公教要理説明/02-14

Wikisource:宗教 > カテキズム > 公教要理説明

－154－

第（だい）三十八課（くわ）　公教会（こうけうくわい）の六つの律令（おきて）

209●天主（てんしゅ）の十誡（かい）の外（ほか）に尚守（なおまも）らねばならぬ律令（おきて）があるか

▲然（しか）り、公教会（こうけうくわい）の律令（おきて）をも亦守（またまも）らねばなりませぬ。

公教会（こうけうくわい）の律令（おきて）

とは、イエズス、キリストの命令（めいれい）を守（まも）らせ、悪弊（あくへい）を除（のぞ）き、信者（しんじゃ）を救霊（たすかり）に導（みちび）く為（ため）に、使徒及（しとおよ）び其相続（そのさうぞく）

－155－

者（しゃ）が立（た）てる規則（きそく）や命令（めいれい）、誡等（いましめなど）である。

即（すなは）ちイエズス御昇天前（ごせうてんまへ）に使徒等（しとたち）に命（めい）じて「往（ゆ）きて万民（ばんみん）に教（をし）へ我（わ）が汝等（なんぢら）に命（めい）ぜし事（こと）を悉（ことゞゝ）く守（まも）るべく教（おし）へよ」。と（マ　テ　オ二八。二十）仰（おっ）しゃったので公教会（こうけうくわい）では律令（おきて）を立（た）てゝ（一）先（ま）づイエズスの命令（めいれい）を守（まも）る道（みち）を明（あきら）かにするのである。例（たと）へば悔悛（くわいしゅん）、聖体（せいたい）の秘跡（ひせき）を定（さだ）め給（たま）ふたれど、何時領（いつう）くべしとは仰（おっ）しゃらぬので、公教会（こうけうくわい）では、少（すくな）くとも年（ねん）に一度（ど）との律令（おきて）を立（た）て、（二）叉断食（まただんじき）せよとイエズス、キリストは仰（おっ）しゃったが、公教会（こうけうくわい）は其方法（そのはうはふ）を示（しめ）して、大斎小斎（だいさいせうさい）の律令（おきて）を設（まう）けられたのである。

（三）併（しか）し其（それ）ばかりでない、使徒等（しとたち）には殊更（ことさら）に「汝等（なんぢら）が地上（ちぜう）にて繋（つな）がん所（ところ）は天（てん）にても繋（つな）がるべし」と（マ　テ　オ一八。十八）云（い）はれたが、繋（つな）ぐと云（い）ふ詞（ことば）は無論規則（むろんきそく）や律令（おきて）を立（た）てるとの意味（いみ）で、人間（にんげん）を救霊（たすかり）に導（みちび）く任（にん）に当（あた）れば、其（それ）が為（ため）に全権（ぜんけん）を受（う）けて、使徒等及（しとたちおよ）び相続者（さうぞくしゃ）は、教会（けうくわい）を治（をさ）め、信者（しんじゃ）の取締（とりしまり）に必要（ひつえう）と認（みと）める規則（きそく）や律令（おきて）を立（た）てる事（こと）を委（ゆだ）ねられたに相違（さうゐ）ない、公教会（こうけうくわい）の第（だい）一第（だい）二の律令（おきて）は其類（そのるゐ）である。

（四）其語（そのことば）に次（つ）いでイエズス、キリストは叉（また）「汝等（なんぢら）が地上（ちぜう）にて

[下段]

釈（と）かん所（ところ）は、天（てん）にても釈（と）かるべし。」と仰（おっ）しゃったから、律令（おきて）を立（た）てるの権（けん）と共（とも）に、入用次第（いりようしだい）に其律令（そのおきて）を改（あらた）め、寛（ゆる）め、叉免（またゆる）すの権（けん）を賜（たま）ふたに相違（さうゐ）ない。其時（そのとき）に天（てん）に於（おい）ても是認（ぜにん）せられるとの御約束（おんやくそく）なれば、使徒及（しとおよ）び相続者（さうぞくしゃ）は、実際（じっさい）に律令（おきて）を制定（さだ）め得（う）ることは疑（うたがひ）ない。公教会（こうけうくわい）で日曜日（にちえうび）に働（はたら）く免（ゆるし）を与（あた）へ得（う）るのは其訳（そのわけ）に基（もとづ）くのである。

公教会（こうけうくわい）の律令（おきて）をも亦守（またまも）らねばなりませぬ

とは、イエズス殊更（ことさら）に、「人（ひと）が教会（けうくわい）に聴（き）かずば、異教人（いけうじん）、税吏（みつぎとり）の如（ごと）く見做（みな）すべし」（マ　テ　オ十八。十七）叉（また）「汝等（なんぢら）に聴（き）く人（ひと）は我（われ）に聴（き）き、汝等（なんぢら）を軽（かろ）んずる人（ひと）は我（われ）を軽（かろ）んずる」（ル　カ十。十六）等仰（などおほ）せられたからであります。然（さ）う云（い）はれたのは十二使徒（しと）であって、其相続者（そのさうぞくしゃ）は公教会（こうけうくわい）の外（ほか）になしと知（し）らねばならぬ。

