鐵道震害調査書/第一編/第二章/第十節


第十節 中央本線(東京猿橋間53哩)

切取 切取の被害󠄂は御茶ノ水水道󠄁橋間に於て延󠄂長約260呎に亘り約1,700面坪󠄁崩󠄁潰せる外(附圖󠄃第十五並に寫眞第百七十六乃至第百七十八參照),淺川猿橋間に於て隧道󠄁坑門口の切取崩󠄁潰せしもの4箇所󠄁あれどもその坪󠄁數何れも150立坪󠄁以下なり。

築堤 與瀨上野原間,八王子起󠄁點11哩12鎖󠄁澤井澤に於ける高165呎の高築堤に,延󠄂長530呎に亘り2條の縱走せる罅裂を生じ,且最大5呎の沈下をなしたり。この外全󠄁線に亘り最大2呎以下の沈下數十箇所󠄁あり。

土留壁 石垣の被害󠄂は孕出し最も多く,崩󠄁壞これに次󠄁ぐ。孕出しは猿橋驛構內排水路石垣(間知石,割石,玉石空󠄁積)約130面坪󠄁の外數箇所󠄁あり。崩󠄁壞は御茶ノ水附近󠄁に於ける切取及び築堤崩󠄁潰のために生じたる約250面坪󠄁を最大とし,その他市ヶ谷驛構內に於ける約60面坪󠄁以下のもの十數箇所󠄁あり。

橋梁 東京萬世橋間の各橋梁は火災のため床石並に石積の部分󠄁破損し,各拱橋の煉化石積のものはその表面剝落し,又󠄂鐵筋混凝土のものは混凝土剝脫して鐵筋の露出せしもの多し(寫眞第百七十九乃至第百八十二參照)。而して地震動に因る被害󠄂は鶴川橋梁の架違󠄄橋脚頂部突出部に罅裂を生じたる外,橋臺に罅裂を生ぜしもの2,3箇所󠄁,及び橋臺の傾斜󠄁,鈑桁の摺動せしもの數箇所󠄁あり。

道󠄁 與瀨隧道󠄁に於ける煉化石拱延󠄂長約200呎崩󠄁壞して上部土砂陷落せるを始めとし,各隧道󠄁何れも坑門口附近󠄁に罅裂を生じたり。

停車場 驛本屋は煉化石造󠄁の萬世橋驛を除くの外悉く木造󠄁なりしが,萬世橋,御茶ノ水,水道󠄁橋,飯田町の各驛は燒失し(寫眞第百八十三乃至第百八十七參照),牛込󠄁驛は倒壞し,その他の各驛とも多少の傾斜󠄁小破等を生ぜり。而して萬ママ橋驛の燒殘せる煉化石壁には地震に因る著しき龜裂等の被害󠄂認󠄁めざりき。

乘降場上家 道󠄁橋及び飯田町驛の乘降場上家は燒失し荻窪驛のものは倒壞し,その他各驛に於ても傾斜󠄁小破せり。

附屬諸建物 燈室の倒潰したるものは中野,荻窪,吉祥寺及び武藏境の4驛,便󠄁所󠄁の倒潰せしものは荻窪及び國分󠄁寺兩驛にして,荻窪驛の浴場も亦倒潰せり,尙その他の諸建󠄁物の傾斜󠄁破損せるもの多し。

貨物上家 荻窪及び淺川兩驛の貨物上家倒壞し,その他のものは小破せり。

乘降場及び積卸場 乘降場及び積卸場に於ける盛︀土の沈下龜裂等を生じたるもの多く,又󠄂擁壁の崩󠄁壞沈下せしものあり。

跨線橋 込󠄁驛の跨線橋は約9吋移動傾斜󠄁し,その外鑄鐵脚柱の筋違󠄄取付部の切斷せしもの2箇所󠄁あり。

地下道󠄁 地下道󠄁は殆ど被害󠄂なし。

給水器 飯田町驛に於ける木造󠄁水槽2箇及び木造󠄁水槽臺1箇燒失し,又󠄂鑄鐵給水柱の罅裂を生じたるもの2,3箇所󠄁あり。

信號機 東京飯田町間に於ける信號󠄂機は火災のため悉く燒損し,その他の區間に於ては自働信號󠄂機の倒壞せしもの5基ポール·サッポートの罅裂せしもの3基,場內信號󠄂機並に遠󠄁方信號󠄂機の折損せしもの5基,傾斜󠄁せしもの3基あり。

道󠄁 東京飯田町間に於ては火災のため枕木約7,000挺燒失せしが(寫眞第百八十八參照)御茶ノ水,水道󠄁橋間の懸崖に沿へる部分󠄁に於ては,延󠄂長260呎間の切取崩󠄁潰のため軌道󠄁破壞し,淺川猿橋間平󠄁野隧道󠄁外3箇所󠄁の隧道󠄁東京方坑門口に於ても切取崩󠄁潰のため破損し,且同區間に於ては山腹より岩石崩󠄁落のため軌條の彎曲せしもの5箇所󠄁あり。この外築堤沈下のため軌道󠄁の沈下を來したるもの數十箇所󠄁あり。就中澤井澤附近󠄁に於ては延󠄂長約530呎に亘り約5呎の沈下を生ぜり。

列車 道󠄁橋驛にて電車3輛,飯田町驛にて電車3輛及び旅客列車1箇(3輛)燒失し,又󠄂新宿驛に於て貨車7輛脫線せり。