オープンアクセス NDLJP:493中原高忠軍陳聞書

目錄。

一出陣時祝︀次第。同可酌事。一軍陣にて弓可持次第事。

一軍陣にて乘替の馬に鞍置てひかせべき事。一菖蒲革前緖後緖の事。

一をひ征矢の事。 同幡さをの事。一軍陣の鞭の事。 同幡袋の事。一旗の事。 同幡さすべき次第事。

一日本の弓のおこりの事。一御たらしといふ事。一弦の事。

一弦卷の事。一弓の鳥打の事。一矢ほろの事。

一扇の事。一具足の毛の事。一產引目可射事。

一夜引目可射次第事。一鳴弦事。一公方樣御首途事。

一矢たばねの事。一頭を鞍のとつ付に付事。一同頭可懸御目事。


軍陣聞書。

一出陣時祝︀次第。同可酌事。出陣幷歸陣時。祝︀者︀次第。酌以下事。〈[#以下図ではHTML表示の都合上、折敷を四角形で表現したが、実際は四角の隅を切り落とした隅切折敷なので、要注意]〉

出陣時   七も
かちぐり
  五も

屋いかう


打あわび五本も三本も
    五も
よろこぶ
  三も

 三



歸陣時  蚫五本も三本も


屋いかう


かちぐり七も五も
    五も
よろこぶ
  三も

 三




肴をば。かんなかけの上に。めゝかつにをしきにすゆる也。やいかうはめゝかくに折敷にはすへぬ也。其外三種をば折敷に居べきなり。三度のみくふなり。出る時は先一番に蚫のひろきかたのさきより。中程まで口をつけて。尾の方より廣きかたへ少くひて酒をのむべオープンアクセス NDLJP:494し。其次二献めに。かち栗を一ツくひて酒をのむべき也。其次三献めに。こぶの兩方のはしを切のけて。中をくひて。酒をのむべき也。每度軍ばいの時は。あはびかち栗こぶ此三色たるべき也。我家にして軍配をいはふには。しゆでんの九間にて南向て祝︀なり。家のつくりやうによりて南へ向がたくば。東へも向べき也。東南は陽のかたなり。其謂なり。

酌すべきやうの事。一人してすべし。初献は。そひはひと三度入て。さて二献のは。そひと一度入て。左へまはりてくわへて。又そひはひと二度いるなり。三献めは。そひはひと三度入なり。以上九度なり。盃をひとにのませぬなり。祝︀ひてやがて肴をくづしてあけべし。酌はもろひざを立てつくばひてすべし。くわへる時も。其外かりそめにも。後へしさるまじき也。そひと入は酒をそと入なり。是は鼠の尾の心なり。はひと入るは酒をおほく永く入る也。是は馬の尾のこゝろなり。陰陽の儀なり。

軍ばいに限らず。兵具ふぜひの事さたする時は。東南可然なり。西北は不可然。陰の方成謂也。何時にても軍はいの盃を人にのませぬ事なり。只我獨祝︀なり。のみはてゝ後は。肴を惣をひとつにくづして。人のみしらぬ樣にすることなり。はしをば置ぬなり。盃はへいかうならではすまじき也。但時としてなくば何をもするなり。こぶ五きれの時は一チしたに二ツづゝ重てならべて。其中の上に可置也。三の時は二ならべて。其中の上に可置なり。かち栗蚫例式のごとくたるべし。打蚫は出陣の時は。細き尾の方を。くひての右へ成べきなり。廣きかしらの方に。くちをつけそめて。尾のほそき方より廣きかたへ喰なり。末ひろく成こゝろなり。如此祝︀をしていづるとも。しちありて心にかゝる事あらば。祝︀直すべし。軍ばいをば具足を着てもきざるときも。又旅へたつときも祝︀なり。

歸陣して祝︀の時は。初献にかち栗をくひて酒をのむ也。二献めに蚫のひろき方のさきを。ちと切て折敷に置て。その切めよりほそき尾の方へ喰て。酒をのむなり。三献めにはこぶの兩方のはしを切のけ中をくひて。酒をのむべきなり。蚫のくひやうは。かう出陣と歸陣とかはるなり。

