第166回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説
演説
編集はじめに
編集昨年9月、私は、総理に就任した際、安倍内閣の目指す日本の姿は、世界の人々が憧れと尊敬を抱き、子どもたちの世代が自信と誇りを持つことができるように、活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた「美しい国、日本」であることを国民の皆様にお示ししました。この新しい日本の姿の実現に向け、国民の皆様とともに、一つ一つスピード感を持って結果を出していくことが重要だと考えております。引き続き、日本の明るい未来に向け、全力投球することをお約束いたします。
私は、日本を、21世紀の国際社会において新たな模範となる国にしたい、と考えます。
そのためには、終戦後の焼け跡から出発して、先輩方が築き上げてきた、輝かしい戦後の日本の成功モデルに安住してはなりません。憲法を頂点とした、行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的枠組みの多くが、21世紀の時代の大きな変化についていけなくなっていることは、もはや明らかです。我々が直面している様々な変化は、私が生まれ育った時代、すなわち、テレビ、冷蔵庫、洗濯機が三種の神器ともてはやされていた時代にはおよそ想像もつかなかったものばかりです。
今こそ、これらの戦後レジームを、原点にさかのぼって大胆に見直し、新たな船出をすべきときが来ています。「美しい国、日本」の実現に向けて、次の50年、100年の時代の荒波に耐えうる新たな国家像を描いていくことこそが私の使命であります。
自由民主党及び公明党による連立政権の安定した基盤に立って、「美しい国創り」に向けたあらゆる政策を断固として実行してまいります。今後、具体的にどのように取り組んでいくのか、安倍内閣として国政に当たる基本方針を申し上げます。
成長力強化
編集「美しい国」を実現するには、その基盤として、活力に満ちた経済が不可欠です。日本が人口減少社会を迎える中で、国民が未来に夢や希望を持ち、より安心して生活できる基盤となる社会保障制度を維持するためにも、生産性を向上させ、成長力を強化することが必要です。今こそ、日本経済を中長期的に新たな成長の舞台に引き上げていくことが重要であり、今後5年間に取り組むべき改革の方向性を示した「日本経済の進路と戦略」を策定しました。これに基づき、私のリーダーシップの下、革新的な技術、製品、サービスなどを生み出すイノベーションと、アジアなど世界の活力を我が国に取り入れるオープンな姿勢により、成長の実感を国民が肌で感じることができるよう、新成長戦略を力強く推し進めます。
約100年前、権威ある物理学者が「空気より重い空飛ぶ機械は不可能である」と断言したわずか8年後、ライト兄弟が初の有人飛行に成功しました。絶え間のないイノベーションが人類の将来の可能性を切り拓き、成長の大きな原動力になります。2025年までを視野に入れた、長期の戦略指針「イノベーション25」を5月までに策定し、がんや認知症に劇的な効果を持つ医薬品の開発などの実現に向けた戦略的な支援や、各国の特許制度の共通化への取組など、具体的な政策を実行します。
イノベーションにあわせ、ICT産業の国際競争力を強化するとともに、医療、農業など将来有望な分野で残る規制の改革やITの本格的活用により事業の効率性を高めるため、4月を目途に生産性加速プログラムを取りまとめます。減価償却に関する税制度を約40年ぶりに抜本的に見直し、投資の促進を図ります。
アジアなど、海外の成長や活力を日本に取り入れることは、21世紀における持続的な成長に不可欠です。2010年に外国人の訪問を1000万人とする目標の達成に向け、今年は、日中間の交流人口を500万人以上にすることを目指します。大都市圏における国際空港の24時間供用化や、外国から我が国への投資を倍増する計画を早期に実現します。アニメ、音楽、日本食など、日本の良さ、日本らしさにあふれる分野の競争力を強化し、世界に向けて発信する、「日本文化産業戦略」の策定も含め、ヒト、モノ、カネ、文化、情報の流れにおいて、日本がアジアと世界の架け橋となってともに成長していく、「アジア・ゲートウェイ構想」を、5月までに取りまとめます。
経済連携の強化は、お互いの国に市場の拡大という大きな恩恵をもたらし、国内の改革にも資するものであります。ASEANなどとの経済連携協定や日中韓の投資協定の早期締結と、WTOドーハ・ラウンド交渉の早期妥結に取り組みます。
「チャンスにあふれ、何度でもチャレンジが可能な社会」の構築
