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1. 我々が戦争による欧州経済の破壊を著しく過小評価していたことは、今や明白である。我々は物理的破壊については理解したが、経済的混乱が生産に及ぼす影響――産業の国有化や急激な土地改革、長年に亙る通商関係の断絶、資本の喪失や減少による私企業の消失、等々――については、充分な考慮を怠ってきた。

2. 欧州は確実に衰退しつつある。政治情勢は経済情勢を反映している。続発する政治危機は、重大な経済的困窮の存在を示しているに他ならない。何百万もの都市住民は徐々に飢えつつある。農家が再び正常な量の食料を都市に供給するようになるには、消費財の増加と自国通貨に対する信用回復とが、何としても不可欠である。(フランス穀物エーカー面積は戦前を20-25%下回っており、総生産は極めて不充分である――穀物の大半は牛の餌となっている。近代的分業体制は、欧州ではほぼ崩壊してしまった)。

3. 欧州の現在の年間収支の赤字額は、

英国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22.5億ドル

フランス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17.5億ドル

イタリア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5億ドル

ドイツ英米占領区域・・・・・・・・・・・5億ドル

                       ―――

                       50億ドル

より小規模の諸国は言うまでもない。

上記が示しているのは、まさに最低限度の生活水準である。これを下回るようなら、革命が起こるであろう。

本年末までのみ、英仏は急速に減りつつあるとドルの準備から上記の赤字を補填することもできようが、イタリアはそれまでもたないであろう。

4. こうした赤字の主な細目の一部は、

合衆国から:石炭、3,000万トン・・・・・・・・・・・・・・・・・6億ドル

同上:パン用穀物、1,200万トン・・・・・・・・・・・・・・・・・14億ドル

同上:輸出入に関する非常に高額な船便・・・・XXXXX百万ドル

戦前には、欧州は石炭を自給しており、合衆国からのパン用穀物の輸入量も極めてわずかであった。

欧州は再び石炭を自給せねばならない(合衆国はルール地方の石炭生産の管理を引き継がねばならない)し、欧州の農業生産は正常な水準にまで回復せねばならない(註:法外な関税や補助金などを通じた、非能率的な、あるいは無理のある生産は、ここでは考慮されていない)。

欧州は海運を再開する準備を整えねばならない。合衆国は余剰船舶をフランス、イタリアその他の沿海諸国に売却し、商船を少なくとも戦前の水準にまで回復させるべきである(そのためには、我々は海運ロビーに打ち勝ち、合衆国財務省から隔離して肥やさねばならないであろう)。

5. 合衆国からのさらなる迅速かつ相当な援助がなければ、経済的・社会的・政治的崩壊が欧州を沈めてしまうであろう。

このことが世界における将来の平和安全保障に及ぼすであろう恐ろしい結果を別にしても、国内経済への直接的影響は甚大なものとなろう。例えば余剰生産物市場の喪失、失業恐慌、巨額の戦債を背景にした著しい不均衡予算である。

このような事態が起こってはならない

どうすればこれらを避けることができるのか?

6. バルーク氏は、国内資産と負債について調査・報告する委員会を設置して欧州援助の余力を測るよう要請している。

そんなものは全く不要である。

結論は分かり切っている。

我が国の資源や生産力は、必要なあらゆる援助を提供するに充分なのである。

問題は、我が国の財政政策と国内消費を再編し、我が国の巨大生産によって必需品の充分な余剰を利用可能にすると共に、これらの余剰物資を負債の積み増しによってではなく税収から支払えるようにすることである。

この問題は、米国民が政権を完全に信頼し、全ての事実を知らされ、さらには健全かつ有効な計画を提示されて初めて、解決できるのである。

7. 大統領[1]国務長官[2]に不可欠なのは、(ロシアからではなく飢餓と混乱から欧州を救うために、そして同時に、我々自身やその子らに自由な米国という輝かしい財産を与えるために、自らが若干の犠牲を差し出し多少の我慢をするよう、米国民に強い決意を促すことである。

8. 我々は欧州に対し、贈与として、毎年60乃至70億ドル相当の物資を3年間にわたって供与せねばならない。この支援があれば、国際銀行国際基金は欧州再建を迅速に進められるに違いない。我々の贈与は、第1に石炭、食料、綿花煙草、船便などの形を取るであろう――綿花を除けば、これらは全て、現在合衆国内で過剰生産されている。綿花にしても、今後1、2年のうちに過剰になるであろう。現在の穀物年度間においても、合衆国から輸出されるパン用穀物の総量は膨大(1,500万トン)であるが、食糧輸送はさらに漸増するに違いない。我々は国内の食糧を浪費しており、適正管理すれば少なくともあと100万トンは輸出できるほどである。しかも、米国民の健康と能率に如何なる害をも及ぼすことなく、である。

9. この3か年の対欧贈与は、英仏伊に主導された欧州主要諸国が策定する、欧州の計画に基づくべきである。かかる計画は、ベルギー=オランダ=ルクセンブルク関税同盟に類似した欧州経済連合に基づくべきである。欧州経済が今日のように多数の閉ざされた小区分に分かれたままであり続けるなら、欧州が今回の大戦から復興し、再び自立することなどできない。

10. 無論、上記は問題の概略に過ぎず、この問題は何らかの行動がなされる前に相当な研究と準備を要するものである。

カナダアルゼンチンブラジルオーストラリアニュージーランド南アフリカ連邦はいずれも、自国の過剰な食料と原料を処理できないでもないが、我々はUNRRAの轍を踏むのを避けねばならない。合衆国がこの見世物を仕切らねばならないのである[3]

ワシントン、]1947年5月27日 W. L. クレイトン

訳註

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  1. ハリー・S・トルーマン(任1945年 - 1953年)。
  2. ジョージ・C・マーシャル(任1947年 - 1949年)。
  3. 連合国救済復興機関 (UNRRA) は戦災被害国の救済を目的として発足した組織であるが、米国が活動資金の7割以上を拠出したにもかかわらず、援助の方向性は必ずしも米国の望む通りにはならなかった。クレイトンはこの前例を踏まえ、米国の負担で行う援助の方向性は米国自身が決めることができて然るべきだと主張しているのである。牧野裕『冷戦の起源とアメリカの覇権』御茶の水書房、299-300頁。ISBN 4-275-01518-5紀平英作『パクス・アメリカーナへの道――胎動する戦後世界秩序』山川出版社、232頁。ISBN 978-4-634-48110-7

底本

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