新体詩抄/玉の緒の歌(巽軒居士)
余蚤ニ新體ノ詩ヲ作ラント欲セシト雖モ、其容易ノ業ナラザルヲ慮リ、先ツ和漢古今ノ詩歌文章ヲ學ビ、ソレヨリ漸次ニ新體ノ詩ヲ作ルノ路ヲ為サントシケルニ、一日尚今居士ハムレツトノ譯詩ヲ示サル、其文俗語ヲ交フト雖モ、反リテ古歌ヤ漢詩ノ解シガタキニ勝ル、因リテ余之ヲ歎賞シテ學藝雜誌第六號ニ載ス、次イテ丶山仙士モ亦ハムレツト并ニカーヂナル、ウルシー等ノ作アリ、是ニ於テ余思フニ古今ヲ問ハズ、東西ヲ論セス、凡ソ新體ノ詩ノ流行スルハ、大抵偶然ニ出ヅル者ニテ、必ズシモ百方鍊磨ノ勞ヲ俟タサルナリ、サレバ尚今居土丶山仙士ノ作ル所モ新體ノ詩ノ始メナルヤモ知ルベカラズ、乃チ自カラロングフェロー氏ノ玉の緒の歌ヲ譯シ、二君ヲシテ新體ノ詩ヲ剏造スルノ功ヲ專ラニセシメザラント欲ス余ノ作ル所略二君ニ同ジ、但〻二君ハ韻ヲ蹈マズ余ハ試ニ韻ヲ蹈ム、是レ其差ナリ、或ル人余ガ譯詩ヲ見テ、大ニ笑フ、盖シ或ル人ノ如キハ文學ノ盛衰興廢スル所以ヲ知ラザル者ニテ、深ク尤ムルニ足ラズ、夫レ明治ノ歌ハ、明治ノ歌ナルベシ、古歌ナルベカラズ、日本ノ詩ハ日本ノ詩ナルベシ、漢詩ナルベカラズ、是レ新體ノ詩ノ作ル所以ナリ、若シ夫レ押韻ノ法、用語ノ格等ハ、次第ニ改良スベキノミ、一時ニ為スベカラズ、看官幸ニ之ヲ諒察セヨ、
巽軒居士識
玉の緒の歌(一名人生の歌)
編集眠むる心は死ねるなり | 見ゆる形はおほろなり |
あすをも知らね我命 | あはれはかなき夢そかし |
などゝあはれにいふは惡し | |
我命こそまことなれ | 我命こそたしかなれ |
墓は終りの塲所ならず | 人な塵にて又散ると |
いふはからだのうへのこと | |
人の願は |
人の願は |
人の願はこれならず | 唯怠たらずはたらきて |
今日よりまさる明日をまて | |
强き胸たも亦たえず | |
皷の如く撃ち續け | 一日〳〵にちかくなる |
死出の旅をぞはやすなる | |
爭ひ多き世の中に | 此身を寄せて |
なりてます〳〵進むべし | 言なき啞となる勿れ |
如何に未來は樂しきも | 如何に空しき過去なるも |
共に之をは捨ておきて | われを忘れず神を知り |
はたらくべきは今日ばかり | |
すぐれたる人世に多し | われとても人相同じ |
勉め勵まば斯くならん | ゆめ怠らず勉めなば |
長く殘さん此名をば | |
海より荒き世の中に | 舟失ひて波の間に |
獨 |
我名を聞きて勇まなん |
我名を聞きて進まなん | |
さすれば人は氣を張りて | |
如何なる運も事とせず | 髙きに至れ馳せゆけよ |
樂あるぞはたらけよ |
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原文: |
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翻訳文: |
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