大塚徹・あき詩集/虚冬愛妻の詩


虚冬愛妻の詩 編集

妻よ。なんにも愚痴るまい、夢も昔も
ただもう古呆けた青磁のように、
しょせんひびのはいったこの身と心。

洗えば血のにじ生活たつき陰影かげだ。

叩けば埃もたつ情痴の汚点しみ

妻は姙娠みおも
やがてうまれでるわが子の心もとないゆく末よ
たがいにいたわりいたわる今朝の冬――

家をめぐってすすり泣く、凩の
せめて裸身はだかにかえる敬虔つつましい落葉を焚いて
なあ、いとしい妻よ、ともに熱い澁茶などすす
 ろう。

端座すれば、身近に濛々とたちのぼる
湯気は淡粧のニヒルの香気。
妻も停凭たちよりて泣く竹影の朽窓。

〈昭和七年、愛誦〉