聖詠講話中編/第百二十一聖詠講話

第百二十一聖詠講話 編集

人我ひとわれむかひて、われしゅいへかんとときわれよろこべり〔一節〕。


。 しかるにいまおほくの人々ひとびとかか招待しょうたいくるもまんなりしならん。何人なんびと競馬けいばじょうあるいほうものかんと招待しょうたいするときこれおうずる人々ひとびとおほかれど、とういへくことをおこたらざるはけだしすくなし。しかれどもイウデヤじんにはかくごとくにてはあらざりき。『ハリスティアニン』にしてイウデヤじんよりも分別ふんべつなるときなにものかこれまさかなしきことあらん。何故なにゆえかれくのごとものとなりしか。われ重複ぢゅうふくしてはん、かれとらはれによりて、善良ぜんりょうなるものとなれりと。ぜんには聖堂せいどう蔑視べっししおよび、神聖しんせいなることばくことを蔑視べっししてこれけ、やまおよ森林しんりんきておほいなるけんふけりしものも、いま妄信もうしんたいする執着しゅうぢゃくて、よろこびてこの招待しょうたい注意ちゅういし、ふんしてその心内しんないおいかんするにいたれり。かれかつくるしめり『これぱんとぼしきにあらず、みづかはくにあらず、しゅことばくことのきんなり』〔アモス書八の十一〕。かれかかばつけ、おほいなるぼうもつぜんはなれしことにすすむなり。かれシオンばんいだきて『なんぢ諸僕しょぼく其石そのいしをもあいし、其塵そのちりをもをしめばなり』〔聖詠百一の十五〕といひ、また〔『〕われいづれときにかいたりてかみかんばせまへでん』〔同上四十一の三〕といひ、またわれイオルダンよりエルモンよりやまより〈正教訳のには「ツォアルの山より」とあり〉なんぢおくす』〔同上四十一の七〕といひ、またわれこれおくして、たましひそそぐ』〔同上四十一の五〕といへり。われげよ、『なんぢなにおくしたるか』。『われかつ大衆たいしううちかみいへれり』〔同上四十一の五すなはわれこれ人々ひとびとこのおごそかなる集会しゅうかいこのほういたらんとなり。

イエルサリムよ、われあしなんぢもんうちてり』〔二節〕。なんぢじょうなるよろこびるか。かれあたかのぞむべきことをけてその招待しょうたいたのしみ、だいなるあいもつとういへおよまちめぐれり。

かみつねおこなたまふなり。吾人われら幸福こうふくけてこれかんぜざれば、かみ吾人われらよりこれうばたまはん、けながらこれかんぜざりしことを、うばひてこれかんぜしめんためなり。かれまた聖堂せいどうめぐり、まちめぐりつゝかれ生国しょうこくかへせしがためおほいかみ感謝かんしゃしつゝおなじくおこなへり。

イエルサリム稠密ちうみつ城邑まちごとくにきづかれ』〔三節〕。訳者やくしゃればわれ城邑まちごとくに建造つくられたるイエルサリムかへれり』とありて、とらはれしのち事件ことがらしめせり。とうぜんかいされていた荒敗こうはいし、高塔こうとう衝倒つきたふされ墻壁しょうへきかいされただ生国しょうこく旧墟ふるあとそんしたるがゆえに、いまかへきたれるイウデヤじん荒敗こうはいそのぜん幸福こうふくなりしをそうし、さん美歌びかうたひて、かつ聖堂せいどうあり、首長しゅちょうあり、おうさいちょうとをゆうし、秀麗しゅうれいぜつにして繁栄はんえいなりし城邑まちが、くのごと憫然あはれなる状態じょうたいへんじたりしことを追想ついそうせるなり。しかうしてこれれいなりしことはイエルサリム城邑まちごとくにきづかれ』てふことばによりてるべし、とうイエルサリムいま城邑まちたらざりしなり。また此事このこと預言者よげんしゃ稠密ちうみつの』附加つけくはへしことばによりてもゆ。ここ豫言者よげんしゃイウデヤじんとらはれしぜんおいイエルサリム建築たてもの堅固けんご稠密ちうみつにして連接れんせつしたること、市中しちゅう空所くうしょなく、すべてのしょ間隙かんげきなく密接みつせつしておく建造けんぞうされしことをふなり。れば訳者やくしゃこれあらはしつゝ接続せつぞくするところの』イエルサリムといへり。つぎ豫言者よげんしゃさんをもイエルサリムあらはせり。

