第151回国会における森内閣総理大臣施政方針演説


演説

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はじめに

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第百五十一回国会の開会に当たり、世紀の変わり目に国政を預かる内閣総理大臣として、歴史の巡り合わせに改めてその重責を噛み締めつつ、所信を申し述べたいと思います。

このような重要な国会の冒頭に、財団法人ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団をめぐり、受託収賄容疑により議員[1]が逮捕されたことから申し上げなければならないのは、誠に残念の極みであります。また、本件に関連して、閣僚[2]が辞任いたしました。政治倫理の確立については、政治家一人ひとりが厳しく身を律していくことが何より重要です。こうしたことが再び起きないよう、改めて気を引き締め、信頼回復に全力を尽くしてまいります。

また、歴代内閣総理大臣の外国出張経費に関して、外務省職員による業務上横領容疑により、告発がなされたことは、極めて遺憾であります。この事態を厳粛に受け止め、国民の皆様に深くお詫び申し上げますとともに、今後、捜査当局による真相解明の進展を見ながら、政府として原因の解明と再発防止に万全を期してまいります。 2001年 昨年は、大規模な災害が相次ぎました[3]が、それらの災害により、新しい年を迎えてもなお、不安を抱え、不自由な生活を余儀なくされている方々に、心からお見舞いを申し上げます。被災者の方々の生活支援に万全を期するとともに、中央防災会議を活用し、政府一体となって災害に強い国づくりを目指してまいります。

二十一世紀の幕開けの新年、国民の皆様への年頭の御挨拶の中で、二十世紀は世界にとって「栄光と悔恨」の百年であったと申し上げました。科学技術の発達によって得られた繁栄の陰で、二度の世界大戦や様々な紛争によって払われた大きな犠牲を、決して忘れてはならないと考えたからであります。美しい自然や環境の破壊という高い代償も忘れてはなりません。

我が国は、こうした二十世紀の経験の中から、自由民主主義の尊さを学び、平和を手に入れました。これらの国民的な合意は、国づくりを進める上での基本であります。私たちは、日本固有の伝統や文化、美しい自然を、我が国の子や孫たちにしっかりと引き継ぐとともに、この合意を一層確かなものとして、二十一世紀こそ、豊かな環境に恵まれた平和な日本、そして世界を築いていかなければなりません。

二十一世紀の展望

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私は、我が国の総理大臣として、初めてサハラ以南のアフリカ諸国を訪問いたしました。アフリカは自然の豊かさ、活力ある人々に恵まれた大陸である一方、今もなお、貧困、紛争、感染症といった課題に直面しています。五人に一人が紛争の被害を受け、難民・避難民は六百二十五万人に達するとの報告もあります。しかし、そこで出会った難民の子どもたちは、自分たちの未来に大きな希望を持ち、その目は屈託無く、生き生きと輝いており、私は強く胸を打たれました。アフリカが直面する課題は、いずれも人間の存在それ自体に対する脅威であります。こうした脅威から全ての人々を解放する「人間の安全保障」を確立し、二十一世紀を世界中の人々にとって輝かしい時代にしなければならないとの思いを強くいたしました。そして、そのために、日本が責任とリーダーシップを果たしていくとの決意を新たにしたのであります。

私は、日本の活力を創出していく原動力は「人」であると考えております。先般、ギリシャを訪れましたが、ギリシャ文明の根幹にあるものは、人間の尊重であり、人間の躍動です。イタリアルネッサンスがギリシャに戻れと訴えたように、二十一世紀の今日もまた「人間のルネッサンス」が重要であると私は考えております。これからの社会では、個人の嗜好や価値観の多様化が進み、様々な生き方が認知され、無数の可能性が生まれる一方で、自分の生き方に対する責任が従来以上に求められることが予想されます。そこでは、豊かな個性と創造性を持ち、様々な可能性に果敢に挑戦していく「人」を育てていくことが、極めて重要となります。そして、こうした「人」が、存分にその力を発揮し、自己実現を図ることができる環境を整備することによって、日本の新生に向けた歩みを大きく進めていきたいと考えております。

