新約聖書譬喩略解/第二十五 不忠操會者の譬
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第二十五 不忠 操會者 の譬
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イエス
- 〔註〕
此 譬 の中 には多 く解 き難 き處 ありて解説 各 同 じからざれども大約 イエスその弟子 に教 たまふに世 の人 は巧 に今生 の事 を為 せども爾 等 は巧 に来世 の事 を為 すべしといふ意 にて此 譬 は弟子 にのみ説 たまへるなり操會者 の職 は信者 に恍惚 たり操會者 は家 の中 では諸 奴婢 よりも尊 けれども同 く主人 の僕 なれば主人 と共 に計數 をなすべし我 儕 信者 にて神 の恩 を司 たれば終 にはまた必 ず主 と計數 を為 すべし上 の三 の譬 は税吏 と悪人 の悔改 るによりて法利 賽 の人 に嫉 るるほどなれば此時 の弟子 には必 ず税吏 と悪人 多 くして彼 等 の平日 得 る所 の財 はみな是 不義 の財 なり故 にイエス彼 等 のためによくその益 を獲 べき法 を教 へたまへり操會者 主人 の産業 を耗 すと人 に訴 らるるは都 是 實事 にて寃屈 を蒙 るにあらず故 に主人 之 と計數 をなしてその職 を奪 げ再 び彼 を用 ひずとなせり操會者 自 ら度 るに一 たび職 を奪 らるれば身 の棲 處 もなく田 を耕 すには力 なく食 を乞 は耻 なり我 何 を為 んと思 案 しつつ忽 ち心 に一 の計 を思出 し潜 に主人 に負 債 せしものを招来 りその券 を改 めて各 減少 し負 債 者 を悦 ばしめこの恩 に感 ぜば我 将来 職 を失 ふとも必 ず我 を招 くものありて身 を寓 の地 あらんと その後 主人 査知 て彼 れの巧智 を稱 めしなり そもそも此 譬 の本 意 を説 に數 解 不 同 あり或人 の説 に(富 人 )は天國 の主 を指 し(操會者 )は法利 賽 の輩 を指 す(操會者 私 に各項 の券 を改 る)は法利 賽 私 に神 の誡命 を改 るを指 す十誡 第 五 條 に父母 を敬 へとあれば法利 賽 の人 は父母 に対 して爾 を養 ふべきものは禮物 なりと云 ば父母 を敬 はざるも可 とすといへり〔馬太十五章五節〕また凡 そ其妻 を出 して他 の者 を娶 らば姦淫 を行 なりと〔本章十八節〕あれば法利 賽 の人 は妻 と分離 るはその便 に随 べしと事々 減少 して守 り易 からしめ竟 に神 の律法 を己 れの意 に任 せて改 め世 の人 の喜悦 を博 せり イエスの弟子 に教 たまふは之 と反 なり世上 の不義 の財 は衆 に散 し財 を天國 に積 とおしへたまへり又 或人 の説 には(富 人 操會者 の職 を奪 ん)とするは天 父 ユダヤの舊敎 を用 ひたまはざるを指 す(操會者 の負 債者 と交 を結 び預 め身 を容 る計 を為 す)は法利 賽 信者 と交 を結 び将来 ユダヤの教 廃 するときに信者 之 を接納 てイエスの教會 に入 らしむるを教 たまふなりと此 両説 に據 従 人 あれども恐 らくは確解 にあらず第一節 に因 にイエス弟子 のために説 たまふこと明 なり法利 賽 のために説 たまふにあらず第八節 の主 は操會者 の主 を指 す救主 を指すにあらず主人 の操會者 を誉 るは善人 たるを誉 るにあらず行所 の機 に合 ひその智慧 巧 にして計 ごとよく長遠 に及 すを誉 るなり イエス此事 を説完 りまた此 機 會 に乗 て弟子 に操會者 の智慧 を学 び萬 事 計 ごとは事 に先 て備 んことを勧 めたまへり此 世 の子輩 とは世 の人 を指 し光 の子輩 とは信者 を指 せり世 の人 は肉身 の計 をなすによくゆき届 たり イエスの弟子 には信徳 軟弱 して目前 の事 を顧 て反 て世 の人 の巧 なるに及 ばざるものあり第 九 節 に不義 の財 を以 て友 を結 とは何故 に財 を不義 とは謂 に人の財 を得 る必 しも事々 義 に合 ふこと難 し多 は人 に語 るに堪 ず自 ら問 ふにも堪 ざることあり縦 ひ先 祖 より傳 はる財 にても其 来歴 を溯 ぬればまた義 に出 ざるものあり况 して此時 の弟子 には前 に税吏 にて財 を不義 より得 し者 少 からず(友 を得 よ)とは施捨 をなす人 を指 せり印書 を以 人 を送 り或 は傳道者 を養 て人 に道 を教 る等 の人 をいへり(乏 き時 )とは死 する時 を指 せり人 の死 するは操會者 の廃 せらるるが如 し(永遠 宅 )とは天國 を指 す操會者 人 の家 に接納 らるるは暫時 のことに過 ざれども信者 の天國 に接納 らるるは永遠 の事 なり故 に永遠 宅 といへるなり平日 我 の財 によりて救 を得 るもの此時 に来 接 へり故 に接 んといへるなり この譬 の大 旨 を要 るにイエス人 を教 たまふに世上 の財 を散 し善事 を行 へば将来 世 を逝 て天國 に接 られ従前 我 恩 を受 るものみな来 て感 謝 すと説 きたまへるなり我 儕 誠 に楽 むべきにあらずや萬年 身 を容 るの計 を為 んとするに此 より優 たるものなし昔 唐 の馮煖 といふもの孟嘗君 に語 て曰 く狡 兎 三窟 ありと恰 此 譬 と相 似 たり願 くば此書 を讀 むもの慎 て苟且 になすべからざるなり