臺南市讀本
はしがき
編集正しく鄉土を認識するといふことは正しい鄉土愛の精神からしてゐる。
臺灣での鄉土愛は特に正しいといふ立場に立たねばならな。
この正しい鄉土愛の精神を兒童の心に傳へ將來のよき市民たらしめ、又、この土地に足を運ぶ人々へも貧弱ではあれ、臺南市の今昔の姿を知つていたゞきたいと思ふ心より、多方面の援助によつて鄉土讀本刊行に手をつけたわけである。
然し、其の結果を反省する時不充分な点が少くない。いづれ年を追つて改訂增補してゆく積りではあるが、とまれ、手をこまねいて何十年待てど生れざるをこまねかで、當然生れてあるべきものにおくればせながら手をつけたまでにしか過ぎない。
しかし、貧弱なこの中がらやみがたいこの心をくんでいたゞければ幸である。
また、この臺南は臺灣文化の誕生の地であるといふことだけでなく、日に新なる躍進の臺南が如何に人々の日々の生活に幸福の光を投げこんでゐるかといふことにも抱くべき心を抱かきねはならない。
人々はよく足もとの花の美しさに目を留めることを忘れ、他のみを美しいものと眺める癖を持つてはゐないであらうか。
市民として抱くべき心を抱いて欲しい。又抱かせたい。
更に臺灣文化の種子は領臺に先だつてよい發芽をみることが出來たらうかに考へ及ぼしたい。かりにも發芽はあつたにせよ、成育のよきを見ずして枯死したのではなからうか。臺灣文化完全な發芽と、永久の成育は四十年前からのことである。暗黑の數百年から光明の永久に臺灣を展開せしめたものを考へねばならぬ。
それは、總て、皇恩に他ならない。
それは、皇國日本の精神と力に他ならない。
これが臺灣の正しいといふ立場からの愛鄉心であらう。
小公學校の皆さんへ
編集學校で日本の歷史や地理を教はりますが、それは日本の國がらや國の樣子を知るだけであつてはなりますまい。知ると一しよに愛國の心を湧き起さねばならない。言ひかへると愛國の心を更に強くするために日本の歷史や地理を學んでゐるのです。
國を愛する心を更に強くするためには先づ國を知らねばなりません。
この私達の臺南市を愛する心を更に強くするためには臺南市をよく知らねばなりません。臺南市を愛することは日本の國を愛することになりませう。
私は臺南市を愛してもらふため、國を愛していたゞきたいために、この本を書きました。そうした氣持でお讀みで下さい。童話のやうに面白いものでないかも知れませんが、きつと何かを得ると思ひます。一頁を讀む每に臺南市をより知つていたゞけると思ひます。卽ち一頁讀むごとに愛國の心が湧いたことになりませう。
愛國といふ言葉を口にすることは易しいことでせうが、實際行ふことになるとそんなに易しいものではありません。
かたらばかりの愛國ではなく心からの愛國であつてほしいと思ふのです。
總てを覺えることがむづかしいとしても、調べたい時、調べられるだけにでもこの本を利用して下さい。
ではよくお讀み下さることを待つて。
臺南市讀本目次
編集はしがき
- 一 臺南をたゝへる歌
- 二 臺南市
- 三 臺南市の昔から今へ
- 四 八幡船
- 五 臺灣
- 六 伸びる臺南
- 七 新しい町名
- 八 臺南の四季
- 九 州廳
- 十 昔の安平
- 十一 市役所
- 十二 法院
- 十三 警察署
- 十四 刑務所
- 十五 北白川宮殿下と臺南御入城
- 十六 臺南御遺跡所
- 十七 臺南神社
- 十八 鄭成功
- 十九 鄭成功の逝去と開山神社
- 二十 寺廟めぐり
- 二十一 牧場
- 二十二 墓どころ
- 二十三 五妃廟から汐見が丘へ
- 二十四 開元寺まうで
- 二十五 學校
- 二十六 市民の教室
- 二十七 方面委員
- 二十八 臺南水道
- 二十九 病院
- 三十 市場
- 三十一 臺南の玄關
- 三十二 郵便局
- 三十三 電信と電話
- 三十四 並木と道路と綠園
- 三十五 運河
- 三十六 果物
- 三十七 「トマト」事業
- 三十八 カストル會社(現臺灣油脂工業株式會社)
- 三十九 消防組
- 四十 公園
- 四十一 糖業試驗所
- 四十二 農業試驗場‧種畜場‧藥品試驗場‧產業館
- 四十三 安平御遺跡
- 四十四 製麻會社
- 四十五 濱田彌兵衛
- 四十六 臺灣織布株式會社
- 四十七 塩
- 四十八 魚塭
- 四十九 銀行
- 五十 臺南府城
- 五十一 購買組合
- 五十二 信用組合
- 五十三 ゼーランヂャ城
- 五十四 建築組合
- 五十五 會社‧商店‧早めぐり
- 五十六 億載金城
- 五十七 赤崁城
- 五十八 赤崁樓
- 五十九 臺南の名所舊跡をたづねて
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