金槐和歌集/卷之上/冬部

        部


十月一日よめる
(三一二) 續古今 秋はいぬ風には散りはてて山さびしかる冬は來にけり 眞淵この歌に○を附す。

初冬の歌の中に

類從本には「冬の歌」とあり。
(三一三) 散り秋も暮れにし片岡かたをかのさびしき森に冬は來にけり
(三一四) 夕づく夜澤邊にたてるあしたづの鳴く悲しき冬來にけ 類從本には結句「冬來にけ」とあり。「一本及印本所載歌」の部にあり。猶ほ原本には「冬來にけり」とあり。
(三一五) 散りつもる木の葉朽ちにし谷水たにみづ氷に氷りて閉づる冬は來にけり 類從本には第四句「氷りて」とあり。
(三一六) 春といひ夏とすぐして秋風のふきあげの濱に冬は來にけり 類從本には「雜」の部にあり。眞淵この歌に○を附す。
(三一七) よしの川もみぢ葉ながる瀧の上のみふねの山に嵐ふくらし 眞淵この歌に○を附す。
(三一八) 初時雨はつしぐれふりにし日より神なびのもりずゑぞ色まさりゆく 類從本には「一本及印本所載歌」の部にあり。眞淵この歌に○を附す。
(三一九) みむろ山紅葉ちるらし神無月かみなづき立田の川に錦おりかく
(三二〇) 神無月時雨ふればかなら山のならの葉がしは風にうつろふ 定家所傳本には、結句「かにうつろふ」とあり。ならむ。
(三二一) 神無月時雨ふるらし奧山おくやま外山とやまのもみぢ今さかりなり
(三二二) 下紅葉したもみじかつはうつろふははそ原かみな月とて時雨ふれてへふれりてへ 原本及び定家所傳本には、第四句「かみな月て」、また類從本定家所傳本には、結句「時雨ふれてへ」とあり。

松風似時雨

類從本には「まつ風しぐれににたり」とあり。
(三二三) 神無月ふりにし山里やまざとは時雨にまがふ松の風かな
(三二四) 新後拾遺 ふらぬ夜もふる夜もまがふ時雨かな木の葉の後のみねの松風

水上落葉

類從本には、「秋」の部にあり。
(三二五) ながれ行く木の葉のよどむえにしあれば暮れての後も秋は久しき 類從本には、下句「暮れての後久しき」定家所傳本には「暮れての後も秋久しき」とあり。

(三二六) 難波潟なにはがたあしの葉白くおく霜のさえたる夜半よはにたづぞ鳴くなる 眞淵この歌に○を附す。
(三二七) 大澤の池の水草みづくさかれにけりながきすがら霜やおくらむ
(三二八) 東路あづまぢの道の冬草かれにけり夜な夜な霜やおきまさるらむ 類從本には「霜をよめる」と題せり。

野  霜

類從本には「野霜といふ事を」とあり。
(三二九) 花すすき枯れたる野邊におく霜のむすぼほれつつ冬は來にけり

深 夜 霜

類從本には「ふかき夜の霜」とあり。
(三三〇) 烏羽玉ぬばたまのいもが黑髮うちなびき冬ふかき夜に霜ぞおきける 定家所傳本には、結句「霜ぞおきける」とあり。
眞淵はこの歌の第三句につき、「うちなびき、この語わろし。うちなびきといひて、打はへたることとするは、後世なり。萬葉に、打なびくといふと、打なびきといふと、二つあれど、共に打はへたることにあらず」と評せり。
(三三一) 夜を寒み河瀨にうかぶ水の泡のきえあへぬ程に氷しにけり

冬 の 夜
(三三二) 片しきの袖こそ霜にむすびけれ待つ夜ふけぬる宇治の橋姬
(三三三) かたしきの袖も氷りぬ冬の夜の雨ふりすさむあかつきのそら
(三三四) あしの葉は澤邊さはべもさやにおく霜の寒き夜な夜な氷しにけり 眞淵この歌に○を附す。
(三三五) 音羽山おとはやま山おろし吹く吹きてあふ坂の關の小川こほりしにけわたれり 類從本には「氷をよめる」と題せり。
類從本定家所傳本には第二句「やまおろし吹きて類從本には第四句「關の小川」原本及類從本註並に定家所傳本には結句「こほりわたれり」とあり。眞淵この歌に○を附す。
(三三六) 冬ふか氷やいたくとぢつらむかげこそ見えね山の井のみづ 類從本には「冬ふか定家所傳本には第三句「とぢつら」とあり。
(三三七) 冬ふかみ氷にとづる山川のくむ人なし年や暮れなむ 類從本には第四句「なし定家所傳本には「なし」とあり。
(三三八) わがかど板井いたゐの淸水冬ふかきかげこそ見えね氷すらしも 類從本定家所傳本には第三句「冬ふか」とあり。
眞淵この歌に○を附す。