蚫と栗とは出陣歸陣と置樣かはる也。蚫はいづる時は左なり。こぶは每度置處替まじきなり。

あはび五本の時は。こぶ五切れ。勝くり七たるべし。あはび五本は御本意を達すると云心なり。又蚫三本のときは。こぶ三かち栗五たるべし。御所樣御祝︀にあはび二本也。日本を打蚫といふこと心也。又大將の御肴一人ばかりならでは。か樣にはあるまじき也。何時も蚫こぶかち栗三色たるべきなり。但時として肴なき時は。かうのものからしかつをなどをも出す也。肴三色の一色二いろなき時は。此いろまぜてもくむなり。俄事にて此色々なきときは。此內一色にてもする也。

大將は三つの盃を初献に一つ。二献めに一つ。三献めに一つ。以上三ながらのむべきなり。

大將出陣の時は九間にて祝︀也。出陣の時は。中門の妻戶を。しゆでんの九間のあはひに本妻戶ある也。そのあはひの妻戶を通りて。中門の妻戶を出べし。中門の妻戶のさいの內にてオープンアクセス NDLJP:495もあれ。又しゆてんと中門のあはひの妻戶にてもあれ。兩所の內いづれにてもさいのうちに。包丁刀を。はを外へ。さきを左へ成て置て。先左のあしにて。さい友に刀を越て。さて右の足を越べし。さて刀を人にとらせて。其儘いづべきなり。又歸陣の時は。刀のさきさいよりそとへ置て。先左の足にてさいともに刀を越て。さて右の足をこし。內へ入て刀を人にとらせべし。出陣歸陣の時は。車よせのつまどへ可出入也。さる間しゆでんと中引のあはひに妻戶一つ有あひだ。妻と二つを出入する也。

一軍陣にて弓可持次第事。小具足出立の時より征矢おふべきなり。昔はうつぼなかりし間。今人の常にうつぼつくるごとく矢をおひたる也。但そは素襖小袴時はおふまじきなり。

矢をおふ事は太刀をはきて後におふなり。

軍陣に出さまに弓を可持事。弦を下へなして。左の手にひつさげて可持立て物言時は。弦をさきへなして。弓杖をつきて物をいふなり。弓杖の突︀樣。左にても右にてもつくべし。又人にたちあふて物をいふ時は。もろ手にて弓杖をつきて。弦を外へなして可言。弓のとり樣。右の手は上。左の手にて下をもつべし。又畏て物をいふ時は。かずづかにつくばいたる時の如く。弓を持べし。弓のうらはず人にむくる事あるまじき也。弓を人にあてぬやうに可持なり。馬上にて弓を持やうのこと。犬笠懸射ときのごとく可持。但弦を內へなして持事もあり。是ははや合戰にも及時の儀也。

大將に物申さむ時は。弓の弦內へなして。外竹を下へ成て。弓をふせて畏りて可申。弓を持て□□□時は。左の手にてひつさげて。弦を下へなして持てよるべきなり。

征矢おひて。よき程にては。弓を人にも持せ。又よせかけ置ことあるまじき也。自然ぢんやのうちにても持ながら可座也。弓物にもあたらば。そばにたてゝ可置。さ樣の時は外にて人に持せもすべき也。我座するそばにてもあれ。下に橫にふせて置事あるまじきなり。

出ざまに弦打をする也。南のかたにても東の方にてもむきて一ツ打べし。人打といふ義也。一打うちて弦に手をかくるなり。一打にうち納るこゝろなり。

一軍陣にて乘替の馬に鞍置てひかせべき事。馬のいばふ事。廐又は引出て乘らぬ以前にいばふこと吉也。はやあぶみに足をかけて嘶ふこと凶なり。其時は弓を脇にはさみて。上帶をもむすび直し。腹帶をもしめなをす也。

鼻をひ。馬の身ぶるひする事。落馬。何れも凶なり。上帶をも締直し。腹帶をもしめ直すべし。

軍陣へ出る時三ツ忘れよといふ事あり。第一家を忘れ。妻子をわするゝ事。第二合戰塲にて命を忘るゝこと。第三うち勝て忠節︀を忘るゝ事肝要儀也。

軍陣へたつときは。乘替の馬に鞍をいてひかするには。鞍おほひをすべきなり。鞍おほひは鹿の皮敷皮をする事。軍陣にかぎらず本儀なり。鞍覆は鹿皮本也。女鹿の皮は略儀なり。鞍おほひするには。白毛さきへなるなり。鞍の前輪のかたへ白毛なすべし。出陣のとき如此あるべき也。又歸陣の時は。如例式白毛さへ「サキ」たすべし手綱にて鞍おはひをからむべし。からみやうの事。手繩を二に取て。くらの前わの右のしほでに。しりかへ志かくる如く搦みて。つぼのかたを四方手の右のかたへ些といだして置て。さて左のしほ手をとをして。さて後オープンアクセス NDLJP:496の右のしほでをとをし。前わの右へ出る手繩のつぼへ入て。ほどきやすきやうにとむる也。

