信経問答

wikisource:宗教 > 信経問答

• 底本: 松本高太郎 訳『正教要理問答』,正教会事務所,明29.6. 国立国会図書館デジタルコレクション:info:ndljp/pid/824722

信経（しんけい）問答（もんどう）

問　信経（しんけい）とは何（なん）なりや

答　信経（しんけい）とは我（われ）等（ら）信者（しんじや）の必（かなら）ず信（しん）ずべき箇條（かでう）を分（わか）り易（やす）く約（つづ）めて言（い）ひ顕（あら）はせるものなり

問　信経（しんけい）と云（い）ふ語（ことば）は如何（いか）なる意（こころ）なりや

答　信経（しんけい）とは語（ことば）短（みぢか）き信仰（しんかう）の箇條（かでう）と云（い）ふことなり

問　如何（いか）なることを信経（しんけい）には言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　神父（かみちち）の事神（かみ）子（こ）の事神（かみ）の子（こ）が人（ひと）の躰（からだ）を取（と）りし事苦（くるしみ）を受（う）けし事死（し）せし事復活（よみがへ）りし事天（てん）に昇（のぼ）りし事此（この）世（よ）に再度（ふたたび）降臨（くだる）の事聖神（せいしん）の事教會（けうくわい）の事機（き）密（みつ）の事死（し）者（しゃ）の復生（よみがへり）の事来世（らいせい）の生命（いのち）の事（こと）を言（い）ひ顕（あら）はさるゝなり

問　誰（たれ）が信経（しんけい）を組（そ）織（しき）せしや

答　第一第二の全（ぜん）地（ち）公（こう）會（くわい）の諸（しょ）師父（しふ）なり

問　全（ぜん）地（ち）公（こう）會（くわい）とは何（なん）なりや

答　ハリストスの教（おしへ）の眞（しん）理（り）を固（かた）むるが為（ため）に全（ぜん）世（せ）界（かい）より集（あつま）りたる牧（ぼく）師（し）教（けう）師（し）の公（こう）會（くわい）なり

問　斯（かか）る公（こう）會（くわい）は幾（いく）何（つ）ありしや

答　七つありたり而（しかし）て第一と第二の公（こう）會（くわい）（第一は降生後三百廿五年ニケヤに開かれ第二は降生後三百八十一年コンスタンチノーポルに開かれたり）に於（おい）て信経（しんけい）を組織（そしき）せられたり

問　其（その）信経（しんけい）は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　一　我（われ）信（しん）ず一（ひとつ）の神父（かみちち）全能者（ぜんのうしゃ）天（てん）と地（ち）見（み）ゆると見（み）えざる萬物（ばんもつ）を造（つく）りし主（しゅ）を

二　又（また）信（しん）ず一（ひとつ）の主（しゅ）イイスス ハリストス神（かみ）の獨生（どくせい）の子（こ）萬（よろづ）世（よ）の前（さき）に父（ちち）より生（うま）れ光（ひかり）よりの光（ひかり）眞（まこと）の神（かみ）よりの眞（まこと）の神（かみ）生（うま）れし者（もの）にて造（つく）られしにあらず父（ちち）と一体（いつたい）にして萬物（ばんもつ）彼（かれ）に造（つく）られ

三　我（われ）等（ら）人々（ひとびと）の為（ため）又（また）我（われ）等（ら）の救（すく）ひの為（ため）に天（てん）より降（くだ）り聖神（せいしん）及（およ）び童（どう）貞（てい）女（ぢょ）マリヤより身（み）を取（と）り人（ひと）となり

四　我（われ）等（ら）の為（ため）にポンテイ ピラトの時（とき）十（じふ）字（じ）架（か）に釘（くぎ）うたれ苦（くるしみ）を受（う）け葬（ほうむ）られ

五　第三（だいさん）日（じつ）に聖（せい）書（しょ）に應（かな）ふて復（ふく）活（くわつ）し

六　天（てん）に升（のぼ）り父（ちち）の右（みぎ）に座（ざ）し

七　光（くわう）栄（えい）を顕（あらは）して生（い）ける者（もの）と死（し）せし者（もの）を審判（さばき）する為（ため）に還（また）来（きた）り其（その）國（くに）終（おは）りなからんを

八　又（また）信（しん）ず聖（せい）神（しん）主（しゅ）生（いのち）を施（ほどこ）す者（もの）父（ちち）より出（い）で父（ちち）及（およ）び子（こ）と共（とも）に拝（おが）まれ讃（ほ）められ預（よ）言（げん）者（しゃ）を以（もつ）て嘗（かつ）て言（い）ひしを

九　又（また）信（しん）ず一（ひとつ）の聖（せい）なる公（おほやけ）なる使徒（しと）の教（けう）會（くわい）を

十　我（われ）認（みと）む一（ひとつ）の洗禮（せんれい）以（もつ）て罪（つみ）の赦（ゆる）しを得（う）るを

十一　我（われ）望（のぞ）む死（し）者（しゃ）の復（ふく）活（くわつ）

十二　並（ならび）に来世（らいせい）の生命（いのち）を　アミン

問　信経（しんけい）は幾何（いくつ）の箇條（かでう）に別（わか）るゝや

答　十二の箇條（かでう）に別（わか）たる

問　信経（しんけい）の第一か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『我（われ）信（しん）ず一（ひとつ）の神父（かみちち）全能者（ぜんのうしゃ）天（てん）と地（ち）見（み）ゆると見（み）えざる萬物（ばんもつ）を造（つく）りし主（しゅ）を』

問　此（この）第一か條には如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　聖三者（せいさんしゃ）の第一位なる神父（かみちち）のことを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　如何（いか）に神父（かみちち）のことを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　其（その）本体（ほんたい）に於（おい）て獨一（ひとつ）なる神父（かみちち）は全能（ぜんのう）者（しゃ）にして見（み）ゆると見（み）えざる一切（いっさい）萬物（ばんもつ）の造主（つくりぬし）なることを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　神（かみ）とは如何（いか）なるものなりや

答　神（かみ）は霊（れい）なり即（すなは）ち神（かみ）は形骸（からだ）無（な）きものにして我（われ）等（ら）が見（み）ることも亦（また）其（その）躰（たい）を想像（さうざう）することも出来（でき）ざるものなり

問　若（も）し神は形骸（からだ）無（な）き霊（れい）ならば何故（なにゆえ）聖書（せいしょ）には神（かみ）の手（て）足（あし）耳（みみ）目（め）などのことを載（の）するや

答　聖書（せいしょ）に斯（か）く記（しる）さるゝは人（ひと）の躰（からだ）のことに擬（なぞら）へて神（かみ）の霊（れい）なる行為（みわざ）を解（げ）し易（やす）からしむる為（ため）なり例令（たとへ）ば神（かみ）の眼（め）とは其（その）全（ぜん）知（ち）なることを示（しめ）し神（かみ）の手（て）とは其（その）全能（ぜんのう）なることを示（しめ）すの類（たぐひ）なり

問　若（も）し神（かみ）は霊（れい）ならば如何（いか）なる方法（しかた）を以（もつ）て其（その）聖（み）旨（むね）を人々に告（つ）げ知（し）らせたるや

答　神（かみ）は其（その）聖（み）旨（むね）を種々（いろいろ）の方法（しかた）を以（もつ）て人々（ひとびと）に告（つ）げ知（し）らせたり例令（たとへ）ば神は人（ひと）の形（かたち）を以（もつ）て顕（あら）はれ（アウラアムに三人の旅人（たびびと）の姿（すがた）にて現（あら）はれヤコフには識（し）らざる人の姿（すがた）にて現（あら）はれ闘（たたか）ひたり）或（あるひ）は火焔（ほのふ）と喇叭（らっぱ）の声（こえ）の中（うち）に現（あら）はれ（シナイ山に於（おい）て法律（おきて）を民（たみ）に授（さづ）くる時（とき））或（あるひ）は見（み）えざる姿（すがた）にて語（ことば）を交（まじ）へ（モイセイに）或（あるひ）は夢（ゆめ）に現（あら）はれて宣託（つげ）をなしたり（メソポタミヤにてヤコフに）此（この）種々（いろいろ）の顕現（あらはれ）を象（かたどり）て聖像（せいざう）にも神（かみ）の姿（すがた）を種々（いろいろ）に画（えが）かるゝなり