しょ支派しはすなはちしゅ支派しはイズライリはふしたがひて、のぼりてしゅ讃栄さんえいするところなり』〔四節〕。壮麗そうれい建築けんちくとがまちかざりしよりも人民じんみんあるい教会きょうかい集会しゅうかいまた何事なにごとかにきてもんあらはるゝところすべての人民じんみん群集ぐんしゅうしてことまちかざれり。ここには聖堂せいどうあり、すべての奉神礼ほうしんれいおこなはれ、さいあり、レウィトあり、おう宮殿きゅうでんもあり、かづくべからざる場所ばしょ〈至聖所〉あり、前門ぜんもんあり、せいあり、祭壇さいだんあり、諸祭日しょさいじつあり、祝典しゅくてんあり、とうあり、読物よみものもありき、一言いちげんにてへば、ここには社会しゃかいしきするすべての実質じっしつあつめられたるがゆえに、しょ支派しはこと一年いちねんたびすなはちパスハさい、五じゅんせつおよ天幕祭てんまくさいには集合しゅうごうせざるべからざりき、なんとなればこれのことはところおいゆるされざりしにる。是故このゆえ豫言者よげんしゃまちさんしてしょ支派しはのぼりて』といへり。訳者やくしゃ其処そこ帝笏ていこつのぼる』といへり。たん支派しははずしてしゅ支派しはといへり。しょ支派しはしゅぞくしたれども、かれにはこれのことをおのれ生国しょうこくおいおこなふことをゆるされざりき、かかめい衆人しゅうじんあつめ及びひきけしかいはされしなり。


。 これのことをイエルサリムおいおこなふことをさだめられしはイウデヤじん敬虔けいけん保護ほごする目的もくてきにして、ほう彷徨さまよひしイウデヤじん偶像ぐうぞう崇拝すうはいいた発端ほったんみちとをゆうせざらしめんためなり。ればかみ彼処かしこおいせいささげ、彼処かしこおいとうし、彼処かしこおい祭典さいてんおこなふことをめいじ、けんかたむけるかれそう抑制よくせいし、これ制限せいげんせんとほつしてしょかぎれり。預言者よげんしゃまたしゅ支派しはイズライリはふてふことばもつ此事このことあらはせり。『イズライリはふ』とは何事なにごと意味いみするか。だいなるかみ照管しょうかん証明しょうめい憑拠ひょうきょごう意味いみするものにして、かれもしそむきて偶像ぐうぞうまよひ、これこころかたむくるときは如何いかなる弁解べんかいをもなすことをざるなり。これかみ照管しょうかん能力のうりょくおよえいだいなる証明しょうめいなり。いにしへだいけん報告ほうこく物語ものがたりふくめる律法りっぽう彼処かしこおいまれたり。かれ彼処かしこおいたがひ相迎あひむかへつゝあいもつがつせられき、彼処かしこおこなはれし祭典さいてんかれためあひたがひ交際こうさい発端ほつたんとなり、かいとなれりかみの〉おそれつよまり、敬虔けいけんし、すうおほくの幸福こうふくイウデヤじん此市このまちあつまりしよりしょうじたり。しゅ讃栄さんえいす』とは、感謝かんしゃし、奉神礼ほうしんれいおこなひ、とうし、供物そなへもの犠牲いけにへとをけんずることにして、此事このことかれ敬虔けいけんみちび社会しゃかい秩序ちつじょ一層いつそうけんなるものとなせり。


