<<霊に属する人々は、身体の肥満に準じ、他の霊界に属するものを知識により幾許看破すべきか、如何して智は其肥満より上に高めらるべきか、之より自由なるを得ざるは何故なるか、智は何時如何なる方法により、祈祷の時、妄想なくして止まるを得べきか。>>
我等が前に門を開き給へる主の栄光は頌讃せらる、願はくは彼に向ふ願望の外他の願求は我等にあらざらん。けだし此の場合に我等は一切を棄て、霊魂は彼独を追ふて突進す、ゆゑに霊魂の為に主を直覚するを阻礙せんとする慮はあらず。至愛者よ、智は此の有形物の為に慮るを棄て、肉体の為に慮ると、此慮の為に思念するとより高まるに準じ、未来の望の為に費心する程は益々精微になりて、祈祷に於て照明せられん。而して肉体が有形的鏈鎖より免れて自由を得ん、而して智は其慮の鏈鎖より自由を得るに随ひ、照明せられ、照明せらるゝに随ひいよ〳〵精微になりて、粗大なる有様を有する此世の概念より高うせられん。其時智は神を神の如く直覚するを学ぶべくして、我等が観察する如くなるには非るべし。もし人は先づ黙示を受るに堪ふるものとならずんば、之を観察する能はざるべく、浄潔に達せずんば、其の概念は、神秘なるものを観察する程照明せらるゝを得る能はざるべし。而してすべて有形造物に於て見る所の有形なるものより免れて、自由を得るに至る迄は、有形なるものに対する概念よりも自由を得ざるべくして、暗まされたる思念より潔めらるゝ者とはならざるべし。思念の暗黒と惑乱の有る処は、慾の有る処なり。もし人は我等が言ひし如く、此慾と其原因とより免れて自由を得ずんば、智は神秘なるものを洞察せざるべし。故にに主は先づ第一に無慾になるべきことゝ、世の擾乱より遠ざかりて衆人に一般なる配慮より脱すべきことを命ぜり、言へらく、凡て全人間とすべて己れに属するものとを辞せず、又己をも捨てざる者は我が門徒となるを得ずと〔ルカ十四の三十三〕。
智を凡てのものより害を受けざらしめん為、視ると、聴くと、物体の為に慮ると、其滅却と、其の増殖とより且は人よりも害を受けずして、神に対する独一の希望と之を結合せしめん為に、主は他の百般の慮を我等より遠ざけしめたるは、我等之によりて独一の神と交通するを願ひ始めん為なり。さりながら祈祷は更に練修に必要を有す、之を長く務むるによりて智を増さん為なり。祈祷は我等の思を鏈鎖より脱する無慾の後、練修に専ならんを要求す、何となれば時の久しきと共に智は練修に習慣を求得て、思念を反拒すべき所以を識り、他の泉より借る能はざるものを長き実験を以て学ぶによる。けだし凡て現在の生涯は其成長を之に先だつ生涯より借るべく、先だつものを要求するは後に来るものを得んが為なり。祈祷に先だつものは遁世的生涯にして、遁世的生涯は祈祷の為に必要なり、然して祈祷其ものは神を愛するの愛を我等に得んが為に必要なり、けだし我等が神を愛するの原因は祈祷に因り求め得らるべきによる。
至愛者よ、我等はすべて奥密に行はるゝ交通と、すべて神の事に於る善良なる才智の慮と、すべて霊神上のことの冥想とは祈祷の為に立てられ、祈祷の名を以て称せらるゝことをも知らんを要す、例へば或は種々の誦経を言はんか、或は神を讃栄するの調なるか、或は主の為に掛念するの哀みなるか、或は身の叩拝なるか、或は聖詠を唱ふことか、或はすべて其外真実なる祈祷のすべての式の組織せらるゝものと、之よりして神を愛する愛の生ずるものとは、此名の下に纏めて一所にせらるゝことの如き是なり、けだし愛は祈祷より生じて、祈祷は遁世的生涯に止まるより生ずるなり。ゆゑに神と相対して談話すること得んが為に我等は遁世生涯に必要を有す。さりながら遁世生涯に先だつものは世を捨つるなり。けだし人は先づ世を捨てずして、世に属するすべてのものより閑を得ずんば、退隠する能はざるべし。かくの如くなれば世を捨つるに先だつものは更に忍耐にして、忍耐に先だつものは世を厭ふなり、而して世を厭ふに先だつものは畏と愛となり。けだし地獄の畏の心を驚かすことなく、愛も幸福の願にみちびかずんば、此世を厭ふ念慮は心に起らざるべし。然れども世を厭はずんば、世の安息の外に在るに耐へ得ざるべくして、心に忍耐の先だつあらずんば、荒涼を充ち満てゝ誰も住する能はざる地を選択する能はざるべし。もし遁世生涯を自から選択せずんば、祈祷に専なる能はざらん。もし神と談話するなく、祈祷と合せらるゝ此冥想と我等が述べたる祈祷の式の凡ての種類とに止らずんば、愛を感ぜざらん。
終に神を愛するは神と対談するより生ずれども、祈祷的冥想と教訓とは沈黙を以て得らるべく、沈黙は無慾を以て得らるべく、無慾は忍耐と貪心を憎むとを以つて得らるべくして貪心を憎むは地獄の畏と福楽の望とを以て得らるゝなり。貪心の結果と貪心は人に何を備ふると、貪心の為に人は如何なる福楽にも入るを許されざるとを知る者は貪心を憎まん。かくの如く凡の行為は其先んずるものと結合せられ、其成長を之より借りて、他の最高上なるものに移らん。然るにもし一者は自己より下からば彼の後に来る所のものも堅く立ちて顕然たるものとなる能はざるべし、何となればすべては破壊し且絶滅すればなり。是より以上は言に定限あり、枚算すべからず。