赤十字條約
(定訳)
赤十字條約 (※)
元治元年八月二二日ジュネーヴで署名
明治一九年六月五日加入書寄託
明治一九年六月五日効力発生
明治一九年一一月一六日公布(勅令)
佛蘭西皇帝陛下、バード大公殿下、白耳義皇帝陛下、丁抹皇帝陛下、西班牙皇帝陛下、ヘッス大公殿下、伊太利皇帝陛下、和蘭皇帝陛下、葡萄牙及アルガルブ皇帝陛下、普魯西皇帝陛下、瑞西聯邦政府、 ウェルタンベール皇帝陛下ハ能フ限リ戰爭ノ避クへカラサル慘害ヲ減殺シ其不必要ナル辛苦ヲ驅除シテ戰地二於ケル負傷軍人ノ狀態ヲ改良センコトヲ切ニ希望シ之カ爲ニ條約ヲ締結スルニ決シ各左ノ全權委員ヲ任命セリ
(全權委員氏名省略)
因テ各全權委員ハ互ニ其委任狀ヲ示シ其良好妥當ナルヲ認メ以テ左ノ條項ヲ協定セリ
- 第一條
戰地假病院及ヒ陸軍病院ハ局外中立ト見做シ患者若クハ負傷者ノ該病院ニ在院ノ間ハ交戰者之ヲ保護シテ侵スコトナカルヘシ
但戰地假病院及ヒ陸軍病院ハ兵力ヲ以テ之ヲ守ル時ハ其局外中立タルノ資格ヲ失フモノトス
- 第二條
戰地假病院及ヒ陸軍病院ニ於テ任用スル人員即チ監督員、醫員、事務員、負傷者運搬員竝ニ說敎者ハ各其本務ニ從事シ且ツ負傷者ノ入院スヘク若クハ救助スへキ者アル間ハ局外中立ノ利益ヲ享有スルモノトス
- 第三條
前條ニ揭ケタル各員ノ從事スル戰地假病院若クハ陸軍病院ハ敵軍ノ占領ニ係ルト雖モ各員ハ依然其本務ヲ行フコトヲ得ヘク若クハ其屬スル隊ニ再ヒ加ハル爲メ退去スルコトヲ得ヘシ
前項ノ場合ニ於テ各員其職ヲ罷ル時ハ占領軍隊ヨリ敵軍ノ前哨ニ之ヲ送致スヘシ
- 第四條
陸軍病院ノ器具什物等ハ交戰條規ニ從テ處置スヘキモノナリ故ニ該病院附屬ノ各員ハ其退去ノ際各自ノ私有品ヲ除クノ外爾餘ノ物品ヲ携帶スルコトヲ得ス
但戰地假病院ハ前項ノ場合ニ於テモ其器具什物等ヲ保有スルコトヲ得
- 第五條
負傷者ヲ救助スル土地ノ住民ハ侵スコトヲ得ス且ツ之ヲシテ其自由ヲ得セシメサルヘカラス
交戰國ノ將官ハ住民ニ慈善ノ擧ヲ慫慂シ且ツ慈善ノ擧ニ依テ局外中立タルノ資格ヲ有スルコトヲ得へキ旨ヲ豫吿スルノ責アルモノトス
家屋內ニ負傷者ヲ接受シ之ヲ看護スル時ハ其家屋ヲ侵スコトヲ得ス又自己ノ家屋ニ負傷者ヲ接受スル者ハ戰時課稅ノ一部ヲ免カレ且ツ其家屋ヲ軍隊ノ宿舍ニ供用スルコトヲ免カルヘシ
- 第六條
負傷シ又ハ疾病ニ罹リタル軍人ハ何國ノ屬籍タルヲ論セス之ヲ接受シ看護スヘシ
司令長官ハ戰闘中ニ負傷シタル兵士ヲ速ニ敵軍ノ前哨ニ送致スルコトヲ得但右ハ其時ノ狀勢ニ於テ之ヲ送致スルコトヲ得ヘク且ツ兩軍ノ協議ヲ經タル場合ニ限ルモノトス
治療後兵役ニ堪ヘスト認メタル者ハ其本國ニ送還スヘシ
又其他ノ者ト雖モ戰爭中再ヒ兵器ヲ帶ヒサル旨盟約シタル者ハ其本國ニ送還スヘシ
患者負傷者退去スル時ハ其之ヲ率フル人員ト共ニ完全ナル局外中立ノ取扱ヲ受クへシ
- 第七條
陸軍病院戰地假病院竝ニ患者負傷者退去ノ標章トシテ特定一樣ノ旗章ヲ用ヒ且ツ其傍ニ必ス國旗ヲ揭クヘシ
