馬可傳福音書(明治元訳) 第十一章

Wikisource:宗教 > 聖書 > 明治元訳新約聖書 (明治37年) > 馬可傳福音書(明治元訳)

第十一章

1 かれら橄欖山（かんらんざん）のベテパゲとベタニヤに至（いた）りエルサレムに近（ちかづ）ける時（とき）イエス二人（ふたり）の弟子（でし）を遣（つかは）さんとして
2 彼等（かれら）に曰（いひ）けるは爾曹（なんぢら）對面（むかふ）の村（むら）に往（ゆけ）かしこに入（いら）ば頓（やが）て人（ひと）の未（いま）だ乘（のら）ざる所（ところ）の繫（つな）げる驢馬（ろば）の子（こ）を見（みる）べし其（それ）を解（とき）て牽（ひき）來（きた）れ
3 もし誰（たれ）か爾曹（なんぢら）に何（なに）ゆゑ然（しか）する乎（や）といふ者（もの）あらば主（しゆ）の用（よう）なりと曰（いへ）さらば直（ただち）に其（それ）を此（ここ）に遣（おく）るべし
4 彼等（かれら）ゆきて門（もん）の外（そと）の岐路（ちまた）に繫（つな）げる驢馬（ろば）の子（こ）を見（み）て之（これ）を解（とき）ければ
5 其處（そこ）に立（たて）る人々（ひとびと）のうち或（ある）人（ひと）かれらに曰（いひ）けるは此（この）驢馬（ろば）の子（こ）を解（とき）て如何（いかに）する乎（や）
6 弟子（でし）イエスの命（めい）ぜし如（ごと）く曰（いひ）しかば遂（つひ）に許（ゆるし）たり
7 弟子（でし）驢馬（ろば）の子（こ）をイエスに牽（ひき）きたりて己（おの）が衣（ころも）を其（その）上（うへ）に置（おき）ければイエスこれに乘（のれ）り
8 人々（ひとびと）おほくは其（その）衣（ころも）を路上（みち）に布（しき）あるひは樹（き）の枝（えだ）を伐（きり）て路上（みち）に布（しき）
9 かつ前（まへ）にゆき後（あと）に從（したが）ふ人々（ひとびと）呼（よばは）り曰（いひ）けるはホザナよ主（しゆ）の名（な）に託（より）て來（きた）る者（もの）は福（さいはひ）なり
10 主（しゆ）の名（な）に託（より）て來（きた）る我儕（われら）の父（ちち）なるダビデの國（くに）は福（さいはひ）なり至上（いとたかき）處（ところ）にホザナよ

11 イエス、エルサレムに至（いた）り聖殿（みや）に入（いり）て悉（ことごと）くみまはし時（とき）すでに暮（くれ）に及（および）ければ十二（じふに）と偕（とも）にベタニヤに出（いで）往（ゆけ）り

12 明日（あくるひ）彼等（かれら）ベタニヤより出（いで）し時（とき）イエス饑（うゑ）たり
13 遙（はるか）に葉（は）ある無花果（いちじく）の樹（き）を見（み）てその樹（き）に何（なに）か有（あら）んとて來（きたり）しに葉（は）の他（ほか）なにも見（みえ）ざりき是（これ）無花果樹（いちじくのき）の時（とき）に非（あらざ）れば也（なり）
14 イエス此（この）樹（き）に對（むかひ）て今（いま）よりのち永久（いつまで）も爾（なんぢ）の果（み）を食（くら）ふ人（ひと）あらざれといふ弟子（でし）これを聞（きけ）り

15 彼等（かれら）エルサレムに至（いた）りイエス殿（みや）に入（いり）てその中（なか）にをる賣買（うりかひ）する者（もの）を殿（みや）より逐（おひ）出（いだ）し兌銀（りやうがへする）者（もの）の案（だい）、鴿（はと）を鬻（うる）者（もの）の椅子（こしかけ）を倒（たふ）し
16 かつ器具（うつはもの）を以（も）て殿（みや）を過（とほ）ることを許（ゆる）さず
17 また彼等（かれら）に諭（をしへ）て曰（いひ）けるは我（わが）室（いへ）は萬國（ばんこく）の人（ひと）の祈禱（いのり）の室（いへ）と稱（となへ）らるべしと録（しる）されたるに非（あらず）や然（しか）るに爾曹（なんぢら）は之（これ）を盜賊（ぬすびと）の巣（す）と爲（なせ）り
18 學者（がくしや）と祭司（さいし）の長（をさ）これを聞（きき）て如何（いかに）してかイエスを喪（ほろぼ）さんと謀（はかり）しが彼（かれ）を懼（おそれ）たり蓋（そは）人々（ひとびと）みな其（その）教（をしへ）に駭（おどろ）きたれば也（なり）

