一 我は爾の主神なり我の外に何物をも神と為す勿れ
二 偶像及び凡そ上は天にある者下は地にある者並に地の下にある者並に地の下の水の中にある者の何の形状をも造揑る勿れこれを拝む勿れ
三 爾の主神の名を妄に口に称ふる勿れ
四 「スボタ」の日(安息日)を憶えて之を聖とすべし六日の間は労きて爾が一切の業を為すべし第七日は爾の主神の「スボタ」の日なり
五 爾の父母を敬ふべし福祥爾に臨みて地に長寿を得ん
六 人を殺す勿れ
七 淫を行ふ勿れ
八 偸盗する勿れ
九 妄證する勿れ
十 隣人の妻及び其僕婢牛驢等並に凡て隣人の物を貪る勿れ
問 此十誡は誰が誰に授けられしものなりや
答 此十誡はイヅライリの民がエギペトを遁れ出でてハナアンの地に旅行せし時シナイ山に於て神よりモイセイに授けられしものなり
問 最初此十誡は何に記されしや
答 二つの石板に記されたり而て一つの石版には初めの四か條が記され其中には神に対するの本分を命ぜられたり又他の石版には外の六か條が記され其中には人に対するの本分を命ぜられたり
問 十誡の第一か條は如何に唱へらるるや
答 『我は爾の主神なり我の外に何物をも神と為す勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 神を認めて神を敬ふこと即ち神を信じ神を望み神を愛し神の聖旨に従ひ神に祈り及び独一の神を拝む外に他の神を拝むことを禁じ給ふ
問 真の神を認むるの最も善き便りは何なりや
答 教書を読むことなり
問 我等は神の使及び諸聖人を如何様に尊むべきや
答 我等が彼等を尊むは神に於けるが如くするに非ず唯だ我等よりも猶一層神に近き者として尊み又我等の為に神の惠を代り求むる者として祈るなり
問 此誡を破るの罪は何なりや
答 独一の真の神を拝まずして多くの邪なる神を拝み真の歌を傷けて偽なる教を立て(異端者)真の教会に背き離れ(岐教者)卜筮呪詛を信じ神の行為にあらざることを妄りに神の行為なりと信じ神の誡を学ぶことを怠り神に依頼せずして却て人に依頼すること等なり
問 十誡の第二か條は如何に唱へらるるや
答 『偶像及び凡そ上は天にある者下は地にある者並に地の下にある者並に地の下の水の中にある者の何の形状をも造揑る勿れこれを拝む勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 偶像即ち虚妄なる神仏の像を拝むことを禁じ給ふ
問 世の異教人等は如何なるものを神として拝むや
答 天に在るものにては太陽月星の如きもの地にあるものにては禽獣草木の如きもの水中に在るものにては魚介昆蟲の如きもの等なり
問 聖像を拝むは此誡を破るものに非ざるや
答 此誡を破るものに非ず如何となれば我等が聖像を拝むは聖像其物を拝むに非ずして其中に画かれたる神を拝むが為なればなり
問 十誡の第三か條は如何に唱へらるるや
答 『爾の主神の名を妄に口に称ふる勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 軽々しく神の名を呼ぶことを禁じ給ふ即ち談笑の時に神の名を呼び又は徒に誓を為し或は偽りて誓を為す等なり
問 然らば如何なる時神の名を称ふべきや
答 祈祷の時教話を為す時誓を為す時に称ふべし且つ之を称ふる時は畏と敬とを以てすべし
問 十誡の第四か條は如何に唱へらるるや
答 『スボタの日を憶えて之を聖とすべし六日の間は労きて爾が一切の業を為すべし第七日は爾の主神のスボタの日なり』
問 神は此誡を以て如何なることを命じ給ふや
答 一週間の内六日の間は己の職業を営み第七日には職業を休みて専ら心を神に向くることを命じ給ふ即ち其日は聖堂に詣りて祈祷を為し家に在りては教書を読み又慈善の行ひを為す等のことを命じ給ふ