局外中立タル人員ノ爲ニ臂章ヲ裝附スルコトヲ許ス
但其交附方ハ陸軍官衙ニ於テ之ヲ司トルヘシ
旗及ヒ臂章ハ白地ニ赤十字形ヲ畫ケルモノタルヘシ
- 第八條
此條約ノ實施ニ關スル細目ハ交戰軍ノ司令長官ニ於テ其本國政府ノ訓令ニ從ヒ且ツ此條約ニ明示シタル綱領ニ準據シテ之ヲ規定スヘシ
- 第九條
此締盟各國ハ「ヂュネーヴ」會議ニ全權委員ヲ派遣セサリシ政府ニ此條約ヲ示シ其加盟ヲ請フコトヲ約諾セリ因テ之カ爲メ議事錄中餘白ヲ有ス
- 第十條
此條約ハ批准ヲ受クヘキモノトス而シテ其批准書ハ「ベルヌ」ニ於テ四月以內若クハ可成ハ其以前ニ交換スヘシ
右證據トシテ各全權委員ハ本條約ニ記名調印スルモノナリ
千八百六十四年八月二十二日「ヂュネーヴ」ニ於テ之ヲ作ル
ヤーゲルシュミット印
アシユ、ド、プレヴァル印
ブーヂエー印
ロベール、ウオルツ印
スクイネル印
ウイツシエー印
フエンゲル印
ガルシァ、デ、クェヴェト印
プロドルック印
カペロ印
エフ、バロフィオ印
ウェステンベルグ印
ジー、ア、マルケス、デ、カンツ印
レフレル印
リツテル印
ジエー、アシュ、ヂュフール印
ジエー、モワニエー印
レーマン印
ドクトル、ハーン印
(定訳)
本條約ニ帝國政府加盟吿知書
明治一九年六月五日ベルヌで署名
日本皇帝陛下ハ軍隊出陣中負傷者ノ狀態改良ノ件ニ關シ千八百六十四年八月二十二日「ヂュネーヴ」ニ於テ瑞西聯邦、「バード」大公陛下、白耳義皇帝陛下、丁抹皇帝陛下、西斑牙皇帝陛下、佛蘭西皇帝陛下、「ヘッス」大公殿下、伊太利皇帝陛下、和蘭皇帝陛下、葡萄牙及「アルガルブ」皇帝陛下、普魯西皇帝陛下、「ヴェルタンベール」皇帝陛下ノ間ニ締結セシ條約ヲ査閱セリ其條款即左ノ如シ
(條款ハ之ヲ略ス)
是ニ於テ下名瑞西聯邦駐箚日本皇帝陛下ノ特命全權公使ハ本件ニ關シ特別ノ權限ヲ帶ヒ此書ヲ以テ日本帝國ノ本條約ニ加盟スルコトヲ吿知ス
右確證ノ爲メ千八百八十六年六月五日「ベルヌ」府ニ於テ下名ハ此吿知書ニ記名調印セリ
瑞西聯邦駐箚日本特命全權公使
侯爵 蜂須賀茂韶(手署)
同上加盟認諾書
明治一九年六月一一日ベルヌで署名
(定訳)
瑞西聯邦駐箚日本皇帝陛下ノ特命全權公使侯爵蜂須賀茂韶閣下ハ其政府ヨリ附與セシ必要ノ權限ト軍隊出陣中負傷者ノ狀態改良ノ件ニ關シ千八百六十四年八月二十二日「ヂュネーヴ」府ニ於テ締結セシ寓國條約第九條ニ明記セル權理トニ由リ日本帝國ノ該條約ニ加盟スル旨千八百八十六年六月五日附「ベルヌ」府發ノ吿知書ヲ以テ報セリ其文ニ曰ク
(吿知書ハ之ヲ略ス)
是ニ於テ瑞西聯邦政府ハ千八百六十四年十二月二十二日「ベルヌ」府ニ於テ調印セシ本條約批准交換手讀書ノ最末條款ニ基キ自國竝ニ其他同盟各國ノ名義ヲ以テ日本國ノ加盟ヲ認諾ス此旨本書ヲ以テ宣言シ且ツ右各國ニ通知ス
右確證ノ爲メ千八百八十六年六月十一日「ベルヌ府」ニ於テ瑞西聯邦大統領竝ニ宰相此書ニ記名シ聯邦政府ノ璽ヲ鈐セシム
瑞西國政府ニ代リ
國璽