編集一人ひとりが、日々の生活に対して、誇り、生きがいや、充実感、明日への希望を感じられることが大切であり、そのための経済成長でなければなりません。国民それぞれの個性や価値観にも着目し、「働き方」と「暮らし」を良くしていくことにこそ力を注ぎたいと思います。
特に、私は、勝ち組と負け組が固定化せず、働き方、学び方、暮らし方が多様で複線化している社会、すなわち、チャンスにあふれ、誰でも何度でもチャレンジが可能な社会を創り上げることの重要性を訴えてまいりました。様々な事情や困難を抱える人たちも含め、挑戦する意欲を持つ人が、就職や学習に積極的にチャレンジできるよう、今般取りまとめた「再チャレンジ支援総合プラン」に基づき、全力をあげて取り組みます。
具体的には、就職氷河期に正社員になれなかった年長フリーターなどに対し、新たな就職・能力開発支援を行うとともに、新卒一括採用システムの見直しなど、若者の雇用機会の確保に取り組みます。パートタイム労働法の改正により、仕事に応じて正社員と均衡のとれた待遇が得られるようにするとともに、正規雇用への転換も促進します。パートタイム労働者も将来厚生年金を受けられるよう、社会保険の適用を拡大します。経済的に困難な状況にある勤労者の方々の底上げを図るべく、最低賃金制度がセーフティネットとして十分に機能するよう、必要な見直しを行うとともに、自立の精神を大切にするとの考え方の下、働く意欲を引き出すような就労支援を図ります。
社会の第一線をリタイアされた方が、誇りを持って第二の人生に取り組む場を提供することも大切なことです。熟練の腕を活かした再就職や、農林漁業への就業の支援、開発途上国に対する技術協力への機会の提供など、高齢者や団塊の世代の活躍の場を拡大します。
女性の活躍は国の新たな活力の源です。意欲と能力のある女性が、あらゆる分野でチャレンジし、希望に満ちて活躍できるよう、働き方の見直しやテレワーク人口の倍増などを通じて、仕事と家庭生活の調和を積極的に推進します。子育てしながら早期の再就職を希望する方に対し、マザーズハローワークでの就職支援を充実します。配偶者からの暴力や母子家庭など、困難な状況に置かれている女性に対し、行き届いたケアや自立支援を進めます。
障害者自立支援法の運用に当たり、きめ細かな負担の軽減など、必要な措置を講ずるとともに、障害者、高齢者、女性などの再チャレンジを支援する民間企業等への寄附金について、税制上の優遇措置を講じます。
魅力ある地方の創出
編集地方の活力なくして国の活力はありません。私は、国が地方のやることを考え、押し付けるという、戦後続いてきたやり方は、もはや捨て去るべきだと考えます。
地方のやる気、知恵と工夫を引き出すには、地域に住む方のニーズを一番よく分かっている地方が自ら考え、実行することのできる体制づくりが必要です。地方分権を徹底して進めます。「新分権一括法案」の3年以内の国会提出に向け、国と地方の役割分担や国の関与の在り方の見直しを行います。その上で、交付税、補助金、税源配分の見直しの一体的な検討を進めるとともに、地方公共団体間の財政力の格差の縮小を目指します。道州制については、更に議論を深め、検討してまいります。
地方が独自の取組を推進し、「魅力ある地方」に生まれ変われるよう、「頑張る地方応援プログラム」を4月からスタートします。地場産品のブランド化、企業立地の促進、子育て支援など独自のプロジェクトを考え、具体的な成果指標を明らかにして取り組む地方自治体を地方交付税で支援します。
雇用情勢が特に厳しい地域に重点を置いて、雇用に前向きに取り組む企業を支援します。
地方都市の商店街の活性化を図り、住みやすく、コンパクトで賑わいあふれる、お年寄りや障害者にも優しいまちづくりを地域ぐるみで進めます。
地域の主要な産業である農業は、新世紀の戦略産業として、大きな可能性を秘めています。意欲と能力のある担い手への施策の集中化、重点化を図ります。「おいしく、安全な日本産品」の輸出を2013年までに1兆円規模とすることを目指すとともに、都市と農山漁村との交流の推進など、農山漁村の活性化に取り組みます。
広島県の熊野町には、毛筆の伝統技法を化粧筆に応用し、内外の市場で高い評価を得ている中小企業があります。その地域にある技術、農林水産品や観光資源などを有効活用し、新たな商品やサービスを生み出す中小企業の頑張りを応援します。
国と地方の行財政改革の推進
編集我が国財政は引き続き極めて厳しい状況です。歳出削減を一段と進め、財政の無駄を無くすとの基本方針は、安倍内閣において、いささかも揺らぐことはありません。今後とも、経済成長を維持しながら、国民負担の最小化を第一の目標に、歳出・歳入一体改革に正面から取り組みます。
