りて、「我ワが角ツノをおこせ」と云イひ云イひ、札木合ヂヤムカの處トコロに吼ホえ吼ホえ、土ツチを揚アげ揚げ立タちたり。角無ツノナき慘白ナマジロき牡牛ヲウシは、大オホイなる帳房チヤウバウの牀ユカを上ウヘに擡モタげて、駕カして拽ヒきて、帖木眞テムヂンの後シリヘより大車路オホクルマヂに依ヨり吼ホえ吼え來クるに、「皇天アマツカミ 后土クニツカミ 議ハカり合アひて、帖木眞テムヂンを國クニの主人ウシと爲ナれと云イひ、國クニを載ノせて持モちて來キたり」と云イひ、神︀吿ミツゲを目メに見ミせて我ワレに吿ツげたり。
帖木眞テムヂン 汝ナンヂ、國クニの主人ウシと爲ナらば、我ワレを[我ワがかく]吿ツげたる故ユヱに、いかにか樂タノシましむる、汝ナンヂ」と云イへり。帖木眞テムヂン 言イはく「實マコトにかく國クニを知シらしめば(管知せしめば)、萬戶バンコの官人クワンニンと爲ナさん」と云イへり。[豁兒赤ゴルチは]「多オホき理由リイウを吿ツげたる人ヒトを我ワレを萬戶バンコの官人クワンニンと爲ナすとも、何ナニの樂タノシみか有アらん。萬戶バンコの官人クワンニンと爲ナして、國クニの美ウツクしき好ヨき少女ヲトメらを自在ジザイに取トらしめて、三十人サンジフニンも婦人ヲミナあらしめ、又マタ 何ナニにても我ワが語カタることを迎ムカへ聽キけ」と云イへり。(前段に豁兒赤 兀孫を翁と云へるは、後に與へたる尊稱を以て追記せるなり。婦人をあまた望みたるを見れば、この時はまだ壯かりしならん。)
§122(03:41:01)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年)
札木合ヂヤムカより離れ來ぬる諸︀部の眾シウ
忽難︀クナンを頭カシラとせる格你格思ゲニゲスの一團イチダンも來キぬ。又マタ 荅哩台 斡惕赤斤ダリタイ オツチギンの一團イチダンも來キぬ。札荅㘓ヂヤダランより木勒合勒忽ムルカルクも來キぬ。又マタ 溫眞ウンヂン(親征錄嫩眞 部ヌンヂン ブ) 撒合亦惕サカイト(親征錄撒合夷 部サカイ ブ)の一團イチダンも來キぬ。札木合ヂヤムカよりかく離ハナれ動ウゴきて、乞木兒合 小河キムルカ ヲガハの阿亦勒 合喇合納アイル カラカナに下馬ゲバして居ヲる時トキ、又マタ 札木合ヂヤムカより離ハナれて、主兒勤ヂユルキン(卽ち卷一の禹兒乞)