第八「カフィズマ」


第五十五聖詠 編集

伶長に歌わしむ。遠方に在る無聲の鴿の事。ダワィド、フィリスティヤ人にゲフに執えられし時に之を著せり。

神よ、我を憐れみ給え、蓋人我を呑まんと欲し、毎日我を攻めて我に逼る。

至上者よ、我が敵は毎日我を呑まんと覓む、蓋起ちて我を攻むる者多し。

我が恐懼の時には、我爾を恃む。

我神に於いて其の言葉を讃め揚げん、我神を恃みて懼れず、肉親我に何をか爲さん。

彼等毎日我が言葉を曲げ、其の思う所は皆我を害せんとす、

彼等は聚り潜みて、我が踵を伺い、我が霊を捉えんと欲す。

彼等豈に其の不義の報いを逃れんや。神よ、爾の怒りを以て諸民をイトし給え。

我の流浪は爾之を数えたり、我が涙を爾の器に納れよ、此れ爾の書に録せるに非ずや。

一〇我爾に呼ぶ時、我が敵は退く、此を以て我神が我を助くるを知る。

一一我神に於いて其の言葉を讃め揚げん、我主に於いて其の言葉を讃め揚げん。

一二我神を恃みて懼れず、人我に何をか爲さん。

一三神よ、爾に発せし誓いは我に在り、我讃美を以て爾に償わん、

一四蓋爾は我が霊を死より、我が目を涙より、我が足を躓きより救い給えり、我が神の顔の前、生ける者の光の内に行かん爲なり。

第五十六聖詠 編集

伶長に歌わしむ。滅す毋れ。ダワィド サウルを避けて洞に匿れし時に是を著せり。

神よ、我を憐れみ、我を憐れみ給え、蓋我が霊爾を恃む、我爾が翼の蔭に蔽われて患難の過ぐるを待たん。

我至上の神、恩を我に施す神に呼ばん、

彼は天より遣わして我を救わん、我を呑まんと求むる者を辱かしめん、神は慈憐と其の真実とを遣わさん。

我が霊は獅子の中に在り、我は焔を噴く者の中に臥し、其の歯は矛及び其の舌は利き剣なる人の子の中に臥す。

神よ、願わくは爾は諸天の上に挙げられ、爾の光榮は全地を蔽わん。

彼等は我が足の爲に網を設けたり、我が霊は弱れり、彼等は我が前に陥坑を掘りて、自ら其の中に陥れり。

我が心備われり、神よ、我が心備われり、我歌いて讃榮せん。

我が讃榮興きよ、我が琴瑟興きよ、我夙に興きんとす。

一〇主よ、我爾を諸民の中に讃榮し、爾を諸族の中に讃榮せん、

一一蓋爾の慈憐は大いにして天に戻り、爾の真実は雲に戻る。

一二神よ、願わくは爾は諸天に挙げられ、爾の光榮は全地を蔽わん。

第五十七聖詠 編集

伶長に歌わしむ。滅す毋れ。ダワィド之を著せり。

裁判者よ、爾等誠に義を言うか、人の子よ、爾等正しく裁判するか。

爾等は心の中に不法を設け、爾等の手の地に行いし悪業を権衡に置く。

悪人は生まるる時より道を離れ、母の腹より迷いて詭を言う。

