句 も己 の罪 を認 て神 の恩赦 を求 るなし惟 己 の善 を天 父 と人 の前 に表 せり患者 の病 を匿 し人に知 らるゝを恐 病 のなき体 を以 て医者 に診察 せしむるが如 し法利 賽 の人 の祈祷 は眞 に之 に異 ならず かの税吏 の祈 は之 と大 に同 からず遠 に立 て目 を揚 て天 をも仰 がず自 ら罪悪 の深 を知 り天 父 に対しがたしと思 へり旧約書 に我 の神 が予 赧 るを知 て仰 視 ず蓋 我 が衆 の罪 天 に滔 りほとんど頂 を滅 に至 れり〔以士喇書 九章六節〕といふが如 し また税吏 は自 ら胸 を拊 て己 の罪 逃 れがたきを知 て痛恨 に勝 ずして曰 く神 よ罪人 なる我 を憐 み給 へと自己 罪 あり他 人 は知らざれども自己 は之 を知 こと最 も眞 なり故 に一心 に神 の赦 を求 め神 の憐 を請 りその祈祷 の言 は香烟 の天 に升 るが如 く眞 の神 の悦 て納 たまふことを得 たり法利 賽 の祈祷 は烟 の風 に吹返 されて高 く升 るを得 ず自己 の目 を迷矇 が如 し二人 とも殿 より帰 り法利 賽 は求 ることなければまた得 こともなし税吏 は祈 て天 父 の允凖 を得 て心 の中 に安慰 を覚 ゆべし故 にイエス此人 は家 に帰 りなば彼 に較 れば義 と称 らるべしと謂 たまへり後 また凡 そ自 ら高 るものは卑 られ自 ら卑 るものは高 らると謂 たまへり惟 この二人 の者 をのみしかりとせず都 ての人 また如此 ならざるはなし然 ば我 等 信者 は常 に自 ら慎 み祈 に臨 みて自己 を恃 むべからず謙遜 て心 に罪 を認 め天 父 の允凖 を得 べし天 父 は卑微 ものを垂顧 たまひ驕傲 るものを遠斥 たまへり若 天 父 に対 するとき稍 自 誇 るに渉 るときは便 無益 の僕 となり祈祷 に倦 ざるも亦 徒然 かるべし