池上冬月
(三三九) はらの池の蘆間のつららしげけれたえだえ月の影はすみけり 類從本定家所傳本には第三句「しげけれ」とあり。

湖上冬月

類從本には「湖上冬月といふことを」とあり。
(三四〇) 比良ひらのやま山風さむみからさきのにほみずうみ月ぞこほれる。 類從本には第二三句「山風さむからさき定家所傳本には第三四句「からさき鳰のみづうみ」とあり。眞淵この歌に○附す。

河邊冬月
(三四一) 千鳥鳴く佐保さほ川原かはらの月きよみ衣手さむし夜やふけぬらむ 定家所傳本には結句「夜やふけにけむ」とあり。

夜ふけて月をみてよめる
(三四二) さ夜ふけて雲間くもまの月の影見れば袖にしられぬ霜ぞ置きける 眞淵は「袖にしられぬ、後なり」と評せり。

月影似霜といふ事を

類從本には「月影霜ににたりといふことをよめる」とあり。
(三四三) 月影のしろきを見ればかささぎのわたせる橋に霜置きけ 類從本には結句「霜おきけ定家所傳本には「霜置き」とあり。

月前松風
(三四四) あまの原そらを寒けみぬば玉のわたる月に松風ぞふく

海邊冬月
類從本にては「雜」の部にありて、第四句「しろく」とあり。眞淵は「雪のしらはま、此つづけ後なり」と評せり。
(三四五) 月のすむ磯の松風さえさえてしろく見ゆる雪のしらはま

月 前 嵐
(三四六) ふけにけり外山とやまのあらしさえさえてとをちの里にすめる月かげ

山 邊 霰
(三四七) 續後拾遺 雲ふかきみ山のあらしさえさえて伊駒いこまのたけに霰ふるらし 眞淵この歌に○を附す。


類從本には「一本及印本所載歌」の部にあり。眞淵はこの歌に○○を附し「軍にたちて負ふ征矢のみだれを直すとて、眞手を肩の上へやりたるその小手を、霰のうちたばしりけんさま、人麿のよめらん勢ひなり。且しのはらといはれしも、はなれてはならぬちなみあり。」と評せり。
(三四八) もののふの矢なみつくろふ小手こてうへに霰たばしる那須なす篠原しのはら
(三四九) ささの葉み山もそよに霰ふり寒き霜夜をひとりかも寢む 眞淵この歌に○を附す。
類從本の註及び定家所傳本には初句「ささの葉」とあり。
(三五〇) 笹の葉に霰さやぎてみ山べのみねがらししきりて吹きぬ 類從本には「一本及印本所載歌」の部に入れ、結句「しきりてぞ吹く」とあり。
眞淵この歌に○を附す。

千  鳥

類從本には「冬歌」と題せり。
(三五一) 夕づく夜さほの川風身にしみて袖より過ぐる千鳥鳴くなり
(三五二) 降りつもる雪ふむ磯の濱千鳥浪にしをれて夜半に鳴くなり

海邊千鳥といふことを人々に數多つかうまつらせしついでに

類從本には「海のほとりの千鳥……つかうまつりしついでに」とあり。
(三五三) 夕づく夜みつ鹽あひの潟を無みにしをれて鳴く千鳥かな 定家所傳本には第四句「なみだしをれて」とあり。
(三五四) 夜をさむみ浦の松風吹きすさびむすびむしあけの浪に千鳥鳴くなり 類從本には第三句「吹きむすび定家所傳本には「吹きむせび」とあり。
眞淵この歌に○を附す。
(三五五) 玉葉 月淸みさふけ行けば伊勢島いせしまやいちしの浦千鳥なくなり 類從本には第四句「浦」とあり。
眞淵この歌に○○を附し、「かくもととのへるものか、はた常の人のいふなるふしを皆すてたり」と評せり。