彼処かしこ審判しんぱんほうダウィドいへほうつ』〔五節〕。まち特点とくてんをも。如何いかなる特点とくてんなるか。彼処かしこおう宮殿きゅうでんのあることなり。彼処かしこ審判しんぱんほうダウィドいへほうつ』てふことばすなはれをしめすなり。訳者やくしゃダウィドいへの』〔訳者不明〕となす。さいおよおうぢう権勢けんせい彼処かしこおいひとつにがつせられたり、すなはまちばい装飾そうしょく栄冠えいかんおよ王冠おうかんもつかざられたり。彼処かしこにはひとしきまさこと判断はんだんする裁判官さいばんかんありき。まちおいもんおこときイエルサリム裁判官さいばんかん上告じょうこくせしめてその決定けつていけたり。いにしへおいてはくありき、しかるにいますべては憫然あはれなる状態じょうたいにありき、全然ぜんぜんたる荒敗こうはいかいきょただぜんさいはひなりし状態じょうたいあんおくせしむる憫然びんぜんたる建築けんちくぶつわづかにそんするあるのみ。れば預言者よげんしゃこのあいなるおくもつおのれせつかぎらずよろこばしきぼうおこさしめてイエルサリムため平安へいあんもとめよ』〔六節〕といへり。このことばなに意味いみするか。換言かんげんすれば、へよ、要求ようきゅうせよとなり。訳者やくしゃイエルサリム安問あんもんせよ』〔シムマフ〕といへり、すなはイエルサリムぜんさいはひなりし状態じょうたいかへり、かい戦争せんそうよりすくはれ、をはりに幸福こうふくけんことをいのれよとなり。あるいかれ預言者よげんしゃこれあるいげんするなり。イエルサリムため平安へいあんもとめよ』とは平安へいあんかれあたへられんとなり。またなんぢあいするものゆたかならん』訳者やくしゃ平安へいあんならん』〔シムマフ〕といひ、第三だいさん訳者やくしゃねがはくはなんぢあいするもの安寧あんねいん』〔訳者不明〕といへり。ここ安寧あんねいただ城邑まちにのみかぎらずこれあいするものかへつぜんにありしがごと幸福こうふくたのしむはその安寧あんねいだいなるものなり。とうかれねたかれ攻撃こうげきせしものことつよく、ものよりもつよ光栄こうえいにしてよう勝利しょうりたり。しかれどもいまなんぢあいするものだいなる安全あんぜんうちにあり、なんぢとも保護ほごせられん。ここ預言者よげんしゃあるいかれたすくるもの意味いみし、あるいみん其者そのもの意味いみするなり。


ねがはくは平安へいあんなんぢちからうちにあらん』〔七節〕〈正教会訳のには『願くは爾の城の中は平安』とあり〉訳者やくしゃなんぢ保護ほごうちにあらん』〔訳者不明〕となし、だい三の訳者やくしゃなんぢ近辺ほとりにあらん』〔シムマフ〕となす。なんぢちからうちにあらん』とはなに意味いみするか。なんぢふところうちなんぢ住人ぢうにんうちに、なんぢ幸福こうふくうちにあるを意味いみするなり。戦争せんそう破壊はかいてきにしてイエルサリムほろぼしたるがゆえに、預言者よげんしゃイエルサリムたいして平安へいあんぼうするなり。なんぢみやうち安寧あんねいならん』ただ艱難かんなんよりすくはるゝのみならず、すう幸福こうふくくることすなはその平安へいあん安寧あんねい富裕ふうゆうとをくることをかれげんするなり。艱難かんなん貧窮ひんきう飢餓きがうち生活せいかつせば平安へいあんより如何いかなるえきあらんや。また戦争せんそうあらば安寧あんねいより如何いかなるえきあらんや。れば預言者よげんしゃイウデヤじんかれこれとの幸福こうふくすなは富裕ふうゆううちにあることをも安寧あんねい平安へいあんうちおい幸福こうふくくることをもこくするなり。兄弟けいていとなりために』あるいかれ亡滅ぼうめつよろこびしとなり意味いみし、それ人々ひとびと温柔おんじゅうとなりてかみ能力のうりょくらんよう平安へいあんきていのり、あるい城邑まち住居ぢゅうきょせし兄弟けいていきてふなり。れば。兄弟けいていとなりために』ねがはくは平安へいあんなれ、なんぢが、おそくとも艱難かんなんによりて善良ぜんりょうなるものとなりてやすんぜんためなり。


