新譯日本書紀 (飯田弟治訳)/卷第一

神代上

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神代七代かみよなゝよしやう

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 いにしへ、天地あめつちいまわかれず、陰陽めを分かれざるとき、渾沌まろかれたること鶏子とりこの如く、溟涬くゝもりてきざしふくめり。あきらかなるものは、薄靡たなびきてあめとなり、おもにごれるものは、淹滯つゝきてつちるにおよびて、くはしくたへなるがへるはあふやすく、おもにごれるがれるはかたまがたし。あめりて、つちのちさだまる。しかして神聖かみなかれます。
 いはく。開闢あめつちわかるゝはじめ、洲壞くにつちうかたゞよへること、たとへば游魚あそぶうをみつうへけるがごとし。于時そのとき天地あめつちなかひとつものれり。かたち葦牙あしかひごとし。便すなは化爲なりませる神を國常立尊くにのとこたちのみことまをす。つぎ國狹槌尊くにのさつちのみことつぎ豊斟渟尊とよくみぬのみことすべて三神ます。至貴を尊と曰ひ 自餘を命と曰ふ

しょいはく。天地あめつちはじめてわかるゝとき、一のもの虛中おほそられり。狀貌かたちがたし。なかおのづから化生なりいづかみあり。國常立尊くにのとたちのみことまをす。また國底立尊くにのそこたちのみことまをす。つぎ國狹槌尊くにのさつちのみこと。また國狹立尊くにのさたちのみことまをす。つぎ豊國主尊とよくにぬしのみこと。また豊組野尊とよくみぬのみことまをす。また豊香節野尊とよかふぬのみことまをす。また浮經野豊買尊うきふぬとよかひのみことまをす。また豊國野尊とよくにぬのみことまをす。また豊囓野尊とよくひぬのみことまをす。また葉木國野尊はこくにぬのみことまをす。また國見野尊くにみぬのみことまをす。
一書に曰く。いにしへ、くにわかつちわかかりし時、たとへばうかべるあぶらごとくにして漂蕩たゞよへり。其時そのときくになかものれり。かたち葦牙あしかひいでたるがごとし。これりて化出なりいづるかみあり。可美葦牙彦舅尊うましあしかひゝこぢのみことまをす。つぎ國常立尊くにのとこたちのみことつぎ國狹槌尊くにのさつちのみこと
一書に曰く。天地。混成まろかれなりし時、はじめ神人かみいます。可美葦牙彦舅尊うましあしかひゝこぢのみことまをす。次に國底立尊くにのそこたちのみこと
一書に曰く。天地、初めてわかるゝ時、始めてともなりいづる神あり。國常立尊くにのとこたちのみことまをす。次に國狹槌尊くにのさつちのみこと。又曰く。高天原たかまのはられますかみみなを、天御中主尊あまのみなかのぬしのみことまをす。次に高皇産靈尊たかみむすびのみこと。次に神皇産靈尊かむみむすびのみこと
一書に曰く。天地、未だらざる時たとへば猶ほ海上うかべるくもの、かゝところきが如し。其のなかに一つの物れり。葦牙あしかひはじめてひじの中に生出おひいでたるが如し。便すなはりませるかみを、國常立尊くにのとこたちのみことまをす。
一書に曰く。天地、初めてわかるゝ時、物あり葦牙あしあひごとそらの中にれり。此に因りてる神を、天常立尊とまをす。次に可美葦牙彦舅尊うましあしかひゝこちのみこと。又、物あり、浮べるあぶらごとくにして、空の中にれり。此に因りてる神を國常立尊とまをす。

 つぎかみいます。埿土煑尊うひぢにのみこと沙土煑尊すひぢにのみことまたいはく。埿土根尊うひぢねのみこと沙土根尊すひぢねのみことつぎかみいます。大戸之道尊おほとのぢのみこと。《一にいはく。大苫邊尊おほとのべ。亦た曰く。大戸摩彦尊おほとまひこのみこと大戸摩姫尊おほとまひめのみこと。亦た曰く。大富道尊おほとむぢのみこと大富邊尊おほとむべのみこと》次に神います。面足尊おもたるのみこと惶根尊かしこねのみこと。《亦た曰く。吾屋惶根尊あやかしこねのみこと。亦た曰く。吾忌橿城尊あゆかしきのみこと。亦た曰く。青橿城根尊あをかしきねのみこと。亦た曰く吾屋橿城尊あやかしきのみこと》次に神います。伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉册尊いざなみのみこと。《一書に曰く。此の二神は青橿城根尊あをかしきねのみことみこなり。一書に曰く。國常立尊くにのとこたちのみこと天鏡尊あめかゞみのみことし。天鏡尊あめかゞみのみこと天萬尊あめよろづのみことし。天萬尊あめよろづのみこと沫蕩尊あわなぎのみことし。沫蕩尊あわなぎのみこと伊弉諾尊いざなぎのみことしませり》。すべて八神ます。國常立尊くにのとこたちのみことより、伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉册尊いざなみのみことまで、是を神代七代かみよなゝよと謂ふ。

