301●秘蹟 ( ひっせき ) とは何 ( なに ) でありますか
▲秘蹟 ( ひっせき ) は聖寵 ( せいてう ) を施 ( ほどこ ) す爲 ( ため ) にイエズス、キリスト の定 ( さだ ) め給 ( たま ) うた記號 ( しるし ) であります。
秘蹟 ( ひっせき )
とは秘 ( かく ) れたる蹟(:跡) ( あと ) と云 ( い ) ふ字 ( じ ) で、秘蹟 ( ひっせき ) そのものは三 ( みつ ) の事 ( こと ) によって成立 ( なりた ) つ。
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(一)先 ( ま ) づ記號 ( しるし ) である事 ( こと ) 。(二)次 ( つぎ ) に其記號 ( そのきごう ) によって聖寵 ( せいてう ) を施 ( ほどこ ) す事 ( こと ) 。(三)遂 ( つひ ) に其記號 ( そのしるし ) はイエズス、キリスト が定 ( さだ ) め給 ( たま ) ふものたる事 ( こと ) 。
第 ( だい ) 一、秘蹟 ( ひっせき ) は
記號 ( しるし ) である。
記號 ( しるし ) とは、目 ( め ) に見 ( み ) える事 ( こと ) で、五官 ( くわん ) に觸 ( ふ ) れて、更 ( さら ) に何 ( なに ) か見 ( み ) えぬものゝある事 ( こと ) を知 ( し ) らせるものである。例 ( たと ) へば煙 ( けむり ) は火 ( ひ ) のある記號 ( しるし ) 、勲章 ( くんせう ) は功績 ( てがら ) のあった記號 ( しるし ) 、呻 ( うめ ) くのは苦 ( くるしみ ) の徴 ( しるし ) 、木 ( き ) の葉 ( は ) の落 ( お ) ちるのは冬 ( ふゆ ) が近 ( ちか ) く成 ( な ) る徴 ( しるし ) である。偖 ( さ ) て秘跡 ( ひせき ) は見 ( み ) えぬ結果 ( けっくわ ) が靈魂 ( れいこん ) に行 ( おこな ) はれる記号 ( きごう ) として定 ( さだ ) められた、例 ( たと ) へば、洗禮(礼) ( せんれい ) の時 ( とき ) に水 ( みづ ) で額 ( ひたひ ) を洗 ( あら ) ふのは罪 ( つみ ) が赦 ( ゆる ) されて霊魂 ( れいこん ) が潔 ( きよ ) められる記號 ( しるし ) 、聖體(体) ( せいたい ) の麪 ( ぱん ) の色形 ( いろかたち ) は靈魂 ( れいこん ) の養 ( やしなひ ) に成 ( な ) る
[下段]
ことを意味 ( いみ ) する。
第 ( だい ) 三、秘蹟 ( ひっせき ) は
イエズス、キリスト の定 ( さだ ) め給 ( たま ) ふたものである。
罪 ( つみ ) の赦 ( ゆるし ) や聖寵 ( せいてう ) は無形 ( むけい ) で目 ( め ) に見 ( み ) えぬものであるから何 ( なに ) か有形的 ( みえる ) 徴 ( しるし ) がなければ之 ( これ ) を受 ( う ) けたるや否 ( いな ) やは知 ( し ) るに由 ( よし ) なき故 ( ゆゑ ) イエズス、キリスト は人間 ( にんげん ) の目 ( め ) に見 ( み ) え耳 ( みゝ ) に聞 ( きこ ) える徴 ( しるし ) を制定 ( さだ ) め、障碍 ( せうげ ) なく之 ( これ ) を受 ( う ) けさへすれば必 ( かなら ) ず聖寵 ( せいてう ) を戴 ( いたゞ ) くやう定 ( さだ ) め給 ( たま ) うた。是 ( これ ) が即 ( すなは ) ち秘蹟 ( ひせき ) である。イエズス、キリスト が是 ( これ ) を定 ( さだ ) め給 ( たま ) うたのは、此世 ( このよ ) に居 ( を ) られた時 ( とき ) と同 ( おな ) じく人々 ( ひとゞゝ ) に聖寵 ( せいてう ) を得 ( え ) させ、御受難 ( ごじゅなん ) 御死去 ( ごしきょ ) の功徳 ( くどく ) を何時 ( いつ ) までも續 ( つゞ ) かせる爲 ( ため ) である。
