大塚徹・あき詩集/北海の蟹
< 大塚徹・あき詩集
北海の蟹
編集陽に興じては
花粉のごとく風にながれ
たそがれにおどろきては
鳥のごとく巣にかえる
あわれ友よ
今日もまた旅をゆくか
海あらき
北国の大いなる蟹を
ふるさとのわれに送りきたれり
(この蟹の
恐げに 醜く
毒気あり
食えばかならず死すならむ―)
おどけたる手紙をよみて
恐れを抱きしごと
わが家の妻も児どもも食わずと言う。
北海にそだちし蟹は
今宵 南海の
つれなき男に 食われいる
おどけたる友よ
毒気ある蟹は
〈昭和四年、愛誦〉