問　其外（そのほか）の神（かみ）の性質（せいしつ）は何々なりや

答　神（かみ）は『永在（えいざい）』なり即（すなは）ち神（かみ）には嘗（かつ）て在（あ）らざりし時（とき）なく又（また）無（なか）らんとする時（とき）もなく今迄（いままで）も常（つね）に在（あ）り今（いま）も在（あ）り後（のち）にも限（かぎ）りなく在（あ）るなり

次に『全能（ぜんのう）』なり即（すなは）ち神（かみ）は其（その）聖（み）旨（むね）のままに萬（ばん）事（じ）を成（な）すの能力（ちから）を備（そな）へ給（たま）ふなり

次に『遍在（へんざい）』即（すなは）ち神（かみ）は天（てん）にも在（あ）り地（ち）にも在（あ）り家（いへ）にも在（あ）り水（みづ）にも在（あ）り火（ひ）にも在（あ）りて其（その）在（あ）らざる処（ところ）なければなり

次に『全（ぜん）知（ち）』即（すなは）ち神（かみ）は見（み）ざる処（ところ）なく知（し）らざる処（ところ）なく天（てん）のことも知（し）り地（ち）のことも知（し）り啻（た）だ我（われ）等（ら）の外（そと）の行為（しわざ）のみならず内（うち）の思慮（おもひ）願望（ねがひ）をも明（あきら）かに知（し）るなり

次に『全善（ぜんぜん）』なり即（すなは）ち神（かみ）は其（その）善（ぜん）なる聖（み）旨（むね）を以（もつ）て福楽（ふくらく）を得（え）せしめんが為（ため）に我（われ）等（ら）人間（にんげん）を造（つく）り又（また）我（われ）等（ら）の願望（ねがひ）を納（い）れて我（われ）等（ら）に惠（めぐみ）を與（あた）へらるゝを以（もつ）てなり

次に『公（こう）義（ぎ）』なり即（すなは）ち神（かみ）は善（ぜん）を賞（しゃう）して悪（あく）を罰（ばつ）し貴（き）賤（せん）と貧（ひん）富（ぷ）とに拘（かかは）らず公平（おほやけ）に賞罰（しゃうばつ）を行（おこな）ふなり

次に『不（ふ）変（へん）』なり即（すなは）ち神（かみ）の本性（ほんせい）は何時（いつ）も変（かは）ることなく昔（むかし）も今（いま）も後（のち）も常（つね）に同様（どうやう）なり

次に『全福（ぜんぷく）』なり即（すなは）ち神（かみ）は萬福（ばんぷく）の源（みなもと）にして是（これ）を他（た）より受（う）くるに非（あら）ず返（かへつ）て是（これ）を萬物（ばんもつ）に授（さづ）け凡（すべて）の福祉（さいはひ）皆（みな）神（かみ）より出（い）でざるはなし

問　何故（なにゆえ）に信経（しんけい）には唯（ただ）神（かみ）を信（しん）ずと云（い）はずして『独一（ひとつ）の』と云（い）へる語（ことば）を加（くは）へられしや

答　神（かみ）は其（その）本体（ほんたい）に於（おい）て独一（ひとつ）なることの真（しん）理（り）を明（あきら）かに示（しめ）して多神（おほくのかみ）を信（しん）ずる邪（よこしま）なる教（おしへ）を斥（しりぞ）くるが為（ため）なり

問　信経（しんけい）に『父（ちち）』と云（い）はれしは如何（いか）なる真（しん）理（り）を顕（あら）はすや

答　本体（ほんたい）に於（おい）て独一（ひとつ）なる神（かみ）は位（くらい）に於（おい）て三つなることの真（しん）理（り）を顕（あら）はすなり

問　其（その）位（くらい）とは何々（なになに）なりや

答　第一の位（くらい）を父（ちち）と云（い）ひ第二の位（くらい）を子（こ）と云（い）ひ第三の位（くらい）を聖神（せいしん）と云（い）ふ而（しかし）て此三（このみつ）の位（くらい）は唯（ただ）独一（ひとつ）の神（かみ）なり故（ゆえ）に独一（ひとつ）の神（かみ）を或（あるひ）は聖三者（せいさんしゃ）と名（な）づくるなり

問　此（この）聖三者（せいさんしゃ）の中（うち）孰（いづ）れにか尊（たつと）き卑（いやし）きの区（く）別（べつ）ありや

答　孰（いづ）れも尊（たつと）き卑（いやし）きの区（く）別（べつ）なく総（すべ）て同等（どうとう）なり故（ゆえ）に神父（かみちち）は真実（しんじつ）の神（かみ）として神（かみ）たる凡（すべ）ての本性（ほんせい）を具（そな）へ神（かみ）子（こ）も亦（また）真実（しんじつ）の神（かみ）として神（かみ）たる凡（すべ）ての本性（ほんせい）を具（そな）へ聖神（せいしん）も亦（また）此（かく）の如（ごと）し然（しか）れども神（かみ）は三つなるに非（あら）ず矢張（やは）り独一（ひとつ）なり

問　神（かみ）の三（さん）位（い）の間（あいだ）に如何（いか）なる相（あひ）互（たがひ）の違（ちがひ）あるや

答　神父（かみちち）の位（くらひ）は其（その）他（た）の位（くらひ）よりより生（うま）るゝことなく亦（また）出（い）づることなし神（かみ）子（こ）の位（くらひ）は永遠（とこしへ）に神父（かみちち）より生（うま）れ聖神（せいしん）の位（くらひ）は永遠（とこしへ）に神父（かみちち）より出（い）づるなり

問　神父（かみちち）は如何（いか）なる姿（すがた）にて聖像（せいざう）に象（かたど）らるゝや

答　老人（としより）の姿（すがた）に象（かたど）らる如何（いかん）となれば昔（むかし）の聖人（せいじん）が其様（そのやう）なる姿（すがた）にて神父（かみちち）の顕現（あらは）れたるを見たる故（ゆえ）なり（但（ダニイル）七の十一）

問　何故（なにゆえ）に信経（しんけい）には神（かみ）を『全能者（ぜんのうしゃ）』と名（な）づくるや

答　神（かみ）は其（その）聖（み）旨（むね）と能力（ちから）とを以（もつ）て世（せ）界（かい）萬物（ばんもつ）を摂（せつ）理（り）するが故（ゆえ）なり

問　何故（なにゆえ）に神（かみ）は『萬物（ばんもつ）を造（つく）りし主（しゅ）』と名（な）づけらるゝや

答　凡（すべ）ての見（み）ゆると見（み）えざる萬物（ばんもつ）を造（つく）り給（たま）ひたればなり

問　『見（み）ゆる物（もの）』とは如何（いか）なるものなりや

答　凡（すべ）て我（われ）等（ら）が眼（め）にて見（み）るを得（う）るもの即（すなは）ち天（てん）地（ち）山海（やまうみ）人類（ひと）禽（とり）獣（けもの）草（くさ）木（き）の類（たぐひ）なり

問　『見（み）えざるもの』とは如何（いか）なるものなりや

答　無形（かたちなき）の世（せ）界（かい）即（すなは）ち神（かみ）の使（つかひ）等（など）なり

問　如何（いか）なる順序（じゅんじょ）を以（もつ）て神（かみ）は世（せ）界（かい）を造（つく）りしや

答　凡（すべ）ての物（もの）の先（さき）に神（かみ）の使（つかひ）を造（つく）り其後（そののち）に無組織（くみたてなき）の原資（もと）を造（つく）り此（この）無組織（くみたてなき）の原資（もと）より六日の間（あひだ）に天地（てんち）萬物（ばんぶつ）を造（つく）り給（たま）へり而（しかし）て人間（にんげん）は其（その）世界（せかい）創造（さうざう）の最（もっと）も終（おは）りなる六日目に造（つく）られたり

