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2020年6月17日 (水) 04:40時点における版


杳き暴風

海のかなた はろかに
とおざかりゆく 暴風あらし
わが死は
かく靜かに――かく寂しく――
雪雲垂るる 曠野の涯
述懐の 緑の裳衣ころも ぬぎ棄てて
慄然と 佇む
いっぽんの 裸木
   かかるとき 漆黒の大鴉
   夕昏の 枯梢にてて
   ――啼かず 翔ばず
わが太陽は 虚しく
とこ闇の瞑府に沈む。

歳月とともに
友情の花束も 色褪せゆかむ。
わが死を歎く 背属うかららも
やがては めでたく この世を終えむ
かくて 後の世に
しきを訪う 旅人が
世に人にいれられざりし 詩人うたびと
至福なるわが永却の 熟瞳うまいをさます杖もあら
 じ。

その附近あたり
紫のすみれなど ほのかに匂い
白骨は 青苔にあらわれて
轣轆と 響き
寥冷と 耀ひか
よろかげろう 墓標おくつき
春風秋雨――ひそひそやかにめぐりめぐりて
 ――

水平線ホリゾント かすかに
消えてゆく暴風あらしのごとく
わが臨終は 孤り 微笑えみつつ
靜かにしづかに――寂しくさみしくあれよ、
 と。

〈昭和十六年、日本詩壇〉