公教要理説明/03-05

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第（だい）五十一課（くゎ）　洗　禮（礼）（せんれい）（一）

306◯救靈（たすかり）を得（え）るに最（もっと）も必要（ひつえう）な秘蹟（ひせき）は何（なに）でありますか

△最（もっと）も必要（ひつえう）は洗禮（礼）（せんれい）であります。

救靈（たすかり）を得（え）るに洗禮（礼）（せんれい）の最（もっと）も必要（ひつえう）な

譯（訳）（わけ）は、之（これ）を受（う）けずしては救靈（たすかり）を得（え）る事（こと）が出來（でき）ぬからである、イエズス、キリスト曰（のたまは）く「人（ひと）は水（みづ）と靈（れい）とにより新（あらた）に生（うま）れるに非（あら）ずば天主（てんしゅ）

[下段]

の御國（みくに）に入（い）ること能（あた）はず」と（ヨハネ、三。五）、叉洗禮（礼）（またせんれい）を以（もっ）て人（ひと）は初（はじ）めて天主（てんしゅ）の子（こ）となり公教會（こうけうくわい）に入（い）る。從（したがっ）て洗礼（せんれい）を受（う）けた上（うへ）でなければ、他（た）の秘跡（ひっせき）を受（う）ける事（こと）も許（ゆる）されない。

（註（ちゅう））救靈（たすかり）に要（えう）するは本書（ほんしょ）に説（と）く水（みづ）の洗禮（礼）（せんれい）であるが、若（も）し心（こゝろ）から洗禮（礼）（せんれい）を望（のぞ）んでも之（これ）を授（さづ）かる事（こと）が出來（でき）ず、完全（くゎんぜん）の痛悔（つうくゎい）を起（おこ）して死（し）んだなら救霊（たす）からぬ事（こと）はない。其（それ）で洗禮志願者（せんれいしぐゎんしゃ）にして不得事由（やむをえざるじゆう）の爲（ため）に受洗（じゅせん）しないまゝで死（し）んだ時（とき）は、信者同様（しんじゃどうやう）に取扱（とりあつか）はれる。叉洗礼（またせんれい）を受（う）けない人（ひと）で天主（てんしゅ）の爲（ため）に殺（ころ）される人（ひと）、例（たと）へばイエズス、キリストの誕生（たんぜう）に当（あた）り無慚（むざん）に殺（ころ）された二歳以下（さいいか）の子供（こども）の如（ごと）きは救靈（たすかり）を得（え）る。然（さ）れば洗禮（礼）（せんれい）は、水（みづ）の洗礼（せんれい）、望（のぞみ）の洗禮（礼）（せんれい）、血（ち）の洗禮（礼）（せんれい）の三種（みとほり）あると云（い）ふ事（こと）が出來（でき）る。

307●洗禮（礼）（せんれい）とは何（なに）でありますか

▲洗禮（礼）（せんれい）は水（みづ）と天主（てんしゅ）の御名（みな）を以（もっ）て、原罪（げんざい）、自罪（じざい）、其償（そのつぐのひ）をも、全（まった）く赦（ゆる）し、天主（てんしゅ）の子（こ）と成（な）らせる秘跡（ひせき）であります。

洗礼（せんれい）

とは、洗（あら）ふ禮（礼）（れい）と云（い）ふ字（じ）である。

水（みづ）と天主（てんしゅ）の御名（みな）を以（もっ）て

とは、「天主（てんしゅ）三位（さんゐ）の御名（みな）によって洗（あら）ふ」と云（い）ひな

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がら水（みづ）で洗（あら）ふ事（こと）を斥（さ）すが、洗禮（礼）（せんれい）に於（おい）て記號（号）（しるし）に成（な）るのは其（それ）である。

次（つぎ）の言（ことば）は其記號（号）（そのしるし）の効果（かうくわ）を云（い）ふ、即（すなは）ち罪（つみ）を赦（ゆる）し叉（また）、資格（しかく）を与（あた）へる。赦（ゆる）されるのは

