オープンアクセス NDLJP:488隨兵日記

大將先鎧直垂に我家の紋をぬひものに織付着すべし。但四のくゝりを入べし。次よろひを着べし。刀をさし。上帶をしめ。次に中門に打て出で。太刀をはき。次に廿五矢に。切符又大中黑の羽︀の付たる矢をおふべし。但箙はさかつらゑびらたるべし。次にくま柳の鞭をさしそへ付べし。とつかに藤をつかひ。同重藤を所々につかふべし。如此の鞭を矢の上にすみ違にさすべし。但鞭は身よりの方にある樣にさすべし。次に重藤の弓を持べし。次に虎の皮のつなぬきをはくべし。

ゆがけはまきふすべ革のゆがけをさすべし。但緖のとめやう。一段口傳あり。

甲は役人に持せ。我家の折ゑぼしこゆひなしのをきべし。一寸まだらのてうづかけをすべき也。馬には大ぶさをかけ。白きたなはをさして乘べし。

騎馬の衆は。三十騎も又二十騎も有ベき也。次にこれも鎧直垂を着すべし。則四のくゝりを入べし。次によろひを着して。是も太刀をはき。次に矢負ひ。鞭をさすべし。同重藤の弓を持べし。次にくまの皮のつなぬきを是もはくべし。同こゆひのなき烏帽子をきて。てうつかけをすべし。てうづかけのしやう口傳に有。但よろひなくば騎馬の衆腹卷をも着べし。くるしからず。次に總かけたる馬にたなはをさして乘べき也。

甲持役人。次に敷皮持役人。同張替の弓持役人。次に太刀持役人。いづれも黑(す)きひたゝれに是も四のくゝりを入べし。次に胴丸をきせ。刀はこがねのいりて色ゑたるをさゝすべオープンアクセス NDLJP:489し。是も家の折のゑぼし小結なし。同ゑぼしかけは常しきのを用べし。足半をはかすべし。

馬の先につかひて練︀るやう。甲は左。持やうは。はちづけの方を前へ向て。左の手をはちの中へ入。右の手を添て。しのびの緖をかゝへて持べし。次に敷皮的の時の樣に四折にして。道の程もたせべし。右の方に有べし。次に張替弓しろき弓袋に入。かたげ持べし。左の方につかふべし。次に太刀持は右の方につかふべし。

敷皮のこしらへ樣。鹿皮の秋二毛たるべし。但敷皮の廣さ長さに寸法有べからず。是も拵やう的の時の樣にこしらへべし。

床木の高さ一尺二寸。上の廣さ人によるべし。但し黑く塗べし。

つなぬきの長さ一尺二寸。おもての廣さ四寸二分。足のなかの指にかけ緖をすべし。同つなぬきの皮。虎の皮あざらしの皮熊の皮を用べし。こしらへやう條々口傳あり。

乘替の馬に。敷皮を鞍覆にしてひかすべし。同敷皮の白毛の方を左になすべし。手綱にてからみ付べし。是も口傳有べし。

隨兵の時も同じ。出陣の時も。乘鞍の事は各別にあるべからず。但金をも入れて。いづれも色えて乘べし。但とつゝけは長さ一尺二寸。同鐙はかな鐙を用べし。同はるびも二重はるびに有べし。口傳あり。

矢ほろの色は。紅もえぎ同。白くも又は朽葉色にもすべし。但うつたれに我家の紋を縫物にて織付べし。同矢にかけて。羽︀の通りに二つ引龍を黑くをり付べし。惣而矢ほろかくる事は異儀也。

おひ征矢は。廿五矢本たるべし。又は廿矢も十六矢も有べし。箙の事は。猪︀のさかつらゑびら本たるべし。但廿矢十六矢の時はつねしきの箙たるべし。次に矢に付る上帶の事。紅たるべし。長さ八尺計にすべし。たばね樣矢の付樣口傳あり。

緣塗は。出陣の時。大將又ははたさしなどきべし。同鉢卷をすべき也。はち卷の色紅。同上帶の色も同前たるべし。次に黑くも白くもすべし。惣而はちまきの寸法は。其人の頭にあはせて可用なり。

鎧直垂の色。五色に有べし。たち樣ぬひやう四のくゝりの入やう。一段口傳あり。

隨兵の時。廿五の中に。人の家により所望によつて鏑を壹ツさす事も有。於當家は尤とがり矢を一手可用なり。

隨兵の時。出仕申て。床木をば御前の御門に向て。同敷皮の白毛を前へなして打かけて座すべし。次に騎馬の衆は。是も敷皮を敷。同白毛を左へなして敷べし。

扇の骨は黑ぼねたるべし。長さ一尺貳寸。面は地くれなゐにして日を出すべし。同裏は空色にして月を出すべし。星は七たるべし。但十二時をかたどり。星十二も出すべし。但可口傳。同かなめの事。御免︀革黑革にてもこしらへ[ベ]し。同赤銅にてもすべし。口傳有。又扇のつかひやう條々口傳有。同扇を遣はぬ時は。具足の右の方の引あはせにさすべし。猶口傳あり。

オープンアクセス NDLJP:490かつ色おどしの鎧。卯花威の鎧。口傳に有。

 文明十八年正月十一日

  右隨兵日記以伊勢貞春本校合了。



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