19 日（ひ）くれてイエス城邑（みやこ）を出（いで）行（ゆけ）り
20 翌（あくる）朝（あさ）かれら無花果（いちじく）の樹（き）を過（すぐ）る時（とき）その根（ね）より盡（ことごと）く枯（かれ）たるを見（み）る
21 ペテロ憶（おもひ）出（いで）てイエスに曰（いひ）けるはラビ見（み）よ詛（のろひ）し所（ところ）の無花果樹（いちじく）は枯（かれ）たり
22 イエス答（こたへ）て彼等（かれら）に曰（いひ）けるは神（かみ）を信（しん）ぜよ
23 誠（まこと）に我（われ）なんぢらに告（つげ）ん誰（たれ）にても其（その）心（こころ）に疑（うたが）ふ事（こと）なく其（その）いふ所（ところ）の言（ことば）は必（かなら）ず成（なる）べしと信（しん）じ此（この）山（やま）に移（うつり）て海（うみ）に入（いれ）といはば其（その）言（こと）の如（ごと）く成（なる）べし
24 是（この）故（ゆゑ）に我（われ）なんぢらに告（つげ）ん凡（おほよ）そ祈禱（いのり）の時（とき）その求（ねが）ふ所（ところ）のものは必（かなら）ず得（う）べしと信（しん）ぜば必（かなら）ず得（う）べし
25 又（また）なんぢら立（たち）て祈禱（いのり）する時（とき）もし人（ひと）を憾（うらむ）こと有（あら）ば之（これ）を免（ゆる）せ蓋（そは）天（てん）に在（いま）す爾曹（なんぢら）の父（ちち）に爾曹（なんぢら）も亦（また）その過（あやまち）を免（ゆる）されん爲（ため）なり
26 もし爾曹（なんぢら）免（ゆる）さずば天（てん）に在（いま）す爾曹（なんぢら）の父（ちち）も亦（また）なんぢらの過（あやまち）を免（ゆる）し給（たま）はじ

27 彼等（かれら）またエルサレムに至（いた）りイエス殿（みや）を行（あるけ）るとき祭司（さいし）の長（をさ）學者（がくしや）および長老（としより）等（ども）きたりて
28 彼（かれ）に曰（いひ）けるは何（なに）の權威（けんゐ）を以（も）て此（この）事（こと）を行（なす）や誰（た）が此（この）事（こと）を行（なす）べき爲（ため）に爾（なんぢ）に此（この）權威（けんゐ）を與（あたへ）しや
29 イエス答（こたへ）て彼等（かれら）に曰（いひ）けるは我（われ）も一言（ひとこと）なんぢらに問（とは）ん我（われ）に答（こたへ）よ然（さら）ば我（われ）なんぢらに何（なに）の權威（けんゐ）を以（も）て之（これ）を行（なす）といふ事（こと）を告（つぐ）べし
30 ヨハネのバプテスマは天（てん）よりか人（ひと）よりか我（われ）に答（こたへ）よ
31 彼等（かれら）たがひに論（ろん）じ曰（いひ）けるは若（も）し天（てん）よりと云（いは）ば然（さら）ば何故（なにゆゑ）かれを信（しん）ぜざるかと曰（いは）ん
32 もし人（ひと）よりと云（いは）ば彼等（かれら）民（たみ）を懼（おそれ）たる也（なり）蓋（そは）民（たみ）みなヨハネを預言者（よげんしや）(※1)と爲（せし）に因（よる）
33 遂（つひ）に答（こたへ）て知（しら）ずと曰（いふ）イエス答（こたへ）て曰（いひ）けるは我（われ）も何（なに）の權威（けんゐ）を以（も）て之（これ）を行（なす）か爾曹（なんぢら）に語（かたら）じ(※2)

※1 明治14(1881)年版では「預言者」のルビが「よげんじや」。
※2 明治14(1881)年版では「語（かたら）じ」→「語（かた）らじ」。