原罪（げんざい）と自罪（じざい）

とで、即（すなは）ち人祖（じんそ）アダムより伝（つたは）った罪（つみ）と、自分（じぶん）の其（それ）まで犯（をか）した罪（つみ）とを悉（ことゞゝ）く赦（ゆる）され、叉（また）

其償（そのつぐのひ）、

即（すなは）ち罪（つみ）の爲（ため）に靈魂（れいこん）の受（う）くべき罰（ばつ）までも

全（まった）く赦（ゆる）される。

其（それ）で洗禮（礼）（せんれい）を受（う）けて直（すぐ）に死（し）ぬ者（もの）は、必（かなら）ず直接天國（ちょくせつてんごく）に入（い）る筈（はず）である。

天主（てんしゅ）の子（こ）と成（な）らせる。

即（すなは）ち洗禮（せんれい）を受（う）ければ聖寵（せいてう）を戴（いたゞ）いて愈（いよい）よ天主（てんしゅ）の愛子（あいし）と成（な）り、イエズス、キリストの兄弟（けうだい）となり、家督（かとく）として天国（てんごく）の終（をはり）なき幸福（さいはひ）を受（う）くべきものと成（な）る。

洗礼（せんれい）が

秘蹟（ひっせき）である

事（こと）は何（なに）より明（あきら）かである、即（すなは）ち第（だい）三百〇一の問（とひ）に在（あ）る三（みつ）の要件（えうけん）が、明（あきら）かに揃（そろ）って居（を）る。

308●洗禮（礼）（せんれい）の時何（ときなに）を約束（やくそく）しますか

▲惡魔（あくま）と其業（そのわざ）とを棄（す）て、公教（こうけう）を眞実（しんじつ）に守（まも）る事（こと）を約束（やくそく）します。

[下段]

洗礼（せんれい）には二（ふたつ）の約束（やくそく）が含（ふく）まる。第（だい）一、

惡魔（あくま）と其業（そのわざ）とを棄（す）て、

惡魔（あくま）を棄（す）てるとは、以後之（いごこれ）と関係（くわんけい）を断（た）ち之（これ）に従（したが）はず、却（かへっ）て之（これ）を敵（てき）とする事（こと）である。惡魔（あくま）の勸（すゝ）める惡事（あくじ）、凡（すべ）ての罪（つみ）、及（およ）び其機會（そのきくわい）を避（さ）ける事（こと）である。司祭（しさい）が三度惡魔（どあくま）を棄（す）てますか、惡魔（あくま）の業（わざ）を棄（す）てますか、惡魔（あくま）の奢（おごり）を棄（す）てますかと問（と）へば、本人若（ほんにんもし）くは代父代母（だいふだいぼ）は毎度答（まいどこた）へて、棄（す）てますと云（い）ふ。惡魔（あくま）の奢（おごり）とは、人（ひと）を罪（つみ）に誘（さそ）ふ爲（ため）に用（もち）ゐる快樂（くわいらく）虛飾等（きょしょくなど）を云（い）ふ。

第（だい）二、

公教（こうけう）を眞実（しんじつ）に守（まも）る事（こと）。

式（しき）の初（はじめ）に次（つぎ）の問答（もんどう）がある。

（問（とひ））天主（てんしゅ）の教會（けうくわい）に何（なに）を願（ねが）ひますか（答（こたへ））信仰（しんかう）を願（ねが）ひます。

（問（とひ））信仰（しんかう）を以（もっ）て何（なに）を得（え）ますか（答（こたへ））終（をはり）なき生命（いのち）を得（え）ます。

叉洗禮（礼）（またせんれい）を受（う）ける前（まへ）に、改（あらた）めて次（つぎ）の問答（もんどう）がある。

（問（とひ））天地（てんち）の創造主（さうゞゝしゅ）全能（ぜんのう）の父（ちゝ）なる天主（てんしゅ）を信（しん）じますか、（答（こたへ））信（しん）じます。（問（とひ））其御一子（そのおんひとりご）我主（わがしゅ）イエズス、キリストが此世（このよ）に生（うま）れて苦（くる）しみ給（たま）うた事（こと）を信（しん）じますか（答（こたへ））信（しん）じます。（問（とひ））聖靈（せいれい）、聖（せい）

