鐵道震害調査書/第一編/第三章/第二節/四
四 熱海線酒勾川橋梁
構造概要 (附圖第五十八參照) 本橋梁は鴨宮小田原間國府津起點2哩53鎖27節,酒勾川に架設せるものにして大正九年十月の竣工に係り國府津方に徑間60呎の單線用上路鈑桁8個を竝列して4徑間を塞ぎ,これに續て徑間150呎複線用ワーレン型構桁8連を架し又小田原方には徑間60呎の單線用上路鈑桁單列12連を架し全長2,323呎10吋,線路方向南55度30分西なり。橋桁材料は鋼にして,設計荷重は構桁に對してはE45,鈑桁に對してはE33なり。
架橋地點の附近は平野にして河床は砂利層より成り,從て基礎は國府津方の橋臺及びこれに續く4橋脚に對しては杭打混凝土工なれども,小田原方の橋臺及びこれに相隣接する12基の橋脚に對しては單なる混凝土工に止まれり。又構桁用橋脚の基礎は鐵筋混凝土井筒工2個より成る。
基礎の深は國府津方橋臺は25.5呎,橋脚第一號及び第二號は22.5呎,第三號及び第十二號乃至第十五號は21呎,第四號乃至第十一號は25呎,第十六號乃至第十八號は18呎,第十九號乃至第二十三號は16呎にして,小田原方橋臺は10呎なり。
橋臺及び橋脚の軀體は混凝土工にして表面に粗石張を施したり。尙これ等各部の寸法は附圖第五十八に示すが如し。而して混凝土の調合はセメント1,砂3,砂利6なるも,桁座のみはセメント1,砂2,砂利4の割合なり。
被害狀況 (附圖第五十八並に寫眞第二百五十六乃至第二百六十二參照) 兩橋臺竝に鈑桁及びこれに對する橋脚には被害として認むべきものなく,唯袖石垣の一部崩壞せるのみなり。
構桁に在りては第一號構桁は第五號橋脚上に於てその座(可動端)を外るゝこと川下側へ8呎に及べるもその端床桁は第五號橋脚の川下側のものに支へられ辛うじて墜落を免れたり。
第二號構桁は川下に移動して橋脚を全然脫出せしため,桁は墜落して頭部を上流に向けて橫たはれり。
第三號構桁は第六號橋脚上に於てその固定端沓の原位置を外るゝこと川下側へ4.5呎,國府津方へ1呎に及べり。第七號橋脚上に於けるその左右桁端は國府津方へ約9吋及び1呎3吋變位せり。
第四號構桁の左右桁端は第七號橋脚上固定端に於て川下側へ約8吋,國府津方へ約1呎2吋及び10吋移動し,第八號橋脚上可動端に於て川下側へ約1呎8吋,國府津方へ約6吋及び1呎2吋移動せり。
第五號乃至第八號構桁は何れも多少の變位をなし,その左右桁端は線路と直角なる方向に0吋乃至1呎3吋,國府津方に2吋乃至1呎の移動をなせり。
尙移動の詳細は附圖第五十八に示せるも,これ等桁端の移動は橋脚桁坐に對照して概測せしものなるを以て數値に多少一致を缺くところあるを免れず。
構桁は上記の如く大變位をなしたれどもこれに對する橋脚は殆ど被害なく,唯桁端の移動せるがために桁座面及びアンカー・ボールトの損傷せるに過ぎず。
應急工事 應急工事に着手せるは大正十二年九月十九日にして,先づ第一號構桁を橋脚上の原位置に假復舊をなし,又上流に橫顚したる第二號構桁に代ふるに40呎鈑桁2連及び60呎鈑桁1連を以てし,十月十五日試運轉を行へり。
尙大正十三年一月二十二日より墜落せる第二號構桁の解體引上げに着手し,修繕の後原位置に復舊架設し,又他の7構桁も位置を修正して十三年八月七日一切の復舊工事を終りたり。