<< 嫉妬と争心とをもつべからず >>
嫉妬と争心とにおちいらざる者は福なり、けだし争心と嫉妬とは互に相持たるるなり。されば此の悪習の一ある者は両つながら共にこれあらん。故に此の悪習におちいらず、此の中の一にも傷つけられざらん者は真に福なり。けだし兄弟と不正に競争を為す者は魔鬼と共に罰せられん。競争する者は勝たれたる者なり、彼には怨みもあるべく、讎の心もあるべし、他人の進歩は彼をくるしむるなり。さりながら嫉妬と争心となき者をば他人の進歩も哀ませざらん。他に名誉のあらはるるあらんも彼の心はみだされざるなり。他が高く昇らんも彼の意はさわがざらん、いかんとなれば衆人に特権を帰して、衆人を己より尚上にすればなり、独り己を当らざるものと思ひ、衆人より後なる者と思ふて、他の衆人を秀でたる者と認め、衆人を己より優れるものとなせばなり。嫉妬せざる者は尊敬を強て求めず。喜ぶ者と與によろこび、名誉ある事功を己れに帰せず、進歩する者に助け、善路によりて行く者を楽しみて視、当然に生活する者を賞讃せんとす。もし兄弟の善くその事を行ふを見るときは、彼にさまたげずして、勧訓を以て彼をはげまさん。もし他の安然として休息するを見るときは、それを以て彼の罪となさず、却て彼にたすけん。もし兄弟の過あるを見るときは、そしらずして、適当なる忠言を彼にあたへん。もし怒る者を見るときは、彼の心をみださず、和平を勧め、愛を以て安んぜしめん。もし哀む者を見るときは、かろんぜずして、彼と共に悲しみ、霊に益ある言を以て彼をなぐさめん。もし無学なる者及び無智なる者を見るときは、疾く彼を教へて、有益の事に向はしめん。もし不知なる者を見るときは、にくまずして、かれに尚善きに至るべき途を示さん。もし聖詠を歌ふ時、他の眠らんとするを見るときは、つとめて彼を醒まさん。これを略言すれば嫉妬せざる者及び争心をもたざる者は、いかなる事に於ても近者を嘲弄せざるべく、かへつて嫉妬せざる者はその友のすべての進歩とすべて変らざる事業とをよろこばんとす。