<< 常に庵中に居りて独り己を省みんと決心せし者に最必要にして最有益なる日々の想起。>>
兄弟あり、録して常に己の前に置き、自から省みて言へること左の如し、『無耻にして如何なる害をも受るに値する人よ、汝は自己の生命を無思慮に費せり、されば善行なくして空しく過ぎ、悪行を以て富める汝の諸日の中より餘す所の是一日たりとも、自ら戒慎せよ。社会の事をも、其動静の事をも、修道士の事をも、其業務の事をも、彼等が如何に生活して其所為の如何に大なる事をも問ふなかれ。此の如きことを絶えて念頭に掛くるなかれ。汝は奥密に世より出で、死者の如くなりてハリストスに帰せり、世と世にあるものの為に復た生るなかれ、希望は汝に先だつべし、然らばハリストスに於て生きん。衆人より来るもろもろの誹謗と、もろもろの侮辱嘲笑及び非難に対しては自から備へ、忍耐を以て武装せよ。而して此のすべてのものを喜んで受ること、実に之に當るべきものの如くして、如何なる労苦も如何なる患難も、汝が嘗て其旨を遵奉したる魔鬼より来る所の如何なる不幸も、感謝して忍耐し、すべての窮乏と天然に起るものとすべての不幸とを勇気に勘忍せよ。身体の為に欠くべからざれど速に腐敗に帰すべきものを失ひしは、神を望むによりて忍べよ、神に依頼して此のすべてを受けんことを願ふべく、助も、何等の慰藉も何処よりも期するなかれ「汝の哀を主に負はしめよ」〔聖詠五十四の二十三〕、而してすべての誘惑に於ては自己を罪し、己を以て此のすべての原因者とせよ。何の為にも誘はるるなかれ、汝を辱しむる何人をも咎むるなかれ、何となれば汝も禁樹の果を食ひて、汝は種々の慾を受たればなり、不幸は喜んで受け、汝を寒心せしむるに放任せよ、其が為後に至りて楽を感ぜん。禍なる哉、汝と汝の臭穢なる名誉よ。汝はあらゆる罪を充ち満てる己の霊魂をば非難すべからざるものの如く宥免すれども、他の霊魂をば言を以ても、思を以ても非難せり。汝の為には此の今に至る迄汝が養はるる豚に適当なる食物にて足り足れり。汚穢者よ、汝はかくの如く無智に生命を送りて、人々と交際し彼等の社会に止まるを如何にして耻ぢざるか。もし汝は之に注意を向けて、此すべてを守るならば、或は神の助によりて救はれん。然れども之と反対なる時は暗黒と魔鬼の里に退去し、厚顔にして其旨を行はん。視よ、予は此のすべての為に汝に立証せり。もし神は正義に拠り人々を汝に近寄せ、汝が生命の全時彼等に対して思に存し言に発したる侮辱と非難との為に汝に報ゆるあらば、全世界は汝の為に平安を有せざらん。終に今よりなりとも止めよ、而して汝に報いらるるすべてのものを忍耐せよ』と。
此兄弟は誘惑又は憂愁の来るときは、感謝と己の為に之を益するとを以て大に忍耐するを得んが為に、此すべてを日々自から省思せり。吁我等も人を愛する神の恩寵に依り我等に及ぶ所の不幸は感謝を以て忍耐し、之より己の益を引出すを得ば幸なり。彼に光栄と権柄は世々に帰す。「アミン」。