ジョン・F・ケネディの大統領就任演説
ジョンソン副大統領、下院議長、最高裁判所長官、アイゼンハウアー大統領、ニクソン副大統領、トルーマン大統領、聖職者諸君、国民諸君よ。
本日我々は党の勝利ではなく、自由の祭典、即ち始まりと共に終わりを象徴し、変革と共に再生を意味する祭典を祝っている。何故なら、私は諸君や全能の神の前で、我々の父祖らが約175年前に定めたのと同様の、厳粛な誓いを立てたからである。
今や世界は、大きく変貌している。何故なら人類は、あらゆる形の貧困をも、そしてあらゆる形の人命をも消滅させ得る力を手に入れたからである。だが、我々の父祖らが掲げた革命的信条――人間の権利は、国家の厚意によってではなく神の手によって与えられるとの信条――は、今なお世界中で争点となっている。
我々は、最初の革命を今日受け継いでいるのが己であることを忘れてはならない。今ここから、味方にも敵にも、次の言葉を伝えよう。「松明は新世代の米国民に引き継がれた」と。今世紀に生まれ、戦争によって鍛えられ、厳しく苦い平和によって訓練され、古き伝統に誇りを持つ我々米国民は、この国が常に擁護に努め、今も国の内外で擁護に努めている人権が、次第に剥奪されてゆくのを傍観も容認もする気はない。
友好国か敵対国かを問わず、全ての国に知らしめよう[1]。自由の存続と発展を保証するために、我が国はあらゆる国に如何なる代償をも払い、如何なる負担にも耐え、如何なる困難をも乗り越え、如何なる友をも支え、如何なる敵にも対峙するということを。
以上のことを――そして、さらに以下のことを――、我々は誓う。
文化的・精神的起源を共有する古くからの友好諸国には、誠実な友邦としての忠誠を誓う。結束すれば、多くの共同事業において、できないことなどほとんどない。分裂すれば、できることなどほとんどない。重大な試練に対処できず、散り散りになってしまうからである。
我々が自由主義陣営に迎え入れる新たな諸国には、ある形態の植民地支配の終焉後に、遥かに苛酷な圧政がこれに取って代わることのないようにすることを誓う。これら諸国が我々の意見を支持するとは限るまい。それでも我々は常に、諸国が己の自由を支持するよう強く望んでいる。そして過去に、愚かにも虎に跨って権力を得ようとした者たちは、虎の餌食となってしまった[2]ということを忘れぬよう望んでいるのである。
あばら屋や村落に暮らし、必死に窮状を打破しようとしている地球の半分の人々には、時間の許す限り、彼らの自助努力を助けるべく全力を尽くすことを誓う――それは、共産主義者が同じことをしようとしているからでもなければ、彼らの支持を集めたいからでもない。そうすることが正しいからである。自由社会が多数の貧者を救えないとすれば、少数の富者を救うこともできないのである。
我が国の南方に位置する姉妹諸国には、特別な誓約をする。即ち、進歩を目指す新たな提携の下、有言実行するとの誓い[3]であり、自由な人々と自由な政府が貧困という鎖を外すのを助けるとの誓いである。だが、ここに望まれる平和的革命が、敵対勢力の餌食になるようなことがあってはならない。我が国は米州の如何なる国とも協力し、侵略や顚覆に対抗するということを、近隣諸国全てに知らしめよう。そして、この半球が自決権を持ち続ける[4]つもりであるということを、他の大国全てに知らしめよう。
主権国家の世界的集合体たる国際連合は、戦争の手段が平和の手段を凌駕するこの時代にあって、最後にして最高の希望である。我々は、国連が単なる罵倒の応酬の場となるのを防ぐこと、新興国や弱国を守る力を強化すること、及びその影響力の及ぶ地域を拡張することに対する支持を改めて誓約する。
最後に、我々と敵対しようとする国々に対しては、誓約でなく要求を行う。科学によって解放された暗黒の破壊力が計画的もしくは偶発的に全人類を自滅させる前に、双方とも新たに平和の模索を始めよう。
我々には、弱みを見せて付け入る隙を与える気はない[5]。自国の軍事力が充分あると確信できて初めて、我々は軍事力を行使しないことを確信できるからである。
だが、強大な2つの国家群は、現在の路線から安心を得ることなどできない――双方とも、最新兵器の費用負担に苦しみ、恐るべき原子の着実な拡散をまさしく警戒しているにも拘らず、人類の最終戦争を食い止めている不確実な恐怖の均衡を崩そうと争っているのである。
だから双方とも、再出発しよう。慇懃さは弱さの証ではなく、誠実さは常に態度で示されねばならないということを念頭に置きながら。恐怖に駆られて交渉するようなことは決してあってはならない。だが、交渉することを決して恐れてはならない。
双方とも、我々を分かつ問題に固執するよりも、我々を結び付ける問題を模索しよう。