問　神（かみ）の使（つかひ）とは如何（いか）なるものなりや

答　形体（からだ）なき見（み）えざるの霊（れい）にして其（その）性質（せいしつ）は畧（ほぼ）我（われ）等（ら）の霊（たましひ）に等（ひと）しきものなり而（しかし）て我（われ）等（ら）と同（おな）じく智（ち）情（じゃう）意（い）を具（そな）ふれども唯（た）だ我（われ）等（ら）に異（こと）なる処（ところ）は我（われ）等（ら）よりも完全（まった）き者（もの）にして我（われ）等（ら）よりも多（おお）くの事（こと）を識（し）り又（また）我（われ）等（ら）に勝（まさ）りたる能力（ちから）を有（たも）つなり

問　何（なん）の為（ため）に神（かみ）の使（つかひ）は造（つく）られたるや

答　神（かみ）の使（つかひ）の造（つく）られしは其（その）造主（つくりぬし）の光栄（さかえ）を讃（さん）美（び）する為（た）め又（また）我（われ）等（ら）人間（にんげん）の救済（すくひ）に務（つと）むるが為（ため）なり

問　神（かみ）の使（つかひ）は幾品（いくひん）に別（わか）たるゝや

答　三品（さんぴん）に別（わか）たる即（すなは）ち第（だい）一品（いつぴん）はセラヒム、ヘルビム、宝（はう）座（ざ）、第（だい）二品（にひん）は主制（しゅせい）、能力（のうりょく）、権柄（けんぺい）、第（だい）三品（さんぴん）は首領（しゅりゃう）、神（しん）使（し）長（ちゃう）、神（しん）使（し）なり

問　守護（しゅご）神（しん）使（し）とは何（なに）を指（さ）すや

答　我（われ）等（ら）が洗礼（せんれい）を領（う）けたる時（とき）より断（た）えず我（われ）等（ら）に付（つき）添（そ）ひて我（われ）等（ら）を諸慾（しょよく）より護（まも）り永遠（えいえん）の生命（いのち）に導（みちび）く神（かみ）の使（つかひ）を云（い）ふ

問　神（かみ）の使（つかひ）は如何（いか）なる姿（すがた）に象（かたど）らるゝや

答　羽翼（つばさ）を具（そな）へたる少年（せうねん）の姿（すがた）に象（かたど）らる是（こ）れ神（かみ）の使（つかひ）が何処（いづこ）へ至（いた）るも自（じ）由（ゆう）自（じ）在（ざい）にして神（かみ）の命（いひつけ）を行（おこな）ふの至（いたり）て迅速（じゅんそく）なるを示（しめ）すなり

問　神（かみ）の使（つかひ）は総（すべ）て聖（せい）且（か）つ善（ぜん）なるや

答　否（いな）悪（あ）しき者（もの）もあるなり是（これ）等（ら）は悪（あく）魔（ま）と名（な）づけらる

問　神（かみ）の使（つかひ）と悪（あく）魔（ま）とは如何（いか）なる相違（ちがひ）あるや

答　其（その）体（たい）に於（おい）ては孰（いづ）れも形骸（からだ）よく見（み）えざるの霊（れい）にして共（とも）に智（ち）情（じゃう）意（い）を具（そな）ふる者（もの）なれども神（かみ）の使（つかひ）は神（かみ）の命（めい）に従（したが）ひて人間（にんげん）の救済（すくひ）を扶（たす）け悪（あく）魔（ま）は神（かみ）の命（めい）に従（したが）はずして返（かへつ）て人間（にんげん）の救済（すくひ）を害（がい）する者（もの）なり

問　信経（しんけい）の第二か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『又（また）信（しん）ず一（ひとつ）の主（しゅ）イイスス ハリストス神（かみ）の獨生（どくせい）の子（こ）萬（よろづ）世（よ）の前（さき）に父（ちち）より生（うま）れ光（ひかり）よりの光（ひかり）眞（まこと）の神（かみ）よりの眞（まこと）の神（かみ）生（うま）れし者（もの）にて造（つく）られしにあらず父（ちち）と一体（いつたい）にして萬物（ばんもつ）彼（かれ）に造（つく）られ』

問　此（この）第二か條は如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　聖三者（せいさんしゃ）の第（だい）二位（にい）なる神（かみ）の子（こ）イイスス ハリストスのことを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　如何（いか）に神（かみ）子（こ）のことを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　彼（かれ）は神父（かみちち）の独一子（ひとりご）にして萬（よろづ）世（よ）の前（さき）に神父（かみちち）より生（うま）れ光（ひかり）より出（い）でし光（ひかり）眞（まこと）の神（かみ）より出（い）でし眞（まこと）の神（かみ）造（つく）られたるに非（あら）ず生（うま）れたる者（もの）神父（かみちち）と一体（いったい）にして萬物（ばんもつ）皆（みな）彼（かれ）にて造（つく）られしことを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　何故（なにゆえ）に神（かみ）の子（こ）イイスス ハリストスは信経（しんけい）に於（おい）て主（しゅ）と名（な）づけらるゝや

答　神父（かみちち）は眞（まこと）の神（かみ）なるが如（ごと）く神（かみ）の子（こ）も亦（また）眞（まこと）の神（かみ）なることを示（しめ）すが為（ため）なり盖（そは）主（しゅ）と云（い）ふの名（な）は神（かみ）と云（い）ふ名（な）と同（おな）じなればなり

問　イイススと云（い）ふの名（な）は如何（いか）なる意（こころ）なるや

答　世（よ）を救（すく）ふ者（もの）と云（い）ふ意（こころ）なり

問　何故（なにゆえ）に神（かみ）の子（こ）は救主（すくひぬし）と名（な）づけらるゝや

答　我（われ）等（ら）を救（すく）ふが為（ため）に世（よ）に降（くだ）り我（われ）等（ら）に天国（てんごく）の門（もん）を開（ひら）き給（たま）ひたればなり

問　ハリストスと云（い）ふの名（な）は如何（いか）なる意（こころ）なるや

答　膏（あぶら）を傅（つ）けられたる者（もの）と云（い）ふの意（こころ）なり

問　何故（なにゆえ）に神（かみ）の子（こ）は膏（あぶら）を傅（つ）けられしものと云（い）はるゝや

答　彼（かれ）は其（その）人性（じんせい）に於（おい）て深（ふか）く聖神（せいしん）の恩恵（めぐみ）に満（み）たさるゝが故（ゆえ）なり

問　神（かみ）の子（こ）の外（ほか）に膏（あぶら）を傅（つ）けられし者（もの）と云（い）はるゝ者（もの）は無（な）きや

答　昔時（むかし）エウレイ（ヘブライ）の民（たみ）の中（うち）にては国王（こくわう）、司（し）祭（さい）長（ちゃう）、預（よ）言者（げんしゃ）など皆（みな）膏（あぶら）を傅（つ）けられし者（もの）と名（な）づけられたり而（しかし）て我（われ）等（ら）の主（しゅ）イイスス ハリストスは最（い）と尊（たふと）く此（この）三職（さんしょく）を兼（かね）有（たも）つ即（すなは）ち彼（かれ）は王（わう）たり祭（さい）司（し）長（ちゃう）たり預（よ）言者（げんしゃ）たるなり

問　何故（なにゆえ）に神（かみ）の子（こ）は独生（どくせい）の子（こ）と名（な）づけらるゝや

答　彼（かれ）は永遠（えいえん）に神父（かみちち）の本性（ほんせい）より生（うま）るゝ独（ひとり）の子（こ）なるを以（もつ）てなり（翰（イオアン）一の十四）聖書（せいしょ）には神（かみ）を畏（おそ）るゝ義（ただし）き者（もの）をも神の子と名（な）づくれども神（かみ）の本性（ほんせい）の子（こ）にはあらず唯（た）だ神（かみ）の優渥（ゆうあく）なる恩寵（めぐみ）に依（よ）りて神（かみ）の子（こ）と名（な）づけらるゝなり

問　神（かみ）の子（こ）は何時（いつ）神父（かみちち）より生（うま）れしや

答　萬（よろづ）世（よ）の先（さき）に生（うま）れたり即（すなは）ち神父（かみちち）の永遠（えいえん）に在（いま）すが如（ごと）く彼（かれ）も亦（また）永遠（えいえん）に在（いま）すなり