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公會（こうくわい）、諸聖人（しょせいじん）の通功（つうこう）、罪（つみ）の赦（ゆるし）、肉身（にくしん）の復活（よみがへり）、終（をはり）なき生命（いのち）を信（しん）じますか、（答（こたへ））信（しん）じます。（問（とひ））何（なに）を願（ねが）ひますか、（答（こたへ））洗礼（せんれい）を願（ねが）ひます。（問（とひ））愈（いよい）よ洗禮（礼）（せんれい）を望（のぞみ）ますか、（答（こたへ））望（のぞ）みます。

是（これ）こそ公教會（こうけうくわい）及其教（およびそのをし）ふる所（ところ）を堅（かた）く信（しん）じて、之（これ）に從（したが）ふとの約束（やくそく）である。

（註（ちゅう））洗禮（礼）（せんれい）に代父代母（だいふだいぼ）を用（もち）ゐるは、受洗者（じゅせんしゃ）が大人（おとな）ならば天主（てんしゅ）に立（た）つる其約束（そのやくそく）の証人（せうにん）と成（な）り、小児（こども）ならば之（これ）に代（かは）って天主（てんしゅ）に約束（やくそく）を立（た）て、生（う）みの親（おや）と共（とも）に、或（あるひ）は之（これ）に代（かは）ってでも其約束（そのやくそく）を守（まも）らせる爲（ため）である。然（さ）て代父代母（だいふだいぼ）は受洗者（じゅせんしゃ）に取（と）って親（おや）の如（ごと）き者（もの）なれば之（これ）と婚姻（こんいん）を結（むす）ぶ事（こと）は許（ゆる）されぬ。

309◯何（なん）の爲（ため）に靈名（れいめい）を付（つ）けますか

△霊名（れいめい）を付（つ）けるのは、聖人（せいじん）の名（な）を以（もっ）て己（おのれ）の名（な）とし、其聖人（そのせいじん）を保護（ほご）に賴（たの）み、鑑（かゞみ）にする爲（ため）であります。

靈名（れいめい）を付（つ）ける

とは、姓名（せいめい）の外（ほか）に信者（しんじゃ）としての名（な）を付（つ）けられる事（こと）である。

聖人（せいじん）の名（な）を以（もっ）て己（おのれ）の名（な）とす

聖人（せいじん）の名（な）に限（かぎ）る事（こと）はないけれども、聖會（せいくわい）の望（のぞ）む所（ところ）は、聖人（せいじん）の

[下段]

中（うち）で自分（じぶん）に相當（当）（さうたう）する方（かた）を認（みと）めて、其名（そのな）を取（と）る事（こと）である。

其聖人（そのせいじん）を保護（ほご）に賴（たの）む。

斯（か）く戴（いたゞ）いた靈名（れいめい）の聖人（せいじん）を殊（こと）に擁護者（ようごしゃ）と云（い）ふが、之（これ）を特別（とくべつ）に尊敬（そんけい）し、叉御転逹（またおんとりつぎ）を依頼（いらい）する事（こと）、殊（こと）に其聖人（そのせいじん）の祝日（しゅくじつ）を尊（たっと）ぶ事（こと）は最（もっと）も相應（ふさわ）しい事（こと）である。

鑑（かゞみ）にする。

是（これ）は何（なに）より天主（てんしゅ）の御心（みこゝろ）に叶（かな）ひ、擁護者（ようごしゃ）を敬愛（けいあい）する道（みち）である。