彼等の毒は蛇の毒の如く、聾の蝮が耳を塞ぎて、

妙術に尤も巧みなる妙術者の聲を聴かざるが如し。

神よ、其の口の歯を挫け、主よ、獅子の頤を壞り給え。

願わくは彼等は流水の如く消え、弓の張り矢を放つ時、其の自ずから折るるが如くならん。

彼等は化する蝸牛の如く消え、堕胎の児の如く日を見ざらん。

一〇爾の釜未だ棘の熱を覚えざる先に、願わくは大風燃ゆると燃え付かざるとを合わせて之を散らさん。

一一義者は報いを見て喜び、悪者の血を以て其の足を濯わん。

一二時に人云わん、義者には誠に果報あり、故に審判を地に行う神あり。

光榮讃詞

第五十八聖詠 編集

伶長に歌わしむ。滅す毋れ。サウル人を遣わしてダワィドの宅を守り、之を殺さんと欲せし時にダワィド此を作れり。

我が神よ、我を我が敵より援け、我を攻むる者より護り給え。

我を不法を行う者より援け、血を流す者より救い給え、

蓋視よ、彼等は我が霊を窺う、主よ、強き者聚りて我を攻む、我が愆に縁るに非ず、我が罪に縁るに非ず。

我尤なしと雖も、彼等趨せ集まりて武具を備う、祈る、我を佑けん爲に起ちて此を観よ。

主萬軍の神、イズライリの神よ、起ちて萬民に臨み、悪逆なる不法者の一人をも恕す毋れ。

彼等は暮れに帰り、犬の如く哀號して城邑を環る。

視よ、彼等は舌を以て謗りを吐く、其の口に剱あり、蓋自ら思う、誰か之を聴かんと。

惟主よ、爾彼等を哂わん、爾萬民を辱かしめん。

一〇力は彼等にあり、然れども我爾に趨り附く、蓋神は我を護る者なり。

一一我が神我を憐れむ者は我に先立たん、神は我が敵を見るを得しめん。

一二主我等の盾よ、彼等を殺す毋れ、恐らくは我が民法を忘れん、爾の権能を以て彼等を散らし、彼等を卑くくせよ。

一三其の舌の言葉は其の口の罪なり、願わくは彼等は出す所の詛いと詭りとに因りて、其の誇りを以て、自ら拘われん。

一四怒りを以て彼等を散らし、之を散らして其の無きに至れ、人をして神がイアコフを宰どりて、地の極に及ぶを知らしめよ。

一五彼等暮れに帰り、犬の如く哀號して城邑を環るべし、

一六徘徊して食を求め、空き腹にして夜を終うべし。

一七惟我爾の能力を歌い、早朝より爾の慈憐を述べん、蓋爾は我が患難の日に於いて、我の護佑我の避所たりき。

一八我が能力よ、我爾を歌わん、蓋神は我を護る者なり、我が神は我を憐れむ者なり。

第五十九聖詠 編集

伶長に「スサン、エドゥフ」の楽器を以て歌わしむ。
ダワィド、メソポタミヤのシリヤ及びツォワンのシリヤを征せし時、イオアフ帰途イドゥメヤ人一萬二千を塩谷に敗りし後に、ダワィド教学の爲に此を著せり。