将来世代に責任を持った財政運営を行うため、2010年代半ばに向け、債務残高の対GDP比率を安定的に引き下げることを目指し、まずは2011年度には、国と地方を合わせた基礎的財政収支を確実に黒字化します。そのため、今後の予算編成に当たっては、税の自然増収は安易な歳出等に振り向けず、将来の国民負担の軽減に向けるなどの原則を設け、歳出削減を計画的に実施します。その第一歩である平成19年度予算編成においては、新規国債発行額を過去最大の4兆5000億円減額することなどにより、合わせて6兆3000億円の財政健全化を実現しました。
道路特定財源については、揮発油税を含め、税収全額を道路整備に充てることを義務付けているこれまでの仕組みを50年ぶりに改めることとし、来年の通常国会に所要の法案を提出します。
国や地方の無駄や非効率を放置したまま、国民に負担増を求めることはできません。徹底してぜい肉をそぎ落とし、「無駄ゼロ」を目指す行政改革を進め、「筋肉質の政府」の実現を目指します。
国の行政機関の定員について、5年間で約1万9000人以上の純減を確実に実施するなど、公務員の総人件費を徹底して削減します。公務員制度改革については、新たな人事評価を導入して、能力本位の任用を行うとともに、官と民が互いの知識、経験を活かせるよう、官民の人事交流を更に推し進めます。予算や権限を背景とした押し付け的なあっせんによる再就職を根絶するため、厳格な行為規制を導入します。
国や地方における官製談合問題の頻発は極めて遺憾であります。改正された官製談合防止法を厳正に執行するとともに、一般競争入札の実施を確実に進めます。さらに、地方自治体に対し、新たな再生法制を整備するとともに、地域における官民格差が指摘されている地方公務員の給与の引下げなど、行財政改革の推進と、規律の強化を強く求めます。
政策金融改革の関連法案を今国会に提出し、特別会計について、その数を半分近くにまで大胆に減らすとともに、郵政民営化については、本年10月から確実に実施します。
このように改革を徹底して実施した上で、それでも対応しきれない負担増に対しては、安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りを行わないようにしなければなりません。本年秋以降、本格的な議論を行い、19年度を目途に、社会保障給付や少子化対策に要する費用の見通しなどを踏まえつつ、その費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点から、消費税を含む税体系の抜本的改革を実現させるべく、取り組んでまいります。
教育再生
編集教育再生は内閣の最重要課題です。現在、いじめや子どもの自殺を始めとして、子どもたちのモラルや学ぶ意欲の低下、家庭や地域の教育力の低下といった問題が指摘されています。公共の精神や自律の精神、自分たちが生まれ育った地域や国に対する愛着愛情、道徳心、そういった価値観を今までおろそかにしてきたのではないでしょうか。こうした価値観を、しっかりと子どもたちに教えていくことこそ、日本の将来にとって極めて重要であると考えます。
教育再生会議における議論を深め、社会総がかりで、教育の基本にさかのぼった改革を推進し、「教育新時代」を開いてまいります。
教育改革を実効あるものとするため、60年ぶりに改正された教育基本法を踏まえ、関係法律の改正案を今国会に提出するとともに、新たに教育振興基本計画を早期に策定します。すべての子どもに必要な学力を身につける機会を保証するため、ゆとり教育を見直し、必要な授業時間を確保するとともに、学習指導要領を改訂し、国語力の育成、理数教育、道徳教育の充実など、公教育の再生に取り組みます。
いじめについては「どの学校でも、どの子にも起こりうる」という認識を持ち、教育現場においていじめ問題に正面から立ち向かうことを徹底します。いじめの早期発見、早期対応に努めるとともに、夜間、休日でも子どもの悩みや不安を受け止めることのできる電話相談を全国で実施します。放課後に子どもたちが自由に学び、遊んだり、地域の人たちとも触れ合うことができるよう「放課後子どもプラン」を全国で展開します。
教員の質が教育再生の鍵を握っています。教員免許の更新制を導入し、適正な評価を行います。豊かな経験を持つ社会人の採用を増やすとともに、頑張っている教員には報いるよう支援します。
教育委員会については、期待されている機能を十分に果たしているとはいえません。教育に対する責任の所在を明確にし、子どもたちの未来のために、国民の皆様から信頼される教育行政の体制を構築すべく、断固として取り組んでまいります。