一菖蒲革前緖後緖の事。しやうぶ革の事。よこ菖蒲と云は。駒のもんにまじりたるをいふ也。是を前をといふ也。敷皮のへりをさす時は。くしかみより左へ成方を前緖にてさす也。又たてしやうぶといふは。菖蒲ばかりあるを云也。是を後をといふなり。敷皮のへりさすときは。くしかみより右へなる方をうしろをにてさす也。是はさうなく人無存知事なり。

一をひ征矢の事。おひ征矢の事。十六矢廿五矢是を用る也。但昔は六々卅六も箙にさしたる也。征矢の拵樣。上帶の引やうの事。家々によりて替なり。

一軍陣の鞭の事。高忠家に代々相傳の上帶の引樣。別たる秘說なり。不注置。矢は十六矢にても廿五矢にても。其身の儘たるべし。其外えびらのおもてに。ぬためのかぶらや一手さす也。人の物きたるごとく雁股を打違ひてさすべし。かぶらの拵樣前紙に注し置也。自小笠原殿口傳申。かぶら同からのこしらへ樣おなじ事也。

十六矢は九曜の星と七星をかたどる也。以上十六なり。

征矢をおひては必鞭をさしそへゞし。鞭の拵樣事。二尺八寸なり。くま柳を可用。くま柳をば勝弦といふなり。神︀宮皇后異國退治の御時。勝弦を鞭に拵へてさゝるべしとて。諸︀神︀さゝれたり。それより今に用きたること也。勝弦とは秘事たるによりて。人しらず。くま柳と申きたるなり。二尺八寸は廿八宿也。とつか六寸にとふをつかふなり。六寸のうち五分先をのこして。あなをあけ緖をとをして。鞭むすびに。うでの入ほどに結ぶなり。緖の革は二尺八寸は手にてとるべし。

具足の笠印をば。具足きてはやがてとく也。

一旗の事。はたのこしらへ樣の事。長さ一丈二尺本也。たかばかりの定。白き布二のを縫あはせてすべき也。布のはたはり一尺二寸本也。幡三分一すそをばぬうまじきなり。是を幡の足といふなり。ぬひはつに西に黑革にて菊とぢをつくるなり。大小不定。綻ばさじがため也。義家定任と御合戰の時。前九年後三年十二年三月也。然に其幡は破れはつれたる間。後三年にはすそ二尺きり結へり。さるあひだ一丈になりたり。その以後は一丈にもせられたり。又すゞしの絹にてもせられたる也。きぬは唐きぬを可用也。

幡に紋を書には。三ツにおりて。上の一の內に折めのきはへさげて。すみにて書て。そのうへに漆をうすくひくなり。其上に八幡大菩薩氏神︀。その外信仰の佛神︀を勸請申也。手付ざをは勝軍木をけづりて。黑革にてぬひくゝみて手をつくる也。但勝軍木ばかりはよはき間。いかにも性のよき竹を削りそへて。黑革にぬひくゝむべし。又くろがねをうすく打もそゆる也。おらさじが爲なり。手とは幡の上に付る緖をいふなり。手をも黑革を左繩になへて付る也。手のながさいか程とは不定也。さをに付てよきほとにすべし。手付ざをとは。幡の上に横さまに革にてぬひくゝむを手付ざをといふなり。

侍大將などさす幡。半幡ともいふなり。又射手はたともいふ也。布二の也。ながさは六尺なり。是も三に折て。上一の內に折目のきはへさげて紋をかくべし。是も紋の上に佛神︀を勸オープンアクセス NDLJP:497請申也。此時は幡ざをの長さ一文二尺にもするなり。吉日吉時をえらび東南陽の方へ向てすべき也。

幡をしたつる時は同日したつる也。建時は柳のかき板に幡の布を置て。其上に張弓を置。弓を左へ。つるを右になして。うらはづをさきへなして置て。腰刀にて弓とつるとのあはひよりさきへ成て建るなり。たつ時は九字の文。摩利支天の眞言をとなふべし。印有。