「人」を育てるに当たっては、「心」の面を忘れてはなりません。私たちは、物質的な豊かさを享受できるようになった一方で、心の豊かさを失いがちであると感じています。今、改めて心の問題について真剣に考え、豊かな心を見失わない「人」を育てていかなければなりません。学校や家庭のみならず、社会全体でこの問題に取り組んでいかなければならないと考えております。

我が国の発展を支えてきた経済社会システムは、経済のグローバル化、世界規模で生じているIT革命[4]、少子高齢化など内外の激しい情勢変化により、従来のような役割を果たせなくなってきています。時代の新たな変化を、日本の発展システムに対する危機としてではなく、新たなチャンスととらえ、改革によって日本らしさを活かした新たな発展の道筋をつくり、世界中の人々が日本で夢を実現したいと思える国家をつくっていきたいと考えております。

二十一世紀をこのような時代にしていくためには、既存の施策の発想を超えて、過去との訣別による改革を避けて通ることはできません。今こそ、新たな国づくりに向け、この国に何が必要なのかという原点に立ち返って、明治維新、戦後改革に次ぐ、第三の抜本的改革を実行し、日本の新生を図っていくことが必要です。私は、この国会を「『日本新生』のための改革国会」と位置付け、先人たちが国づくりに賭けた情熱を受け継ぎ、新たな時代の知恵を活かしつつ、改革の実行に向けて全力を尽くしてまいる決意です。

こうした改革を断行することによって、私は、二十一世紀を、「希望の世紀」、「人間の世紀」、「信頼の世紀」、「地球の世紀」とするべく、第一歩を踏み出してまいります。

希望の世紀

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二十世紀の終わりにかけて、我が国は、経済活動が停滞し、社会全体が将来に対する不安の中で自信を喪失し、国民の間には閉塞感が充満していました。しかし、二十一世紀は、こうした状況からいち早く脱却し、国民一人ひとりが夢と希望を持って生きられる「希望の世紀」にしなければなりません。そのためには、個人も企業も多様な選択肢の下で、自由闊達に活動できる社会を実現するとともに、先導的・創造的な研究開発を推進することによって、輝かしい未来を切り拓かなければなりません。

健全で活気にあふれた経済は、「希望の世紀」実現のためには不可欠です。このため、「経済の新生」に向けて、全力を注いでまいります。

我が国の経済は、緩やかな改善を続けておりますが、依然として厳しい状況にあり、また、米国経済の減速など懸念すべき点も見られております。こうした中で、引き続き、景気に軸足を置いて、経済を一日も早く本格的な回復軌道に乗せることが最重要課題であると考えており、まずは、昨年十月に決定した「日本新生のための新発展政策」を着実に実行に移し、今年度の補正予算の迅速・的確な執行に努めてまいります。

さらに、平成十三年度予算編成に当たっては、公需から民需へのバトンタッチを円滑に行うとの観点から、公共事業等に十分な対応を行うとともに、総額七千億円の日本新生特別枠を始め、IT革命の推進など二十一世紀の新たな発展基盤の構築に必要とされる分野に、重点的・効率的に資金を配分することとし、新世紀のスタートにふさわしい予算といたしました。税制面では、企業組織再編成に係る税制を整備するほか、住宅投資及び中小企業の設備投資の促進などを図ることとしております。