秘蹟 ( ひせき ) は聖寵 ( せいてう ) を施 ( ほどこ ) す爲 ( ため ) に定 ( さだ ) められたるものであれば、授 ( さづ ) ける人 ( ひと ) の如何 ( いかん ) に拘 ( かゝ ) はらず自功 ( じこう ) (ex opere operato)即 ( すなは ) ち其業 ( そのわざ ) の固有 ( こいう ) の功能 ( こうのう ) によって聖寵 ( せいてう ) を生 ( ) ずる、恰 ( あたか ) も薪 ( たきゞ ) は之 ( これ ) を燃 ( も ) やす人 ( ひと ) の手 ( て ) の如何 ( いかん ) に拘 ( かゝ ) はらず燃 ( も ) ゆると同様 ( どうやう ) である。無論天主 ( むろんてんしゅ ) たる御者 ( おんもの ) の外 ( ほか ) に何人 ( なにびと ) でも聖寵 ( せいてう ) を有形的徴 ( ゆうけいてきしるし ) に繫 ( つな ) ぐ事 ( こと ) は出來 ( でき ) ぬ故 ( ゆゑ ) 、公教會 ( こうけうくわい ) では秘蹟 ( ひせき ) の儀式 ( ぎしき ) を定 ( さだ ) める事 ( こと ) は出來 ( でき ) ても、秘蹟 ( ひっせき ) の肝要 ( かんえう ) な部分 ( ぶぶん ) を變(変)更 ( へんかう ) する事 ( こと ) は許 ( ゆる ) されない。
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(註 ( ちゅう ) )公教會 ( こうけうくわい ) では七 ( なゝつ ) の秘蹟 ( ひせき ) の外 ( ほか ) に罪 ( つみ ) の赦 ( ゆるし ) と聖寵 ( せいてう ) を蒙 ( かうむ ) る方法 ( はうはふ ) を定 ( さだ ) めた、例 ( たと ) へば主禱文 ( しゅたうぶん ) 、告白 ( こくはく ) の祈禱等 ( いのりなど ) を特 ( とく ) にミサ聖祭 ( せいさい ) の中 ( うち ) に誦 ( とな ) へる事 ( こと ) 、施 ( ほどこし ) 即 ( すなは ) ち靈肉上 ( れいにくぜう ) の慈善事業 ( じぜんじげふ ) を行 ( おこな ) ふ事 ( こと ) 、司教司祭 ( しけうしさい ) の掩祝 ( ゑんしゅく ) を受 ( う ) ける事 ( こと ) 、聖靈降福式 ( せいれいかうふくしき ) に与 ( あづか ) る事 ( こと ) 、聖水 ( せいすゐ ) や祝別 ( しゅくべつ ) された御画御像 ( ごゑごぞう ) を用 ( もち ) ゐる事等 ( ことなど ) である。然 ( さ ) れど是皆 ( これみな ) イエズス、キリスト の定 ( さだ ) め給 ( たま ) ふた事 ( こと ) ではないから秘蹟 ( ひせき ) ではない、併 ( しか ) し之等 ( これら ) は全權 ( ぜんけん ) を委 ( ゆだ ) ねられた公教會 ( こうけうくわい ) の制定 ( さだめ ) であって準秘蹟 ( じゅんひせき ) (sacramentalia)秘蹟 ( ひせき ) に似 ( に ) たものと名 ( なづ ) けられてある。是 ( これ ) を用 ( もち ) ゐる時 ( とき ) はキリスト の御言 ( おことば ) に「汝等 ( なんぢら ) が地上 ( ちぜう ) に釋(釈) ( と ) く所 ( ところ ) は天 ( てん ) にも釋(釈) ( と ) かる」と仰 ( おほ ) せられた通 ( とほ ) り小罪 ( せうざい ) を赦 ( ゆる ) され聖寵 ( せいてう ) を増 ( ま ) す場合 ( ばあひ ) があり得 ( う ) るに相違 ( さうゐ ) ない、其 ( それ ) は秘蹟 ( ひせき ) の如 ( ごと ) く自功即 ( じこうすなは ) ち其業 ( そのわざ ) の功能 ( こうのう ) によるのではなく、人功 ( じんこう ) (ex opere operantia)即 ( すなは ) ち之 ( これ ) を行 ( おこな ) ひ或 ( あるひ ) は用 ( もち ) ゐる時 ( とき ) の其人 ( そのひと ) の信仰及 ( しんかうおよ ) び熱心次第 ( ねっしんしだい ) である。