神よ、爾我等を棄て、爾我等を敗り、爾怒りを発せり、祈る、我等に向かい給え。

爾地を震わせて、之を裂けり、祈る、其の破れを補い給え、彼動けばなり。

爾は爾の民に苦しきことを嘗めしめ、我等に驚惶の酒を飲ましめたり。

祈る、爾を畏るる者に旗を賜いて、彼等に真実の爲に之を挙げしめ、

爾の愛する者に援けを獲しめ給え、爾が右の手にて救いて、我に聴き給え。

神は其の聖所に於いて曰えり、我勝たん、シヘムを分ち、ソクホフの谷を量らん、

ガラアドは我に属し、マナシヤは我に属す、エフレムは我が首の防固、イウダは我の権柄なり、

一〇モアフは我の盤なり、エドムに我が靴を舒べん。フィリスティヤの地よ、我に凱を挙げよ。

一一執か我を引きて堅固なる城邑に入れん、執か我を導きてエドムに至らん、

一二神よ、豈に爾に非ずや、神よ、我を棄てて、我が軍と共に出でざる者よ、

一三祈る、狭難に於いて我等に助けを与え給え、人の護佑は虚しければなり。

一四神と偕にして我等力を顕わさん、彼は我が敵を降さん。

第六十聖詠 編集

伶長に琴を弾きて歌わしむ。ダワィドの詠。

神よ、我が呼ぶを聴き、我が祈りを聴き納れ給え。

我の心の憂悶を以て地の極より爾に呼ぶ、我を引きて我が至る能わざる磐に升せ給え、

蓋爾は我の避所なり、爾は敵を防ぐ堅固なる戎楼なり。

願わくは我永く爾の住所に居り、爾が翼の蔭に安んぜん、

蓋神よ、爾は我が誓いを聞きて、我に爾の名を懼るる者の嗣業を賜えり。

祈る、王の日に日を加え、其の年を代々に延べよ、

願わくは彼永く神の前に居らん、慈憐と真実とに戒めて彼を護らしめ給え。

然からば我日々我が誓いを償いて、世々爾の名に歌わん。

光榮讃詞

第六十一聖詠 編集

イディフムの伶長に歌わしむ。ダワィドの詠。

我が霊唯神に在りて安んず、我が救いは彼に由る。

唯彼は我が防固、我が避所なり、我復揺かざらん。

爾等人に逼ること何れの時に至るか、爾等イトされん。爾等皆傾ける牆の如く、揺ける籬の如くイトされん。

彼等は高きより彼を落とさんことを謀りて詭を用い、口には祝福し心の中には詛う。

我が霊よ、唯神に在りて安んぜよ、我が望みは彼に在ればなり。

唯彼は我が防固、我が救い、我が避所なり、我揺かざらん。

我が救いと我が榮えとは神にあり、我が力の防固我が恃みは神に在り。

民よ、常に彼を恃め、爾の心を彼の前に注げよ、神は我等の避所なり。

一〇人の諸子は惟虚し、人の諸子は偽りなり、彼等をに置けば、皆共に空虚より軽し。

一一強奪を恃む毋れ、強掠に誇る毋れ、貨の増す時、之に心を貼くる毋れ。

一二神一次言えり、我二次之を聴けり、即能力は神に在り、

一三主よ、憐れみも亦爾に在り、蓋爾は各人の行う所に依りて之に報ゆ。

第六十二聖詠 編集

ダワィドの詠。イウデヤの野に在りて此を作れり。

神よ、爾は神なり。我暁より爾に尋ぬ、我が霊は渇きて爾を望み、我が身は空しくして燥ける水なき地にありて、痛く爾を慕う、

爾の能力と爾の光榮とを見ん爲なり、我が嘗て爾を聖所に観しが如し、

蓋爾の愛憐は生命に愈る。我が口爾を讃美せん。

是くの如く我生ける時爾を崇め讃め、爾の名に依りて我が手を挙げん。

我が霊の飽かざること脂油を以てするが如く、我が口歓びの聲にて爾を讃美す、

榻にて爾を記憶し、夜更に爾を思う時に在り。

蓋爾は我の扶助なり、爾が翼の蔭に於いて我欣ばん、

我が霊は親しく爾に附き、爾の右の手は我を扶く。

一〇彼の我が霊を害わんことを謀る者は地の深き處に降らん、

一一彼等刃に懸かりて、狐の獲物とならん。

一二惟王は神の爲に楽しまん、凡そ彼を以て誓う者は誉れを得ん、蓋偽りを言う者の口は塞がれんとす。

第六十三聖詠 編集

伶長に歌わしむ。ダワィドの詠。

神よ、我が祷りの時我が聲を聴き、我が生命を敵の懼れより護り給え。

我を詭り人の謀より、悪者の亂れより匿し給え、

彼等は其の舌を剱の如く砺ぎ、其の毒言を弓の如く張りて、

密かに無瑕の者を射んと欲す、彼等は忽ち之を射て懼れず。

彼等は悪意を定め、密かに網を設けんことを謀りて謂えり、誰か之を見ん、

彼等は不義を尋ね、屡々探りて、人の中情と心の深き處とに至る。

然れども神は矢を以て彼等を射ん、彼等忽ち傷つけられん、

彼等其の舌を以て己を損なわん、彼等を見る者は皆避けん。

一〇衆人懼れて神の業を伝え、其の彼の爲す所たるを知らん。

一一義人は主の爲に楽しみて、彼を恃まん、心の正しき者は皆榮えを獲ん。

光榮讃詞