こうした我が国経済を新たなる発展へと飛躍させる取組とともに、主要先進国の中でとりわけ厳しい状況にある我が国の財政について、将来にわたって持続可能な仕組みを作り上げる準備として、平成十三年度予算においては、公共事業の抜本的見直しや中央省庁再編による施策の融合化と効率化を図る等、財政の効率化と質的改善を図りつつ、国債の新規発行額を減少させたところであります。さらに、我が国経済を自律的回復軌道に乗せつつ、財政構造改革について、その実現に向けて議論を進めてまいります。その際には、新世紀における我が国の経済・社会の在り方を展望し、望ましい税制の構築や社会保障制度改革、中央と地方との関係まで幅広く視野に入れる必要があると考えております。

今般の中央省庁再編において、有識者の参加を得て、内閣府経済財政諮問会議を設置しました。景気を着実な自律的回復軌道に乗せるための経済財政運営とともに、財政を含む我が国の経済社会全体の構造改革に向けた諸課題について、具体的な政策を主導するとの決意を持って、実質的かつ包括的な検討を行うこととしております。会議では、マクロ経済モデル等も活用し、中長期的な経済社会全体の姿を展望しつつ議論を行い、国民が安心と希望を持てる処方箋を示してまいります。

私は、我が国には大きな潜在力があると考えております。企業の創造的な経済活動を促進し、新規産業を創出することなどにより、停滞と閉塞を打破し、日本経済の新たな成長と発展を実現するため、経済構造改革に果敢に取り組んでまいります。「産業新生会議」での議論を通じて策定した行動計画にのっとり、株主総会IT化などに向けた会社法制の抜本的な見直し、雇用システム改革など、我が国の産業競争力を向上させるために不可欠な措置について強力に推進し、力強い成長と活力にあふれる経済社会を現実のものとしていく考えであります。

雇用システム改革については、円滑な労働移動を実現し、個人の主体的な能力開発を促進する観点から、現行の雇用対策の総合的な見直しを行い、今国会に、離職を余儀なくされる労働者に対する在職中からの計画的な再就職支援の促進、職業能力評価制度の整備等を図るための法案を提出いたします。

日本経済がその潜在力を発揮するためには、金融システムの一層の安定化と金融仲介機能の強化を図り、我が国金融システムに対する内外の信頼をより強固なものとすることが不可欠です。各金融機関においては、不良債権に対する適切な手当てを行っており、金融機関の健全性について、かつてのような問題があるわけではありません。政府としては、平成十四年四月のペイオフ解禁を控え、引き続き、金融機関に対する検査・監督等金融システムの安定化に万全を期するとともに、借り手である産業の構造改革等を同時に進めるための環境整備を図ることにより、不良債権問題を抜本的に解決し、健全な中小企業や次代を担う新規産業等に対する円滑な資金供給を可能とする金融の再構築を図るなど、一層の努力をしてまいります。

IT革命の推進は、二十一世紀における我が国の発展、そして「希望の世紀」実現の鍵となるものです。先般、IT基本法に基づいて設置された「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」において、我が国の官民が総力を挙げて取り組むべき国家戦略である「e-Japan戦略」を決定したところであります。今後は、具体的なアクションプランである「重点計画」を三月末を目途に策定し、五年以内に世界最先端のIT国家となることを目指し、全力で取り組んでまいります。

ITの利便性を向上させるため、世界最高水準のインターネット網を誰もが必要な時に低廉な料金で利用できるよう、光ファイバ網を始めとする超高速ネットワークインフラの整備を推進するとともに、競争による通信料金の一層の低廉化等のため、支配的事業者制度の導入を始めとする電気通信分野の新たな政策を樹立してまいります。併せて、放送のデジタル化を推進するとともに、通信・放送融合サービスの健全な発展を促す政策を展開してまいります。

誰もが安心して参加できる制度基盤と市場ルールを整備するため、電子商取引の特質に応じた新たなルールを定めるとともに、個人情報の取扱いに関する基本原則、取扱い事業者の義務等を定める個人情報の保護のための法律案を提出します。さらに、セキュリティ確保のための技術開発や安全性・信頼性確保策を推進し、ハイテク犯罪への対応を含め、情報セキュリティ対策を強力に推進してまいります。