問 一週間中の如何なる日を聖日と立てられしや
答 旧約に於ては神が世界を造り終りて休み給ひしスボタの日を聖日と立てられしが新約に至りハリストス復活り給ひし時よりして其復活の日を「スボタ」の日に替へて聖日と立てられたり
問 主の復活り給ひし日の外に聖日と立てられし日はなきや
答 有り第一主の祭日例令ば主降誕祭(一月六日)主洗禮祭(一月十八日)第二聖母の祭日例令ば聖母誕生祭(九月廿日)聖母福音祭(四月六日)第三諸聖人の祭日例令ば前駆約翰致命祭(九月十日)使徒の長座彼得保羅記憶祭(七月十一日)等なり
問 其外如何なることを此誡のうちに命ぜらるるや
答 教会にて定められたる精進日を守ることを命ぜらる
問 教会にて如何なる精進日を定められしや
答 第一大精進と名けらるる四十日の精進なり此精進は我等の主イイスス ハリストスが曠野に於て四十日の断食せられしことに法りて立てられしものにて主の復活祭を迎ふるの備へを為すがためたり
- 第二主の降誕祭前の精進即ち一名ヒリップの精進と名づけらるるものなり(十一月二十七日即ち)聖使徒ヒリップの記念日より始まりて翌年一月六日の降誕祭まで続く)
- 第三聖母就眠祭前の精進なり(八月十三日より同月二十七日まで)
- 第四彼得保羅記憶祭の精進なり(至聖三者祭後一週間を経て始まり七月十一日までに至る故に此精進の日数は総て主の復活祭の都合によりて長短の相違あり)
- 右の外一日の精進或は単に精進日と名づけらるるものあり左の如し
- 第一挙栄聖架祭(九月六日)
- 第二前駆約翰致命祭(九月十日)
- 第三割禮祭(一月十三日)
- 第四各週間の水曜日金曜日
問 何故に水曜日金曜日の両日に精進を為すや
答 水曜日に於てするは我等の主イイスス ハリストスが悪人の手に解され給ひしを記憶するが為め又金曜日に於てするは其苦と死とを記憶するが為なり
問 此誡を破るの罪は何なりや
答 職業をも勉めずして空しく懶惰放埓に日を送り聖日祭日等に信徒たるの行を為さず又精進をも守らざる等なり
問 十誡の第五か條は如何に唱へらるるや
答 『爾の父母を敬ふべし福祥爾に臨みて地に長寿を得ん』
問 神は此誡を以て如何なることを命じ給へり
答 己の父母を敬ふことを命じ給ふ
問 父母を敬ふとは如何なることなりや
答 能く父母の命に従ひ常に孝養怠らず殊に病気及び老後には大切に世話を為し且つ其霊の救はるることをも神に祈るべきを云ふなり
問 此誡は両親を敬ふことの外に如何なるものを敬ふことを命じ給ふや
答 或る場合に於て我等の父母を代表する所の人々を敬ふことを命じ給ふ例令ば国王牧師有司恩人年長者等なり
問 右の人々のうち殊に誰を敬ふべきや
答 国王なり如何となれば彼は萬民の父神の傅膏者なればなり故に使徒ペートルは『神を畏れ王を敬ふべし』〔彼前七の十〕と教へ又我等の主イイスス ハリストスは『ケサリの物はケサリに帰すべし』〔太二十二の二十一〕と宣へり
問 臣民たる者の国王に対して尽すべきの本分は何なりや
答 国王の命に服し国王の為に祈り国王より立てられたる百官有司の権に従ひ国法の諸税を正しく納め国家の為め勇みて軍役に服する等なり
問 国王に対する本分を破りて罪を犯す者は如何に見做さるるや
答 斯る者は啻に国王の前に罪を犯せしのみならず亦神の前にも罪を犯せし者なり如何となれば使徒パエルの言に『盖神より出ざる権なく凡そ有るところの権は神の立たまふ所なれば也是故に権に悖ふ者は神の定に逆くなり』〔羅十三の一至二〕と云ふに依る
問 十誡の第六か條は如何に唱へらるるや
