§114(03:23:08)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年)
敵營に遺ノコれる幼兒 曲出クチユ
兀都︀亦惕 篾兒乞惕ウドチト メルキト 逃ニぐる時トキ、貂鼠テウソの帽バウある、牝鹿メジカの蹄皮テイヒの靴クツある、粉皮フンピと水ミヅの貂鼠テウソと接ハぎたる衣コロモある、五歲イツヽなる、曲出クチユの名ナある、その目メに火ヒある幼兒ヲサナゴを、我等ワレラの軍人イクサビトどもは、營盤イヘヰの內ウチに遺ノコりたるを得エて、伴ツれ來キて訶額侖 額客ホエルン エケに給事キフジに率ヰて與アタへて去サれり。
§115(03:24:07)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年)
帖木眞テムヂン 脫斡哩勒 罕トオリル カン、札木合ヂヤムカ 三人ミタリ 一ヒトつになりて、篾兒乞惕メルキトの奧向オクムキ綽兒罕の房ヘヤを推倒オシタフして、和合ワガフ綽黑台せる婦人ヲミナを掠カスめて、斡兒罕オルカン(卽ち前の斡兒桓 河)薛涼格セレンゲ 二河ニカの塔勒渾 阿喇勒タルクン アラルより退シリゾくに、帖木眞テムヂン、札木合ヂヤムカ 二人フタリは、一ヒトつとなりて、豁兒豁納黑 河原ゴルゴナク ガハラを指サして退シリゾけり。脫斡哩勒 罕トオリル カン 退シリゾくには、不兒罕 獄ブルカン ダケ の背ウシロより訶闊兒禿 主兒不ホコルト ヂユルブを過スぎ、(兒不の二字 倒置せるに似たり。)合茶兀喇禿 速卜赤惕カチヤウラト スブチト、忽里牙禿 速卜赤惕クリヤト スブチトを過スぎ、その野獸ケダモノを圍獵マキガリして、土兀剌トウラの黑林クロバヤシを指サし退シリゾきたり。
§116(03:25:09)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年)
帖木眞テムヂン 札木合ヂヤムカ 幼き時 二フタたびの安荅アンダ
帖木眞テムヂン、札木合ヂヤムカ 二人フタリは、豁兒豁納忽 河原ゴルゴナク カハラに會アひ下馬ゲバして、曩サキの安荅アンダと爲ナり合アへるを想オモひ合アひて、「安荅アンダを爲直シナホし合アひて親シタシみ合アはん」と云イひ合アへり。最前モトモサキに安荅アンダと爲ナり合アへるには、帖木眞テムヂン 十一歲ジフイツサイなる時トキ、札木合ヂヤムカは、麅オホシカの(麅の骨にて作れる)髀石ヒセキを帖木眞テムヂンに與アタへて、帖木眞テムヂンの銅灌ドウクワンの(銅灌の如き)髀石ヒセキと換カへ合アひて、安荅アンダに爲ナり合アひて、安荅アンダと云イひ合アひたるは、斡難︀オナンの冰コホリの上ウヘに髀石ヒセキを打ウつ時トキ、其處ソコに安荅アンダと云イひ合アひた