電子政府については、国民との間の約一万件の行政手続を原則として平成十五年度までのできるだけ早期にインターネットで行えるようにするなど、積極的に取り組んでまいります。

科学技術は尽きることのない知的資源であり、その振興は、「希望の世紀」実現に向けた未来への先行投資と言えるものです。このため、内閣府に総合科学技術会議を設置したところであり、有識者の意見を伺いつつ、二十一世紀における我が国の科学技術振興の基本となる総合戦略を策定してまいります。三月までに科学技術基本計画を策定し、「科学技術創造立国」の実現に向け、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料等、我が国の新生に貢献する研究開発を重点的に推進いたします。同時に、研究開発システムの改革や科学技術振興のための基盤の整備を進めてまいります。

人間の世紀

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二十一世紀の我が国の力強い発展は、豊かな個性と創造性を持ち、様々な可能性に果敢に挑戦していく「人」が、存分にその力を発揮できるかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。二十一世紀は、まさに「人間の世紀」と言えます。

「人間の世紀」実現のためには、「教育の新生」を推進し、人間性、創造性に富んだ人づくりに取り組むとともに、「社会保障の新生」を着実に進め、誰もが生活に対する不安を持つことなく、様々な活動に取り組むことができる社会を実現していかなければなりません。

教育にとっても二十世紀は、二つの側面を持っていました。成績を重視した教育制度は、国全体の平均レベルを向上させ、経済の発展、物質的豊かさの実現に大きく貢献しました。他方、最近、青少年による不幸な事件が相次いでいます[5]が、自分で考える力を身に付け、善悪をわきまえる心や命の大切さなどを学ぶという点では、教育は、必ずしも十分な役割を果たすことができませんでした。私は、「心の豊かな美しい国家」を築くため、その礎となる「教育の新生」に、全力で取り組んでまいります。

教育改革国民会議」の最終報告では、人間性豊かな日本人の育成、一人ひとりの才能を伸ばし、創造性に富む人間の育成、新しい学校づくり、教育施策の総合的推進のための教育振興基本計画の策定、新しい時代にふさわしい教育基本法の見直しなど、教育各般にわたる御提言をいただきました。私は、この国会において、まず、子ども一人ひとり、国民一人ひとりが、「学校が良くなる、教育が変わる」という実感が持てるような本格的な教育改革に取り組んでまいります。具体的には、基礎学力の向上ときめ細かな指導のための少人数指導等の実施、教員として十分な適格性を有しない者の教員以外の職への円滑な異動、授業妨害やいじめへのきちんとした対応、家庭教育の充実、奉仕活動や体験活動の促進、教育委員会の活性化、子どもたちの体験活動や読書などを振興する「子どもゆめ基金」の創設、大学改革の推進など、直ちに取り組むべき改革を実行するため、学校教育法公立学校の学級編制、教職員定数の標準などに関する法律の改正など、一連の教育改革関連法案を提出してまいります。

教育基本法の見直しについては、「教育改革国民会議」の最終報告において、新しい時代の教育基本法を考える際の観点として、新しい時代を生きる日本人の育成、伝統・文化など次代に継承すべきものの尊重、教育振興基本計画の策定等を規定することの三点が示されたところであります。これを踏まえ、中央教育審議会等で幅広く国民的な議論を深め、しっかりと取り組んで成果を得てまいります。

社会保障制度は、老齢期を迎え、また、疾病失業などの人生の困難に直面したときに、社会全体で支え合う仕組みとして、国民の「安心」や社会経済の「安定」に欠かせないものとなっています。今世紀、我が国は世界でも類を見ない急速な少子高齢化に直面し、経済の伸びを大きく上回って社会保障の給付と負担が増大することが見込まれていますが、このような中にあって、持続可能な社会保障制度を再構築し、後代に継承していくことは、我々に課された重要な務めであると考えております。