公教會 ( こうけうくゎい ) で最 ( もっと ) も大事 ( だいじ ) にするのは秘蹟 ( ひっせき ) である。信者 ( しんじゃ ) が秘蹟 ( ひっせき ) を受 ( う ) けるのは、秘蹟 ( ひっせき ) を授 ( さづ ) かる、戴 ( いたゞ ) く、拜受 ( はいじゅ ) する等 ( など ) と云 ( い ) ふが、司祭 ( しさい ) は之 ( これ ) を授 ( さづ ) ける、施 ( ほどこ ) す、執行 ( しっかう ) する等 ( など ) と云 ( い ) はれる。
302●秘蹟 ( ひっせき ) は幾 ( いく ) つありますか
▲秘跡 ( ひっせき ) は七 ( なゝ ) つあります、即 ( すなは ) ち洗禮(礼) ( せんれい ) 、堅振 ( けんしん ) 、聖體(体) ( せいたい ) 、悔悛 ( くわいしゅん ) 、終油 ( しゅうゆ ) 、品級 ( ひんきふ ) 、婚姻 ( こんいん ) で
[下段]
あります。
(註 ( ちゅう ) )生 ( うま ) れてから死 ( し ) ぬるまで、自然 ( しぜん ) の生命 ( いのち ) を保 ( たも ) つに種々 ( いろゝゝ ) の方法 ( はうはふ ) が要 ( い ) る如 ( ごと ) く、超自然 ( てうしぜん ) の生命 ( いのち ) なる聖寵 ( せいてう ) を保 ( たも ) つにも然 ( さ ) うであるが、殊 ( こと ) に秘蹟 ( ひっせき ) は之 ( これ ) に能 ( よ ) く相當(当) ( さうたう ) して居 ( ゐ ) る。洗禮(礼) ( せんれい ) は聖寵 ( せいてう ) の生命 ( いのち ) に生 ( うま ) れさせ、堅振 ( けんしん ) は発育 ( はついく ) して完全 ( くわんぜん ) な人物 ( じんぶつ ) に成 ( な ) る爲 ( ため ) の方法 ( はうはふ ) に當(当) ( あた ) る、聖體(体) ( せいたい ) は食物 ( しょくもつ ) が肉身 ( にくしん ) の生命 ( いのち ) を保 ( たも ) つ如 ( ごと ) く靈魂 ( れいこん ) の糧 ( かて ) と成 ( な ) りて靈魂 ( れいこん ) の生命 ( いのち ) を保 ( たも ) ち、悔悛 ( くわいしゅん ) は罪故 ( つみゆゑ ) に生 ( せう ) じた病 ( やまひ ) や傷 ( きず ) を療 ( なほ ) す薬 ( くすり ) と成 ( な ) り、終油 ( しゅうゆ ) は大病 ( たいべう ) の特別養生 ( とくべつようぜう ) に相當(当) ( さうたう ) し、品級 ( ひんきふ ) は超自然 ( てうしぜん ) の生命 ( いのち ) を殖 ( ふや ) す親 ( おや ) (聖職者 ( せいしょくしゃ ) )を造 ( つく ) り、婚姻 ( こんいん ) は自然 ( しぜん ) の生命 ( いのち ) を殖 ( ふ ) やす親 ( おや ) を造 ( つく ) る道 ( みち ) である。
303●惡心 ( あしきこゝろ ) を以 ( もっ ) て秘蹟 ( ひっせき ) を受 ( う ) けても聖寵 ( せいてう ) を蒙 ( かうむ ) りますか
▲否 ( いな ) 、聖寵 ( せいてう ) を蒙 ( かうむ ) らぬ計 ( ばか ) りでなく、聖 ( せい ) なるものを瀆 ( けが ) す故 ( ゆゑ ) 、却 ( かへっ ) て瀆聖 ( とくせい ) の大罪 ( だいざい ) に成 ( な ) ります。
惡心 ( あしきこゝろ ) を以 ( もっ ) て秘蹟 ( ひっせき ) を受 ( う ) ける
とは、大罪 ( だいざい ) を有 ( も ) ちながら洗礼 ( せんれい ) 、悔悛 ( くゎいしゅん ) 以外 ( いぐゎい ) の秘蹟 ( ひっせき ) を受 ( う ) け、或 ( あるひ ) は相當(当) ( さうたう ) の準備 ( じゅんび ) もなく、その何 ( なに ) たるやも解 ( わか ) らないまゝで秘蹟 ( ひっせき ) を授 ( さづ ) かる事 ( こと ) である。