「健全で安心できる社会」の実現
編集戦後の日本の繁栄を支え、頑張ってこられた方々の老後に不安が生じないようにすることが、私の大きな責務であります。自立の精神を大切にした、分かりやすく、親切で信頼できる「日本型の社会保障制度」の構築に向け、制度の一体的な改革を進めます。
国が責任を持つ公的年金制度は、破綻したり、「払い損」になったりすることはありません。官民の間で公平な年金制度とするため、厚生年金と共済年金の一元化を実現します。55歳以上の方に、保険料の納付実績や年金の見込み額をお知らせする「ねんきん定期便」を年内に開始します。社会保険庁については、規律の回復と事業の効率化を図るため、非公務員型の新法人の設置など、「廃止・解体六分割」を断行します。
医療や介護については、政策の重点を予防に移し、より長く、元気に生活を楽しめるよう、「新健康フロンティア戦略」を年度内を目途に策定します。レセプトの電子化などにより、医療費の適正化に努めるとともに、地域における小児科や産科の医師の確保、救急医療体制の整備など、安心な地域医療を確立します。
子どもは国の宝です。安心して結婚し、子どもを産み育てることができる日本にしていかなければなりません。同時に、家族の素晴らしさや価値を再認識することも必要です。次のような政策を実行に移すとともに、少子化に対し、更に本格的な戦略を打ち立てます。
児童手当の乳幼児加算を創設し、3歳未満の第1子、第2子に対する手当を倍増し、一律1万円とします。育児休業給付を、休業前の賃金の4割から5割に引き上げるとともに、延長保育など多様なニーズへの対応を進め、仕事と子育ての両立支援に全力を尽くします。働く人が家族と触れ合う時間を増やすため、長時間の時間外労働を抑制するための取組を強化するなど、仕事と生活のバランスがとれた、働く人に優しい社会の実現を目指します。
児童相談所、警察、学校、NPOなどが連携して、子どもを虐待から守る地域ネットワークの市町村への設置を進めます。
国民生活の基盤となる安心・安全の確保と、美しい環境を守ることは、政府の大きな責務であります。
大規模地震対策や土砂災害対策など、防災対策を戦略的、重点的に進めます。迅速かつ正確に防災情報を提供し、お年寄りや障害者などの被害を最小限にするように努めます。
全国各地域の防犯ボランティアのパトロールなどの活動を支援するとともに、本年春までに「空き交番ゼロ」を実現するなど「世界一安全な国、日本」の復活を目指します。飲酒運転に対する罰則を強化し、地域社会と一体となって、撲滅に取り組みます。
「京都議定書目標達成計画」に基づき、地球温暖化対策を加速します。乗用車の燃費基準を2015年までに2割以上改善し、世界で最も厳しい水準とするとともに、バイオ燃料の利用率を高めるための工程表を策定します。世界最高水準にある我が国のエネルギー、環境技術を活用し、中国を始めとするアジアに対し、省エネ・環境面での協力を進めます。さらに、国内外あげて取り組むべき環境政策の方向を明示し、今後の世界の枠組み作りへ我が国として貢献する上での指針として、「21世紀環境立国戦略」を6月までに策定します。
主張する外交
編集自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々との連携の強化、オープンでイノベーションに富むアジアの構築、世界の平和と安定への貢献を3本の柱とし、真にアジアと世界の平和に貢献する「主張する外交」を更に推し進めてまいります。
「世界とアジアのための日米同盟」は、我が国外交の要であります。日本を巡る安全保障の環境は、大量破壊兵器やミサイルの拡散、テロとの闘い、地域紛争の多発など、大きく変化しています。こうした中で、日本の平和と独立、自由と民主主義を守り、そして日本人の命を守るために、日米同盟を一層強化していく必要があります。米国と連携して、弾道ミサイルから我が国を防衛するシステムの早急な整備に努めます。
さらに、世界の平和と安定に一層貢献するため、時代に合った安全保障のための法的基盤を再構築する必要があると考えます。いかなる場合が憲法で禁止されている集団的防衛権の行使に該当するのか、個別具体的な類型に即し、研究を進めてまいります。在日米軍の再編については、抑止力を維持しつつ、負担を軽減するものであり、沖縄など地元の切実な声によく耳を傾け、地域の振興に全力をあげて取り組むことにより、着実に進めてまいります。