幡の縫やうの事。初きたるやうに。左を前へ打ちがへて。はたの上より下へ縫也。先一通りさきへぬうべし。針をかへして跡へ縫ぬ事なり。さきへ縫てよくとめて置べし。又以前の如く上より下へ。又一とをり二とをりならべてぬう也。幡の下へ成かたを幡の足といふ也。陽のかたへ向て馬の年の男。糸をもえり。ぬいもする也。本命星破軍星謂なり。

同幡さをの事。幡竿の事。根ほり竹を可用。惣のながさ一文六尺なり。根ほりの名をばのぞく。節︀はてう也。切勝々々と數る也。竿の一二のよを一とをして。上より手一束は置て。穴を明て。其穴へ黑革をくけて二に取て。つぼの方三ふせを計。穴へ可出。そのつぼをば花くりと云也。はなくりに幡をつくるなり。幡付の緖ともいふなり。つぼの殘のかはにて。一上の節︀の切目に。とうはうむすびをして置也。とうはう前に可向。又さほのすゑ一尺二寸計。黑革にてくゝむ事有。畧儀也。

幡付の緖をとをす穴より竹のよの中へ。五大尊の種字と摩利支天の眞言をかきて納る也。

出陣の時幡を出す時は。しゆてんの九間にて大將幡指に渡すなり。幡さし受取て。中門の妻戶と。しゆてんとの間のつまどを通りて。中門の妻どをとをり庭へ出べし。同幡ざを中門の妻戶よりさきを物にあてぬやうに持て。先幡ざをのさきの方より可出なり。うけとりて中間に可渡。やがて合戰もありつべくば。吉方へ向て幡を袋よりとり出。さをに可付。つくる時。印眞言あるべし。

同幡袋の事。幡袋の事。錦たるべし。きぬにても布にても浦をうつべし。色は何色もくるしからず。幡のゆると入やうに拵べし。もとすゑもなく縫て。兩の端を組にてゆひ脇にかけさすべかし。又陣屋にては。敵ぢんに向てかけて可置也。さををば幡指の中間に可持也。さを持たる中間は。幡指よりさきへ可行なり。

自然陣中へ我しんかうの佛神︀より卷數などもきたらば。幡ざをに結ひつけて可持也。合戰の時も如此也。

同幡さすべき次第事。幡指幡をさす時は。左の手にてさす也。馬上よ[にヵ]て幡を可納時。是唐笠のゑ立のごとくに拵ゆる也。いため革にても。牛の角にても。竹にてもすべき也。鞍の前わの左のしほでに可付なり。

幡さをに幡を付て以後。幡指の馬などとをりえざる堀川ありて。跡へかへりまへ[回ヵ]る事あらば。かち人に幡をさゝせてすぐにとをして。先にて受取てさすべし。但難︀所にて。かち人も通りえざる所にては。力およばざる事也。

幡指たる時。風つよく吹て幡をふきちぎりつべき時は。幡の足を幡ざをにとりそへて指べオープンアクセス NDLJP:498きなり。跡の方へはたの足吹かくる時は。少々の風吹とも。さをに取そへずしてさす也。

大將と幡さしと相生を可用なり。

幡指の出立は。其大將との相生の色

の具足をきべし。馬の毛おなじ。相生を可用。[此一項前項ノ續キナルベシ] 

はたさしは幡さゝぬときは。弓をば持ぬ也。矢ばかりぬきて持なり。弓を下人にもたするなり。

入亂たる合戰の時。敵みかたみわけざる時は。依其時宜幡ばかりひつときて。相引へおし入て戰ふなり。合戰の時宜によるべきなり。

合戰の過て。我宿處へかへりて。其日より三日幡を付ながら置也。たとへ我在所ならず何方にありとも。うち歸たる在所に三日付ながら置べし。但三日め惡日ならば二日めも又三日より以後なりとも。吉日をもつて幡を可納なり。