昨年十月には、「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」から、二十一世紀の持続可能な社会保障を形づくるための貴重な御提言をいただきました。これを受けて、今般、「政府・与党社会保障改革協議会」を発足させたところであり、政府・与党連携の下で、関連する諸制度の検討を含め、総合的・包括的な改革に取り組むこととしました。今後、本協議会において、改革の理念や基本的な考え方を明らかにする「大綱」を三月末を目途に取りまとめるとともに、これに基づく具体的推進方策を協議してまいります。そして、国民的な議論の下で着実に改革を推し進め、「自己責任の原則」に立った社会保険方式を基本に、将来にわたり持続可能で安定的・効率的な社会保障制度を構築してまいります。

年金制度については、少子高齢化の進展、高齢期の生活需要の多様化、労働移動の増加など社会経済情勢が大きく変化しており、公的年金を土台としつつ、国民の自助努力を支援する仕組みを整備することが必要です。このため、国会で継続審査中の確定拠出年金法[6]の一日も早い成立をお願いするとともに、企業年金において受給権保護を図るための統一的制度を創設する法案を今国会に提出してまいります。

近年の急速な少子化の進行は、我が国の経済社会に広く影響を与えることが懸念されており、二十一世紀の我が国が家庭や子育てに夢や希望を持つことができる社会となるよう、政府が一体となって総合的な取組を行うことが重要です。このため、少子化対策推進基本方針等に基づき、育児・介護休業法の改正法案を今国会に提出し、働きながら子どもを産み育てやすい雇用環境の整備を進めるとともに、保育所における低年齢児の受入枠の拡大等により保育サービスの充実を図るなど、福祉、雇用、教育、住宅などの幅広い分野にわたる総合的な少子化対策を推進してまいります。

男女共同参画社会の実現は、我が国社会の在り方を決定する重要課題の一つであり、昨年十二月に決定された男女共同参画基本計画を着実に推進し、一層の努力を継続してまいります。また、新たに設置された男女共同参画会議において、「仕事と子育ての両立支援策」について早急に取りまとめ、子どもを産むという尊い役割を果たす女性が、社会で活躍できる可能性を広げ、女性にとっても男性にとっても、家庭と仕事が両立し、安心して子育てができる社会を築いてまいります。

「人間の世紀」を支えるためには、便利で、暮らしに楽しさがある都市づくりを目指すことは、極めて重要であります。国境を越えた都市間競争の時代を迎えた今、世界に誇れる都市づくりを国家的課題として明確に位置付け、官民の力を結集して、生き生きとした都市生活や経済活動を支える都市基盤を整備してまいります。特に、大規模な工場跡地を活用した拠点づくりや、まちの中心となるターミナル駅などの交通結節点の総合的整備など、魅力的な都市拠点の創造に努めてまいります。また、高齢者が安心して生活できる居住環境を実現するため、高齢者の居住の安定確保に関する法律[7]を提出するとともに、生活空間、公共交通機関バリアフリー化を推進してまいります。

食料の安定供給の機能や国土・自然環境の保全等の多面的な機能を有している、我が国農林水産業と農山漁村について、食料自給率の向上等を目指し、その健全な発展に取り組んでまいります。また、今国会に、「森林の多様な機能の持続的な発揮を図ること」を基本理念とする林業基本法改正案と、水産資源の適切な保存管理と持続的利用を基本とした新たな水産政策を構築していくための水産基本法[8]を、提出することとしております。

信頼の世紀

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二十一世紀の幕開けに当たり、我が国経済社会の展望を開き、国民本位の行政を確立していく上で、「政府の新生」を始めとする行政改革は何としても果たさなければならない重要課題であります。国民から信頼される行政を実現し、「信頼の世紀」とできるよう最大限の努力をしてまいります。