北朝鮮の核開発は、我が国として断じて認めることはできません。六者会合において解決を図るべく、「対話と圧力」という一貫した考え方の下、関係各国と連携を強化し、北朝鮮の具体的な対応を求めます。拉致問題の解決なくして、日朝国交正常化はありえません。拉致問題に対する国際社会の理解は進み、国際的な圧力が高まっています。北朝鮮に対し、すべての拉致被害者の安全確保と速やかな帰国を強く求めていきます。新たに拉致被害者に向け、政府のメッセージを放送するなど、引き続き、政府一体となって総合的な対策に取り組みます。
私は、総理就任直後、中国及び韓国を訪問して、首脳レベルで胸襟を開いて話し合いを行い、両国との関係を改善しました。中国とは、両国国民にとってお互いに利益となるよう、戦略的互恵関係を築いてまいります。韓国との間でも、未来志向の緊密な関係を築いてまいります。ロシアとは、北方四島の帰属の問題を解決して、平和条約を締結するとの基本方針にのっとり、領土問題の解決に粘り強く取り組むとともに、幅広い分野での関係の発展に努めます。
ASEAN諸国や、基本的価値観を共有するインド、オーストラリアなどとも、経済連携の強化に加え、首脳同士の交流を拡大します。東アジア・サミット参加国を中心に、今後5年間、毎年6000名の青少年を日本に招く交流計画を実施してまいります。先日訪問した英国、フランス、ドイツなど欧州諸国とは、平和への貢献など人類共通の課題についての連携を更に深めていきます。
世界全体の平和のためには、中東地域の平和と安定は不可欠であり、我が国の国益にも直結します。依然厳しい状況が続くイラクについては、航空自衛隊の支援活動やNGOとも連携したODAの活用により、我が国としてふさわしい支援を行ってまいります。アフガニスタンとその周辺での国際的なテロの脅威を除去、抑止する国際的な取組に対し、引き続き協力してまいります。
ますます複雑化する外交や安全保障に関する問題に、政治の強力なリーダーシップにより即座に対応できるよう、官邸の司令塔機能の強化に向けた体制の整備に取り組みます。併せて、内閣の情報機能の強化を図ります。
我が国は、国際社会における地位に見合った貢献を行うべきと私は考えます。包括的な国連改革に粘り強く取り組み、安全保障理事会の常任理事国入りを目指します。
海洋及び宇宙に関する分野は、21世紀の日本の発展にとって極めて大きな可能性を秘めており、政府としても、一体となって戦略的に取り組んでまいります。
今後、以上のような政策を行っていくためにも、政治への信頼が必要です。政治家は、「李下に冠を正さず」との姿勢の下、常に襟を正していかなければなりません。政治資金制度の在り方について、各党・各会派において十分議論されることを期待します。
むすび
編集「美しい国、日本」を創っていくためには、我が国の「良さ、素晴らしさ」を再認識することが必要です。未来に向けた新しい日本の「カントリー・アイデンティティ」、即ち、我が国の理念、目指すべき方向、日本らしさについて、我が国の叡智を集め、日本のみでなく世界中に分かりやすく理解されるよう、戦略的に内外に発信する新たなプロジェクトを立ち上げます。
新しい国創りに向け、国の姿、かたちを語る憲法の改正についての議論を深めるべきです。「日本国憲法の改正手続に関する法律案」[1]の今国会での成立を強く期待します。
お年寄りの世話をしている方や中小企業で働く方、看護師、消防士、主婦や、様々な職場、そして各地域で努力しておられる、数えきれない多くの方々が、毎日寡黙にそれぞれの役割を果たすため頑張っています。本来、私たち日本人には限りない可能性、活力があります。それを引き出すことこそ、私の美しい国創りの核心であります。今このときそれぞれの現場で頑張っておられる人々の声に真摯に耳を傾け、その期待に応える政治を行ってまいります。
「未来は開かれている」との信念の下、今年を「美しい国創り元年」と位置づけ、私は自ら先頭に立って、明日に向かってチャレンジする勇気ある人々とともに、様々な改革の実現に向け、全身全霊を傾けて、たじろぐことなく、進んでいく覚悟であります。
福沢諭吉は、士の気風とは、「出来難き事を好んで之を勤るの心」[2]と述べています。困難なことをひるまずに、前向きに取り組む心、この心こそ、明治維新から近代日本をつくっていったのではないでしょうか。
日本と自らの可能性を信じ、ともに未来を切り拓いていこうではありませんか。
国民の皆様並びに議員各位の御協力を、心からお願い申し上げます。
註
編集出典
編集- 第166回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説
- 第166回国会における施政方針演説-平成19年1月26日(政府インターネットテレビ)
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