一書に曰く。男女耦生たぐひなる神は、先づ埿土煑尊うひぢにのみこと沙土煑尊すひぢにのみこといます。次に角樴尊つぬくひのみこと活樴尊いくくひのみこといます。次に面足尊おもたるのみこと惶根尊かしこねのみこといます。次に伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉册尊いざなみのみこといます。

州起源しうきげんしやう

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伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉册尊いざなみのみこと天浮橋あまのうきはしうえたゝして、共にはからひてのたまはく。そこしたくに無からめやと。すなわ天瓊矛あまのぬほこて、指下さしおろしてさぐりましゝかば、こゝ滄溟あをうなばらき。其のほこさきより滴瀝したゝしほこりて一の島と成れり。名づけて『磤馭盧島おのころじま』とふ。二神、こゝの島に降居あまくだりまして、共爲夫婦みとのまくはひして、洲國くにつち産生うまむとおもほす。便すなは磤馭盧島おのころしまて、國中くにのなかみはしらとして、陽神をがみは左よりめぐり、陰神めがみは右よりめぐり、國柱くにのはしら分巡めぐりておなじく一つおもてひき。時に陰神めかみ、先づとなへてのたまはく、『憙哉あなにゑや遇可美少男焉えをとこを』と。陽神をがみよろこびずしてのたまはく。われは是れ男子をのこなり。理、まさに先づとなふべし。如何にぞ婦人めのこかへりてことさきだつや、事既に不祥さがなし。宜しく改めめぐるべしと。こゝに二神。かへりて更に相めぐりひぬ。是行このたび陽神をかみ、先づ唱へて曰く。憙哉あなにゑや遇可美少女焉えをとめを。と因りて陰神めがみひて曰く。いましが身、何の成れるところか有る。對へて曰く。が身にはじめといふ處あり。陽神をがみ曰く。が身に亦たはじめといふ處ありと。か云ひてこゝ陰陽めを、始めて遘合夫婦みとのまくはひしき。こうむ時に及至いたりて、先づ淡路洲あはぢしまとして、すなは大日本豊秋津洲おほやまととよあきつしまを生む。次に伊豫いよ二名洲ふたなのしまを生む。次に筑紫洲つくしのしまを生む。次に億岐洲おきのしま佐度洲さどのしまとをふたごに生む。次に越洲こしのしまを生む。次に大洲おほしまを生む。次に吉備子洲きびのこしまを生む。これに由りて『大八洲國おほやしまくに』のおこれり。即ち對馬島つしまのしま壹岐島いきのしま、及び處々の小島は、皆是れしほあわりて成れる者なり。亦たは水のあわの凝りて成れるともふ。