問　何故（なにゆえ）に神（かみ）の子（こ）は父（ちち）と一体（いったい）なる者（もの）と名（な）づけらるゝや

答　神（かみ）の子（こ）は神父（かみちち）と同体（どうたい）にして彼（かれ）と父（ちち）とは一（ひとつ）なればなり（翰（イオアン）十の三十）

問　萬物（ばんもつ）彼（かれ）に造（つく）られとは如何（いか）なる意味（こころ）なるや

答　『萬物（ばんもつ）皆（みな）神（かみ）の子（こ）に依（より）て造（つく）られ』たるを云（い）ふなり

問　信経（しんけい）の第三か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『我（われ）等（ら）人々（ひとびと）の為（ため）又（また）我（われ）等（ら）の救（すく）ひの為（ため）に天（てん）より降（くだ）り聖神（せいしん）及（およ）び童（どう）貞（てい）女（ぢょ）マリヤより身（み）を取（と）り人（ひと）となり』

問　此（この）第三か條に於（おい）ては如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　神（かみ）の子（こ）が人躰（ひとのからだ）を取（と）りしことを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　神（かみ）の子（こ）は如何（いか）様（やう）にして人躰（ひとのからだ）を取（と）られしや

答　天（てん）より降（くだ）り聖神（せいしん）の能力（ちから）に因（より）て処女（しょじょ）マリヤより人躰（じんたい）を取（と）り我（われ）等（ら）の如（ごと）く全（まった）き人（ひと）となりたり（罪（つみ）なきの外（ほか））然（しか）れども神（かみ）たるを失（うしな）ひしにはあらず

問　如何（いか）なる場（ば）合（あひ）の時（とき）神（かみ）の子（こ）は処女（しょぢょ）より生（うま）れしや

答　ロマの皇帝アウグストの時（とき）天（てん）下（か）の戸（こ）籍（せき）を査（しらぶ）る詔命（のり）出（い）でければユデヤの民（たみ）は皆（みな）戸（こ）籍（せき）に登（のぼ）るが為に各（おのおの）其（その）故郷（ふるさと）に帰（かへ）りたり処女（しょぢょ）マリヤの聘定（いいなづけ）の夫（おつと）イヲシフも戸（こ）籍（せき）に登（のぼ）るが為（ため）に其（その）故郷（ふるさと）なるビフレムの邑（むら）に至（いた）りしが何（いづ）れの家（いへ）も充（みち）満（ふさが）りて宿（やど）るべき家（いへ）なかりければ雨（う）天（てん）の日に羊（ひつじ）を逐（お）ひ入るゝ洞穴（ほらあな）の中（うち）に夜（よ）を明（あか）しけり其（その）夜（よ）此（この）洞穴（ほらあな）の中（うち）にて我（われ）等（ら）の主（しゅ）イイスス ハリストスは生（うま）れ給（たま）へり

問　正教（せいけう）会（くわい）は至（し）聖（せい）童貞女（どうていぢょ）マリヤの処女（しょぢょ）たりしことに就（つい）て如何（いか）に教（おし）へらるゝや

答　童貞女（どうていぢょ）マリヤは我（われ）等（ら）の主（しゅ）イイスス ハリストスを生（う）むの前（まへ）も生（う）むの時（とき）も生（う）みし後（のち）も処女（しょぢょ）なりしことを教（おし）ゆるなり

問　至（し）聖（せい）童貞女（どうていぢょ）マリヤに捧（ささ）ぐる最（もっと）も大切（たいせつ）なる祈（き）祷（たう）は何（なに）なりや

答　『聖（しゃう）神（しん）童貞女（どうていぢょ）や喜（よろこ）べよ云々』『常（つね）に福（さいはひ）にして云々（うんぬん）』の祈（き）祷（たう）なり

問　信経（しんけい）の第四か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『我（われ）等（ら）の為（ため）にポンテイ ピラトの時（とき）十（じふ）字（じ）架（か）に釘（くぎ）うたれ苦（くるしみ）を受（う）け葬（ほうむ）られ』

問　此（この）第四か條は如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　我（われ）等（ら）の主（しゅ）イイスス ハリストスの十（じふ）字架（じか）に釘（つけ）られし事苦（くるし）みし事葬（ほうむ）られし事を言（い）ひ顕（あら）はさる

問　何故（なにゆえ）に彼（かれ）は苦（くるし）みて死（し）せしや

答　彼（かれ）は罪（つみ）なく亦（また）罪（つみ）を犯（をか）さざる者（もの）なれども唯（ただ）我（われ）等（ら）の身（み）代（がは）りとなりて我（われ）等（ら）を罪（つみ）より救（すく）ひ贖（あがな）ふが為（ため）に苦（くるし）みて死（し）に給（たま）へり

問　イイスス ハリストスは神（かみ）にして如何（いか）に苦（くるし）み死（し）することを得（う）るや

答　彼（かれ）は其（その）神性（しんせい）に於（おい）て死（し）したるに非（あら）ず人性（じんせい）に於（おい）て死（し）したるなり其（その）神性（しんせい）に至（いた）りては固（もと）より苦（くるしみ）を受（う）くることも死（し）することもなきなり

問　イイスス ハリストスは如何（いか）なる重（おも）き苦（くるしみ）を受（う）けられしや

答　多（おほ）くの悪人（あくにん）等（ら）は種々（いろいろ）の手段（しかた）を以（もつ）て彼を嘲（あざけ）り詈（ののし）り彼の頭（かしら）に棘（いばら）の冕（かんむり）を冠（かむ）らしめ彼（かれ）を二人（ふたり）の盗賊（ぬすびと）の間（あひだ）に立（た）てて十（じふ）字架（じか）に釘（つけ）たり

問　何人（なにびと）が何処（いづこ）にイイススの屍（しかばね）を葬（ほうむ）りしや

答　アリマヘヤのイオシフと云（い）へる富（とめ）る義（ただし）き人（ひと）ありて己（おのれ）の所有（しょゆう）する新（あた）らしき墓（はか）にイイススの屍（しかばね）を蔵（おさ）めたり然（しか）るに祭（さい）司（し）長（ちゃう）等（ら）はピラトに求（もと）めて墓（はか）の石（いし）に封印（ふういん）し番兵（ばんぺい）を遣（つか）はして厳重（げんぢう）に警（けい）固（ご）したり

問　我（われ）等（ら）はイイスス ハリストスの釘（つけ）られし救（すく）ひの十（じふ）字架（じか）に於（お）ける信仰（しんかう）を如何（いか）に表（あらは）すべきや

答　祈（き）祷（たう）の時（とき）其（その）他（た）の場（ば）合（あひ）の時（とき）己（おのれ）の身（み）に十（じふ）字架（じか）の記号（しるし）をなして其（その）信仰（しんかう）を表（あらは）すべきなり

問　信経（しんけい）の第五か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『第三（だいさん）日（じつ）に聖書（せいしょ）に應（かな）ふて復（ふく）活（くわつ）し』

問　此（この）第五か條には如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　イイスス ハリストスの死（し）より復活（よみがへ）りしことを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　彼（かれ）は如何（いか）様（やう）に復活（よみがへ）りしや

答　死後（しご）三日（みつか）目（め）の黎明（よあけがた）に（即（すなは）ち日曜日）大（だい）なる地（ぢ）震（しん）ありて神（かみ）の使（つかひ）は墓（はか）の門（もん）より石（いし）を轉（ころ）ばし其上（そのうへ）に座（ざ）す其時（そのとき）イイスス ハリストスは神（かみ）たるの光栄（さかえ）を顕（あら）はして復活（よみがへ）れり墓（はか）を守りし番兵（ばんぺい）等（ら）は懼（おそ）れ戦（をのの）きて死（し）したる者（もの）の如（ごと）く倒（たほ）れ後（のち）走（はし）りて凡（すべ）て有（あ）りしことを祭（さい）司（し）長（ちゃう）等（ら）に告（つ）げしに彼（かれ）等（ら）は兵卒（へいそつ）に金（きん）子（す）を與（あた）へて其（その）弟子（でし）等（たち）がひそかにイイススの屍（しかばね）を竊（ぬす）みし如（ごと）く吹（ふい）聴（ちゃう）せしめたり

