臨時議会におけるハリー・S・トルーマンの米国民に対するラジオ演説

声明 編集

国民諸君。

私は来たる11月17日に議会を招集し、国内の物価上昇や海外の救援物資の問題について討議することにした。これらは、全国民にとって極めて重要な問題である。今夜私は諸君に対し、これら2つの問題について率直に語りたい。

対日戦勝記念日以来、我々は2つの目標に向かって決然と進んできた。平和と繁栄――全国民の繁栄、全世界の平和――を志してきた。

これらの目標への進捗度を測り、進路の計画を立ててみれば、最近の諸事象が我々の行く手を遮る新しく危険な障害をもたらしてきたことが判る。我が国の繁栄は、インフレの兆候によって危機に瀕している。世界の平和は、諸外国における飢えと寒さによって危機に瀕している。

迅速かつ果敢な行動で、これらの障害を乗り越えねばならない。議会による立法が不可欠である。窮状は、余りに切迫している――遅滞すれば議会行動にとって重大な結果を招くため、1月に開会する次の通常議会まで待ってなどいられない。

まずは、国内の繁栄について話したい。

我々は現在様々な点で、かつてなく繁栄している。かつてなく多くの労働者が職を――より良い賃金で――得ている。農家が占める国民所得の割合は、かつてなく大きくなっている。製造業者と小売業者は、嬉々として取引高や所得を記録している。我々は、かつてなく多くの民生品を生産している。

だが、こうした繁栄の徴候が事の全てを物語っているという訳ではない。生産は高いが、物価は急騰している。ほぼ全ての者が雇用されるが、多くの者は必需品を賄えずにいる。国民所得は高値を更新したが、多くの者の購買力は萎縮している。

いくつかの数値――これらは驚くべき数値であるが――は、生活費が如何に上昇しているかを示している。

これは1946年中葉から起こっていたことである。衣類の価格は18%上昇し、家具は18%上昇し、食料は40%上昇し、全商品平均では23%上昇した。

そして、生活費はなおも上昇を続けている。この3か月間に、生活費は年16%以上の割合で上昇した。

卸値も上昇している。1946年中葉以降、織物は30%上昇し、金属は35%上昇し、建材は41%上昇した。こうした卸値の上昇はあらゆる産業と通商に影響を及ぼし、最終的には小売価格に反映される。

一部の国民の場合、生活費の増加は収入の増加で相殺されてきた。だが大部分の国民の場合、収入の増加は生活費の増加よりも遅れている。

低・中間所得層に属する多くの家庭は、既にインフレの犠牲となっている。これらの家庭は貯蓄を使い果たしつつある。彼らは負債を負うことによって、己の将来を抵当に入れている。彼らは、持つべきものも持たずに生活している。

生活費の上昇に所得が負い付かないのではと稼ぎ手が心配していることは承知している。食費や被服費や家賃を払うために家計を遣り繰りしようとする主婦の困難も承知している。切り詰め、貯蓄し、資金なしで済ますのが如何に困難かについても承知している。

多くの人々が公平に繁栄を分かち合っていない時、不況や恐慌への道は敷かれるのである。

我々は皆、この危険を見落としてはならない。農家は、物価高騰の後に暴落が起こった1920年以後、如何に苦しんだか思い起こすであろう。実業家や銀行家は、無謀な投機の後に恐慌が起こった1929年以後、如何に苦しんだか思い起こすであろう。今日繁栄している人々ですら、明日はインフレの犠牲者となりかねないのである。

手遅れになる前に、インフレは阻止せねばならない。

我々の力をもってすれば、それを阻止することができる。我が国の経済は基本的に健全である。近年それは、非常に強まった。国民の平均的購買力は、今や1929年に比べて40%高い。だが、収入から乖離して上昇を続ける物価のせいで、我々はこの利益の一部を失いつつある。経済力を賢明に行使すれば、損失拡大を阻止できるし、新たな利益を得ることさえできるのである。

この国の物価高の主な原因は、利用可能な商品に対する国民自身の大きな需要である。我々の対外援助計画に責任を負わせる企てがなされたが、これは事実に反している。我々は戦時中、民生用に利用可能な生産の60%未満で生活水準を改善できることを学んだ。現在、全国家に向けて輸出が進められているが、それでもなお、我が国における遥かに大きな割合の生産が、民生用に利用可能である。健全な政策をもってすれば、我々は己の生活水準を守れるし、大規模対外援助計画を継続できるのである。

今や合衆国内には、自国民の需要を満たすに充分な食料や衣類などの商品があり――今後もあり続けるであろう。だが、これらの商品が賢明かつ公平に分配されていないことを、極度の物価高は意味している。恵まれない市民から搾取することによって、物価高は生活必需品を分配している。国民所得に見合った物価を実現して初めて、我々はこの問題を解決できるのである。

我が国の自由企業制度の中では、我々は専ら、経営者、農家、労働者、及び消費者の自発的な行動に依存している。だからこそ私は、自発的な物価引き下げを幾度も促したのである。

だが政府の責任は、自発的行動の支援に留まらない。政府は国民の要望に応えねばならない。

今や、物価高騰と生活費上昇の危険から米国民を守ることが何としても必要である。彼らはこの必要性を認識しており、然るべき保護を求めている。政府は、彼らに付きまとう物価高と困難と危機を終わらせるへの責任をもっと負わねばならない。そのためには、議会による包括法の迅速な制定が必要である。