中央省庁改革については、橋本内閣以来、内閣の最重要課題の一つと位置付け、精力的に取り組んでまいりましたが、一月六日、いよいよ新たな府省体制が発足いたしました。この改革は、「国民の立場に立った総合的、機動的かつ透明な行政」を目指し、二十一世紀の我が国にふさわしい行政を構築する歴史的な改革であり、改革のメリットを国民にとって確かなものとするよう、全力を挙げて、新たな体制に魂を吹き込んでまいります。

昨年十二月に決定した行政改革大綱は、まさに二十一世紀の行政の在り方を示す指針であり、平成十七年までを集中改革期間として、特殊法人公務員を始めとする行政制度や組織の改革のみならず、規制改革や地方分権の推進など、我が国の行政の構造に踏み込んだ本格的な改革を進めてまいります。このため、先般、新たな行政改革推進本部を設置するとともに、行政改革担当大臣の下、内閣官房に事務局を発足させたところであります。

公務員制度改革については、三月末までに大枠を示し、六月中には基本設計について成案を得て、秋以降法制化を含む具体的な作業に入るというスケジュールで進めてまいります。特殊法人等改革及び公益法人改革については、平成十三年度中に整理合理化計画を策定することを目指して、できるだけ見直しのスピードを速め、早期に改革の方向性を明らかにしてまいります。

規制改革については、IT、医療・福祉、雇用・労働、教育、環境などの各分野に積極的に取り組むとともに、競争政策の積極的展開を図るため、平成十三年度を初年度とする新たな「規制改革推進三か年計画」を三月末までに策定いたします。また、この計画の実施状況を監視するとともに、経済社会の構造改革の視点も含めて幅広く規制改革を推進していくため、民間人を主体とする新たな審議機関を内閣府に設置することについて検討し、三月末までに具体的成案を得てまいります。

国民本位の効率的で質の高い行政の実現のために、全府省において政策評価制度を着実に実施するとともに、その実効性を高め、これに対する国民の信頼を一層向上させるため、所要の法律案を今国会に提出いたします。

地方分権の推進につきましては、今後とも、国と地方の役割分担に応じた地方税財源の充実確保や、国庫補助負担金の整理合理化等、更なる推進に強い決意で取り組むとともに、市町村合併の推進など新たな役割を担うにふさわしい行政体制の在り方の問題についても真正面から取り組んでまいります。

司法制度改革については、我が国が透明なルールと自己責任の原則に貫かれた事後監視・救済型社会への転換を図り、大いなる発展を遂げていくために不可欠であり、国民的議論の動向や司法制度改革審議会における調査審議の状況を踏まえつつ推進してまいります。また、民事・刑事の基本法制の集中的整備についても、直ちに所要の体制を整えるなどして、断固たる決意で取り組んでまいります。

地球の世紀

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二十一世紀は、あらゆる活動のボーダーレス化が進展し、ますますグローバルな視点が要求される「地球の世紀」になると予想されます。「地球の世紀」を迎え、「外交の新生」を図り、我が国の主体性を発揮し、国際的に貢献していかなければなりません。

二十一世紀を迎えた今、日本外交に求められているものは、日本が平和と繁栄という恩恵を最大限に享受してきた国際的なシステムを、自ら支えていこうとする「責任感とリーダーシップ」であります。

二十世紀後半、我が国は、先進民主主義国家として、また、世界第二位の経済大国として生まれ変わりました。軍事大国たることを放棄し、資源に恵まれない我が国が、二十一世紀に更なる発展を実現するためには、国連憲章や多角的自由貿易体制を基礎とする国際的なシステムが、効果的に機能することが必要です。我が国は、新世紀の国際協調の波頭に立って、安保理改革を始めとする国連システムの強化や、WTO新ラウンドの本年中の立ち上げに全力を尽くし、普遍的な価値観やルールの創設、強化に努めなければなりません。