 右連々相傳之分。悉委注置訖。於幡儀者︀秘說不之。聊不外見者︀也。

  寬正二年四月日

中原高忠軍陣聞書。

一日本の弓のおこりの事。弓のはず虵のかしらにゝたり。是をおそれ思召し。いまのはずに作なされたり。虵の舌に表すべしとて。はづをながく出して。弦をかけられたるにより。今のよまでも如此なり。黑き地を表するによりて。弓は黑木を本とする也。その後とうをつかふる。虵の色々に表する也。かぶらとうは虵の形なり。浦筈本筈は虵の頭なり。くちの色は赤きとて朱をさすべき事。本儀なり。故豊後守高長。普廣院(義敎) 殿山門御退治のとき。興雲寺殿御供申出陣いたす時。しげどうの弓をもち。うらはず本筈にしゆをさし持たる也。しらぬ人は不審する也。小笠原備前殿持長法名淨元。歸陣の時。見物有て。御褒美ありたるなり。そのとき高長おひたる矢。切符廿五矢なり。

一ふくらといふ事は弓一張のこと也。二ふくらといふは二張の事也。

一御たらしといふ事。弓を御たらしといふ事は。只の人の弓は申まじき也。公方樣の御弓をば可申なり。御矢をば御てうどゝ可申なり。是も公方樣の御矢ならでは申まじきなり。

とうは白き本也。ぬりごめどうといふは。重藤の上を赤漆にてぬりたるをいふなり。惣じて漆にてとうのうへをぬる事略儀なり。

武田小笠原兩家に限りて弓の拵やう替也。

一弦の事。しきの弓の弦は卷弦なり。ぬりやう。卷弦とは常の弦の上ををにて。太刀のつか卷ごとく。ちがひてまくをせき弦といふ也。又一方へまく事もあり。それをも卷弦といふ也。それは畧儀也。卷づるをば先能々射ならして後卷てぬる也。

一弦卷の事。弦卷は。箙の脇皮に付て。刀のさやへ引とをして矢をおふなり。弦まきのつけやう口傳あり。大小はこのみによるべき也。中のまるさは。刀のさやへくつととをる程に拵べきなり。弦卷をば昔はらすべにてもしたる也。近年つゞらにてするを被用也。何にてするが本とオープンアクセス NDLJP:499は不定なり。

一弓の鳥打の事。弓の鳥打と云事子細あり。なゝし鳥を打殺︀たると也。なゝし鳥とは雉子のおん鳥の事也。

一矢ほろの事。矢ほろのこと。十六矢は二はたはり也。廿矢廿五矢には二はたはりにりのを可入。打たれは一尺二寸也。たかはかりのさだめ。うつたれ一尺二寸の分をばぬうまじき也。但わりのゝ分をば。かたへ縫付べし。すそのくゝりの分ばかり也。矢にかゝる分の長さ。打たれをのけて。矢づかの長さにするなり。矢にあてがいて拵べし。但廿矢廿五矢の時はやのはづの方廣くある間。短くつまりてみゆる也。少しは長くして。矢にかゝりてゆるとみよき程にすべし。打たれの分をば。くみにて女結ひに結て。五分計かしらのきはにて引しめてさす。一の矢にからみてとむべし。打たれのきはばかりをば。黑革と赤革と合せて。赤革を下に重る。女むすびにして切なり。又我家の紋を付る時は。打たれにても羽︀のとをりにても可付。又引龍と。もんと。二色つくる時は。もんをば打たれに付て。ひきりやうをば羽︀のとをりに可付。又無文にもすべし。色不定なり。

弓袋矢ほろ。其外何にても。軍ばい方の物したつるに。先さきへ刀をやりて建なり。かき板には柳を可用。陽の本成故也。

萬の革のさきをば。とんば。うがしらにする也。靖︀蛉はさきへ行て跡へ歸らぬ物也。それによりたる儀也。

一扇の事。具足きて可持扇の事。面は地を紅に日を圓く。地に憚かる程に可出。日の大小不定。金箔也。うらは地をあをく月を圓く可出。大小不定。月は白はく也。地はそら色なり。月の方の地には星を出べし。星の數七又十二也。ほしは白はく也。量の大小不定。圓くちいさく月の兩方に可出。七つの時は。扇よるつかふときさきへ三つ。身よりに四つ成やうに可付。又十二の時は。一方に六。一方に六。以上十二なり。星の置處不定。みはからひて置べし。面は日るの容也。浦はよるの躰なり。骨は黑骨也。數は十二。ねこまさしぼねたるべし。例式の扇よりは。ま廣かるべし。廣さ不定。かなめをばかねにても革にてもする也。いづれにても此二色の內を可用。但かねはよかるべし。かねにてするは。かたにかしらをして。しんを通して。かたに座を圓くして。とをりたるしんのさきを返して。㧞けぬ樣にする也。扇の長一尺二寸。金の定たるべし。