問　イイスス ハリストスの外（ほか）に死（し）より復活（よみがへ）りたる者（もの）ありや

答　復活（よみがへ）りし者（もの）あり例令（たとへ）ば旧約（きうやく）に於（おい）て預（よ）言者（げんしゃ）イサイヤはサレプタの寡婦（やもめ）の子（こ）を復活（よみがへ）らせ新約（しんやく）に於（おい）てイイスス ハリストスはラザル其（その）他（た）の人々（ひとびと）を復活（よみがへ）らしめたり然（しか）れども主（しゅ）イイスス ハリストスは他（た）の復活（よみがへ）りし者（もの）の如（ごと）く外（ほか）の者（もの）の力（ちから）に依（より）て復活（よみがへ）りしに非（あら）ず自（みづか）ら神（かみ）の能力（ちから）を以（もつ）て復活（よみがへ）りしなり

問　何故（なにゆえ）に信経（しんけい）には『聖書（せいしょ）に應（かな）ふて』と云（い）ふの語（ことば）を加（くは）へられしや

答　主（しゅ）イイスス ハリストスは数（す）百（ひゃく）年（ねん）前（ぜん）に預（よ）言者（げんしゃ）等（ら）が其（その）苦（くるしみ）の事死（し）の事復活（よみがへり）の事を預（よ）言（げん）せしが如（ごと）く実（じつ）に死（し）して復活（よみがへ）りしを証明（あか）すが為（た）めなり（イイスス ハリストスの苦（くるしみ）を受（う）くる預（よ）言（げん）は賽（イサイヤ）八十章^[1]復活（ふくくわつ）の預（よ）言（げん）は詩十五の十^[2]）而（しかし）て預（よ）言者（げんしゃ）イオナが三日（みつか）の間（あひだ）鯨（くじら）の腹（はら）に在（あ）りしことは主（しゅ）が三日（みつか）の間（あひだ）墓（はか）に在（あ）りしことの預（よ）象（しゃう）なり

問　信経（しんけい）の第六か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『天（てん）に升（のぼ）り父（ちち）の右（みぎ）に座（ざ）し』

問　此（この）第六か條には如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　イイスス ハリストスの天（てん）に升（のぼ）りしことを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　如何（いか）様（やう）に彼（かれ）は天（てん）に升（のぼ）りしや

答　主（しゅ）の復活（よみがへ）りし後（のち）四十日後に使徒（でし）等（たち）をイエルサリムよりエレオン山に導（みちび）き手（て）を挙（あげ）て彼（かれ）等（ら）を祝（しゅく）し祝（しゅく）する時（とき）彼（かれ）等（ら）を離（はな）れ天（てん）に挙（あげ）らる雲（くも）これを接（うけ）て見（み）えざらしめたり使徒（でし）等（たち）は驚（おどろ）きて天（てん）を仰（あふ）ぎ視（み）たりしに白衣（しろきころも）を着（き）たる二人（ふたり）の人（ひと）ありて傍（かたはら）に立（た）ち言（い）ひけるは爾曹（なんぢら）を離（はな）れて天（てん）に挙（あげ）られし此（この）イイススは爾曹（なんぢら）が彼（かれ）の天（てん）に升（のぼ）るを見（み）たる其（その）如（ごと）く亦（また）来（き）たらんと彼（かれ）等（ら）これを拝（はい）して甚（いた）く喜（よろこ）びイエルサリムに帰（かへ）りたり

問　『父（ちち）の右（みぎ）に座（ざ）し』とは如何（いか）なる意（こころ）なるや

答　神（かみ）の子（こ）イイスス ハリストスは神父（かみちち）と同等（どうとう）の能力（ちから）と光栄（さかえ）を有（たも）つことを示（しめ）すなり

問　信経（しんけい）の第七か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『光（くわう）栄（えい）を顕（あらは）して生（い）ける者（もの）と死（し）せし者（もの）を審判（さばき）する為（ため）に還（また）来（きた）り其國（そのくに）終（おは）りなからんを』

問　此（この）第七か條には如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　イイスス ハリストスの此（この）世（よ）に再（ふたた）び臨（のぞ）み給（たま）ふ事公審判（こうしんぱん）の事及（およ）び永遠（えいえん）の国（くに）の事を言（い）ひ顕（あら）はさる

問　イイスス ハリストスが此（この）世（よ）に再（ふたた）び臨（のぞ）み給（たま）ふ時（とき）は前（まへ）に此（この）世（よ）に在（あ）りし時（とき）と同（おな）じきや

答　大（おほい）に異（ことな）れり前（さき）には我（われ）等（ら）を罪（つみ）と死（し）より救（すく）ふが為（ため）に最（もっと）も卑賤（いやし）き身（み）分（ぶん）を以（もつ）て世（よ）に降（くだ）りたれども再（ふたた）び世（よ）に臨（のぞ）むの時（とき）は萬民（よろづのひと）を審判（さば）くが為（ため）に神（かみ）たるの光栄（さかえ）を顕（あら）はして来（きた）らるゝなり

問　彼（かれ）は悉（ことごと）くの人（ひと）を審判（さば）かるゝや

答　生（い）ける者（もの）と死（し）せる者（もの）を悉（ことごと）く審判（さば）かるゝなり而（しかし）て死（し）せる者（もの）は其時（そのとき）に至（いた）りて復活（よみがへ）らるゝなり

問　如何（いか）様（やう）に審判（さば）かるゝや

答　人々（ひとびと）其（その）身（み）に覚（おぼへ）ある凡（すべ）ての罪（つみ）を白（はく）状（じゃう）し啻（ただ）に行（おこなひ）のみならず凡（すべ）ての思（おもひ）と望（のぞみ）までも神（かみ）の使（つかひ）と萬民（よろづのひと）の前（まへ）に露出（あらは）さるゝなり

問　イイスス ハリストスは人々（ひとびと）を審判（さばき）する為（ため）に何時（いつ）来（きた）らるゝや

答　其事（そのこと）は人間（にんげん）のみならず神（かみ）の使（つかひ）も亦（また）知（し）らず之（これ）を知（し）るは唯（た）だ神（かみ）のみなり故（ゆえ）に我（われ）等（ら）は常（つね）に警醒（めをさま）して其（その）用（よう）意（い）を為（な）さざるべからず（太（マトフェイ）二十五の十三）

問　イイスス ハリストスが此（この）世（よ）に再（ふたた）び臨（のぞ）み給（たま）ふ時（とき）に先（さき）立（だ）ちてハリストスの信者（しんじゃ）の為（ため）に如何（いか）なる災（わざはひ）あるや

答　此（この）世（よ）にアンチハリストスの現（あら）はるゝことなりアンチハリストスとはハリストスの敵（てき）にしてハリストスの信者（しんじゃ）に害（がい）を與（あた）ふることのみを務（つと）むる者（もの）なり然（しか）れども終（つい）には最（もっと）も恐（おそ）ろしき苦（くるしみ）を受（う）けて自（じ）滅（めつ）すべし

問　『其（その）國（くに）終（おは）りなからんを』とは如何（いか）なる国（くに）を指（さ）すや

答　公（こう）審判（しんぱん）の後（のち）来（きた）らんとする永遠（とこしへ）に光栄（さか）ゆる国（くに）を云（い）ふなり

問　信経（しんけい）の第八か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『又（また）信（しん）ず聖（せい）神（しん）主（しゅ）生（いのち）を施（ほどこ）す者（もの）父（ちち）より出（い）で父（ちち）及（およ）び子（こ）と共（とも）に拝（おが）まれ讃（ほ）められ預（よ）言（げん）者（しゃ）を以（もっ）て嘗（かつ）て言（い）ひしを』

問　第八か條には如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　聖三者（せいさんしゃ）の第三位なる聖神（せいしん）のことを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　如何（いか）様（やう）に聖神（せいしん）のことを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　彼（かれ）は生命（いのち）を施（ほどこ）すの主（しゅ）にして神父（かみちち）より出（い）で父（ちち）と子（こ）と共（とも）に同等（どうとう）に拝（をが）まれ嘗（かつ）て預（よ）言者（げんしゃ）等（ら）に啓示（つげ）を與（あた）へたる者（もの）なることを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　何故（なにゆえ）に聖神（せいしん）は生命（いのち）を施（ほどこ）す者（もの）と名（なづ）けらるゝや