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瀆聖 ( とくせい ) の大罪 ( だいざい ) に成 ( な ) る
とは、第 ( だい ) 百四十三の問 ( とひ ) に見 ( み ) ゆ。
(註 ( ちゅう ) )大罪 ( だいざい ) の気掛 ( きがゝり ) を有 ( も ) ちながら受 ( う ) けられる洗禮(礼)及 ( せんれいおよ ) び悔悛 ( くわいしゅん ) の秘蹟 ( ひっせき ) は無論罪 ( むろんつみ ) の赦 ( ゆるし ) を蒙 ( かうむ ) り聖寵 ( せいてう ) を蒙 ( かうむ ) る爲 ( ため ) であるので殊 ( こと ) に「死者 ( ししゃ ) の秘蹟 ( ひっせき ) 」と名 ( なづ ) けられた。何 ( なん ) となれば大罪 ( だいざい ) を以 ( もっ ) て聖寵 ( せいてう ) を失 ( うしな ) ひ、天主 ( てんしゅ ) の子女 ( こども ) の資格 ( しかく ) に於 ( おい ) ては死 ( し ) したるが如 ( ごと ) く成 ( な ) りたる人 ( ひと ) も領 ( う ) けられるからである。他 ( た ) の秘蹟 ( ひっせき ) を領 ( う ) けるには大罪 ( だいざい ) の気掛 ( きがゝり ) があるならば必 ( かなら ) ず悔悛 ( くわいしゅん ) の秘蹟或 ( ひっせきあるひ ) は切 ( せめ ) て完全 ( くわんぜん ) な痛悔 ( つうくゎい ) を以 ( もっ ) て一旦大罪 ( ひとまづだいざい ) の赦 ( ゆるし ) を受 ( う ) けぬなら更 ( さら ) に瀆聖 ( とくせい ) の罪 ( つみ ) に成 ( な ) る其秘蹟 ( そのひっせき ) は殊 ( こと ) に「生者 ( せいしゃ ) の秘蹟 ( ひっせき ) 」と名 ( なづ ) けられてある。それは聖寵 ( せいてう ) を以 ( もっ ) て靈魂 ( れいこん ) の超自然 ( てうしぜん ) の生命 ( いのち ) を有 ( も ) った者 ( もの ) でなければ之 ( これ ) を受 ( う ) ける事 ( こと ) は出來 ( でき ) ぬからである。過 ( あやまち ) なしに準備 ( じゅんび ) の足 ( た ) らぬ時 ( とき ) は瀆聖 ( とくせい ) に成 ( な ) らねど其効果 ( そのかうくわ ) は防 ( さまた ) げらる、其 ( それ ) でも生涯 ( せうがい ) 一度 ( ど ) に限 ( かぎ ) る三 ( みつ ) の秘蹟 ( ひっせき ) を二度受 ( どう ) ける譯(訳) ( わけ ) には行 ( ゆ ) かぬ、之 ( これ ) に相當(当) ( さうたう ) する資格 ( しかく ) と之 ( これ ) に付 ( つ ) いた義務 ( ぎむ ) とを帯 ( お ) びて居 ( を ) れば、其他 ( そのた ) の結果 ( けっくわ ) を防 ( さまた ) げられた丈 ( だけ ) で、其障碍 ( そのせうげ ) を除 ( のぞ ) いて効果 ( かうくわ ) を戴 ( いたゞ ) かれるやうに努 ( つと ) むべき外 ( ほか ) はない。
さて公教會 ( こうけうくゎい ) で秘蹟 ( ひっせき ) を授 ( さづ ) けるに種々 ( さまゞゝ ) の儀式 ( ぎしき ) を定 ( さだ ) めたのは、其秘蹟 ( そのひっせき ) の價値 ( ねうち ) を上 ( あ ) げ其効果 ( そのかうくわ ) を能 ( よ ) く示 ( しめ ) し隨 ( したが ) って人 ( ひと ) の信仰 ( しんかう ) を起 ( おこ ) させる
[下段]