双方とも、軍備の査察と規制に関する初の本格的かつ精緻な案を策定し――、他国を破壊する絶対力を、全国家による徹底規制の下に置こう。
双方とも、科学の恐怖ではなく科学の驚異を引き出そう。共に、星々を探査し、砂漠を征服し、疾病を根絶し、深海を開発し、芸術と商業を振興しよう。
双方とも、イザヤの「
そして、協力を足掛かりにして疑念を振り払うことができれば[7]、双方とも、共に新たな取り組みに乗り出そう。新たな勢力均衡でなく、新たな法に基づく世界を築こう。強き者が正義を為し、弱き者が守られ、平和が保たれるような世界を。
これらは、最初の100日間では果たせまい。最初の1000日間でも、この政権の間でも、そして恐らくは我々のこの惑星上における一生涯の間ですらも果たせないかもしれない。それでも、始めようではないか。
国民諸君よ。我々の進む道が成功に終わるか失敗に終わるかは、私自身よりも諸君に懸かっている。建国以来、各世代の米国民は国家への忠誠の証を示すよう求められてきた。召集に応じた若き米国人らの墓が、世界中に建っている。
今、再びトランペットが我々を召集している。だがこれは、武器を取れとの合図ではない――我々は武器を必要としてはいるが。戦をせよとの合図でもない――我々は戦に備えてはいるが。そうではなく、今後とも「希望に喜び、苦難を忍び」[8]、長い薄明かりの中での苦闘に耐えよとの合図なのである――圧政、貧困、疾病、そして戦争そのものといった、人類共通の敵との闘いに耐えよとの合図なのである。
これらの敵に対して、我々は世界の南北、東西に及ぶ大同盟を創り、全人類の生活をもっと実りあるものにしよう。この歴史的取り組みに参加して欲しい。
最も危険な時代に自由を守る役割を与えられた世代は、世界の長き歴史においてもほとんどない。私は、この責任を恐れず、むしろ歓迎する。他の者や他の世代と立場が替われたらと考える者などいまい。我々が活力、信念、献身をもって行う取り組みは我が国を照らし、そして我が国に奉仕する者全てを照らすであろう――その炎の輝きは、真に世界を照らすはずである。
だから国民諸君よ。国家が諸君のために何ができるかを問わないで欲しい――諸君が国家のために何ができるのかを問うて欲しい。
世界の市民諸君よ。米国が諸君のために何ができるかを問うのではなく、我々が人類の自由のために共に何ができるのかを問うて欲しい。
最後に、米国市民も世界市民も、ここにいる我々が諸君に求めるのと同じ高い水準の強さと犠牲を、我々に求めて欲しい。我々にとっての唯一確かな報酬とは良心の喜びであり、我々の行いに最後の審判を下すのは歴史である。主の恵みと主の助けを求めつつ、しかも神の御業をこの地上で為すのはまさに我々なのだと肝に銘じて、我々の愛する地を導くために前進しようではないか。
訳註
編集- ↑ 原文は「Let every nation know, whether it wishes us well or ill」。「我が国が健全であるよう望んでいるか、不健全であるよう望んでいるかに関係なく、全ての国に知らしめよう」の意。
- ↑ 原文は「those who foolishly sought power by riding the back of the tiger ended up inside」。暴力によって権力を奪取した者は、暴力によって権力を失うという教訓を、虎の猛威を借りた者の末路に喩えている。
- ↑ 原文は「to convert our good words into good deeds」。逐語訳をするならば、「我々の良き言葉を良き行動に変えること」。
- ↑ 原文は「remain the master of its own house」。「自家の主人であり続ける」の意。
- ↑ 原文は「We dare not tempt them with weakness」。逐語訳をするならば、「我々には、弱さによって彼らを唆す気はない」。平和の模索を呼び掛けるのは、米国が弱いからではないとの表明である。
- ↑ 『旧約聖書』イザヤ書第58章第6節を引用。
- ↑ 原文は「if a beachhead of cooperation may push back the jungle of suspicion」。「協力という名の橋頭堡が疑念という名のジャングルを押し戻すならば」の意。
- ↑ 『新約聖書』ローマ人への手紙第12章第12節を引用。
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- 訳者
- 初版投稿者(利用者:Lombroso)
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