一書に曰く。天神あまつがみ伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉册尊いざなみのみこと謂曰のりたまはく。豊葦原とよあしはら千五百秋瑞穗地ちいほあきのみづほのくにあり。宜しくいまし、往きてしらすべしと。すなは天瓊戈あまのねほこを賜ふ。こゝに二神、天上浮橋あまのうきはしたゝして、ほこさしおろしてくにを求む。因りて滄海あをうなばらをかきならして引き舉ぐるとき、即ちほこさきよりしたゝおつしほりて島と爲る。名を磤馭盧島おのころじまと曰ふ。二神、彼島そのしまくだして、八尋やひろ殿との化立みたて、又あまみはしら化竪みたつ。陽神をかみ陰神めかみに問ひて曰く。いましが身に何の成れるところかある。對へて曰く。が身に、具成なりなりて、はしめふ者一ところあり。陽神をがみの曰く、が身に、亦たり成りてはしめふもの一と處あり。が身の陽元をのはしめのところをて、が身の陰元めのはしめのところに合せんと思ふと。か云ひて、即ちあまみはしらめぐらむとして、約束ちぎりて曰く。いろとは右よりめぐれ、まさに左よりめぐらむと。すでにして分れ巡りて相遇あひたまひぬ。陰神めがみ、先づとなへて曰く。姸哉あなにゑや可愛少男歟えをとこを陽神をかみのちこたへて曰く。姸哉あなにゑや可愛少女歟えをとめをと。遂に夫婦みとのまくはひして、先づ蛭兒ひるこ産む。便ち葦船あしぶねに載せてはなちやりき。次に淡洲あはしまを生む。此れまたみこの數にいれず。かへりてた天にのぼまゐでゝ、つぶさに其のありさままをしたまふ。時に天神あまつかみ太占ふとまにもて占合うらなひて、乃ち敎へてのたまはく。婦人たをやめこと、それすでに先づげたれば。宜しく更にかへくだるべしと。乃ち時日をうらへてあまくだります。れ二神、改めてみはしらを巡りたまふ。陽神をかみは左よりし、陰神めかみ右よりして、既にひたまふ時に、陽神をかみ先づ唱へて曰く、姸哉あなにゑや可愛少女歟えをとめを陰神めかみ、後にこたへて曰く。姸哉あなにゑや可愛少男歟えをとこをと。然して後にみやを同じくして、共にすまひてみこを生む。大日本豊秋津洲おほやまととよあきつしまなづく。次に淡路洲あはぢのしま。次に伊豫二名洲いよのふたなのしま。次に筑紫洲つくしのしま。次に億岐三子洲おきのみつごのしま。次に佐度洲さどのしま。次に越洲こしのしま。次に吉備子洲きびのこしまこれに由りて之を大八洲國おほやしまのくにと謂ふ。
一書に曰く。伊弉諾尊いさなぎのみこと伊弉册尊いざなみのみこと、二神。天のさぎりの中にたゝしてのたまはく。れ國を得むと。乃ち天瓊矛あまのぬほこて、指垂さしくだして探りしかば、磤馭盧島おのころしまを得たまひき。則ちほこを拔きて喜びて曰く。善きかも。國のりけること。
一書に曰く。伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉册尊いざなみのみこと二神。高天原たかまのはらして曰く。まさに國あらむかと。即ち天瓊矛あまのぬほこて、磤馭盧島おのころじまさぐり成す。
一書に曰く。伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉册尊いざなみのみこと二神。あひかたらひて曰く。物あり、浮べるあぶらごとし。其の中にけだし國有らんと。乃ち天瓊矛あまのぬほこをもて、ひとつの島をかきさぐり成す。名を磤馭盧島おのころじまと曰ふ。
一書に曰く。陰神めかみ、先づ唱へて曰く。美哉あなにゑや善少男えをとこをと。時に陰神めかみことさきだてるを以て不祥さがなしとして、更に復た改めめぐる。則ち陽神をがみ、先づ唱へて曰く。美哉善少女あなにゑやえをとめをと。遂に合交みあはしせんとして其のみちを知らず。時に鶺鴒にはくなぶりあり。飛びて其の首尾かしらをたゝく。二神、みそなはして之をならひて、即ちとつぎの道を得つ。
一書に曰く。二神、合爲夫婦みとのまくはひして、先づ淡路洲あはぢのしまを以てとなし、大日本豊秋津洲おほやまととよつあきつしまを生む。次に伊豫洲いよのしま。次に筑紫洲つくしのしま。次に億岐洲おきのしま佐度洲さどのしまとをふたごに生む。次に越洲こしのしま。次に大洲おほしま。次に子洲こじま
一書に曰く。先づ淡路洲あわぢしまを生む。次に大日本豊秋津洲おほやまととよあきつしま。次に伊豫二名洲いよのふたなのしま。次に億岐洲おきのしま。次に佐度洲さどのじま。次に筑紫洲つくしのしま。次に壹岐洲いきのしま。次に對馬洲つしまのしま
一書に曰く。磤馭盧島おのころじまして淡路洲あはぢしまを生む。次に大日本豊秋津洲おほやまととよあきつしま。次に伊豫二名洲いよのふたのしま。次に筑紫洲つきしのしま。次に吉備子洲きびこのしま。次に億岐洲おきのしま佐度洲さどのしまとをふたごに生む。次に越洲こしのしま
一書に曰く。淡路洲あはぢしまを以てして、大日本豊秋津洲おほやまととよあきつしまを生む。次に淡洲あはのしま。次に伊豫二名洲いよのふたなのしま。次に億岐三子洲おきのみつごのしま。次に佐度洲さどのしま。次に筑紫洲つくしのしま。次に吉備子洲きびこのしま。次に大洲おほしま
一書に曰く。陰神めがみ先づ唱へて曰く。姸哉あなにゑや可愛少男乎えをとこをと。即ち陽神をがみみてりて、遂に夫婦みとのまくはひして、淡洲あはのしまを生む。次に蛭子ひるこ

神出生しんしゆつしやうしやう

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瑞珠盟約ずゐしゆめいやくしやう

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寶鏡開始ほうきようかいししやう

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寶劒出現ほうけんしゆつげんしやう

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