原文は変体形の平仮名が多く普通仮名に変換しましたが、変体仮名を残したところもあります。漢字はこちらで解釈して作った物です。出典は風間書房刊のドチリナの写真版ローマ・カサナテンセ図書館蔵西暦1,600年慶長五年版のものを「校本ドチリナ」で読み解いたものです。
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第七 天主の御おきての十のまん多‟めんとす[1]の事 二十五
DAIXICHI DEUSNO GOVOQITENO TOVONO MANDAMENTOS NO COTO
弟 上にㇵ早能達して天主神へものを乞い奉り信じ奉るために肝要である意義を現わし宣いしなのです、今又善を務むる道を教え宣え
師 (身持ちを)保つ為に天主神の御おきてのまん多‟めんととサンタ・エケレジヤのまん多‟めんとを知り同じく罪を退けるためにモルタル咎を知る事専(専用、肝心重要)のことなのだからです。
弟 天主の御おきてのまん多‟めんととは如何るものなのですか?
師 万民これを保つべきために御あるじ天主神から直に授け宣う御掟の条々であるからですのでまん多‟めんととは御掟のことです。
弟 御おきてのまん多‟めんととㇵ何箇条ありますか?
師 十箇条あり、これ二つに分ける初めの三箇条は御主天主神に対し奉りて勉べきを教え今七箇条は人に対しての道を教えるためのものなのです。
- ○御おきてのまん多‟めんとす
- 第一、御一体唯一の天主を敬い尊び奉るべきである。
- 第二、天主、神の尊き御名に懸て虚しき誓いをすべきではありません。
- 第三、御祝日を務め守るべきです。
- 第四、父母に孝行すべきです。
- 第五、人を殺すべきではありません。
- 第六、邪淫を犯すべきではありません。
- 第七、偸盗[2]をすべきではありません。
- 第八、人に讒言[3]を懸るべきではありません。
- 第九、他の妻を恋するべきではありません。
- 第十、他持をみだりに望むべきではありません。
上此十箇条はすべからく二箇条に極まるのである一つには御一体[4]の天主神を万事に超て御大切[5]存じ仕奉ろうべきこと、二つには我身のように隣人[6]を思えと云うこと此れである。
弟 第一のまん多‟めんとをどのような仕方で務め守るべきなのですか?
師 真の天主神は唯一御一体と拝み仕奉り御奉公を抜出て遣って我らが御効力と御返報を頼もしく待仕奉り我等が吉事の源にて在しませれば此等のことをたのみ仕奉るべきであるのです、また御作像のものを至高の天主神のように敬わないことを以って此律法を保つものです。
弟 第二のまん多‟めんとをば如何云うように守るべきなのですか?
師 真と善のためと要るべき時よりほかは誓いをするべきではないことを以ってこのまん多‟めんとを全うするべきです。
弟 真に誓いをするとは如何云うことなのですか?
師 偽わりと知りながら宣誓文をすることまたは真か偽わりかと疑がわしいことに誓いをすることは天主神に虚言の証拠に立申すことによってたとえ軽き題目(命題)であるというともMortal致命的咎となることがあるのです。
弟 善のために誓文するとは如何成ることがらなのですか
師 たとえば真であることを誓文をすると云うとも善きことにあらずんバ、その題目によってMortal咎かベニアル科になるものである。たとえばモルタル咎を犯そうとのとの誓いを為さばモルタル咎になり、ベニアル科を犯そうとの誓いを為さばベニアル科となるものです。
弟 要るべき時とは如何云うことでしょうか?
師 たとえても真実善いことに誓文するといえども要らざる時に誓いをなすㇵことによりてモルタル咎にはならずと雖もベニアル科から漏れることが無いことなのです。
弟 天主神よりほかに別の物に懸けて誓文することがあり得るのですか?
師 中々ありたとえば[7]クルス・ベアトたちにか又ハ貴き事に懸けてとか、わが生命にかその他何れの御作のものに懸けても誓いをする事があり得ます。
弟 そら誓文をしないための頼りとなる物事がありますか?