ふ、なんぢ平安へいあんなれ。しゅかみいへためわれなんぢさいはひねがふ』〔九節〕。預言者よげんしゃは。兄弟けいていとなりために』といひ、およかれ此事このこときていのるはかれ功徳こうとくためにあらず、すなはかみ益々ますますかれさいはひたまはんよういのることをしめしてしゅかみいへために』附加つけくはへたり、すなはわれかみ光栄こうえいため奉神礼ほうしんれいおこすがためおほいかみおしへ弘布ひろむるがために、平安へいあんのぞむのなり。あるイウデヤじん囚擄とらはれうちうまれたるも、或者あるもの囚擄とりことなりてかれおよきょうかへりしとき証者しょうしゃたりき。囚擄とらはれうちうまれたるイウデヤじんかつ奉神礼ほうしんれいおこなときにありしこと、かれきょうれいなりしことかれ幸福こうふくなりしこととうにつきては老人ろうじんよりきてこれれり。なんぢ預言者よげんしゃ如何いかかれ傲慢ごうまん謙遜けんそんにするをるか、かれ當然とうぜんばつけしがゆえ幸福こうふくけたるがごとおもはず、すなはかれをしてかみ光栄こうえいためおのれ生国しょうこくかへされしことをらしめんためおよこれりつゝぜんつみをかして同一どういつばつめざるよう注意ちゅういせしめんためなり。


吾人われらまたこれりてほろびざるようつとめん、ときとしてつみおちいりしことありとも、すみやかちてぜんつみをかさざるようつとめん、癱瘋者なんぷうしゃたいして『よ、えたり、またつみをかなかれ、うれひふことさらはなはだしからん』〔イオアン福音五の十四〕とはれたることばかざらんためなり。しかうしてしゅはれしは、吾々われわれ衆人しゅうじん光栄こうえい権柄けんぺい世々よよする吾人われらしゅイイスス ハリストス恩寵おんちょうじんとによりてくべきてん幸福こうふくともけんよう善行ぜんこうかたまもり、またつみゆるされしものをばその善良ぜんりょうなる改心かいしんぞくすべきことををしへんためなり。アミン。

参考 編集

第百二十一聖詠せいえい

1 ひとわれむかひて、われしゅいへかんとときわれよろこべり。
2 イエルサリムよ、われあしなんぢもんうちてり。
3 イエルサリム稠密ちうみつ城邑まちごとくにきづかれ、
4 しょ支派しはすなはちしゅ支派しはイズライリはふしたがひて、のぼりてしゅ讃栄さんえいするところなり。
5 彼処かしこ審判しんぱんほうダウィドいへほうつ。
6 イエルサリムため平安へいあんもとめよ、ねがはくはなんぢあいするもの安寧あんねいん。
7 ねがはくはなんぢしろうち平安へいあんなんぢみやうち安寧あんねいならん。
8 われ兄弟けいていとなりためふ、なんぢ平安へいあんなれ。
9 しゅかみいへためわれなんぢふくねがふ。


へん第122篇(文語訳旧約聖書)

1 ひとわれにむかひていざヱホバのいへにゆかんといへるときわれよろこべり
2 ヱルサレムよわれらのあしはなんぢのもんのうちにたてり
3 ヱルサレムよなんぢはしげくつらなりたるまちのごとくかたくたてり
4 もろもろのやからすなはちヤハの支派やからかしこにのぼりきたり イスラエルにむかひて證詞あかしをなし またヱホバのみなにかんしやをなす
5 彼處かしこにさばきの寳座みくらまうけらる これダビデのいへのみくらなり
6 ヱルサレムのために平安やすきをいのれ ヱルサレムをあいするものはさかゆべし
7 ねがはくはなんぢの石垣いしがきのうちに平安やすきあり なんぢの諸殿とのどののうちに福祉さいはひあらんことを
8 わが兄弟きやうだいのためわがとものために われいまなんぢのなかに平安やすきあれといはん
9 われらのかみヱホバのいへのためにわれなんぢの福祉さいはひをもとめん