扇のねこまに透かす紋の事。謂尋申處。昔より如此しきたるなり。何の謂とは無存知と被仰なり。

具足の上に扇さす時は。相引にさすべし。ひるは日の方を面へ成てさす也。夜は月の方面へなしてさす也。

扇のつかひやうの事。ひるは日の方を面へ成て。骨を六つ開て六つをば疊てつかふべし。夜は月の方を面へなして。骨を六つ開て六つをば疊てつかふべし。勝いくさして後は。みなひろげてつかふべし。

惡日に合戰をする時は。ひるは月の方を面へなしてつかふべし。よるは日のかたを面へなオープンアクセス NDLJP:500してつかふべし。

鉢卷の事。布たるべし。色は白を本とする也。廣さ長さ不定也。但赤も黑もする也。

一具足の毛の事。具足の毛の色の事。白糸本也。其謂は白糸根本の色也。こと色は色々に白いとをそめたる色なり。しらいとは人のいろはぬ根本の色成によりて。白糸を本とする也。又白色は陽なり。

黑糸黑革おどし賞翫の色也。是もかちんといふ色なるによりて。別て是を用なり。

御きせながと申事。御所樣の御具足ならでは申まじき也。公方樣の御小袖。これ御きせながの本也。此御きせなが毛は糸也。此色卯花繊と申也。卯花おどしはかつ色の事也。かつ色とは白糸のこと也。色糸にていろへたるなり。

めいげんする時。弓はぬり弓也。同弦もぬり弦なり。

一產引目可射事。產のときの引目可射次第。同夜引目等の事。ゆみはぬり弓たるべし。同弦もぬり弦也。

矢は白箟に鶴︀の羽︀を付る也。はぎやうは白きえり糸にてもはぐべし。皮はぎも不苦。但略儀なり。糸のえりやう秘事なり。はず卷と。かみはぎを。左えりの糸にてはぐべし。本はぎは右えりの糸にてはぐ也。箭をば三つ拵べし。二つは用意の爲なり。三つの內二つをば外面のはを付べし。一つは內向のはを可付。射る時は外向の矢にて可射也。引目は犬射引目赤うるしにぬるべし。ひしきめあるべからず。

射手の出立の事。白き小袖に白きうら打の直垂なり。ゆがけは例式のかはのゆがけたるべし。右ばかりにさすべし。えぼしかけをすべし。

射やうの事。產所の家をたきて畏て。如例式直垂のひぼを納て。ひとり弓のあしぶみをして。かたぬぎて紐袖をおさめて可射なり。但北の方へは射ぬ事なり。白へりのたゝみの浦を西へ成て。人二人に兩方の端を執へさせてうらを射なり。一つ射てかたを入て畏て。射たる矢をとりよせて。又其箭にて。立てかたぬぎて可射。さてかたを入て畏て。一一射たるよりも少あはひを置て。又一可射。女子ならば二つのまゝにて射まじきなり。矢は內矢にて射べし。たびごとに肩を入て畏也。矢取は殿原たるべし。すあふき也。たゝみは產處にしきたる白へりのたゝみ一でうこひ出て可射也。秘說也。

射やうは。さし矢に可射。打上ては弓を引べからず。こぶし落させじが爲也。弓がへし。弓だをしすべからず。惣じて產所の引目にかぎらず。引目射時。打上弓。返し弓。たをし弓あるべからず。

弓立と疊立たるあひの事。弓杖五杖計也。

矢取は前に座すべし。前より射手のうしろをとをりて可出。

夜引目の事。おの子のときは夜引目の數三つ。少あひを置て二射て。又少あひを置て三可射。三二三なり。以上八なり。よひ。よ中。あか月。三度可射也。女の時は二三二と以上七。よひ。曉。二度七つゝ可射。但男子のときは。よひに三。よ中に三。曉三も射なり。女子のときは。よひに二。よ中に三。曉二。以上七を一よに射なり。是は略儀なり。

オープンアクセス NDLJP:501めいげむの事。男子のときは。引目の數の如く。三二三と以上八なり。よひ。よ中。曉。三度する也。たび每に八つゝ弦を打也。女子のときは。よひ。曉。二度なり。是も夜引目の數如く。二三二以上七打也。宵あかつき二度。七つゝ弦打をするなり。男女ともに弦打て。やがて手をそゆる也。たび每に納る弦打なり。但是も引目射ごとく。男子の時は。よひに三。夜中に二。曉三。以上八なり。女子の時よひに二。夜中に三。曉に二。以上七弦打をする也。是は略儀也。

