新約聖書譬喩略解/第四 酵種の譬
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第四 酵種 の譬
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- 〔註〕この
譬 は芥種 の譬 と同 じく神 の国 の長大 なることを説 り しかれども重覆 にあらず その意 を細 に察 するに上 の條 には神 の国 の大 なるに至 るは外 に現 れたる上 にていへり ここにいふ神 の国 の大 なるにいたるは内 に隠 れたるをいへり またその上 に一意 を添 へて教會 の婦 人 は神 の国 のために力 を盡 すべきことを説 り上 の條 の播種 をいへるは田 畑 の働 きにて男子 の業 となせり酵 を取 るといふは庖 厨 の働 きにて婦人 の職 を盡 すことなり イエスの道 初 めて傳 はり十二弟子 の外 には只 五六人 の婦 ありて供事 り〔路加 八章三節〕ポーロ遠方 に往 きて傳道 せしまた五六輩 の婦 プリッキラにゆくものポーロと共 に勤 て福音 を傳播 しなり〔腓立比 四章三節〕イエスの道 しきおこなはるるに及 ては男女 おのおの職 をなせり男 は往 て男 を教 へ女 は往 て女 を教 へ力 を盡 して主 に仕 べし かの麪酵 の性 は脹發 しやすく酵 の入 りたる麵 を以 て許多 の粉 の中 に雑 ゆるときは酵 なき麵 を変 じて酵 と性質 を同 ふせしめたり この處 の外 にも聖書 に酵 を以 て譬 となせども大抵 は悪根 の發 るることを指 せり イエスの法利 賽 の酵 といへるは偽善 を指 したまへり〔路加十二章一節〕またポーロの爾 まさに舊 き酵 を浄 く除 くべしといへるは舊 悪 を指 せり〔哥林多 前五章六節八節〕酵 を借 りて悪 に喩 るはいかにといふにその味 酸 く変 りて正 味 を失 ひ且 浮 て脹 たるを以 て人の驕誇 に似 たればなり しかるに其 性 發大 しまた変化 するときは善 にも喩 ゆべきなり ここに酵 を借 て天国 に比 ぶるは善 に就 きていへるなり福音 聖道 はよく人 の心 を化 し風俗 を移 改 ることポーロの基督 にあるものは新 に造 る人 となり舊 きものすでに逝 みな新 しきをなせりと〔哥林多 後五章十八節〕いへるが如 く人 既 に救主 の恩 をその心 に得 るときは好 む所 の事 念 ふ所 の情 および往 来 する所 の人 望 む所 の福 みな常時 と異 なることあり此 心 の変 る所 なり常 に主 の恩 に頼 て禱 を倦 ざれば善徳 日々 に増 しその應許 を篤信 ぜば必 ずよく世 俗 の敗 を脱 れて共 に神 の性 に與 るべし〔彼得 後書一章十四節〕イエスの道 行 るる所 の国々 は徒 に教會 を設 るにあらず人々 信 じ従 ひいつとなく移 改 りて聖経 の益 を獲 刑罰 もかむし人 の残忍 に似 ず税斂 も昔 の貪婪 におなじからざるやうになり未 だ道 と盡 くは合孚 ざることありと雖 も其 政 ごとは廉 明 になりて次 第 によく治 れり また醫院 を設 け学校 を大 に開 らき貧民 に施 し癈疾 を憐 み貲 を涓 力 を出 しすべて己 を推 て人 におよぼさんことを願 へり衆 の論 は日々 に公平 に進 み衆 の情 はますます親睦 み所謂 酵 を麪 の中 に藏 すとはこれらの事 をさして謂 へるなり ここに(婦人 取 て)といふを見 るに酵 は發大 やすきものといへども しかもまた人 の為 に藉 ることを知 るべし されば福音 の道 廣 く傳 ること全 く眞道 の力 によるといへども人 各 その力 を用 ひずして天 父 に諉 け其 自 然 に任 すといふべからず(三 斗 の麵 )といふにまた説 あり或 は中等 の人 家 の一日 の糧 といひ〔創世記十八章六節〕或 は普 く世 界 の人 はみなノアの三 子 の後裔 なれば三 斗 の麵 ひとしく發大 といふはこの三 の人種 のみな信仰 して眞道 の行 るることは中外 を分 ざるの意 を指 すといへり或 は三 斗 の麵 を以 て人 の霊 と性 と身 との三 を指 とせり其譯 は人 の智 識 と嗜 好 と行為 とみな常日 に異 なりポーロの爾 きよくして且 爾 の霊 爾 の性 爾 の身 を守 り悉 く我主 イエス基督 のきたらん時 責 なからしめよといへる如 きなりと〔帖撒羅 前書五章三十三節〕以上 の説 はいづれも三 の字 の義 を指 し明 して確 なりといへり その説 通 ぜりと雖 もしかも三 の字 に泥 みてしかいへるに過 ぎずただ均 酵 の脹發 るを以 て譬 の肝要 となすべきなり福音 聖道 の普 く行 れて滞 ることなきときは世 の中 と人 の心 とを論 ぜず均 くその風 気 を改 めその性質 を変 へ舊染 汚 俗 咸與 維新 と謂 ふが如 きなり我 儕 の此 譬 を読者 はすこしの酵 のすべての麵 を酵發 すことを知 り我 教會 は唯 この數 人 にて斯 の世 の悪俗 を改 ることを得 んやと自 ら疑 を起 さず會内 皆 心 を一 にしてイエスに倚 り力 行 て眞道 を彰 さば神 の福 を蒙 り必 ずよく大 に教會 の門 を開 べし また我 の才 情 甚 だ弱 ければ天 下 の元黎 を感 じ格 すことを得 ずと疑 ふことなかれ力 を盡 し心 を盡 し眞 の神 に禱 らば智慧 日々 に益 れて善行 著 れ必 ず衆 の人 に信仰 をなさしむべし爾 の光 まさに人 の前 に耀 すべし彼 爾 の善行 を見 ば榮 を爾 の天 にいます父 に帰 するを致 すべしと〔馬太五章十六節〕吾主 の曰 ひ給 るが如 きなり