答　彼（かれ）は萬物（ばんもつ）に生命（いのち）を與（あた）へ殊（こと）に人間（にんげん）に霊（たましひ）の生命（いのち）を與（あた）ふればなり

問　『父（ちち）より出（い）で』とは如何（いか）なる意（こころ）なるや

答　此（この）語（ことば）を以（もっ）て聖神（せいしん）は聖三者（せいさんしゃ）の他（た）の位（くらい）と異（ことな）ることを示（しめ）すなり即（すなは）ち聖神（せいしん）の特別（とくべつ）なる性質（せいしつ）は我（われ）等（ら）の主（しゅ）イイスス ハリストスが『真（しん）理（り）の霊（れい）は父（ちち）より出（い）づ』（翰（イオアン）十五の二十六）と云（い）はれし如（ごと）く彼（かれ）は神父（かみちち）より出（い）づるが故（ゆえ）なり

問　『預（よ）言者（げんしゃ）を以（もっ）て嘗（かつ）て言（い）ひしを』とは如何（いか）なる意（こころ）なるや

答　聖神（せいしん）は預（よ）言者（げんしゃ）等（ら）に托（たく）して啓示（つげ）を與（あた）へたるものなることを示（しめ）すなり

問　預（よ）言者（げんしゃ）とは如何（いか）なる人々（ひとびと）なりや

答　神（かみ）の啓示（つげ）を受（う）けて未来（みらい）のことを預（よ）言（げん）し聖（きよ）き行（おこなひ）を為（な）して人々を教（おし）へ導（みちび）きし人々（ひとびと）を云（い）ふ夫（それ）等（ら）の人々（ひとびと）の中（うち）にて記（き）録（ろく）を遺（のこ）せし者（もの）と遺（のこ）さざりし者（もの）とあり記録（きろく）を遺（のこ）せし者（もの）は例令（たとへ）ば預（よ）言者（げんしゃ）モイセイ ダビード イサイヤの如（ごと）き者（もの）なり又（また）記録（きろく）を遺（のこ）さざりし者（もの）は例令（たとへ）ば預（よ）言者（げんしゃ）イリヤ及（およ）び其（その）弟子（でし）のエリセイの如（ごと）き者（もの）なり

問　聖神（せいしん）に捧（ささ）ぐる最（もっと）も大切（たいせつ）なる祈（き）祷（たう）は何（なに）なりや

答　『天（てん）の王（わう）慰（なぐさ）むる者（もの）云々（うんぬん）』の祈（き）祷（たう）なり

問　聖神（せいしん）は如何（いか）なる姿（すがた）にて聖像（せいざう）に象（かたど）らるゝや

答　鳩（はと）の形（かたち）にて象（かたど）らる盖（そは）イイスス ハリストスがイオルダンの河（かは）にて洗礼（せんれい）を受（う）けし時（とき）其様（そのやう）なる姿（すがた）にて顕（あらは）れ給（たま）ひしに因（よ）るなり

問　信経（しんけい）の第九か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『我（われ）信（しん）ず一（ひとつ）の聖（せい）なる公（おほやけ）なる使徒（しと）の教（けう）會（くわい）を』

問　此（この）第九か條は如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　教会（けうくわい）のことを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　教会とは如何（いか）なるものなりや

答　主（しゅ）イイスス ハリストスを信（しん）ずる人々（ひとびと）の社会を云（い）ふ

問　其様（そのやう）なる社会即（すなは）ち教会は幾何（いくつ）なるや

答　唯一（ただひとつ）にして多（おほ）くあるべきに非（あら）ず如何（いかん）となれば教会は大（だい）なる一（ひとつ）の家（か）族（ぞく）の如（ごと）きものにして其（その）主人（しゅじん）は独（ひと）り主（しゅ）イイスス ハリストスのみなればなり

問　何故（なにゆえ）に教会は『聖（せい）なる教会（けうくわい）』と名（な）づけらるゝや

答　教会を組織（そしき）する人々（ひとびと）は皆（みな）主（しゅ）イイスス ハリストスの聖血（せいけつ）に依（より）て聖（きよ）められ又（また）聖（せい）ならんとして益々（ますます）進（すす）み行（ゆ）く故（ゆえ）なり

問　何故（なにゆえ）に教会は『公（おほやけ）なる教会（くくわい）』と名（な）づけらるゝや

答　教会は凡（すべ）ての時（じ）代（だい）と凡（すべ）ての土地（とち）の人々（ひとびと）より成（なり）立（た）つものなればなり

問　何故（なにゆえ）に教会は『使徒（しと）の教会（けうくわい）』と名（な）づけらるゝや

答　教会は聖（せい）使徒（しと）等（ら）より受（う）けたる教（おしへ）を堅（かた）く守（まも）り又（また）聖（せい）使徒等（しとら）より立（た）てられたる主教（しゅけう）を以（もっ）て治（おさ）めらるゝに因（よ）るなり

問　聖（せい）使徒（しと）とは誰（たれ）なりや

答　イイスス ハリストスより救（すくひ）の道（みち）を諸国（しょこく）に傳（つた）ふるが為（ため）に撰（えら）まれたる使徒（でし）等（たち）を云（い）ふ初（はじ）め是（これ）等（ら）の使徒（でし）等（たち）は十二人なりしが後（のち）に至（いた）り尚（なほ）七十人（にん）此職（このしょく）に撰（えら）まれたり此（この）人々（ひとびと）は身（み）分（ぶん）賤（いやし）き者（もの）にて大抵（たいてい）漁夫（すなどりびと）なりしが聖神（せいしん）の恩（めぐみ）を受（う）けて大（だい）なる教化者（けうくわしゃ）となり多（おほ）くは教（おしへ）の為（ため）に殉（じゅん）したり

問　信経（しんけい）の第十か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『我（われ）認（みと）む一（ひとつ）の洗礼（せんれい）を以（もっ）て罪（つみ）の赦（ゆるし）を得（う）るを』

問　此（この）第十か條は如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　洗礼（せんれい）機（き）密（みつ）のことを言（い）はれたり然（しか）れども其（その）他（た）の機（き）密（みつ）のことも含（ふく）めるなり

問　機（き）密（みつ）とは何（なに）なりや

答　神（かみ）の恩寵（めぐみ）神（かみ）の能力（ちから）が見（み）えずして行（おこな）はるゝ所（ところ）の聖（せい）なる儀（ぎ）式（しき）を云（い）ふなり

問　機（き）密（みつ）は幾何（いくつ）あるや

答　七つあり即（すなは）ち洗礼（せんれい）、傅膏（ふこう）、聖体（せいたい）、痛悔（つうくわい）、神品（しんぴん）、婚配（こんぱい）、聖（せい）傅（ふ）なり

問　我（われ）等（ら）は是（これ）等（ら）の機（き）密（みつ）を悉（ことごと）く受（う）くべきものなるや

答　第一より第四までの機（き）密（みつ）は何人（なにびと）も皆（みな）受（う）けざるべからず然（しか）れども其（その）他（た）の機（き）密（みつ）は唯（た）だ教会にて必要（ひつえう）と認（みと）むる者（もの）にのみ授（さづ）けらるゝなり

問　洗礼（せんれい）とは如何（いか）なる機（き）密（みつ）なりや

答　眞（まこと）の神（かみ）の教（おしへ）を信（しん）ずる者（もの）が父（ちち）と子（こ）と聖神（せいしん）の名（な）に依（より）て三（み）度（たび）水に浸（ひた）され之（これ）に依（より）て新（あた）らしき者（もの）と生（うま）れ変（かは）るなり

問　洗礼（せんれい）の時（とき）代（だい）父母（ふぼ）を立（た）つるは何（なに）の為（ため）なりや

答　其（その）代（だい）父母（ふぼ）が神（かみ）の前（まへ）に堅（かた）き約束（やくそく）を立（た）てて洗礼（せんれい）を受（う）けし者（もの）の信仰（しんかう）と品行（ひんかう）を監督（かんとく）するが為（ため）なり