寒夜千鳥
(三五六) 新勅撰 風寒みのふけ行けばいもが島かたみの浦に千鳥なくなり 眞淵この歌に○○を附す。

名所千鳥
(三五七) 衣手ころもでに浦の松風さえわびて吹上ふきあげの月に千鳥鳴くなり

水  鳥
(三五八) 水鳥みづどりのかもの浮寢うきねのうきながら玉藻の床にいくへぬらむ 類從本には「雜」の部にあり。

海 邊 鶴
(三五九) 難波がた潮干しほひにたてる蘆たづのはねしろたへに雪降りつつ 類從本定家所傳本には結句「雪」とあり。眞淵この歌に○を附す。


類從本には「冬歌」とあり。
(三六〇) みさごゐる磯部にたてるむろの木の枝もとををに雪ぞ積もれる 眞淵この歌に○を附す。
(三六一) 奧山の岩ねにおふるすがの根ころころにふれるしら雪 眞淵この歌に○を附す。
(三六二) 夕さればすず吹く嵐身にしみて吉野のたけにみ雪ふるらし
(三六三) 新續古今 ゆふされば浦風寒しあまをぶね泊瀨とませの山に雪ふるらし 類從本定家所傳本には結句「みゆきふるらし」とあり。
眞淵はこの歌につき、「泊瀨にあま小舟といふは冠辭なるに、浦風などあるは、この頃の人のりを傳へ給へるなり。」と評せり。新續古今集には結句「雪」とあり。
(三六四) 續後撰 ゆふされば鹽風寒し波間より見ゆる小島こじまに雪は降りつつ 眞淵この歌に○を附す。
(三六五) 新勅撰 山たかみあけはなれ行く橫雲のたえまに見ゆる嶺のしら雪
(三六六) 見わたせば雲井はるかに雪しろし富士の高根のあけぼのの空
(三六七) ながむればさびしくもあるか煙立つむろの八島やしまの雪のしたもえ 類從本には「雪をよめる」と題せり。
(三六八) 久堅ひさかたのあま雲あへりかつらぎや高間たかまの山はみ雪ふるらし 類從本には「一本及印本所載歌」の部にあり。
眞淵この歌に○を附す。
(三六九) 風雅 深山みやまには白雪ふれりしがらきのまきの杣人そまびと道たどるらし 眞淵この歌に○を附し、「み山を深山とかくは後俗のわざなり」と評せり。風雅集には結句「道たどるらん」とあり。
(三七〇) 風雅 卷向の檜原のあらしさえさえてゆつきがたけに雪ふりにけり 眞淵この歌に○を附す。
(三七一) まきの戶を朝明あさけの雲の衣手ころもでに雪をふきまく山あらしおろしの風 定家所傳本には第二句「朝あけの雲の」結句「山おろしの風」とあり。類從本には結句「山下風のかぜ」とあり。
(三七二) はらへただ雪わけころもぬきを薄み積れば寒し山あらしおろしの風 類從本には結句「山おろしの風」とあり。
眞淵は「はらへただ、このいひなし後なり。」といへり。
(三七三) 山里は冬こそことにわびしけれ雪ふみわけてとふ人もなし
(三七四) 我庵わがいほは吉野のおくの冬ごもり雪ふり積みて訪ふ人もなし
(三七五) おのづからさびしくもあるか山ふかみ草のいほりの雪の夕ぐれ 類從本定家所傳本には、第四句「のいほりの」とあり。
(三七六) われのみぞかなしとは思ふ浪のよる山のひたひに雪のふれれば 類從本には「雜」の部にあり。
(三七七) はし鷹今日しらふにかはるらむとかへる山に雪のふれれば 類從本には「鷹をよめる」と題せり。類從本には初二句「はし鷹けふ定家所傳本には「はし鷹けふや」とあり。

白といふことを

類從本には「白」と題し「雜」の部にあり。
眞淵この歌に○を附す。
(三七八) かもめゐるおきのしらすにふる雪の晴れ行く空の月のさやけさ

松 間 雪

類從本には「雜」の部にあり。
(三七九) 高砂の尾上の松にふる雪のふりていくよの年かつもれる

屛風の繪に三輪の山に雪のふれる氣色を見侍りて

類從本には「屛風に三輪の山に雪のふれる所」とあり。
(三八〇) 冬ごもりそれとも見えず三輪の山杉の葉白く雪の降れれば

海 邊 雪
(三八一) 立ちのぼる烟はなほぞつれもなき雪のあしたの鹽がまのうら 眞淵は「雪のあしたの、此つづけ後なり」と評せり。

寺邊夕雪
(三八二) うちつけに物ぞかなしき初瀨山をのへのかねの雪の夕暮 定家所傳本には結句なし。
眞淵はこの歌につき、「雪の夕ぐれ、このことば後なり。此公にふさはず。是を制のこととするなどはいふにもたらず。古風を好む人は、よめといふともよまじ」と評せり。

閑 居 雪
(三八三) 故鄕ふるさとはうらさびしともなきものを吉野のおくの雪の夕ぐれ 原本「らさびしとも」とあり。類從本によりて改む。
定家所傳本には結句なし。
眞淵は「雪の夕ぐれ、同じ」といへり。