これが、11月17日に議会を招集する理由の1つである。開会時に私は、インフレ、物価上昇、及び生活費上昇に対処する計画を勧告するつもりである。現状を正すには、充分な措置――遅滞なく立法化される――が必要である。

では、議会を招集するもう1つの理由に移りたい。これは、海外における飢えと寒さと人的被害の問題である。この危機的な時代に我々の援助を期待している、男女や児童の問題である。

我々は、明確な外交政策を推進している。その政策とは、過去も現在も、そして今後も、自由な人々や自由な諸国が戦争の荒廃から回復し、自らの足で立ち、互いを助け、安定的・恒久的平和に全力で貢献するのを支援することである。我々は、世界の平和と幸福を守るために、この政策を推進する。我々が他国の支配を狙っているとの主張は、全く意味がない。我々は自由を信じ、世界中の自由な人々と自由な政府を支援すべく全力を尽くしているのである。

この外交政策を推進するに際し、我々は今、西欧に向けた長期的復興計画の支援に際して合衆国が果たすべき役割を考慮している。この計画は、世界の重要地域における経済的安全保障と平和に対する大きな希望を示している。この計画の検討を完了し、計画の実行に必要な全ての重要決定を行うには、いささか時間が掛かる。

しかし、危険な時期は今や間近に迫っている。欧州における飢えと寒さの危機の故に、この冬は歴史上決定的な時期となるであろう。復興の全ての進展や将来計画の全ての展望は、危機に瀕している。欧州諸国が己の回復を継続すれば、彼らは経済的麻痺やそれによる混乱で機能不全に陥ったまま、この冬を乗り切らねばならなくなる。

欧州復興に向けた長期計画に先立ち、我々はこの差し迫った危機の間に一部諸国を救わねばならない。最も差し迫った危機にあるのはフランスイタリアである。これら諸国の経済が崩壊し、人々が全体主義の圧力に屈すれば、世界平和に不可欠なこれら諸国の復興を彼らや我々が期待する機会は失われるであろう。

彼らにまず必要なのは食料である。極度の悪天候は今年、西欧で最悪の凶作を引き起こした。フランスの凶作――過去100年間で最悪の事態――及びイタリアの凶作の故に、これら諸国は今後数か月間生き延びるために必要とする穀物の半分を、輸入に頼らざるを得ない。

もう1つの大きな不足は、燃料である。燃料供給は、昨年の厳冬までに減少した。戦争による鉄道への被害や、満足な食事も摂れずに働く鉱夫の作業効率低下は、燃料備蓄の回復を妨げた。

フランスとイタリアの財政的準備高は終戦以来、輸入に掛かる経費によってほぼ枯渇した。合衆国や諸外国における必需品の物価上昇は、彼らの残余資金の購買力を更に減じた。今や彼らは、不可欠な食料費や燃料費を払うに充分な資金も持たずに、来たる冬を迎える。そのことは、数値が物語っている。

フランスは、12月末までは現在の資金で最小限の需要を満たすことができようが、不可欠な輸入品の支払いに充てる資金を欠いたまま新年に突入することになる。フランスが1948年3月31日まで生き延びるためには、3億5700万ドルが必要である。

イタリアは、今年の残り期間すら乗り切れまい。イタリアを12月31日まで生き延びさせるためには、1億4200万ドルを供与せねばならない。1948年度第1四半期を乗り切るためには、合計1億4300万ドルを追加せねばならない。

占領地域――ドイツ日本朝鮮――においても、深刻な困難に遭遇した。我々がこれらの地域での地位を維持するためには、今年追加資金が充当されねばならない。

これらの必要性を満たすための議会行動が1月まで遅れてはならないことは、容易に判ることである。

私が11月17日に議会を招集したからといって、自発的食料保全計画を推進する必要性が減ぜられることはない。議会によってドル資金が承認されたところで、ドル資金で買える食料がなければ、飢えた人々を食べさせることなどできない。我々――合衆国国民――が膨大な穀物を保全できなければ、食料は充分ではあるまい。私は、国家食料保全計画に対する米国民の見事な反応に、大いに満足している。それは、人類の窮状を解決する真摯な努力である。

我が国が提案した援助ですら、この冬における欧州の人々にとっては短期間の配給に過ぎまい。彼らは凍え、多くの必需品を欠くであろう。だが我々の救援物資は、我が国が欧州の自由な民のために支持を続けていることの確かな証である。

今夜私が諸君と討議してきた2つの問題――国内の物価高及び海外の飢えと寒さ――は、米国民に難問を提示している。

我々は怠慢という道を選ぶこともできた。恐慌が我々を巻き込み、生活水準が低下し、国民が職を求めて路頭に迷うようになるまで座視することもできた。他の民主主義諸国は希望を失い、容易く全体主義者による侵略の犠牲になるであろう。それは、敗北主義と臆病の道である。

我々のもう1つの道は、時宜に適った率直な措置を取ることである。そうすれば、国内におけるインフレの螺旋を阻止でき、海外における飢えと寒さを緩和でき、友好的な隣人を再び自立させることができる。

この国に立ちはだかる、平和と繁栄への障害を克服する措置が取られることこそ、米国民の切なる願いである。

我々の力をもってすれば、世界を平和と繁栄へと導くことができる。

決意と協力によって、我々は必ずや目標を達成する。

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