聯邦大統領 デウシエ(手署)
聯邦宰相 リンジエ(手署)
締約国一覧表
(昭和三七、一、五調)
国名 | 批准書寄託の日 | 加入の日 | 備考 |
アルゼンティン | 一八七九、二、二五 | ||
オーストリア | 一八六六、七、二一 | ||
ベルギー | 一八六四、一〇、一四 | ||
ボリヴィア | 一八七六、一〇、一六 | ||
ブラジル | 一九〇六、四、三〇 | ||
ブルガリア | 一八八四、五、二七 | ||
チリ | 一八七九、二、一五 | ||
中国 | 一九〇四、六、二九 | ||
コロンビア | 一九〇六、六、七 | ||
キューバ | 一九〇七、六、二五 | ||
デンマーク | 一八六四、一二、一五 | ||
ドミニカ | 一九〇七、六、二五 | ||
エクアドル | 一九〇七、八、三 | ||
エル・サルヴァドル | 一八七四、一二、三〇 | ||
フランス | 一八六四、九、二二 | ||
ドイツ | 一九〇六、六、三 | 旧プロシャによって加入 | |
ギリシャ | 一八六五、一、一七 | ||
グァテマラ | 一九〇三、三、二四 | ||
ハイティ | 一九〇七、六、二四 | ||
ホンデュラス | 一八九八、五、一六 | ||
ハンガリー | 一八八四、三、一 | ||
イラン | 一八七四、一二、五 | ||
イタリア | 一八六四、一二、四 | ||
日本国 | 一八八六、六、五 | ||
ルクセンブルグ | 一八八八、一〇、五 | ||
メキシコ | 一九〇五、四、二五 | ||
オランダ | 一八六四、一一、二九 | ||
ニカラグァ | 一八九八、五、一六 | ||
ノールウェー | 一八六四、一二、一三 | ||
パナマ | 一九〇七、七、二四 | ||
パラグァイ | 一九〇七、五、三一 | ||
ペルー | 一八八〇、四、二二 | ||
ポルトガル | 一八六六、八、九 | ||
ルーマニア | 一八七四、一一、三〇 | ||
スペイン | 一八六四、一二、五 | ||
スウェーデン | 一八六四、一二、一三 | ||
スイス | 一八六四、一〇、一 | ||
タイ | 一八九五、六、二九 | ||
トルコ | 一八六五、七、五 | ||
南アフリカ共和国 | 一八九六、九、三〇 | ||
ソヴィエト連邦 | 一八六七、五、二二 | ||
連合王国 | 一八六五、二、一八 | ||
アメリカ合衆国 | 一八八二、三、一 | ||
ウルグァイ | 一九〇〇、五、三 | ||
ヴァチカン | 旧エタボンティフィコによって加入 | ||
ヴェネズエラ | 一八九四、七、九 | ||
ユーゴ―スラヴィア | 一八七六、三、二四 | 旧セルヴィア並びに旧モンテネグロによって加入 |
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