雪中待人
類從本には「雪中待人と云事を」とあり。類從本には「戀」の部にあり。
眞淵は「たのめぬ宿の、後なり。」と評せり。
(三八四) けふもまたひとりながめて暮れにけりたのめぬ宿の庭の白雪

足にわづらふ事ありて入こもりし人の許に雪ふりし日よみてつかはす

類從本には「……入こもりし……よみて遣す歌」とあり。
(三八五) 降る雪をいかに哀とながむらむ心は[1]ふとも足たたずして 類從本には「雜」の部にあり。
眞淵この歌に○を附す。

建曆二年十二月雪の降り侍りける日山家の景氣を見侍らむとて民部大夫行光が家にまかり侍りけるに山城判官行村など數多侍り和歌管絃の遊ありて夜ふけて歸り侍りしに行光黑馬をたびけるを又の日見けるに立髮たつがみに紙を結び侍るを見れば
  この雪を分けて心の君にあればぬししる駒のためしをぞひく 類從本には「一本及印本所載歌」の部にあり。
返し
(三八六) ぬし知れと引きける駒の雪を分けばかしこき跡にかへれとぞ思ふ 類從本には「一本及印本所載歌」の部にあり。
みづからかきて好士を選び侍りしに內藤馬允知親を使としてつかはし侍りし 類從本には、この後書なし。原本この後に「うたなし」とあるはなり。

建保五年十二月方違の爲に永福寺の僧坊に罷りてあしたあした歸り侍るとて小袖を殘し置きて
(三八七) 春待ちて霞の袖にかさねよとしもの衣のおきてこそゆけ 類從本には「一本及印本所載歌」の部にあり。

山々に炭やくを見侍りて

類從本には「深山に炭やくをみてよめる」とあり。
類從本にては「雜」の部にあり。
(三八八) 炭をやく人の心もあはれなりさてもこの世をすぐるならひは

炭  竈

類從本には「冬哥」と題せり。
(三八九) 雪降りてけふとも知らぬ奧山にすみやく翁あはれはかな 類從本には結句「はかな」とあり。
(三九〇) すみがまのけぶりもさびし大原やふりにし里の雪の夕ぐれ

佛名のこころをよめる
(三九一) 身につもる罪やいかなる罪ならむけふ降る雪と共にけななけぬらむ 類從本には結句「けぬらむ」とあり。

老人寒を厭ふといふ事を

類從本には「雜」の部にあり。
(三九二) 年ふればさむき霜こそさえけらしかうべは山の雪ならなくに 定家所傳本には第二句「さむき霜夜ぞ」とあり。

老人憐歲暮
(三九三) しらがといひおひ老いぬるけにやことしあれば年の早くも思ほゆるかな 一本に初句「しらがおひ」とあり。
この歌以下四首、類從本には、「雜」の部にあり。
(三九四) 老いぬれば年のくれ行くたびごとにわが身ひとつとおもほゆるかな
(三九五) うちわすれはかなくてのみ過ぐし來ぬあはれと思へ身にもつもる年
(三九六) 足引の山よりおくに宿もがな年のまじき隱家かくれがにせむ

歲  暮
(三九七) 塵をだにすゑじとや思ふ行く年の跡なき庭をはらふ松風
(三九八) とりもあへずはかなく暮れて行く年しばしとどむるめん關守もがな 類從本定家所傳本には第三四句には「行く年しばしとどめん」とあり。
(三九九) 新勅撰 武士もののふのやそうぢ川を行く水のながれて早き年の暮かな 眞淵この歌に○を附す。
(四〇〇) しら雪のふるの山なる杉村のすぐる程なき年のくれかな 眞淵この歌に○を附す。
(四〇一) かつらぎや雲をこだかみ雪しろしあはれと思ふとしの暮かな 定家所傳本には第二句の「雲」が「」とあり。類從本定家所傳本には第四五句「思ふ年の暮れぬる」とあり。
(四〇二) 老いらくのかしらの雪をとどめ置きてはかなの年やくれてゆくらむ
(四〇三) はかなくて今夜こよひあけなば行く年のおももなき春にやあはなむ 定家所傳本には第四句「思ひでもなき」とあり。
(四〇四) 玉葉 ぬば玉のこのなあけそしばしばもまだふる年のうちぞ思はむ 類從本には結句「うちとおもはん」とあり。原本「うちそおもはん」は誤脫ならん。
(四〇五) ちぶさ吸うまだいとけなき綠子ともになきぬる年の暮かな 類從本には第二句「まだいとけき」類從本定家所傳本には第三句「みどり子」とあり。
(四〇六) 行く年のゆくへをとへば世の中の人こそ一つまうくべらなれ 類從本には「年のはての歌」と題して、「雜の」ママ部にあり。


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  1. ママ