師 つ祢に誓文をしないようにたしなむ事です。
弟 しからばものの実不を事分るためにㇵ如何云うべきでしょうか?
師 或いは真実又ㇵ疑い無し必定であるなどと云う事葉を以って徹するべきです。
弟 第三のまん多‟めんとをバ如何守るべきですか?
師 これを守るに二つの事あり一つにㇵドミンゴとヱッケレージヤより布令宣もう祝日に職を辞むる事である。但逃れ得ぬ子細あるときにㇵ所作・業務をしても咎にはならない事あり、二つにㇵ彼様の日にㇵ一座のミイサを始めより終わりまで拝み申す事であり、これを煩いか最もである子細あるときにㇵ拝まずしても咎にㇵならず、これらの子細ㇵ以後ヱッケレージヤの五つのまん多‟めんとのうちに現ㇵすべきであればそれをよく見るべきです。
弟 第四のまん多‟めんとをバ如何守るべきなのですか?
師 親によく従がい孝行を致し敬いをなすようにある時は力を添える事又人の下人である者ㇵその身の主人その他司である人々に従がうことに揺がせなきを以って比まん多‟めんとを守るべきものなのです。
弟 父母主人司である人より咎となる事をせよと云いつけられる時には従がうべきですか?
師 親主人司である人によく従がえと云う事ㇵ咎にならないことを云われる時の事であり、天主神の御掟に背き奉れと云われる時の事にㇵそれは拘束はありません。
弟 第五のまん多‟めんとにば如何云うように守るべきですか?
師 人に対して仇をなさず害をせず傷を付けず比等の悪事を人のうえに望まず喜ばざるを以って保つ者であり、その故にそれは如何してとなれば人ㇵみな天主神の御写しに造り宣えばそうであるのです。
弟 人に仇をなし折檻し又は害する事叶わずと誡め宣うに於ては国家法律を治める道は如何なものであるべきですか?
師 比御掟の箇条を以ってすぐなる題目ありとても弓矢を執るべからず又ㇵ専断の人より咎人を折檻し成敗する事勿れとの誡めには非ず却って罪人を折檻し成敗する事が無ければその咎は専断の人に懸かるべきものであり、その此箇条ㇵその役には当らずして無理に人を殺し仇を為すべからずとの教義の意味なのです。
弟 主人として被官を成敗する事は叶う事があってはならない事なのですか?
師 我が身代する者共の犯したる咎の況中に従がい似合いの折檻を加える事が叶うと雖ども殺す事ㇵ最も深い題目の命題がある時に確かに糾明して人を殺す程度の確かである赦しを持ちたる人であるに於いてㇵ苦しからざる意義の意味であります。
弟 最も深い題目の目的と同じく人を殺す程度の確かである赦しとㇵ如何云う事なのですか?
師 深い題目の命題とㇵ万の折檻の中に人の生命を果たす事が一大事の折檻であれば深き罪過なくして殺す事は最も非道である事です又人を殺す事ㇵ道理に外れ国家の為にならずたゞ上より確かである赦しある人にのみ当たる意義の意味なのです。
弟 人の上に悪事を望まざれとㇵ如何云う事なのですか?
師 人に対して遺恨を含み仇を為したく思い或いㇵ中を違い言葉を交わそうとする事ㇵ此まん多‟めんとに背く教義の意味です。
弟 第六のまん多‟めんとをば如何云うように保つべきなのですか?
師 言葉と所作の業とを以って男女共に淫乱の咎を犯すべからず又ㇵ自ら犯す事も同じ咎なのです。
弟 如何して言葉と業とを以ってとは宣給うのですか?心に此を望む事も同じく咎と見做すべきなのでしょうか?
師 心中に望む事も咎であるけれどもそれは第九のマンダメントを破る別の咎なのです。
弟 此まん多‟めんとを保つために頼りとなる事は如何云うようなことがあるのでしょうか?