一鳴弦事。生る子の湯あぶる時。鳴弦とて弦打をする事。秘說也。三々三一。十度打也。是も一打て少あひを置て打々する也。度每に十度ながら手をそゆる也。男女にかはりはなき也。諸︀事祝︀の時。又は祈︀禱の時弦打如此。十度打なり。

八幡殿義家鳴弦する事三ケ度也と申は。弓のにぎりを取て一度打て。少あひを置て又一度打。又少しあはひを置て一度。以上三度打給ふ也。はじめ一度は弦に手をそへずして。三度目のときに手をそへ給ふ。是をめいげんする事三ケ度也と申來る也。魔緣のもの邪氣退治などの時儀なり。

魔緣化生の者︀などありて。夜引目。むねごしの引目など射時は。畏てたつときは。右の足より踏出て三足踏て可射。射はてゝは。例式中に立時の足踏のごとくたるべし。秘說なり。聊爾に傳事なかれ。

狐狸其外魔緣の者︀など射時は。右のあしをまへに一足ふみ出して射なり。急なる時は足ぶみのさたに及ぶべからず。矢はとがりやにて射べきなり。鷹の羽︀山鳥の尾にてはぎたる矢にて。右の足をふみ出して。魔緣のものを射るに。退かずといふ事なし。大成秘說なり。

出陣そのほか何事にてもあれ。座して居たる人立時は。左の足を踏立る也。又立て射たる人步び出るときも。左の足よりあゆび出る也。常に座しきに居たる時も。左のひざを上に成て居て。左の足より踏て立なり。祝︀言の時用足なり。

一公方樣御首途事。公方樣御出一番の御盃は勢州へ給。二度目御幡指。三度め御甲の役者︀被給也。

具足を人の前へかきて出る時は。前は下手跡は上手なり。かきて歸る時も具足もまはるべからず。むすぶとてわろき事也。

一矢たばねの事。矢たばねの革の事。黑革本也。革の廣さ五分なり。金のさだめ長さ不定。矢によるべし。三卷まきて面にひぼ結ぶ如くゆふべし。革のさき靖︀蛉頭にきる也。やたばねのたかさの事。根のさしぎはより上へ一尺二寸置て。矢くばりのうへをゆふと。日本記にあれども。それは餘りに高くて。八寸の方すはりて惡き也。吉程に見計ひてゆふべし。板め革にて矢くばりをして。其上をゆふべし。えびらしこ何にも。一番にさす矢一つを黑皮をほそくたちて。いかにもよく引て。箙にゆひ可付。ゆいやう女結びなり。付事肝要なり。事外成秘說也。

一頭を鞍のとつ付に付事。頭を鞍のとつ付に付る事。大將の頭をば左に付る也。はむしやの頭をば右に付る也。たぶさをちがへて。其たぶさにとつ付の緖を通して可付。法師の頭をば口のうちよりとつ付の緖をあきとへとをして可付。頭は四より多くは付られぬ也。とつ付の緖の長一尺二寸本也。

同頭可懸御目事。軍陣にて頭を懸御目時は。へりぬりを着て鉢まきをして。よろひきる時はわきだてをしオープンアクセス NDLJP:502て。太刀はいて。矢おふて可御目事本儀なり。略儀にて懸御目時に。具足にへりぬりきて。太刀ばかりはいて懸御目なり。

頭を合戰塲にて懸御目時も。へりぬりをきべき事本なり。なきに至ては。ゆひかみにても懸御目なり。合戰の庭にて俄に懸御目時は。頭すゆる臺の沙汰に及ず。右の手にて䯻をさげて。頭の切口に鼻紙など程に紙をたゝみてあてゝ。左の手にて切口を抱て懸御目て。左へまはりてたつ也。