答 『人を殺す勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 人を殺すこと即ち人の生命を害ふことを禁じ給ふ
問 法律に依りて罪人を死刑に処し又は戦争の時に敵を殺す等は矢張り罪なりや
答 是等は罪にあらず如何となれば罪人を死刑に処するは彼が行ふ処の悪業を絶たんが為にして又戦争の時敵を殺すは国王及び生国を敵の侵略より防ぎ護るが為なればなり
問 其他此誡を以て如何なる罪を禁じ給ふや
答 種々の関係を以て殺人の罪に與みすることを禁じ給ふ例令ば教唆を以て商議を以て幇助を以て同意を以て之を為すこと及び其他総て他人の生命を害し傷ふことを禁じ給ふ例令ば憤怒を以て憎悪を以て喧嘩を以て為す等の類なり又此誡にては語或は行を以て他人を不信にい誘ふことをも禁じ給ふ是等は霊魂上の殺人と名づけらる
問 此誡を守るの心得は何なりや
答 何人の生命をも保護し総て他人に対し親切を為すことなり
問 十誡の第七か條は如何に唱へらるるや
答 『淫を行ふ勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 邪淫即ち男女の間の不義を禁じ給ふ且つ総て邪淫の罪に導く所の悪しき行為をも亦禁じ給ふ例令ば暴飲暴食すること猥褻なる唄を歌ふこと風儀を害する書物を読むこと等なり
問 此誡を守るの心得は何なりや
答 夫婦互に節操を守り又他人に対して貞潔なることなり
問 十誡の第八か條は如何に唱へらるるや
答 『偸盗する勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 偸盗すること即ち其方法の如何に拘はらず不正なる手段を以て他人の所有物を我所有と為すことを禁じ給ふ例令ば窃盗すること強盗すること人を使役して其賃金を払はざること又は賃銭を請取りて其業を果さざること詐偽を以て他人の財産を掠むること善き品物に代へて悪き品物を売ること不正なる度量衡を用ひて不正直なる商売を為す等なり
問 此誡を守るの心得は何なりや
答 怠らず能く働き他人の財を貪らず慈悲深くして律儀正直なることを命ぜらる
問 十誡の第九か條は如何に唱へらるるや
答 『妄證する勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 偽りの證を立つること及び総て偽りを云ふことを禁じ給ふ例令ば裁判に於て偽りの證拠を為すこと讒言すること誣ゆること譏ること悪ざまに吹聴すること嘲ること等なり
問 誓を為して偽りの證を立つるは如何なる罪なりや
答 是れ第九の誡と第三の誡を破る者にして其罪最も重し
問 此誡を守るの心得は何なりや
答 常に義きを言ひ『舌を禁へて悪を言はず唇を緘て詭譎を言はざらんことをせよ』〔彼前三の十〕
問 十誡の第十か條は如何に唱へらるるや
答 『隣人の妻及び其僕婢牛驢等並に凡て隣人の物を貪る勿れ』
問 神は此誡を以て如何なることを禁じ給ふや
答 他人に対し唯だ悪きことを行ふことのみならず少しにても其心に悪きことを行はんとする思と望を起すことをも禁じ給ふ
問 此誡を破るの罪は何なりや
答 嫉妬姦淫貪婪なり
問 此誡を守るの心得は何なりや
答 我等は神の授け給ひし分限を以て満足し又他人に対しては親切を行ふべきことなり
- 十誡は信経と同じく祈祷の文にはあらず然れども信徒たる者は能く之を心に記し此誡に照らして其行を矯正すべし若し一日中此誡を破らざりし時は其恩を神に感謝すべし又此誡を破りし時は真実其罪を懺悔して以後再び之を破らざることを奴むべし
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