師 御主天主神より夫婦の御定めを第一に為し宣給いその他余多の事の中に食物飲物を飽迄でにせざる事悪しき友と交りを辞事恋の歌や恋の冊子を読ず恋の歌い等歌わず可能に於てㇵ聴ざる事です尚肝要な事であると云ふことㇵ此まん多‟めんとを保べきために御阿るじ天主へ御力を頼ミ奉り又ㇵ咎に陥る便りとなる事を退くべき事であることなのです。
弟 第七のまん多‟めんとをバ如何遣って保べきですか?
師 他人の財宝を何なりともその主の同心なくして取る事も留め置く事もあるべきではなく、人にもこれらの事を勧めずその協力をもせずその便りともなるべきではありません。
弟 人の物を盗たく思う事ㇵ比まん多‟めんとを破る咎ではないものなのでしょうか?
師 咎なれどもそれは第十箇条目のまん多‟めんとに背く別の咎です。
弟 第八のまん多‟めんとをバ如何云うようにと保べきですか?
師 人に讒言を云掛けず謗らず人の隠れたる咎を現わすべからず、であると雖もその人の咎を引返さぬべき心あてにて司である人に告知らせ申事ハ可能なら人の上に邪推せず虚言を云うべきではありません。
弟 第九のまん多‟めんとをバ何と分別致すべきですか?
師 他人の妻を恋せず、その他恋慕に当たる事を望むべからず、淫乱の妄念に組せず又ㇵそれに喜び執着する事もあるべきことではないことです。
弟 淫乱の念の起る度毎に科となりますか?
師 その意義の意味にあらず、その念を喜ばず、それを棄る時ㇵ却って功力の(功徳)となるものである。若し又その念に同心せずと云えども心に止めてそれを思出して喜ぶときㇵ科となるのです。
弟 第十のまん多‟めんとをバ何と心得べきですか?
師 他人の財宝を乱用に望むべからずと云います。
弟 今比十箇条のまん多‟めんとㇵ二つに極まると云える事を示し宣まへ。その二つとは如何云う事なのですか?
師 万事に超て天主神を御大切に思ひ仕奉る事これであります。
弟 万事に超て天主神をば如何ように御大切[8]に思ひ仕奉るべきですか?
師 財宝名誉父母身命これらの事に対して天主神の御掟に背き仕奉らずしてたゞ一辺倒に御大切に思い仕奉るに極まるのです。
弟 天主神の御掟を保つための頼りは何れでありますか?
師 その頼りは大いのである。取分け寝屋を起上りてよりは天主神の御恩と存じ出し御礼を申上げ奉るべきです。又その日に御掟てに背かずして御内照(証)[9]に従がい身を修むるために御守りを頼み奉りお祈りを申挙げるべきです。
弟 寝様にも怠らずその本分を務むる為めにㇵ何事を為すべきでしょうか?
師 先づ寝様にその日の心と言葉と所作(仕業)の糾明をし後悔を以って犯せる科の赦しを乞い奉り同じ功力を以って身代を改めんと思定め似合いのお祈りを申上ぐべき事であるのです。
弟 ポロシモ(Proximo)[10]である人をばわが身の如くにとㇵ如何云うように思うべきですか?
師 天主神の御掟てに従がって我が身の為めに望む程度の善き事を人に対しても望むべきものです。
弟 天主神の御掟てに従がってとは如何云う事なのですか?
師 こゝに子細あり天主神の御掟てに背きて人の為めに何事であろうとも望むときにㇵ例え我が身の為めに望むことある間敷き事であると云うとも我が身の如くに人を思うのではなくして、たゞ我が身を憎む如くに人を憎む事です。
- ↑ 十誡
- ↑ 窃盗
- ↑ 人を陥れる偽証
- ↑ 唯一
- ↑ 羅葡日辞書、カリタスの聖愛「Charitas」=大切、懇切
- ↑ 「ポロシモ=Proximo」「隣人」羅葡日辞書「近寄る、最も近しい人」
- ↑ お守りの
- ↑ Caritasの無私心の「聖愛」や「慈善」である。
- ↑ ラテン語、secretum, arcanum
- ↑ ラテン語「最も近き者」