入道の頭をば。左右の手に持て。大ゆびにて左右の耳を抱て。のこりのゆびにて切口を持て懸御目なり。

頭を懸御目以前に。すなかぢとて。すな取て。少頭へまきかけて可御目。すなのなき在所にては。土にてもする也。是はまじなひ也。

公方樣の御敵をもする程の人の大將の頭を懸御目ときは。うら打の直垂にゑぼしかけをして懸御目なり。頭をば臺にすへべき也。臺は檜の板のあつさ四五分。廣さ六寸よほうばかりにすべし。足はさんあしにて打。足の高さ一寸計。頭を可持やうは。大指にて耳を抱へ。惣のゆびにて臺を持。御前にて兩のひざを立。畏て頭を臺にすへながら。地に置て。扨もと取を右の手にて取てひつさげて。左の手を頭の切口にあてゝ。公方樣の御かほをきと見申て。頭の少し左の方を懸御目て。如元臺に置て。扨如以前。左右の手にて臺と友に頭を持て。左へまはりて可立也。法師頭をも臺と友に土に置て。左右の手にて頭の切口へ四の指を入て。左右の大指にて耳をかゝへて懸御目て。如元臺に置て。左へまはりて立也。如此ある事なれども。御前にて頭をとかく拵事不然とて。前にしるすが如く臺にすへて。御前へ持て參て畏て。臺ながら中に持て。其儘懸御目て。左へまはりて立なり。頭をばまむきには御目にはかけぬ事なり。右のかたのかほを被御覽やうに懸御目なり。

去嘉吉元年赤松大膳大夫滿祐︀法師頭。慶雲院殿樣御實撿のときは。伊勢守殿宿所西向にて御實撿有。其時當方侍所なり。多賀出雲入道所司代職相抱時。出雲入道子左近將監に令指南御目也。其時の懸御目やう。うら打の直垂にて。ゑぼしかけゑて股だちを取て。以前に志るす如く臺にすへて持。御前へ參りて頭を其儘中に持。右の方を卒度懸御目。左りへ廻りて立也。頭を臺に置時より。直にをかで。右の方を御覽ぜらるゝ如く臺の上にすこし筋違へて置なり。

頭のかしらゆひやうの事。昔は常のゆひ所より高くゆひて。手一束程に髮を卷あげて。引提て持やすき樣にゆふなり。但それは髻をとつてひつさげて懸御目間。取能ために。たかくゆひあげたる也。

一夜引目可射次第事。夜引目可射事。祈︀禱の時のよ引目。用心の時の夜引目は。三々三と是を用。以上九也。引目を三つ持て可射。例式の如くつくばひてひぼをおさめて。足ぶみをひとり弓の足ぶみをして。はだぬぎて袖をおさめて。三つ射てあひを少置て。又三可射。如此三々三。以上九射なり。引目は犬射引目たるべし。ひしきめのなき引目にて射也。

オープンアクセス NDLJP:503むねごしの引目の事。引目を三つ持て三つ可射也。北へ不射。同日東南へ引目を向たらばよかるべし。西へ向て射も不苦。病者︀などの祈︀禱に射には。主の居たる家の棟をよこさまに可射越。引目は犬射引目たるべし。射やうは。三の引目を。二をばそばに置て。一つを弓にとりそへて。つくばいてひぼを納て。獨弓の足踏をして。かたぬぎて袖を納めて可射。引目の落所は。やね又はいづくへ落たりとも不苦。其人の棟を射こすべし。足踏はだけて射時。前の左のあし上て。矢はなして後。足を志かと土へふみつくべし。是はむねこしの引目射時ばかりに限りたる事也。異秘說也。

はなす弦。打納る弦打とて二色在。納る弦打とは。常にする如く弦打をして。やがて弦に手をかくる事を。納る弦打といふ也。惣じて弦打を何度もせよ。後にしはつる時のをば。納る弦うちと云也。又はなす弦打とは。弦打をして手をかけずして其儘置事をいふなり。

用心のときの弦打は四二三なり。先四打て少しあはひを置て二三打也。四二三以上九也。何とも九づゝ打なり。弦打のたびごとに弦に手をかくる也。二打少あひを置。

愁のときの弦打は。三々三一。以上十度也。是も三ツつゞけて打て少あひを置て打也。愁には弦打て。每度三の內。初二は手をそへぬなり。三度めをば手をそゆる也。十度めのをも手をそゆる也。愁とは邪氣退治などの時のこと也。十度めの弦打をば納るつるうちなり。

 右此一帖。豐後守高忠連々注置。以證本書寫者︀也。

永正八年六日日                   小八木若狹守忠勝判

右高忠聞書。以松岡辰方所藏二本書寫。原本初七條爲一本。後十五條爲一本。今據目錄。併作一部。校正上木了。



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