問　洗礼（せんれい）を受（う）けし者（もの）に白（はく）衣（い）を着（き）するは何（なに）の表（しるし）なりや

答　洗礼（せんれい）を受（う）けし者（もの）が罪（つみ）より聖（きよ）められし表（しるし）を顕（あら）はすなり

問　洗礼（せんれい）を受（う）けし者（もの）の頚（くび）に十（じふ）字架（じか）を掛（か）くるは何（なん）の為（ため）なりや

答　十（じふ）字架（じか）に釘（つけ）られしハリストスを信（しん）ずるに依（より）て救（すくひ）を得（う）ることを記（き）憶（おく）せしむるが為（ため）なり

問　何故（なにゆえ）に信経（しんけい）には『我（われ）認（みと）む洗礼（せんれい）』と云（い）はずして『一（ひと）つの』と云（い）へる語（ことば）を加（くは）へられたるや

答　若（も）し誰（たれ）か一度（ひとたび）正（ただ）しく洗礼（せんれい）を受（う）けたる時（とき）は決（けっ）して再（ふたた）び洗礼（せんれい）を受（う）くべからずことを示（しめ）すが為（ため）なり

問　傅膏（ふこう）機（き）密（みつ）とは如何（いか）なる機（き）密（みつ）なるや

答　洗礼（せんれい）を受（う）けし者（もの）が聖神（せいしん）恩寵（おんちょう）の印記（しるし）と言（い）ふの語（ことば）を以（もっ）て聖膏（せいかう）を傅（つけ）られ之（これ）に依（より）て善行（ぜんかう）に進（すす）むの恩寵（おんちょう）を與（あた）へらるゝなり

問　身体（からだ）の如何（いか）なる部（ぶ）分（ぶん）に聖膏（せいかう）を傅（つ）けらるゝや

答　智慧（ちえ）と思慮（おもひ）を聖（せい）にするが為（ため）に額（ひたひ）に膏（あぶら）を傅（つ）け心情（こころ）と願望（ねがひ）を聖（せい）にするが為（ため）に胸（むね）に膏（あぶら）を傅（つ）け感覚（かんかく）を聖（せい）にするが為（ため）に耳（みみ）目（め）口（くち）に膏（あぶら）を傅（つ）け能力（ちから）を聖（せい）にするが為（ため）に手及（およ）び足に膏（あぶら）を傅（つ）けらるゝなり

問　聖膏（せいかう）と聖（せい）油（ゆ）とは如何（いか）なる区別（ちがひ）あるや

答　聖膏（せいかう）は種々（いろいろ）の発香草（はつかうさう）と香料（かうれう）より成（なり）立（た）ち主教（しゅけう）の祈（き）祷（たう）と降福（かうふく）に依（より）て聖（せい）にせられ聖（せい）油（ゆ）は只（た）だ通常（つうじやう）の木（もく）油（ゆ）より成（なり）立（た）ち司（し）祭（さい）の祈（き）祷（たう）と降福（かうふく）に依（よ）りて聖（せい）せらるゝものなり

問　聖体（せいたい）機（き）密（みつ）とは如何（いか）なる機（き）密（みつ）なりや

答　餅（ぱん）と葡（ぶ）萄（だう）酒（しゅ）の形（かたち）の中（うち）にハリストスの眞（まこと）の体（からだ）と血（ち）を領（う）け之（これ）に依（より）てイイスス ハリストスに体合（たいがふ）し永遠（えいえん）の生命（いのち）に與（あづ）かる者（もの）となるなり

問　聖体（せいたい）機（き）密（みつ）を受（う）けんとする者（もの）は如何（いか）に己（おのれ）を准備（したく）すべきや

答　聖体（せいたい）機（き）密（みつ）を受（う）けんとする者（もの）は先（ま）づ精進（しやうじん）をなし聖堂（せいだう）及（およ）び自（じ）宅（たく）に於（おい）て専（もっぱ）ら祈（き）祷（たう）をなして諸（すべ）ての人（ひと）と和（わ）し後（の）ち懺（ざん）悔（げ）をなすべきなり

問　我（われ）等（ら）は度々（たびたび）聖体（せいたい）機（き）密（みつ）を領（う）くべきや

答　少（すくな）くとも一年の内（うち）一（いち）度（ど）は是非（ぜひ）共（とも）領（う）くべきなり然（しか）らざれば真実（まこと）の正教信徒（ハリステアニン）とは名（な）づけられざるなり

問　聖体（せいたい）機（き）密（みつ）は如何（いか）なる祈（き）祷（たう）の礼（れい）儀（ぎ）を以（もっ）て行（おこな）はるゝや

答　聖体（せいたい）礼（れい）儀（ぎ）の祈（き）祷（たう）を以（もっ）て行（おこな）はる故（ゆえ）に此（この）祈（き）祷（たう）は他（た）の祈（き）祷（たう）よりも猶（なほ）一層（いつそう）大切（たいせつ）なるものなり

問　聖体（せいたい）礼（れい）儀（ぎ）は聖体（せいたい）機（き）密（みつ）を行（おこな）ふの外（ほか）他（た）に何（なに）の大切（たいせつ）なることありや

答　主（しゅ）イイスス ハリストスの一代（いちだい）記（き）を記憶（きおく）することなり

問　其（その）記（き）憶（おく）する事柄（ことがら）は何（なに）なりや

答　至（し）聖処（せいじょ）よりより福音経（ふくいんけい）を捧（ささ）げて出（い）づるは我（われ）等（ら）の主（しゅ）イイスス ハリストスが福音（ふくいん）を宣傳（のべつた）ふるが為（ため）に出（い）で給（たま）ひしことを記（き）憶（おく）するなり又（また）聖物（せいぶつ）を持（もち）て至（し）聖処（せいじょ）に進（すす）み詠隊（えいたい）が『我（われ）等（ら）虔（つつしん）でヘルビム云々（うんぬん）』の詠（えい）歌（か）を為（な）すは我（われ）等（ら）の主（しゅ）イイスス ハリストスが我（われ）等（ら）を罪（つみ）より救（すく）ふが為（ため）に甘（あまん）じて苦（くるしみ）と死（し）を受（う）け給（たま）ひしことを記（き）憶（おく）するなり又（また）聖役者（せいえきしゃ）機（き）密（みつ）を行（おこな）ひ聖体（せいたい）を領（う）くるは我（われ）等（ら）の主（しゅ）イイスス ハリストスが其（その）使徒（でし）等（たち）と共（とも）に機（き）密（みつ）の晩餐（ばんさん）を行（おこな）ひしことを記（き）憶（おく）するなり又（また）聖物（せいぶつ）を挙（あ）げて衆（しゅう）に示（しめ）し補（ほ）祭（さい）が『神（かみ）を畏（おそ）るゝの心（こころ）と信（しん）とを以（もっ）て近（ちか）づき来（きた）れ』と呼（よ）ぶは死（し）より復活（よみがへ）りし我（われ）等（ら）の主（しゅ）イイスス ハリストスが其（その）使徒（でし）等（たち）に現（あら）はれ給（たま）ひしことを記（き）憶（おく）するなり終（おは）りに聖物（せいぶつ）を衆（しゅう）に示（しめ）し司（し）祭（さい）高声（かうせい）にて『今（いま）も何時（いつ）も世々（よよ）に』と呼（よ）び而（しかし）て聖物（せいぶつ）を宝（ほう）座（ざ）より祭台（さいだい）に移（うつ）すは我（われ）等（ら）の主（しゅ）イイスス ハリストスが天（てん）に昇（のぼ）り給（たま）ひしことを記（き）憶（おく）するなり

問　痛悔（つうくわい）機（き）密（みつ）とは如何（いか）なる機（き）密（みつ）なりや

答　洗礼（せんれい）を受（う）けし後（のち）に罪（つみ）を犯（をか）せし者（もの）が其（その）罪（つみ）を司（し）祭（さい）の前（まへ）に陳（の）べて神（かみ）より其罪（そのつみ）の赦（ゆるし）を受（う）くるなり

問　痛悔（つうくわい）機（き）密（みつ）を受（う）けんとする者（もの）は如何（いか）なることを為（な）すべきや

答　自分（じぶん）の罪（つみ）を思（おも）ひ出（だ）して深（ふか）く懺（ざん）悔（げ）し今（いま）までの行（おこな）ひを改（あらた）めて清（きよ）らかなる善（よ）き行（おこなひ）を為（な）すの決心（けっしん）を為（な）すべきなり

