第十一「カフィズマ」


第七十七聖詠 編集

アサフの教訓。

我が民よ、我が法を聴き、爾の耳を我が口の言葉に傾けよ。

我口を啓きて譬えを言い、古えよりの隠語を述べん。

我等が聞きし所、我が列祖が我等に伝えし所を、

其の子孫に隠さずして、主の光榮と其の権能と其の行いし奇迹とを後世に宣べん。

彼は証詞をイアコフの中に立て、律法をイズライリの中に置きて、我が列祖に之を其の諸子に伝えんことを命じたり、

将来の世、即生まれんとする諸子が此を識り、其の期に及びて之を亦其の諸子に伝へん爲、

彼等が己の望みを神に負わせ、神の作爲を忘れず、彼の誡めを守りて、

己の列祖、即頑固反逆の世、其の心修まらず、其の霊い神に忠ならざる者に效わざらん爲なり。

エフレムの諸子、武具を備え弓を挽く者は、戦いの日に退けり。

一〇彼等は神の約を守らず、其の法を行うを辭み、

一一其の作爲と其の顕しとを忘れたり。

一二神は奇迹とを後世彼等が列祖の目の前にエギペトの地に、イォアンの野に行えり、

一三海を分かちて彼等に此を過らしめ、水の壁の如く立てたり、

一四昼は雲を以て彼等を導き、終夜火の光を以て導けり、

一五石を野に裂き、彼等に飲ましめしこと大いなる淵よりするが如し、

一六磐より流れ出し、水は河の如く流れたり。

一七然れども彼等は仍其の前に罪を行い、至上者を野に慍らせたり。

一八心の中に神を試み、己の意に適する食を求めたり。

一九神を侮りて曰えり、神豈に筵を野に設くるを得んや、

二〇視よ、彼石を撃てば水出で、川流れたり、彼猶能く餅を与うるか、能く己の民に肉を備うるか。

二一主は之を聞きて怒りを発し、火はイアコフに燃え、怒りはイズライリに動けり、

二二其の神を信ぜず、彼の救いを恃まざりしに縁る。

二三彼は上なる雲に命じ、天の門を開き、

二四「マンナ」を雨らして彼等の食となし、天の糧を彼等に与えたり。

二五人は天使の糧を食らえり、神は食を遣わして彼等に飽かしめたり。

二六彼は東風を天に起こし、己の能力を以て南風を引き至らしめて、

二七彼等に肉を雨らすこと塵の如く、飛ぶ鳥を雨らすこと海の真砂の如し、

二八之を其の営中に、其の住所の四周に墜せり、

二九彼等は食らいて飽き足れり、神は彼等の願う所を予えたり。

三〇唯彼等の慾未だ去らず、食の尚其の口にある時、

三一神の怒りは彼等に臨みて、其の肥えたる者を戮し、イズライリの少き者をイトせり。

三二然れども彼等仍罪を犯し、其の奇迹を信ぜざりき。

三三故に神は彼等の日を空虚に、其の歳を惶擾に終えしめたり。

三四神が彼等を戮す時、彼等は神を尋ねて之に向かい、早朝より之に趨り附き、

三五神は彼等の避所、至上の神は彼等を援くる者なるを記憶し、

三六其の口を以て彼に諂い、其の舌を以て彼の前に偽れり、

三七唯其の心彼の前に正しからず、彼等は神の約に誠ならざりき。

三八然れども慈憐なる神は罪を赦して、彼等を滅ぼさず、屡々其の怒りを転じて、其の悉くの憤りを起こさざりき、

三九神は彼等が肉身にして、去りて返らざる気なるを記念せり。

四〇彼等は幾たびか彼を曠野に憂いしめ、彼を荒れ地に慍らせたり。

四一復新たに神を試み、イズライリの聖なる者を犯せり、

四二其の手、其の彼等を苦難より救いし日を憶わざりき、

四三即神は其の休徴をエギペトに、其の奇迹をツォアンの野に行いし日なり。

四四彼等の河と流れとを血に変じて、之を飲む能わざらしめたり。

四五虫を遣わして彼等を刺さしめ、蛙を遣わして彼等を害せしめたり。

四六彼等が地の産する所を螟蛉に与え、其の苦労を蝗に与えたり。

四七霰を以て彼等の葡萄を壞り、雹を以て其の無花果を壞れり。

四八彼等の家畜を霰に付し、其の牧群を稲妻に付せり。

四九彼等に己の怒りの焔、憤りと恨みと禍と、悪使者の群を遣わせり。

五〇己の怒りの爲に途を平かにし、彼等の霊を死より護らず、其の家畜を疫病に付せり。

五一凡そエギペトの首生の者、ハムの幕の力の始めなる者を撃てり。

五二是に於いて其の民を羊の如く引き、之を牧群の如く野に引けり、

五三安然に之を引きて、彼等懼るるなし、彼等の敵は海之を覆えり。

五四彼等を引きて其の聖なる界、即其の右の手の獲し所の此の山に至れり。

五五諸民を彼等の面より逐い、其の地を分ちて彼等の業となし、イズライリの支派を其の幕に居らしめたり。

五六然れども彼等は猶至上の神を試みて、之を憂いしめ、其の律を守らず、

五七彼等の先祖の如く離れて叛き、歪える弓の如く翻えれり。

五八崇邱を以て彼を憂いしめ、偶像を以て彼の嫉みを起こせり。

五九神聞きて怒りを発し、大いにイズライリを憤れり、

六〇シロムの住所、即彼が人々の間に居りし所の幕を棄て、

六一其の力を俘にせしめ、其の光榮を敵の手に与え、

六二其の民を剱に付し、其の業に怒りを発せり。

六三彼等の少者は、火之を噛み、彼等の処女は、人其の爲に婚姻の歌を歌わず、

六四彼等の司祭は剱にイトれ、彼等の寡婦は泣かざりき。

六五然れども主は寝ぬる者の覚むるが如く興き、英雄の酒に励まさるるが如く起ちて、

六六彼等の敵を後ろより撃ちて、永く之を辱しめたり。

六七又イオシフの幕を棄て、エフレムの支派を選ばず、

六八又イウダの支派、其の愛する所のシオン山を択べり。

六九其の聖所を建てしこと天の如く、永く此を固めしこと地の如し。

七〇其の僕ダワィドを選びて、之を羊の牢より取り、

七一乳を哺まする羊より牽き来りて、其の民イアコフ、其の業イズライリを牧せしめたり。

七二彼は浄き心を以て之を牧し、智なる手を以て之を導けり。

光榮讃詞

第七十八聖詠 編集

アサフの詠。

神よ、異邦人爾の業に入り、爾の聖殿を汚し、イエルサリムを廃墟となし、

爾が諸僕の屍を天の鳥に与えて食となし、爾が聖者の肉を地の獣に与え、

彼等の血を水の如くイエルサリムの四周に流せり、彼等を葬る者なかりき。

我等は我が隣りに笑われ、我等を環る者に侮られ、辱しめらるる者となれり。

主よ、爾息めずして怒り、爾が嫉みの火の如く燃ゆるは何れの時に至るか。

爾の怒りを爾を知らざる諸民、爾の名を呼ばざる諸国に注ぎ給え、

蓋彼等はイアコフを食い、其の住所を荒らせり。

我等に対いて我が先祖の罪を記憶する毋れ、願わくは爾の慈憐は速やかに我等を迎えん、我等甚だ衰えたればなり。

神、我等の救主よ、爾の名の光榮に因りて我等を助け給え、爾の名に因りて我等を救い、我等の罪を赦し給え。

一〇何爲れぞ異邦人は彼等の神はいずくに在ると云わん、願わくは爾の諸僕の流されし血に報ゆるは、異邦人我が目の前に於いて之を識らん。

一一願わくは囚人の嘆きは爾が顔の前に至らん、爾が臂の力を以て死に定められし者を護り給え。

一二主よ、我が隣が爾を謗りたる謗りは、之を七倍して其の懐に返し給え。

一三唯我等爾の民、爾が草苑の羊は永く爾を讃榮し、世々に爾の讃美を宣べん。

第七十九聖詠 編集

伶長に「ソサンニム、エドゥフ」の楽器を以て歌わしむ。アサフの詠。

イズライリの牧者よ、耳を傾けよ、イオシフを羊の如く導く者、ヘルワィムに坐する者よ、己を顕わせ。

エフレムとワェニアミンとマナシヤとの前に爾の力を興し、来たりて我等を救い給え。

神よ、我等を起こし給え、願わくは爾の顔は光り、我等は救われん。

主、萬軍の神よ、爾の民の祷を怒るは何れの時に至るか。

爾彼等に涙の餅を食わしめ、彼等に涙を飲ましめしこと甚だ多し。

爾我等を隣の争いの端となし、我が敵は我等を嘲る。

萬軍の神よ、我等を起こし給え、願わくは爾の顔は光り、我等は救われん。

爾はエギペトより葡萄の樹を移し、諸民を逐い出して之を植え付けたり、

一〇爾は之が爲に土を闢き、其の根を固めたり、彼は地に蔓れり。

一一其の蔭は諸山を蔽えり、其の枝は神の栢香木の如し、

一二彼は其の枝を海まで展ばし、其の芽を河まで展ばせり。

一三爾は何爲れぞ其の籬を毀ち、凡そ路を過ぐる者に之を摘ましむる。

一四林の豕は之を掘り、野の獣は之を食む。

一五萬軍の神よ、面を返し、天より臨み観て、斯の葡萄園に降り、

一六爾が右の手の植え付けし者と、爾が己の爲に定めし芽とを護り給え。

一七彼は已に火に焚かれ、已に伐られたり、爾が顔の恐嚇に因りて亡びん。

一八願わくは爾の手は爾が右の手の人の上、爾が己の爲に定めし人の子の上に在らん。

一九我等も爾より離れざらん、我等を生かし給え、然せば我等爾の名を呼ばん。

二〇主、萬軍の神よ、我等を起こし給え、願わくは爾の顔は光り、我等は救われん。

第八十聖詠 編集

伶長にゲフの楽器を以て歌わしむ。アサフの詠。

歓びて神、我等の防固に歌い、イアコフの神に呼べ、

歌を執り、鼓と佳琴と瑟とを与えよ、

喇叭を新月、即定まれる時、我が祭の日に吹け、

蓋是れイズライリの爲に法なり、イアコフの神よりする律なり。

神之をイオシフがエギペトの地より出ずる時に、彼の爲に証として立てたり。彼は彼處に在りて未だ知らざる舌の聲を聴けり、

云く、我其の肩より重荷を卸し、其の手を筐筥より免れしめたり。

患難の時爾我を呼びしに、我爾を救えり、我雷の中より爾に聆き、メリワの水の傍らにて爾を試みたり。

我が民よ、聴け、我爾に証せん、嗚呼イズライリよ、願わくは爾我に聴かん。

一〇爾に他の神あるべからず、異邦の神を拝む毋れ。

一一我は主、爾の神、爾をエギペトの地より引き出しし者なり、爾の口を開け、我之を満てん。

一二然れども我が民は我が聲を聴かず、イズライリは我に従わざりき、

一三故に我彼等を其の心の剛腹に任せ、其の謀に循いて行くを免せり。

一四嗚呼若し我が民我に聴き、イズライリ我が途を行かば、

一五則我速やかに彼等の敵を抑え、我が手を彼等を攻むる者に転ぜん、

一六主を憎む者は彼等に服事し、彼等の安寧は永く続かん、

一七我嘉麦を以て彼等を養い、蜜を磐より出して彼等を飽かしめん。

光榮讃詞

第八十一聖詠 編集

アサフの詠。

神は諸神の會に立ち、諸神の中に裁判を行えり、

爾等義を以て裁判せず、悪者の意を邀うること何れの時に至るか。

貧しき者と孤児の爲に裁判を行え、窘しめらるる者と乏しき者に義を施せ、

乏しき者と貧しき者を扶け、之を悪者の手より抜け。

彼等は知らず、悟らずして、闇冥を行く、地の基皆震う。

我曰えり、爾等神なり、爾等皆至上者の子なり、

然れども爾等人の如く死し、諸侯の一の如くイトれん。

神よ、起きて地を裁判せよ、爾萬民を継がんとすればなり。

第八十二聖詠 編集

歌。アサフの詠。

神よ、黙す毋れ、言葉を出さざる毋れ、神よ、静かなる毋れ、

蓋視よ、爾の敵は騒ぎ、爾を疾む者は首を昂げたり。

彼等は爾の民に向かいて邪なる計画を爲し、爾に護らるる者に向かいて謀る、

彼等言えり、往きて之を諸民の中に滅ぼして、イズライリの名の復記憶せらるることなからしめん。

彼等心を一にして相謀り、爾に向かいて約を結べり、

即エドムの住所とイズマイル人、モアフとアガリ人、

ゲワルとアンモンとアマリスク、フィリスティヤ人とティルの民是なり。

アッスルも彼等に會せり、此等ロトの子孫の臂となれり。

一〇求む、彼等に行うこと、マディアム及びシサラとイアワィンとに、キッソンの流れの傍らに行いし如くせよ、

一一此の輩アエンドルに滅ぼされて、地の糞土となれり。

一二彼等の牧伯を待つこと、オリフとジフとを待ちし如くせよ、彼等の悉くの将帥を待つこと、ゼワェイとサルマンとを待ちし如くせよ、

一三此の輩嘗て云えり、神の住所を奪いて我が業と爲さんと。

一四我が神よ、願わくは彼等は塵の旋風に於けるが如く、藁の風前に於けるが如くならん。

一五火の林を焚くが如く、焔の山を焦がすが如く、

一六斯く爾の暴風を以て此を逐い、爾の旋風を以て此を亂し給え。

一七主よ、羞を彼等の面に盈てて、彼等に爾の名を求めしめよ。

一八願わくは彼等永く羞を被りて亂されん、辱しめられて滅びん。

一九願わくは爾独り主と称えらるる者は全地の至上者なるを知らん。

第八十三聖詠 編集

伶長にゲフの楽器を以て歌わしむ。コレイの諸子の詠。

萬軍の主よ、爾の住所は何ぞ愛すべき。

我が霊は厚く慕いて主の庭を望み、我が心我が身は生活の神に馳す。

萬軍の主、我が王、我が神よ、雀も己の宿りを獲、燕も己の巣を獲て、雛を爾が祭壇の傍らに置く。

爾の家に住む者は福なり、彼等は常に爾を讃め揚げん。

力を爾に恃み、心の路を爾に向くる人は福なり。

彼等は涙の谷を過りて、其の中に泉を得、雨は降福にて之を覆う、

彼等は力により力に進み、シオンに於いて神の前に顕る。

主萬軍の神よ、我が祷を聴け、イアコフの神よ、聴き納れ給え。

一〇神、我等を衛る主よ、俯して爾が膏つけられし者の面を視よ。

一一蓋一日爾の庭に在るは千日に勝る、我悪者の幕に住まんよりは、寧ろ神の家の閾の傍らに居らん。

一二蓋主神は日なり、盾なり、主は恩寵と光榮とを賜う、行いの瑕なき者より幸福を奪わず。

一三萬軍の主よ、爾を恃む人は福なり。

第八十四聖詠 編集

伶長に歌わしむ。コレイの諸子の詠。

主よ、爾は已に憐れみを爾の地に施し、イアコフの俘を帰せり、

爾の民の不法を赦し、其の凡ての罪を掩い、

爾が悉くの忿を罷め、爾が怒りの烈しきを除き給えり。

我が救いの神よ、我等を起こし、爾が我等に於ける憤りを釈き給え。

豈に永く我等を忿り、爾の怒りを世々に伸べんとするか、

豈に新たに我等を活かして、爾の民に爾の事を悦ばしめざらんとするか。

主よ、爾の憐れみを我等に顕わし、爾の救いを我等に施し給え。

我は主神の言わんとする所を聴かん、彼は平安を其の民と其の選びし者に謂わん、唯願わくは彼等は再び無知に陥らざらん。

一〇此くの如く彼の救いは彼を畏るる者に邇し、光榮の我が地に居らん爲なり。

一一慈憐と真実と相交わり、義と和平と相接吻せん、

一二真実は地より出で、義は天より臨まん、

一三主は、幸福を与え、我が地は其の果を与えん、

一四義は彼の前に行き、其の足を路に立てん。

光榮讃詞