律令（おきて）を立（た）てる権（けん）ある以上（いぜう）、公教会（こうけうくわい）は叉之（またこれ）を守（まも）らせる方法（はうはふ）をも設（まう）ける事（こと）が出来（でき）る筈（はず）。例（たと）へば守（まも）らぬ者（もの）には秘跡（ひせき）を拒（こば）む事（こと）、教会（けうくわい）から破門（はもん）する事（こと）、キリスト教的葬礼（けうてきさうれい）を禁（きん）ずる事等（ことなど）は其訳（そのわけ）である。

（註（ちゅう））天主（てんしゅ）の十誡（かい）と公教会（こうけうくわい）の律令（おきて）の異（ちが）ふ所（ところ）は、（一）十誡（かい）は人（ひと）

－156－

皆之（みなこれ）を守（まも）るべきに、公教会（こうけうくわい）の律令（おきて）はキリスト信者（しんじゃ）だけに止（とゞま）る。（二）十誡（かい）は何時（いつ）も何処（どこ）も同（おな）じものであるのに、公教会（こうけうくわい）の律令（おきて）は命令（めいれい）であるから其時（そのとき）が極（きま）って居（を）る、叉叶（またかな）はぬ時（とき）には守（まも）らぬでも可（よ）い。

210◯公教会（こうけうくわい）の律令（おきて）は幾（いく）つあるか

△公教会（こうけうくわい）の一般（ぱん）の律令（おきて）は主（おも）なるものは六（むつ）あります。

一般（ぱん）の律令（おきて）

とは、誰彼（たれかれ）に拘（かゝは）らず、信者皆（しんじゃみな）に係（かゝ）る律令（おきて）であって、

六（む）つあります。

尚司祭（なほしさい）、修道者（しゅうだうしゃ）、教会（けうくわい）の裁判（さいばん）、規律（きりつ）、儀式等（ぎしきなど）に関（くわん）する律令（おきて）は、大昔（おほむかし）から種々立（いろゝゝた）てられて、法律（はふりつ）のやうに夥（おびたゞ）しい。

（註（ちゅう））公教会（こうけうくわい）の律令（おきて）は、何処（いづこ）でも異（かは）る事（こと）がないけれど、信者（しんじゃ）に殊更（ことさら）に記憶（きおく）させねばならぬ事（こと）が国（くに）によって異（ことな）るから、従（したが）って律令（おきて）の称方（となへかた）も国（くに）によって幾許（いくら）か違（ちが）ふ。例（たと）へば日本（にっぽん）に現今採用（げんこんさいよう）する文（ぶん）は、仏国（ふっこく）あたりのものに似（に）て、律令（おきて）の第（だい）一第（だい）二は聖（せい）

[下段]

日（じつ）を守（まも）り、第（だい）三第（だい）四は大事（だいじ）な秘跡（ひせき）を授（さづか）り、第（だい）五第（だい）六は斎（ものいみ）を為（す）るに関（くわん）するもので、独逸（どいつ）も然（さ）うであるが、羅馬（ろうま）では、第（だい）一と第（だい）二、第（だい）三と第（だい）四、第（だい）五と第（だい）六を合（あは）せて三（みつ）にし、其次第（そのつぎだい）四には、法令及（はふれいおよ）び慣習（くわんしふ）に従（したが）って、献金（けんきん）を以（もっ）て教会（けうくわい）の入用（いりよう）に応（おう）ずべし、第（だい）五には、禁止（きんし）の時（とき）に婚姻（こんいん）の公式（こうしき）を執行（しっかう）すべからず、とあるだけである。英国米国等（えいこくべいこくなど）では、第（だい）一と第（だい）二、第（だい）五と第（だい）六を合（あは）せて二（ふた）つとし、第（だい）三と第（だい）四を其侭（そのまゝ）に置（お）き、第（だい）五には我司牧者等（わがしぼくしゃたち）の生活費（せいかつひ）を分担（ぶんたん）すべし、第（だい）六には、婚姻（こんいん）は血族禁等内及（けつぞくきんとうないおよ）び他（た）の障碍（せうげ）ある者（もの）の間（あひだ）には結（むす）ばず、叉禁止（またきんし）の時（とき）に其公式（そのこうしき）を執行（しっかう）すべからず、との事（こと）である。

其（それ）で律令（おきて）の文（ぶん）に載（の）せて無（な）いから律令（おきて）に成（な）らぬと云（い）ふ訳（わけ）には行（ゆ）かぬ、律定（おきて）は文面（ぶんめん）に限（かぎ）ったものではない、叉其文（またそのぶん）は教会（けうくわい）の頭（かしら）に必要（ひつえう）と認（みと）められる時（とき）は、何時（いつ）でも之（これ）を訂正（ていせい）する事（こと）が出来（でき）る。