問　教会には痛悔（つうくわい）する者（もの）の悪（あし）き習慣（ならはし）及（およ）び重（おも）き罪（つみ）を懲（こ）らすの方法（しかた）ありや

答　補（ほ）贖（しょく）或（あるひ）は矯正（けうせい）の罸（ばつ）と名（な）づくる方法（しかた）あり即（すなは）ち其者（そのもの）に罰則（ばつそく）を命（めい）じて行（おこなひ）を改（あらた）めしむるなり例令（たとへ）ば貪婪（どんらん）なる者（もの）には施済（ほどこし）を命（めい）じ肉慾（にくよく）の激（はげ）しき者（もの）には断食（だんじき）を命（めい）じ重（おも）き罪（つみ）を犯（をか）せし者（もの）には聖体（せいたい）機（き）密（みつ）を許（ゆる）さざる等（など）なり

問　神品（しんぴん）機（き）密（みつ）とは如何（いか）なる機（き）密（みつ）なりや

答　正（ただ）しく撰（えら）ばれたる者（もの）に主教（しゅけう）の按手（あんしゅ）の礼（れい）を以（もっ）て機（き）密（みつ）を行（おこな）ひ信者（しんじゃ）を牧（ぼく）するの恩寵（おんちょう）を與（あた）へらるゝなり

問　神品（しんぴん）職（しょく）の階級（かいきふ）は幾何（いくつ）あるや

答　三つあり即（すなは）ち主教（しゅけう）、司（し）祭（さい）、補（ほ）祭（さい）なり

問　此（この）三つの職（しょく）に如何（いか）なる区（く）別（べつ）あるや

答　補（ほ）祭（さい）は機（き）密（みつ）を行（おこな）ひ信者（しんじゃ）を牧（ぼく）することに於（おい）て司（し）祭（さい）の補助（ほじょ）を為（な）す然（しか）れども自（みづか）ら機（き）密（みつ）を行（おこな）ふこと能（あた）はず司（し）祭（さい）は自（みづか）ら機（き）密（みつ）を行（おこな）ひ信者（しんじゃ）を牧（ぼく）す主教（しゅけう）は機（き）密（みつ）を行（おこな）ひ信者（しんじゃ）を牧（ぼく）するのみならず亦（また）之（これ）を行（おこな）ふの神品（しんぴん）職（しょく）を立（た）つるの権（けん）をも有（たも）つなり

問　其（その）他（た）の神品（しんぴん）職（しょく）例令（たとへ）ば総主教（そうしゅけう）、府（ふ）主教（しゅけう）、大主教（だいしゅけう）、司（し）祭（さい）長（ちゃう）等（ら）は矢張（やは）り神品（しんぴん）職（しょく）の特別（とくべつ）なる階級（かいきふ）なりや

答　是（これ）等（ら）は神品（しんぴん）職（しょく）の特別（とくべつ）なる階級（かいきふ）にあらず唯（た）だ三つの神品（しんぴん）職（しょく）のうちに属（ぞく）するものなり例令（たとへ）ば総主教（そうしゅけう）、府（ふ）主教（しゅけう）、大主教（だいしゅけう）の職（しょく）は矢張（やは）り主教（しゅけう）の職（しょく）に属（ぞく）し掌院（しゃういん）、司（し）祭（さい）長（ちゃう）の職（しょく）は矢張（やは）り司（し）祭（さい）職（しょく）に属（ぞく）し、補（ほ）祭（さい）長（ちゃう）は矢張（やは）り補（ほ）祭（さい）に属（ぞく）するなり其外（そのほか）教会の低（ひく）き職員（しょくいん）例令（たとへ）ば詠隊者（えいたいしゃ）、誦経者（しょうけいしゃ）、堂役者（だうえきしゃ）等（など）は神品（しんぴん）職（しょく）の階級（かいきふ）に属（ぞく）せざるものなり

問　婚配（こんぱい）機（き）密（みつ）は如何（いか）なる機（き）密（みつ）なりや

答　新郎（はなむこ）と新婦（はなよめ）が自由（じゆう）の約束（やくそく）を為（な）せし後（のち）聖堂（せいだう）に於（おい）て神（かみ）の前（まへ）に夫（ふう）婦（ふ）の契（ちぎ）りを結（むす）び一生（いつしゃう）の間（あひだ）互（たがひ）に睦（むつ）まじく子（こ）を生（う）み殖（ふや）し之（これ）を神（かみ）の誡（いましめ）に従（したがつ）て教育する為（ため）に降福（かうふく）せらるゝなり

問　聖（せい）傅（ふ）の機（き）密（みつ）は如何（いか）なる機（き）密（みつ）なりや

答　祈（き）祷（たう）を以（もっ）て病（や）める者（もの）に油（あぶら）を傅（つ）け霊（たましひ）と体（からだ）の病（やまひ）を癒（いや）すの恩賜（めぐみ）を與（あた）へらるゝなり

問　信経（しんけい）の第十一か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『我（われ）望（のぞ）む死者（ししゃ）の復活（ふくくわつ）』

問　信経（しんけい）の第十一か條には如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　死（し）者（しゃ）の復生（よみがへり）のことを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　死（し）者（しゃ）の復生（よみがへり）とは何（なん）ぞや

答　死（し）者（しゃ）の霊（たましひ）が以（い）前（ぜん）の体（からだ）と合（がつ）して永遠（えいえん）に死（し）せざる者（もの）となることなり

問　復活（よみがへ）りたる後（のち）の体（からだ）は現在（いま）の体（からだ）と同（おな）じきや

答　然（しか）らず我（われ）等（ら）が現在（いま）の体（からだ）は不（ふ）自由（じゆう）にして病（やまひ）あり死（し）あれども復活（よみがへ）りたる後（のち）の体（からだ）は自（じ）由（ゆう）にして病（やまひ）もなく死（し）することもなきなり

問　死（し）者（しゃ）の霊（たましひ）は復活（よみがへり）の時（とき）まで如何（いか）なる有様（ありさま）にて在（あ）るや

答　義（ぎ）人（じん）の霊（たましひ）は豫（あらかじ）め安息（やすみ）と福楽（さいはひ）の境遇（ありさま）に在（あ）り罪人（ざいにん）の霊（たましひ）は豫（あらかじ）め苦痛（くるしみ）と哀哭（なげき）の境遇（ありさま）に在（あ）るなり

問　悔改（くいあらため）に適（かな）へる果（み）を結（むす）ばずして死（し）したる人（ひと）の運命（うんめい）を軽（かろ）からしむる方法（しかた）ありや

答　祈（き）祷（たう）と施済（ほどこし）殊（こと）に彼（かれ）等（ら）の為（ため）に無（む）血（けつ）祭（さい）を献（けん）ずること等（など）なり

問　信経（しんけい）の第十二か條は如何（いか）に唱（とな）へらるゝや

答　『並（ならび）に来世（らいせい）の生命（いのち）を　アミン』

問　此（この）第十二か條には如何（いか）なることを言（い）ひ顕（あら）はさるゝや

答　公審判（こうしんぱん）の後（のち）に来（きた）らんとする永遠（えいえん）の生命（いのち）のことを言（い）ひ顕（あら）はさる

問　それは如何（いか）なる生命（いのち）なりや

答　義（ぎ）人（じん）の為（ため）には最（もっと）も喜（よろこ）ばしき福（さいはひ）なる生命（いのち）なり又（また）罪人（ざいにん）の為（ため）には最（もっと）も苦（くる）しき哀（あは）れなる生命（いのち）なり

問　次（つぎ）に神（かみ）の十誡（じっかい）とは何（なん）ぞや

答　神（かみ）の十誡（じっかい）とは左（さ）に述（の）ぶる十（じふ）個（か）條（でう）の誡命（かいめい）なり

脚注 

1. 投稿者注：イザヤ80章としているのはイザヤ53章の誤りであると思われる。
2. 投稿者注：聖詠十五の十は詩篇十六の十に相当。

この文書は翻訳文であり、原文から独立した著作物としての地位を有します。翻訳文のためのライセンスは、この版のみに適用されます。
原文:
翻訳文: