新約聖書譬喩略解/第二十九 二人祈祷の譬

第二十九 二人ににん祈祷いのりたとへ

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路加十八章九節より十四節

またみづかおもひとかろしむる或人あるものイエスこのたとへかたれり にんいのらんとて殿みやのぼりしがその一人ひとり法利はりさいひと一人ひとり税吏みつぎとりなりき 法利はりさいひとたちみづか如此かくいのれり かみわれほかひとごと強索うばひ不義ふぎ姦淫かんいんせずまたこの税吏みつぎとりごとくにもあらざるをしゃす われ七日間ひとまはり二次ふたたび断食だんじきまたすべてうるものゝ十分じふぶんいちささげたり 税吏みつぎとりはるかたちてんをもあふ其胸そのむねうちかみ罪人ざいにんなるわれあはれたまへいへり われなんぢらにつげ此人このひと彼人かのひとよりはせられていへかへりたり それすべ自己おのれたかぶものさげられ自己おのれへりくだものあげらるべし


〔註〕このたとへかみたとへつづき祈祷いのりおしへたまふなり かみたとへ祈祷いのり懇切ねんごろにすべきことをとき このたとへ祈祷いのり謙遜へりくだることをときたまへり せつおひてそのたいしてあかしたまへり 或人あるひといふ法利はりさい)はユダヤし(税吏みつぎとりぞくひとす ユダヤびとおごりてん歓喜よろこびず ぞくひと謙卑へりくだりてん接納むかへいれらるゝことをたりと このたとへこころあんずるにしからず このたとへイエス弟子でしときたまふたとへにてひとくに両等ふたつあればひとこころもまた両等ふたつありといふをさすにあらず せつまたたとへまうけみづからたのみとなしてにんかろんずるものにかたるとあきらかいひたまへばおよおごるものはいづれひとをいわずみな法利はりさいたぐひなり およ謙卑へりくだるものはいづれひとをいわずみな税吏みつぎとりたぐひなり 如斯かくこのこころとく的解あたれりとす 二人ふたりおなじ祈祷いのりうちおなじきものとおなじからざるものとあり とも殿みやいたつてんはいするにそのはいするところばしょおなじくきたるにせんわかたざればそのときもまたおなじふたゞ其事そのことおなじふしてそのこころおなじふせざればこころそとあらはるゝものおのおのことなり法利はりさいひとみづかたのみおのれとし悪人あくにんならぶいさぎよしとせず ゆへともたつときはおのれ清潔きよきあらはせり 税吏みつぎとりみづかつみあるをしりたればつねまことかみけがさんことをおそはるかたちちかづかず そのことばいたりてもおなじからざることもつとも多し 法利はりさい祈祷いのりいへど其実そのじつてんもとむことなし まつたほこり自己おのれわれ税吏みつぎとりずといへり そのこころ以為おもへらくおのれは善人ぜんにんにてほかこれ一類いちるいをなせりそのはみな悪人あくにんなればまたこれ一類いちるいなりとまたいふやうおのれ強索うばふことなく不義ふぎなく姦淫かんいんなししも六誡ろくかいいへひとあしらふみちことごとまもれりと 税吏みつぎとりむねうちいのるをてはすなはちわれはこの税吏みつぎとりずといへり おのれを罪人ざいにんもあらずとかれこころいためくゆるをまなばず またわれ七日ひとまわりうち断食だんじきすること二次ふたたびすべてるものゝ十分じふぶんいちさゝげかみかいいへかみつかふるのみちはまたことごとまもれりといへり たゞことごとまもるのみならず常例さだめほかくわへして断食だんじきをなせり もとモーセ旧例ふるきおきてつみあがなふのしょくたてりと〔利末記レビき十六章二十九節〕 またとなへてしょくたつとす〔使徒行傳二十七章九節一年いちねんにたゞ一次ひとたびなるに法利はりさいひと一次ひとたびたびして断食だんじきをなして額外さだめのほかいさをたてりとおもへり モーセ旧例ふるきおきてたゞ田産でんち家畜かひものこくさけあぶらおよびうしひつじたぐひごときは十分じふぶんいちさゝげりそのもちひずとせり〔申命記十四章十三節〕 法利はりさいひと薄荷はくか茴香ういきやうきんすべてるものはみなそなへたれば〔馬太二十三章二十三節〕また定額さだめほかいさをたてりとせり 當時そのかみ法利はりさいひといのりすそのこころおの他人たにん欠負おひめなくてんにも欠負おひめなし しかるにてんかへつおのれ欠負おひめありてん善報よきむくひあたへたまふこそもとその応分おふぶんなりとそのいのりことばにもはんおのれつみみとめかみ恩赦めぐみもとむるなし ただおのれぜんてんひとまへあらはせり 患者びやうにんやまひかくし人にらるゝをおそれやまひのなきやうす医者いしゃ診察しんさつせしむるがごと法利はりさいひと祈祷いのりまことこれことならず かの税吏みつぎとりいのりこれおほひおなじからずはるかたちあげてんをもあほがずみづか罪悪ざいあくふかきてんに対しがたしとおもへり 旧約書きうやくしょわれかみわれはづるをしりあふぎそはおほくつみてんはびこりほとんどいただきほろぼすいたれり〔以士喇書エズラしょ九章六節〕といふがごとし また税吏みつぎとりみづかむねうちおのれつみのがれがたきをしり痛恨かなしみたへずしていわかみ罪人ざいにんなるわれあわれたまへと自己おのれつみありにんは知らざれども自己おのれこれしることもつとまことなりゆへ一心いつしんかみゆるしもとかみあはれみこへりその祈祷いのりことば香烟かほりてんのぼるがごとまことかみよろこびうけたまふことをたり 法利はりさい祈祷いのりけむりかぜ吹返ふきかへされてたかのぼるを自己おのれ迷矇かくすごとし 二人ふたりとも殿みやよりかへ法利はりさいもとむることなければまたうることもなし 税吏みつぎとりいのりてん允凖ゆるしこころうち安慰やすきおぼゆべし ゆへイエス此人このひといへかへりなばかれくらぶればとなへらるべしといひたまへり のちまたおよみづかたかぶるものはさげられみづかくだるものはあげらるといひたまへり ただこの二人ふたりものをのみしかりとせずすべてのひとまた如此かくのごとくならざるはなし しからわれ信者しんじゃつねみづかつゝしいのりのぞみて自己おのれたのむべからず謙遜へりくだりこころつみみとてん允凖ゆるしべし てん卑微いやしきものを垂顧たすけたまひ驕傲ほこるものを遠斥とをくしりぞけたまへり もしてんたいするときやゝみずからほこるにわたるときは便すなはち無益むやくしもべとなり祈祷いのりうまざるもまた徒然むなしかるべし