私は、国際的な協調行動を導く日本外交の理念として、「人間の安全保障」を掲げました。「人間の安全保障」は、この地球に共に住む人間一人ひとりの生存、安寧、尊厳の確保を目的とするものです。貿易、開発、環境など、様々な分野で地球的規模の取組が必要であります。

私は、また、九州・沖縄サミットの議長として、他の首脳と共に英知を絞った具体的諸施策を、着実に実施してまいります。ITが人類を繁栄と貧困の間で分断してしまわないように、ITに関する包括的協力策を着実に実施するとともに、「人間の安全保障」に対する直接の脅威となっている感染症問題に対し、国際的な取組の一層の強化に努めてまいります。さらに、グローバリゼーションによる繁栄の果実を、より多くの人々と共に分かち合い、市場経済や多角的自由貿易体制に対する信頼を堅持するため、我が国の重要な外交手段である政府開発援助を、更に効果的、効率的に活用してまいります。

我が国の外交は、自由、民主主義、人権、市場経済という普遍的な価値観の下で、アジア太平洋地域の平和と繁栄を確保することを、引き続き優先課題としなければなりません。二十一世紀前半の「アジア太平洋地域における日本外交の基本戦略」は、日米同盟関係を基軸として、隣国韓国と堅固な友好の絆を強化し、中国及びロシアとの間に信頼に基づく協調関係を構築することによって、アジア太平洋地域における安定の枠組みを堅持することにあります。その中で、北東アジア地域の平和と安定に資するよう、韓米両国と密接に協調して、対北朝鮮政策に取り組んでいかなければなりません。また、APECARFASEAN+3などの重層的な地域の対話と協力を推進し、自由で、民主的で、安定し、繁栄する、強靭なアジア太平洋圏の創出を目指さなければなりません。

同盟国たる米国との関係については、ブッシュ新政権との間で、早期に確固たる信頼関係を構築してまいります。そのためにも、日米間の戦略対話を強化し、日米安保体制の信頼性を向上させていくとともに、日米両国が共に繁栄を享受し得るような新しい経済関係の枠組みを探求していきたいと考えます。また、今後とも、沖縄の特性を活かした振興開発の推進に努めていくとともに、沖縄県民の負担を軽減すべく、引き続きSACO最終報告の着実な実施に全力で取り組みます。特に、普天間飛行場の移設・返還については、沖縄県及び地元地方公共団体との間の代替施設協議会等において、できるだけ早く成案を得るべく努力してまいります。

二十一世紀のアジア太平洋地域の平和と繁栄のため、中国との間で、相互に協力し合う安定的な協調関係を構築していかなければなりません。このため、私は、「平和と発展のための友好協力パートナーシップ」を基礎に、新しい世代のために、地域及び世界における、日中両国の協力関係の深化と拡大に邁進してまいります。

朝鮮半島では、昨年、金大中大統領の英断の下で、緊張緩和に向けて一連の動きがありました。私は、我が国にとって最も近く、かつ、重要な地域である朝鮮半島に、真の平和と和解がもたらされるように、積極的に努力してまいります。そのため、まず、韓国との緊密で強力な関係を堅持し、韓米両国と密接に連携して、日朝国交正常化交渉の新たなページをめくりたいと考えるのであります。北朝鮮との人道的問題及び安全保障上の問題については、対話を進める中で、解決に向けて全力を傾けてまいります。

最後に、ロシアとの間では、戦略的・地政学的提携、幅広い経済的協力、平和条約の締結という三つの課題を同時に前進させることが重要です。平和条約交渉については、プーチン大統領との信頼関係に立ちつつ、北方四島の帰属の問題を解決する平和条約の締結に向け、日露双方が全力を尽くして努力することが必要と考えております。

国民の生命、財産を守るのは、政治の崇高な使命です。我が国の防衛については、防衛計画の大綱の下、昨年末に策定された新中期防衛力整備計画に従い、節度ある防衛力の整備に努めます。特に、IT革命への対応、災害派遣能力の充実強化等に留意してまいります。有事法制は、自衛隊文民統制の下で、国家、国民の安全を確保するために必要であります。昨年の与党の考え方を十分に受け止め、検討を開始してまいります。

