<<汝等は人々の己に為さんと欲する所の事を亦人々に為せ〔馬太七の十二〕>>
『故に汝等は人々の己に為さんと欲する所の事を亦人々に為せ』〔馬太七の十二〕。けだしハリストスの意いへらく言の多きも、広大なる律法も、種々なる教訓も要用にあらず、たゞ汝の意旨は律法となるべしとなり。汝は恩をうけんことを欲するか、他に恩を施せ、汝を憐まんことを欲するか、隣を憐め、汝を賞讃せんことを欲するか、他を賞讃せよ、汝を愛さんことを欲するか、自ら他を愛せよ、首たらんことを欲するか、先づこれを人にゆづるべし。汝は自ら己の行為の裁判者となれ、自ら立法者となれ。聖書に又言ふあり『悪む所の事を誰にも為すなかれ』〔トウィト四の十五〕。此の訓言は罪に遠ざからしむるなり、されども前の訓言は徳行を成すにみちびくなり、悪む所の事を誰にも為すなかれ、侮をうくることを好まざるか、他を侮るなかれ、汝を憎むことを好まざるか、自分も他を憎むなかれ、汝を欺くことを好まざるか、自分も他を欺くなかれ、いづれの場合に於てもたゞ此の二の格言を守れ、然らば他の教訓には復た要あらざらん。けだし徳行を知るの知識を神は吾人の天性に賦しあたへたり、然れども実行にみちびきてこれを遂ぐることは吾人の自由に任せ給へり。