「合撒兒カツサルと共トモに刀カタナを帶オびて、勢イキホ古出兒格昆ふものは、その首クビ古主兀惕を斬キ輕古哩惕れ。荒アラ斡抹兒合渾ぶるものは、その胷ムネ斡抹里兀を刺サ汪剌只惕せ」と云イへり。(刀を兀勒都︀と云ひ、刀を帶ぶる者︀を兀勒都︀赤と云ふ。元史 兵志に「侍ハベリ㆑上カミニ帶オブル㆓刀及弓矢カタナマタユミヤヲ㆒者︀モノヲ曰イフ㆓云都︀赤ウンドチト㆒」とあるは、これなり。)
別勒古台ベルグタイ、合喇勒歹 脫忽喇溫カラルダイ トクラウン 二人フタリに「騸馬センバを執トれ。馬官ウマヅカサ(阿黑塔臣)と爲ナれ」と云イへり。
泰赤兀歹タイチウダイ、忽圖 抹哩赤クト モリチ(前に見えざる人)、木勒合勒忽ムルカルク 三人ミタリに「馬羣バグンを牧ノガヒせよ」と云イへり。(馬羣を蒙語に阿都︀溫と云ひ、馬飼︀を阿都︀兀臣と云ふ。)阿兒孩 合撒兒アルカイ カツサル、塔孩タカイ〈[#ルビの「タカイ」は底本ではルビなし。昭和18年復刻版にもルビなし。底本の他の箇所に出てくる塔孩のルビ「タカイ」を転用した]〉(前の塔乞)、速客該スケガイ(前の速客該 者︀溫)、察兀兒罕チヤウルカン 四人ヨタリに「遠トホ豁剌き豁斡察黑ゴオチヤルク(箭の名)近チカ斡亦喇き斡多喇オドラ(箭の名)となれ」と云イへり。(征討 巡警の事を掌れるならん。官名は、いまだ考へ得ず。)速別額台 巴阿都︀兒スベエタイ バアドル 言イはく「鼠ネズミ忽魯罕となりて、聚アツ忽哩牙勒都︀速め合アはん。黑クロ合喇き老鴉ヤマガラスとなりて、外ホカ合荅溫にある物モノを收ヲサ合兒馬勒都︀速め合アはん、馬覆ウマオホ粘別額ひの毛氈マウセンとなりて、覆オホ揑木兒列勒敦ひ合アはんと試コヽロみん。風除カゼヨケ格里思格の毛氈マウセンとなりて、家イヘ格兒を禦フセ格哩思格列勒敦ぎ合アはんと試コヽロみん」と云イへり。
§125(03:48:06)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年)
舊臣キウシンを勞ネギラひ新附シンプを奬ススむる諭旨ユシ
そこに成吉思 合罕チンギス カガン、罕カンとなりて、孛斡兒出ボオルチユ、者︀勒篾ヂエルメ 二人フタリに言イへらく「汝等ナンヂラ 二人フタリ、我ワレを、影カゲ薛兀迭兒より外ホカに伴トモなき時トキに、影カゲ薛兀迭兒となりて、我ワが心コヽロ薛惕乞勒を安ヤスからしめたるぞ、汝等ナンヂラ。心コヽロ薛惕乞勒の內ウチに存アれ」と云イへり。「尾ヲ薛兀兒より外ホカに鞭ムチ赤出阿なき時トキに、尾ヲ薛兀兒となりて、我ワが心コヽロ只嚕格を安ヤスからしめたるぞ、汝等ナンヂラ。我ワが胷ムネ徹額只の內ウチに存アれ」と云イへり。「汝等ナンヂラ 二人フタリは、前マヘに立タてるに依ヨり、此處コヽに居ヲる者︀モノどもに長ヲサとなりて居ヲらずや、汝等ナンヂラ」と云イへり。又マタ 成吉思 合罕チンギス カガン 言イはく「皇天 后土アマツカミ クニツカミに力チカラを添ソへて祐︀タスけられば、 汝等ナンヂラ、札木合 安荅ヂヤムカ アンダの處トコロより我ワレをと思オモひて伴オモとならんとて來キつる老人トシヨリどもは、我ワが福︀サイハヒある伴トモとならざらんや」と云イへり。己オノも己オノも委任ヰニンせり、汝等ナンヂラに。(この句、恐らくは脫文あらん。)
§126(03:50:02)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年)
成吉思 汗チンギス カンの卽位ソクヰを聞ける王罕ワンカンの賀辭ガジ
成吉思 合罕チンギス カガンを罕カンとなしたりとて、客咧亦惕ケレイトの脫斡哩勒 罕トオリル カンに、荅孩ダカイ、速格該スゲガイ(前の塔孩、速客該)二人フタリを使ツカヒに遣ヤりたり。脫斡哩勒 罕トオリル カンは、「帖木眞テムヂンなる我ワが子コを罕カンと爲ナしたるは甚ハナハだ善ヨし。忙豁勒モンゴルに君キミなく、いかにか過スゴさん、汝等ナンヂラ。此コ額捏の協議ケフギ額也を勿ナ 壞ヤブ厄迭惕りそ。協議ケフギを結ムス掌吉べるを勿ナ 解ト塔魯惕きそ。衣コロモ札合の領エリを勿ナ 扯ヒ談禿魯黑きそ」と云イひて遣ヤりて。(畢りのては、たりの誤りか。然らずば、下に脫字あらん。)
成吉思 汗 實錄 卷の三 終り。