「地球の世紀」たる二十一世紀において、国民が真に豊かで安心できる暮らしを実現していく上で、その基盤となる恵み豊かな環境を守り、我々の子孫に引き継いでいくことは、我が国のみならず世界においても最も重要な課題の一つであります。地球温暖化問題については、二〇〇二年までの京都議定書発効を目指し、本年開催が予定されているCOP6再開会合[9]に向け、最大限努力するとともに、国際交渉の進捗状況も踏まえつつ、国民の理解と協力を得て、温室効果ガスの六%削減目標を達成するための国内制度に総力で取り組んでまいります。さらに、大量生産・大量消費・大量廃棄という経済社会の在り方から脱却するため、循環型社会の構築に向け、関連する法律の施行を通じ、具体的な取組を進めてまいります。これらの課題を着実に解決し、二十一世紀において地球との共生を実現してまいります。

むすび

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新世紀を迎えた今、国政の舵取りを担う責任の重さを痛切に感じております。

新しい世紀を希望に満ちあふれたものにするためには、最初の十年が極めて重要であると考えております。古い殻を突き破り、大きく羽ばたくためには、乗り越えなければならない痛みや苦しみがあります。安住してきた古い慣習を断ち切り、未知なる未来へと飛び出すには、強い勇気が必要です。

しかし、もう躊躇したり、先送りすることは、許されません。

私は、自由民主党公明党保守党三党の結束の下で、協力して政治の安定を図り、確固たる意志と強い情熱を持って、二十一世紀最初の十年を、「今後百年の大計を律する十年」と位置付け、その最初の年となる本年、より一層気を引き締めて、この国の改革に臨んでいく決意です。

 私たちは ひとつの海の いくつかのしずく

 私たちは ひとつの大洋の いくつかの波

 ともに探そう 協調への道

 それが あなたと私の生きる道

アフリカの子どもたちが、私のために歌ってくれた詩です。この平和への願いと、子どもたちの希望に輝いた目は、世界のどの国でも同じです。厳しい改革の先にある、豊かな環境に恵まれた平和な日本、そして世界をしっかりと見据え、国民の皆様の声に耳を傾け、国民の皆様と共にこの国をつくっていきたいと考えております。

国民の皆様並びに議員各位の御理解と御協力を心からお願い申し上げ、私の施政に関する演説を終わります。

  1. 村上正邦参議院議員、及び村上の元秘書であった小山孝雄参議院議員を指す。小山は2001年1月16日に、村上は同年3月1日に逮捕された。「KSD事件」の項を参照せよ。
  2. 額賀福志郎を指す。額賀は第2次森内閣発足時に経済財政政策担当大臣に就任したが、かつてKSDから1,500万円の献金を受領していた事実が発覚し、演説直前の2001年1月23日付で辞任した。
  3. 2000年3月31日に有珠山が、7月8日に三宅島の雄山が噴火した。
  4. 森はこの演説で11度にわたって「IT」の語を使用したが、自身は前年に「IT(information technology:情報技術)」を「イット」と呼称したと週刊誌に報じられ、盛んに揶揄された。
  5. 2000年5月1日、豊川市主婦殺人事件が発生した。同年5月3日には西鉄バスジャック事件が、6月21日には岡山金属バット母親殺害事件が、7月29日には山口母親殺害事件が、8月14日には大分一家6人殺傷事件が、12月4日には歌舞伎町ビデオ店爆破事件が発生した。一連の事件を受け、同年11月28日に少年法が改正された。
  6. 2001年6月29日成立。
  7. 2001年4月6日成立。
  8. 2001年6月29日成立。
  9. 2001年7月16日から27日まで、ドイツボンで開催。

出典

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