振子

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   青い鸚鵡を尋ねて、七ツの海洋を航っ
   たが、わたしは幸福のかわりに、深い
   悔恨の傷心を得て、いま故郷の 白亜
   の時圭台に眠る。希望と絶望の振子を
   聽きながら――

   〈夜から〉

二人の 侏儒が
黄金の鍵で

十二の窓を つぎつぎに閉めてゆく。
じゃボーン ボーン ボーン ボーン――
もの倦い呪咀の跫音を響かせて
黝い地獄の夜陰が堕ちてくる。
蛇や梟や蜘蛛や、鬼火や幽霊たちが
深海の昆布のように 樹木を掻きわけて出没
 する。

 じゃボーン ボーン ボーン ボーン――
 ながいながい昏迷の夜の 白亜の時圭台。
 わたしはぐっすり眠りつづけている。眠り
 ながらに――魑魅魍魎もののけの匍匐する あの恐
 ろしい心臓の高鳴りを数える。

   〈朝へ〉

二人の 侏儒が
黄金の鍵で
十二の窓を つぎつぎに開けてゆく。
じゃボーン ボーン ボーン ボーン……
爽やかな 光の喊声をあげて
緑の朝が 五人の皇子に駈けつけてくる。
牛や家鴨や蛙や 陽炎や兵隊たちが
天国の花々のように 馥郁といりみだれて踊
 りはじめる

 じゃボーン ボーン ボーン ボーン――
 ああ響くひびく 白亜の時圭台が、まぼろ
 しの 童話メルヘンの時圭台が……夜から朝へ――
 わたしは眠りより醒めながらに 手足を伸
 ばす。蜻蛉が殻を脱ぐように その濡れい
 ろの透翅を徐々に伸ばしてゆくように。

〈昭和十六年、日本詩壇〉