<< 温柔 >>
温柔なる人は実に福なり、三倍して福なり。救世主、主は彼の為に此の事を證定していへり、『温柔なる者は福なり、彼らは地を嗣ぐべければなり』〔マトフェイ五の五〕。さらば此の楽園の地を嗣ぐの祝福より福なるものあるべけんや、此の許約より高尚なるものあるべけんや、此の喜びよりよろこばしきものあるべけんや。故に兄弟や、許約の富の非常なる事をききてこれを獲んが為に熱心せよ。いそぎて此の徳行の光明に入るべし、此をききて心に深く感動すべし、汝らの中誰も此の地を嗣ぐより省かれざらんが為、又後に至りて無智なる悔恨によりいたく哀しまざらんが為に、力のあらんかぎり勉め厲むべし。真実無妄なるイサイヤが聖神により此の事に言及ぶをきき、急ぎて温柔を獲よ。主の目は誰に止まるか。『主はいへらく我はただ温柔沈黙して我が言におそれをののく者を顧みるなり』〔イサイヤ六十六の二〕。此の許約に驚かざらんこと豈得べけんや、けだしかくの如きの尊敬より栄誉なるものあらんや。故に兄弟や、慎めよ、此の幸福と此の無量の喜びと楽しみとを失はざらんが為なり。故に我は切に汝らに願ふ、いそぎいそぎて温柔を獲よ、いかんとなれば温柔なる者はもろもろの善行を以てかざらるればなり。温柔なるものはもし辱めらるるも喜び、もし哀しませらるるも感謝せん、怒る者をば愛にて鎮めん、身に打撃をうくるも堅固にて存せん、争闘の時には平然たるべく、従属せしめらるるには楽しむべく、驕傲のために傷つく所とならざらん。卑しめらるるには喜ぶべく、功労を以て自からほこらずたかぶらず、衆人と共におだやかに居らん、すべての首長に服従し、すべての事に用意し、すべてに於て賛成を得べく、衆人は彼を嘉賞せん。彼は兇悪の外に立ち、偽善に遠ざかるなり。彼は奸計にたすけざるべく、嫉妬の為にしたがはされざらん、悪言をさくべく、讒言を容れざらん、非難する者をさけん。アア福なる富はそれ温柔なるかな。彼は衆人に讃美せられん。