爲 ( ため ) である。之 ( これ ) を其意味 ( そのいみ ) を覺 ( さと ) り、適當(当) ( てきたう ) に秘蹟 ( ひせき ) を授 ( さづか ) るやうに努 ( つと ) むれば、夫丈 ( それだ ) け潤澤(沢) ( じゅんたく ) に聖寵 ( せいてう ) を蒙 ( かうむ ) るに相違 ( さうゐ ) ない。併 ( しか ) し其儀式 ( そのぎしき ) は如何 ( いか ) ほど有益 ( いうえき ) と云 ( い ) っても要素的 ( えうそてき ) でないから、已 ( やむ ) を得 ( え ) ぬ時 ( とき ) には省 ( はぶ ) かれても秘蹟 ( ひっせき ) の効力 ( かうりょく ) には変 ( かはり ) はない。例 ( たと ) へば死 ( しに ) に頻 ( ひん ) して居 ( を ) る人 ( ひと ) に洗礼 ( せんれい ) を授 ( さづ ) けるには言 ( ことば ) を唱 ( とな ) へながら水 ( みづ ) を注 ( そゝ ) ぐばかりで他 ( た ) の式 ( しき ) を略 ( りゃく ) する。
304◯生涯 ( せうがい ) に只 ( ただ ) 一度受 ( どう ) ける秘蹟 ( ひっせき ) がありますか
△有 ( あ ) ります、洗禮(礼) ( せんれい ) 、堅振 ( けんしん ) 、品級 ( ひんきふ ) であります。
此三 ( このみつ ) の秘蹟 ( ひっせき ) は二度受 ( どう ) けられず一度 ( ど ) に限 ( かぎ ) る、其 ( それ ) で若 ( も ) し不適當(当) ( ふてきたう ) に授 ( さづか ) った時 ( とき ) は唯其 ( たゞそれ ) を悔 ( くや ) み、聖寵 ( せいてう ) を回復 ( くわいふく ) する事 ( こと ) を祈 ( いの ) る外 ( ほか ) に道 ( みち ) なし。再 ( ふたゝ ) び之 ( これ ) を受 ( う ) けるは初 ( はじめ ) に受 ( う ) けた時 ( とき ) の仕方 ( しかた ) に不足 ( ふそく ) あって役 ( やく ) に立 ( た ) たなかったかと思 ( おも ) はれる時 ( とき ) 、例 ( たと ) へば洗禮(礼) ( せんれい ) の水 ( みづ ) が肌 ( はだ ) に觸 ( ふ ) れなかったか其言 ( そのことば ) の言方 ( いひかた ) が間違 ( まちが ) ったかと疑 ( うたが ) はしい時 ( とき ) に条件付 ( でうけんつき ) で受直 ( うけなほ ) すに限 ( かぎ ) る。然 ( しか ) し此場合 ( このばあひ ) でも二度受 ( どう ) けると云 ( い ) ふ意味 ( いみ ) ではない、萬 ( まん ) 一役 ( やく ) に立 ( た ) たなかった時 ( とき ) に補 ( おぎな ) ひとするに過 ( す ) ぎない。
305◯何故洗禮(礼) ( なぜせんれい ) 、堅振 ( けんしん ) 、品級 ( ひんきふ ) は生涯 ( せうがい ) 一度 ( ど ) し
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か受 ( う ) けられませんか
△此 ( この ) 三の秘蹟 ( ひっせき ) は、永遠 ( えいゑん ) に消 ( き ) へない資格 ( しかく ) を与 ( あた ) へるからであります。
即 ( すなは ) ち洗禮(礼) ( せんれい ) は天主 ( てんしゅ ) の子女 ( こども ) たる資格 ( しかく ) 、堅振 ( けんしん ) は天主 ( てんしゅ ) の軍人 ( ぐんじん ) たる資格 ( しかく ) 、品級 ( ひんきふ ) は聖職者 ( せいしょくしゃ ) の資格 ( しかく ) を與(与) ( あた ) へる。如何 ( いか ) なる過失 ( あやまち ) を犯 ( をか ) しても此三 ( このみつ ) の資格 ( しかく ) は
失 ( うしな ) はれぬ。
天國 ( てんごく ) に在 ( あ ) っては名譽 ( めいよ ) 幸福 ( かうふく ) の種 ( たね ) に成 ( な ) るが、地獄 ( ぢごく ) に在 ( あ ) っては反対 ( はんたい ) に恥辱 ( ちじょく ) と苦痛 ( くつう ) の種子 ( たね ) と成 ( な ) る。他 ( た ) の書物 ( しょもつ ) に靈魂 ( れいこん ) に消 ( き ) えざる徴 ( しるし ) を付 ( つ ) けるとあるのは有形的 ( いうけいてき ) の徴 ( しるし ) でなく、此 ( この )
資格 ( しかく ) を与 ( あた ) へる
との事 ( こと ) であります。